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スモールトーク雑記

■ガジェット~スチームパンク~ 2009.12.06

ガジェットは、正真正銘の「スチームパンク・Steampunk」だ。

テクノロジーの進化がゆがみ、スマートなエレクトロニクスが停滞し、いわくありげなメカが支配する世界。そんな異形世界の主役が、キッチュな機械小物だ。ガジェットは、そんなオモチャであふれている。

「センソラマ・Sensorama」は、まだ未完成の装置で、緑色の光と、不可思議な映像で、人間を洗脳する。最高指導者オロフスキーは、これで、「人間の意識の統一」をもくろんだ。

鳥の羽のような翼なのに、羽ばたくことなく、飛行する物体。あの羽で滑空しても、揚力は生じない。

高架レールにぶら下がり、走行するモノレール?後部にプロペラがあるが、パラパラ回転する程度。これでは推力は得られない。

そして、ガジェットの主人公「エクスプレス」。蒸気機関、電動モーター、それとも未知の機関?動力は不明だが、重厚で、力強く、美しい・・・”It’sSteampunk.”

「スチームパンク」は、「ニュートン力学」が「量子力学」を封印し、「機械工学」が「電子工学」を淘汰した世界。動力は蒸気機関、または、それを彷彿させるもの。制御はすべて機械式で、機械式速度計(V2ロケットが実現)、機械式計算機(バベッジが実現)・・・んー、いかにもキッチュ。

もちろん、スチームパンクに厳密な定義はない。ゴテゴテしているけど、カッコいい、威圧感があるけど、スマート、ハイテクだけど、クラシック??・・・言葉で説明するのはムリか。

ならば、百聞は一見にしかず。デイヴィッド・リンチ監督の「デューン/砂の惑星」!この作品に優る「スチームパンク」はない、と僕は思っている。

「デューン/砂の惑星」には、劇場公開版と、TV放映版がある。後者は、アメリカでTV放映されたノーカット版。そのぶん、ダラダラしているけど、「スチームパンク」を堪能するなら、こっち。

15年前、LD「デューン/砂の惑星プレミアム・ボックス」がリリースされた。「劇場公開版+TV放映版」というマニア垂涎ものだが、すでに絶版。それどころか、劇場公開版のLDもDVDも絶版となっている。ということで、中古以外は入手不可能。(僕は全部持ってるけど)

ところで、デイヴィッド・リンチが庄野晴彦の「ガジェット」にぞっこんだった、というウワサがあるが、たぶん、本当だろう。デイヴィッド・リンチと庄野晴彦はお仲間なのだ・・・ところが、「お仲間」はまだいる。

宮崎駿監督の「風の谷のナウシカ」、「天空の城ラピュタ」には、様々なガジェット(機械小物)が登場する。飛行船、戦車、ロボット・・・どれをとっても「スチームパンク」の匂いがする。宮崎作品は、ドロドロした「スチームパンク」とは無縁に見えるけど、本当は・・・

「アーマーモデリング」という戦車専門のプラモデル月刊誌がある。コテコテの「戦車+プラモ」マニアが、自作のプラモを写真に撮って投稿する。実物写真と見まがうばかりのリアリティで、有名美大卒の連中も混じっている。

その「アーマーモデリング」で、以前、対談があり、タミヤの社長と宮崎駿が、熱く語り合っていた。宮崎駿の知られざる一面だ。

ガジェットは、想像力で楽しむコンテンツだが、手っ取り早く、知りたい人もいる。それに応えたのが、ガジェット小説版、「GADGETザ・サード・フォース(マーク・レイドロー著)」だ。

沈黙のガジェットを、活字で意味づけし、一般ウケをねらったのだろう。言ってしまえば、設定集、攻略本。もちろん、僕は買わなかった。ゴッホの絵をパーツごとに、活字で説明するようなもの。原作を壊すのは見えている。

次いで、LD「ガジェット・トリップ/マインドスケイプ」もリリースされた。映像と音を、繰り返し堪能するため?だが、ガジェットの映像は、ストーリーの合間、一瞬見てこそ、価値がある。美しく見るにはこれしかない。正しく見たければ、繰り返せばいいけど。

ガジェットは、電子紙芝居システム、スチームパンク、そして、庄野晴彦の才能と執念が、融合した完全体だ。

だから、最新CGでリメイクするなど論外。モーツアルトの楽曲と同じで、少しでも手を加えたら、作品は死ぬ。

ガジェットは、欧米でも高い評価を受け、マルチメディアグランプリ通産大臣賞も受賞、販売本数も10万本とウワサされた。だが、現実は少し違う。

問屋のツクダシナジーの担当者によれば、実売本数は3万本。大ヒット、黒字は間違いないけど、この程度の売上なら、連発しないとビジネスは破綻する。

PCゲーム業界で、それができたのは、光栄(現コーエーテクモ)と日本ファルコムのみ。そして、この2社だけが、今も繁栄している(2009年)。

一方、ガジェットを開発・販売したシナジー幾何学は、1998年に自己破産した。その後、ツクダシナジーも破綻。庄野晴彦の次回作「アンダーグワールド・Underworld」も、日の目を見ることなくアンダーグラウンド(地下)へ。そして、ガジェットも絶版となった。

類似作品が一つとしてない秀作が、無慈悲なビジネスの力学で、抹殺されたのである。版元が破綻した以上、他のプラットフォームへの移植は難しい。

ゲームコンテンツは、小説や漫画と違い、再生機を選ぶ。ガジェットが再生できなくなるのは、時間の問題だろう。

スチームパンク史上、「不朽の名作」になるはずだったガジェットは、リリースからわずか数年後、「幻の名作」となったのである。

by R.B

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