■高専の就活(2) 2011.06.05
今年4月、常務になったので、労働者の権利が消失した。取締役会で解任されれば、その場でクビ、しかも、失業手当は1円ももらえない(ホントだぞ)。
仕事の内容も変わった。コンピュータのハード開発からスタートし、ソフトウェア開発、シミュレーションゲーム(GE・TEN)、と心ときめくサラリーマン人生を送ってきたのに、今では、完全無欠の「間接人員」。人生一丁あがり?ウソや・・・
技術者として、クリエーターとして、まだまだ若いもんには負けん、と意気込んでみたところで、見苦しいだけ。それに、本当に勝てるかどうかも怪しい。
昨日、金沢で「百万石まつり」があり、町を歩いていると、「キャー、マジ、カワイイ!」と頭の悪そうな声がするので、顔を曲げて振り向くと、女子高生が、目にもとまらぬ速さでケータイを操作していた。負けた・・・少なくとも、頭の回転ではかなわない。脇役に徹するしかないな・・・
ということで、人材の確保と育成に力を入れることにした。毎日、リクルート情報をシャワーのように浴びながら。そんなある日、高専生の面白い法則を発見した。
高専生は、成績の良い子と悪い子で、就活の戦略が真逆なのだ。以後、成績の良い子は「成績○派」成績の悪い子は「成績×派」とよぶことにする。(差別と言われたくないので)
まず、「成績×派」は、日がな、ゲームかアルバイトに精を出している。だから、勉強などしているヒマはなく、成績は悪い。高専の赤点は60点なので、65点当たりを目標にするか、行き当たりばったりか、いずれにせよ、成績も志も低い。
一方、「成績○派」は、学問の重要性を十分認識し、きちんと勉強している。当然、成績は良い。そして、「成績×派」を見て、「将来を考えたほうがいいぞ」と「アリとキリギリス」の寓話を思っている。そう、大切なのは「将来」、つまり、就職なのだ。
ところが、興味深いことに、高専生の就活は、「成績○派」と「成績×派」で、逆転することがある。
「成績×派」は、そもそも、成績が悪いので、大会社など頭にない。条件といえば、
1.地元企業(金沢人は地元志向が強い)。
2.そこそこ安定。
3.給料まぁまぁ。
4.なんとかやっていけそう。
じつのところ、この条件なら、高専生の就活はすぐに終わる。なぜか?需給関係を見れば明らかだ。
まずは供給面。地方の国立高専の場合、偏差値は県内の高校のトップレベル。つまり、地頭がいい(と思われている)。さらに、1年生から専門科目が入るので、即戦力(と思われている)。
次に、需要面。中小・中堅企業は、有名大学からは、なかなか来てくれない。だから、ヘンな大卒(失礼)を採るくらいなら、高専を狙い打ちにするほうがいいと思っている。
そこで、中小・中堅企業(製造業)は、高専と太いパイプを築き、直接、学生を確保しようとする。だから、高専生は、マイナビ、リクナビのような一般市場にはでてこない。
高専生は、一旦、内定が出たら、他社に浮気することはない。つまり、必ず入社してくれる。ここが複数の内定を取る大学生と違う点だ。反面、企業は推薦状付きの高専生は落としづらい。パイプが細くなると困るからだ。ということで、高専と中小・中堅の製造会社には、奇妙な信頼関係がある。
じつは、この仕組みを享受しているのが、高専の「成績×派」だ。彼らは、就活が始まると、大手など見向きもせず、中堅・中小企業を狙ってくる。結果、成績が悪かろうが、留年していようが、面接で最悪の事態にならない限り(全くしゃべれないとか)、内定をもらえる。ちなみに、ある高専では、70%の学生が1社目で内定をとる。
ところが・・・
「成績○派」は違う。初めから大手を狙ってくるのだ。
たとえば、電気工学科で成績がシングル(1~9番)なら、一番人気は電力会社だ。あんな恐ろしい福島第一原発事故が起こった後でも。
理由は簡単、電力会社の待遇が破格だから。親戚に某電力会社の社員がいるが、今、1ヶ月の長期休暇中。しかも、毎年、超一流旅館のタダ券がもらえる。もちろん、給与は人に言えないほど高額。その分、電気料を下げればどうだ、と言いたいところだが、最近、値上げした!?
さらに、電力業界は競争がないので、他業種のように、「生き馬の目を抜く」努力をする必要がない。電柱を立てていればいいのだ。
ただし、電力会社は入るのは難しい。理系・大卒は強力なコネがないとムリ。一方、文系・大卒は東大・一橋のような一流どころは入りやすい。(文系は地味な電力会社には入りたがらないので)そして高専。こちらは大卒と別枠なので、推薦状があれば、面接でヘマをやらない限り、入れる。
ところが例外もある。
ある高専では、今年も、「成績○派」は、次々と電力会社の内々定を決めた。ところが、1社だけ、全滅。例年は1人は受かるのに・・・一体何が起こったのか?
電力会社は、高専生を落とすと、その理由を知らせてくれる(学校に)。それによれば、筆記試験に問題はなかった。受験者全員が5番以内なので、つじつまが合う(旧帝大に編入できるレベルなので)。ということで、原因は、やっぱり面接。
ここで、落とされた学生の面接を再現してみよう。この学生は、面接を待つ間、誰かに見られているような気がして、周囲をキョロキョロ、でも、誰も見ていない。いや、誰かに見られている・・・そんなこんなで、すっかり緊張してしまった。
そして、彼の順番がきて、面接会場に入る。案の定、何を聞かれても、「○@△#×%」最後に面接官が言った。「何か質問がありますか?」
ここで、彼は、後世語りつがれるであろう、神でさえ返答不可能な、恐るべき質問をした。「あの、ここ、透明の壁じゃないですか?さっき、廊下で、誰かに見られているような気がしたんで・・・」こうして、彼の長いようで短い面接は終わった。
その後、この事件は学校で話題になったという。誰かが言った。「透明の壁?俺が面接官でも落とすわ」
別の誰かが言った。「おい、まてよ、透明の壁はじつは本当で、それを見抜くような鋭い奴は危険だと思われたんじゃないか?」深い・・・
ではなぜ、彼だけでなく全員が落ちたのか?
先生が言った。「透明の壁のトバッチリじゃないか?」なるほど・・・
というわけで、「成績×派」のほとんどが、テキトーに会社を選んで、5月には内々定もらって、今は、アルバイト、または、ゲームで世界を救うのに忙しいのに、初戦でしくじった「成績○派」の就活は、これから。
だが、僕は思う。
高専は就職する意思さえあれば、今でも就職率100%。募集を打ち切った後でも、高専と企業の太いパイプで、ねじ込んでもらえるからだ。(会社は選べないが)
それに、腹をくくって、小さな会社に入れば、大会社にはないメリットもある。すぐに仕事を任せてもらえるし、出世も早いし、そのぶん、給料もいい。なにより、大会社のように、歯車で終わらない。
そもそも、成績が良いのだから、1.思考力2.記憶力に優れるだろうから、技術者としての高い資質が証明されている。それに、若いだけで、時間を味方につけることができる。つまり、何度でもやり直せるのだ。
たとえ、電力会社に入れなくても、人生は終わりではない。それどころか、入らなくて良かった、と思う日が来るかもしれない。(今の東京電力のように)人生塞翁が馬、何が起こるか分からないのだ。
落胆なんかするな。君たちが、小さな会社で大きな果実をつかみ、実りある人生をおくることを、僕は心から願っている。努力を続ける人間は、いつかは報われるのだから。
by R.B