■高専の就活(1) 2011.05.29
高専に通う息子が、春休みを利用して、自動車免許を取りに行った。来春、就職するからである(予定)。
行き先は、新潟県南魚沼市の教習所。かんづめ合宿なので、宿泊費、交通費を入れても、金沢より安い。
ところが、息子が南魚沼市に着くやいなや、東日本大震災が起こった。あげく、福島第1原発の放射性物質の大量放出。
原発から南魚沼市までは、直線距離で220km、東京までとほぼ同じ。東京の水道水から、放射性物質が検出されたので、油断は出来ない。実際、南魚沼市の放射線量は急増し、通常の1.5~2倍。いくら人体に影響はないとはいえ、2倍は気持ちが悪い。
いつもは、ほがらかな息子だが、毎日メールが来るようになった。「父さん、帰りてぇ~。放射能なんか浴びたくないよ~」(原文)
そこで、息子には、原子炉が爆発したら、車で救助に行くから心配すんな、と、わけのわからない話で納得させた。
ところが、3月末、高専から、突然連絡が入った。息子は来春就職予定なのに、必要な書類を提出していないのだという。「希望する会社」を速やかに提出せよとのこと。すでに、応募を締め切った会社もあるらしい。えー、おい息子、大丈夫か?ところが、当の息子はそれどころではない。南魚沼市で放射能におびえながら教習中・・・
3月末、息子は自動車教習を終え、帰宅した。「あ~、家はいいなぁ、パラダイスやわ」と、すっかりくつろぎモード。いつもの、ほがらかな息子にもどっていた。小さい頃からお調子者で、甘やかして育てた結果がこれだ。息子の就職は僕が何とかするしかないな・・・
さっそく、求人票をチェック。息子の電気工学科は、就職希望者25人に対し、求人は363社。この中から候補を選ぶわけだ。条件は、1.金沢で働けること2.離職率が低いこと3.機械メーカーであること4.シェアがトップであること
以下、その理由・・・
先ず、「金沢で働けること」当然のことだが、職種が同じなら、東京だろうが、金沢だろうが、仕事の中味は変わらない。技術なら設計、製造なら物作り、営業ならセールス、経理なら銭勘定、それだけ。
であるなら、田舎で親と暮らす方が、生活費は安いし、いざという時、助け合える。僕はマイホームを中古で買ったが、築2年、土地80坪、丈夫な4寸柱(普通は3寸柱)、しめて、2200万円ナリ。都心部ではまずムリ。
次の条件は、「離職率が低いこと」どんな自慢の大会社でも、辞めたら意味がない。
さらに、「機械メーカーであること」息子は電気工学科だが、あえて、機械メーカーを選ぶのは理由がある。
まず、電子・電気業界はハイテクと思われているが、じつはローテク(大手も含め)。あちこちから電子部品をかき集めて、組み立てているだけ。ソフトウェアにしても、古いソフトをコピペする人海戦術の世界。ドキドキするようなソフトは1%もない。なので、思っているほど給与は高くないし、労働条件は劣悪(サービス残業、徹夜、デスマーチ、35歳定年説)。
一方、機械業界は、「メカの構造」や「製造方法」で独特のノウハウを持つ会社が多い。つまり、「だれかれできない=ハイテク」というわけ。パソコンはどこでも作れるが、工作機械は日本に集中しているのがその証拠。一部の例外を除き、電子・電気はローテク、機械はハイテク、と思ったほうがいい。(化学業界は超ハイテク)
それに、最近の機械装置は、必ず、電子・電気が付く。なので、機械メーカーでも電子・電気の仕事はたくさんある。
最後の条件は、「シェアがトップであること」どんな小さな会社でも、シェアがトップなら、業界が無くならない限り、潰れることはない。これこそ、究極の安定。「有名・デカイ・上場=安定」は妄想に過ぎない。
さて、綿密な調査の結果、この4つの条件を満たす会社は2社あった。1.焼却炉メーカー2.研磨機メーカー
期限が迫っているという理由で、先ず、焼却炉メーカーからアタック。会社訪問した息子は、こんな質問をした。「御社の製品の優位点は何ですか?」それに対し、担当者は焼却炉の「パイプの形状」を自慢したという。その夜、息子は僕に言った。「父さん、俺・・・パイプの”曲げっぷり”を競う会社には行きたくない」
