■ガジェット~電子紙芝居~ 2009.11.21
オープニングが終わると、「主人公=ユーザー」は、ホテルの一室にいる。東欧風の質素な部屋だ。
アイテムをすべて取って、ラジオをつける。彗星が地球に接近していて、衝突するかもしれないという。
ホテルを出て、駅に行く。奇妙な形をしたエクスプレスが停車している。どうやら、乗るしかなさそうだ。旅の途中、スロースロップなる人物から連絡が入る。協力を頼まれるが、断わるすべがない。
列車の中で、行く先々で、気味の悪い人たちに出会う。彼らと会話し、状況を把握する。この国は、体制派と反体制派に分かれ、反目しているようだ。
ホースラヴァーと、彼を支持する科学者たちは、反体制派らしい。彼らは、彗星が地球に衝突すると信じ、地球脱出をもくろんでいる。「ユーザー」に協力を求めてくるが、真意はわからない。
ホテルのロビー、駅の構内、どこへ行っても、人の気配がしない。ガジェットに登場する人物は、情報提供者だけ。
ストーリー、登場人物、シーン、すべてが最適化され、ムダなものはひとつもない。
この世界の創造主が、すべてをコントロールし、画面の向こうから、ユーザーを監視している。そんな緊張感が、孤独感を打ち消し、没入感を加速する。
自分は誰?ここはどこ?何が起こっている?すべてが謎のまま、ストーリーは進んでいく。
スロースロップは敵か味方か?彗星は地球に衝突するのか?ホースラヴァーらは地球を脱出できるのか?
やがて、巨大宇宙船が出現し、ストーリーは急展開する。
最後に明かされる真実・・・国家最高指導者オロフスキーは、洗脳装置「センソラマ・Sensorama」を使い、人間の意識を統一し、「完全なる覇権」をもくろんでいた。
それが成功したのか、失敗したのか?彗星は地球に衝突したのか?ホースラヴァーらは地球を脱出できたのか?今となっては、すべては謎・・・
長い旅の果てに待っているどんでん返し。しかし、ユーザーはそれを予測していた。
ガジェットは、電子紙芝居である。世界全体が、何百ものシーンで輪切りにされ、時間軸の上で孤立している。
しかも、シーンの間にからみはない。シーンの内部世界が変わることもない。あらかじめ、作られたシーンが、鉄道が時刻表で運行されるように、整然と流れつづける。
これは、シミュレーションゲームとは真逆の世界だ。シミュレーションは、世界の時空が連続し、何かをすれば、他の時空に影響をおよぼす。道で拾った小石が、引力を介して星々に影響するように。
シミュレーションゲームしかやらない僕が、すっかりはまってしまった。
ガジェットの素晴らしさは、庄野晴彦のアートワークによる。15年前のCGツールは、今とは比べものにならないほど非力だった。誰が描いても同じような絵にしかならない。ところが、ガジェットの映像は、それでも、強烈な世界観で、他を圧倒した。
ところが、記憶によれば、「ガジェット」の実売本数は3万。PCゲームなら大ヒットだが、メジャーなタイトルにはなれない。ガジェットの不幸はここにあった。
by R.B