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スモールトーク雑記

■スティーブ・ジョブズ死去 2011.10.15

昔、僕はアップルから夢をもらった。「AppleⅡ」・・・5年先をいく未来のパソコンだった。

たとえば、スペック、・カラーグラフィック(当時のPCはモノクロ文字のみ)・FDD・磁気ディスク(当時のPCの外部記憶装置は音楽用テープ)・プラスチックケース(当時のPCは無骨な金属筐体)

そして、ソフトは、ホビー、ゲーム、CG、音楽、ビジネス、夢をかき立てるソフトでいっぱいだった。

AppleⅡを使えば、夢を分析し、心の仕組みを解明し、人間の精神と知能を拡大させることができる!と本気で思ったものだ。

ところが・・・

あれから30年経った今、コンピュータの進歩は、AppleⅡで止まったまま。

小さい頃、僕は田舎者だったので(今でもそうだが)、ものを知らなかった。海外ドラマ「タイムトンネル」を観て興奮し、大きくなったら、タイムマシンを作る!と本気で思っていたのだから。

ところが、大学に入ると、それはムリだと分かった。勉強に興味を失い、なんとか、4年で卒業し、教授が勧める会社に入り、回路設計者として身を立てた。

そんなある日、秋葉原の電気街で、偶然見つけたのが「AppleⅡ」だった。目がクギ付けになったが、価格は40万円!3時間迷ったあげく、結局、あきらめた(大卒初任給が10万円の時代)。

そこで、僕は、コンピュータに人生をかけることにした。上場企業からベンチャー企業に転職し、回路設計とプログラミングに熱中した。好きなことをやって、給料をもらえる?マジか?夢のような人生だった。ドツボの人生の一歩手前で、救ってくれたのが「AppleⅡ」だった。

あれから、長い年月がたって・・・2011年10月5日、スティーブ・ジョブズの死が報じられた。TVでもジョブズの特集が組まれ、そのカリスマが讃えられた。でも、どこかウソっぽい。

スティーブ・ジョブズは、TVやネットで称賛されるような、イノベーション型の発明家ではない。AppleⅡにしても、設計したのは、スティーブ・ジョブズでなく、スティーブ・ウォズニアックである。

昔、AppleⅡの拡張ボードを設計したとき、AppleⅡのマザーボードの設計図を見たが、まさに、「オッカムのカミソリ」・・・不必要なものを切り落とせば本質が見えてくる。スティーブ・ウォズニアックは、「シンプル回路」の天才だった。

というわけで、スティーブ・ウォズニアックとAppleⅡがなければ、スティーブ・ジョブズの輝かしい人生はなかった。

それに、Macもパロアルト研究所の「Alto」のコピーだし、iPod、iPhone、iPad(アイパッド)も、既存の技術の延長にある。ただ、彼には秘密の力があった。1.執着し、妥協しない2.「美と使い勝手」の天才この2つである。

とはいえ、「美と使い勝手」を極めるのは、言うは易く行なうは難し、だれかれできることではない。

それに、「妥協しない」には大金が必要だ。素晴らしいアイデアがあり、それを形にする力があっても、カネに余裕がなければ、どこかで妥協する。これが現実だ。では、スティーブ・ジョブズは、なぜそれができたのか?

スティーブ・ジョブズは、社会に出て、すぐ成功したからである。2人のスティーブが創業した「アップル社」は、商品第1号の「AppleⅡ」が大ヒットし、スティーブ・ジョブズに巨万の富をもたらした。つまり、スティーブ・ジョブズは、「金持ち」からスタートしたのである。

では、その気があって、カネさえあれば、妥協せずに商品を作れる?

ノー!スティーブ・ジョブズ自身が、それを証明している。

スティーブ・ジョブズは、自分がスカウトしたジョンスカーリーCEOによって、アップルを追われたからである。ジョブズは「その気」も「カネ」もあったが、部下を心服させるカリスマは、まだ認知されていなかった。

その後、ジョブズがカネにあかせて創業した「NeXT」は、一度も黒字をだすことなく、破綻する。ここでも、ジョブズは、「妥協しない」を実現できなかったのである。

みんなが知っているスティーブ・ジョブズは、アップルに出戻った後、新型Mac、iPod、iPhoneへと、ひた走る栄光の時代である。

だから、「妥協しない」はカネだけあってもダメ。アップルを追い出されても、NeXTで失敗しても、決してあきらめない。だから、ジョブズは、「美と使い勝手」を極めることができたのである。そして、それが、彼に成功と名声をもたらした。

もちろん、そのためには、不屈の精神力、揺るぎない信念が必要だ。逆に、それがあれば、どこかで神様が手をさしのべてくれる。ジョブズの短い人生が物語るように。

だが、スティーブ・ジョブズは、ただの精神論者ではない。それを示す彼の言葉を紹介しよう。

私(ジョブズ)の近所に車好きの青年がいた。彼はポルシェに憧れたが、おカネがなかった。そこで、ポルシェに似たVWビートルを買って、ポルシェに改造しようと、お金と手間をかけた。ところが、できたのは、「不細工なビートル」だった。

執着し、あきらないことは大切だが、「何を」を誤ると、人生も誤る。ジョブズはそれを言いたかったのだろう。

もし、スティーブ・ジョブズが、あと20年長生きしたら、どんな商品が生まれただろう。考えただけで、ゾクゾクする。そう考えると、ジョブズの早逝は悔やまれる。

しかし・・・

心配は無用。新しい発明家はどんどん出てくる。そして、画期的な発明も。

とはいえ、スティーブ・ジョブズの功績は大きい。「動けばいい」コンピューターを、「触れたくなる」コンピュータに変えたのだから。

最後に、アップルと2人のスティーブ、素晴らしい夢をありがとう。

by R.B

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