ということで、つぎに研磨機メーカーに挑戦。この会社は聞いたことがなかったので、先ず、業界通の知人に相談にした。昔、物流システムメーカーにいた頃の上司で、今は、工業団地の事務局長をしている。
さっそく、この元上司に電話し、この研磨機メーカーについて聞いた。すると、「100人ぐらいの小さな会社だが、世界トップシェアの商品をもっている。技術力は高いし、儲かっとるし(年間ボーナス5~10ヶ月)社内の雰囲気もアットホーム。まぁ、非の打ちどころのない会社やね」これで決まり。
息子はすぐに会社訪問した。すると、確かにハイテクだし、研修・教育もしっかりしている。しかも、食堂はホテルなみだったという。
ということで、今回は息子も乗り気で、準備万端、選考会に望んだ。筆記試験の後、いよいよ役員面接。「あれ、君、成績悪いねぇ」ふふふ、想定内・・・息子は僕が授けた史上最強の回答で、この難局を乗り切った。
息子は、小さい頃から、ほがらかで、口も頭も良く回った。それで中学までは、優等で通したのだが、高専に入ってからは成績は低迷。(高専の試験は一夜漬けではムリ)
まぁ、弱点といえば成績ぐらいで、面接はなんとかなると思っていた。1週間後に通知のはずが、翌日、速達で結果が届いた。内々定・・・やれやれ一安心。
ここで、話ついでに、息子の親友のM君の就活も紹介しよう。
M君は息子同様、ほがらかキャラだが、それにくわえ、ガッツがある。以前、電気工事士の筆記に合格したのに、実技試験を受けなかった。もったいない、なんで?その日アルバイトだったから。
M君と息子は、宿命のライバルで、40人中30番を1点差で争っている。(但し、仲はすこぶる良い)そのM君の就活だが、あっぱれ、としか言いようがない。
まず、誰も見向きもしない5社を選び、「先生、誰か希望者いますか?」「誰もおらんわ」
そこで、M君は、プレス機メーカーの「S鉄工」を会社訪問した。ところが、人事担当者は、長々と世間話をするだけ。さすがのM君も心配になり、「あの、工場見学させてもらっていいですか?」「え?見たい?別にいいけど」「・・・」
さっそく、2人で工場に向かう。M君が、「あ、メモを忘れたんで、ちょっと取ってきます」担当者、「いらんいらん、そんなもん」
工場見学は10分で終了。帰り際に、人事担当者は、M君の目をジーっと見すえて、「うちは採るつもりやからね」
そして、選考会の日、面接で社長がいきなり、「家遠いけど、どうするの?」「はいっ?あの、アパート借りるつもりですけど」質問はこれだけ。その後、社長の独演会が延々と続き、面接は終わった。M君いわく、「せめて、志望動機ぐらい聞いて欲しかったわ」
じつは、M君は志望動機と自己PRだけ準備していたのだ。で、その志望動機だが、「僕は子供の頃からプレス機が大好きで・・・」(一体どんな子供や)まぁ、質問されなくて良かったと思う。
後日、M君に内々定の通知が来た。S鉄工にしてみれば、会社説明会や面接などドーデモよかったのだ。地方の高専生は地頭がいいし、専門知識もある。しかも、大卒のように世間ずれしていない。中小・中堅メーカーにとっては、高専生は金の卵なのだ。つまり、M君は会社訪問を申し込んだ時点で、採用が決まっていたのである。
その後、M君は、「やっとアルバイトに専念できる」と喜んでいたという。
ところで、くだんの「S鉄工」だが、しがない中小企業などではない。重機で世界トップのK社向けに、プレス機を納めている会社だ。プレス機とは、金型に合わせ金属を加工する工作機械である。技術力もあるし、経営成績もいいし、給与も高い。そもそも、世界一企業のパートナー会社なので、ヘタな上場企業よりよっぽど安定している。M君がそこまで考えたとは思えないが、彼の思いっきりの良さが、人生を切り開いたのだろう。
人生は1回切り、ところが、なぜか、他人の人生を歩む人が多い。世の中不景気だから、みんな大手がいいというから、自分も・・・こういう発想で、人生を”クタクタ”にした人をたくさん見てきた。
それにくらべ、M君の生き方はすがすがしい。身の丈にあった会社、人生を選び、たくましく生きている。そんなM君の当面の目標は、「25歳までに父ちゃんになって、子供の運動会で大活躍する」
M君は人生を楽しんでいる、そんな気がしてならない。
by R.B