■アニメ業界の謎 2011.10.02
東日本大震災の後、初めて大阪に出張した。
JR大阪駅で降りて、大阪環状線に向かうが、勝手がわからない。大阪駅がすっかり変っている!
人の数も増えたようだ。福島第1原発事故の後、本社機能を東京から大阪に移した企業もあるというが、そのせいだろうか。
今回の出張は、取引先の新任ディレクターに、ウチのディレクターを紹介するため。ディレクター同士、仲良くしてくれれば、制作もスムースに進むし、僕の出番も減る、メデタシ、メデタシ。
取引先で、2時間ほど話をして、会食のため、梅田へ。場所は、スイング梅田ビル4Fの「酉の舞」。手羽先、唐揚の専門店だという。
手羽先と言えば名古屋だが、こっちの方が、さっぱりして美味しい。唐揚げも上品な味付けで、豆腐料理もけっこううまい。4人で飲んで食って、15000円ちょっと。さすが、大阪は食い道楽。
宴もたけなわ、盛り上がったところで、取引先のKディレクターから、奇妙な話を聞いた。
ある開発案件で、Kディレクターは、アニメパートをS社に発注した。評価用サンプルを提出させたところ、品質は良いし、価格も相場の半分だったという。こりゃいいわ、で即決。ところが、これが悪夢の始まりだった。
締め切りの前日、KディレクターはS社に電話を入れた。
「明日、納品ですけど、大丈夫ですか?」
「ゼンゼンOKです」
そして、翌日、何時になってもデータが来ない(成果物はネット上のサーバーでやり取りする)。
そこで、KディレクターS社に電話。
「納品どうなってます?」
「それがダメなんです」
「え?何がダメなんですか?」
「今日納品はムリです」
「は?昨日、大丈夫だって言ったじゃないですか!」
「はい、それが急にダメになったんです」
「意味わからんやろ!」
あげく、数日経って、上がってきた絵が、メチャクチャ。グラデーションからしてつぶれていたという(グラデーション:色を滑らかに変化させること)。一体、どんなツール使っとんや?お前らプロか!(Kディレクターの代弁)
数ヶ月経って、らちがあかないと判断したKディレクターは、S社から仕事を引き上げ、社内でやることにした。そのため、S社がそれまで制作した絵を提出するよう命じた。ところが、またもや問題発生。
一般に、アニメ制作では、
1.画像編集ソフト(Photoshopなど)で静止画を編集する。
2.それをベースに動画編集ソフト(Director、AfterEffects)で動画を作る。
なので、すべて作り直すには、動画だけでなく、元の画(静止画)も必要になる。ところが、S社から届いたのは動画のみ。
そこで、Kディレクター、S社に電話。
「画像ファイルも欲しいんですが?」
「ないです」
「は?動画の元絵ですよ」
「この世に存在しないです」
「え~、じゃ、どうやって動画作ったんですか!」
マジ、ありえない。
ということで、Kディレクターは、一から作りなおすハメに。ところが、彼自身、別の案件を抱えており、全部作り直しているヒマはない。そこで、ウチに話がきたのだが、別の案件が進行中で対応できない。そこで、代わりにN社を紹介した。
Kディレクターはさっそく、N社に評価用サンプルを提出させたが、それを見て仰天した。なんと、以前、S社が提出してきたサンプルにソックリ!
そこで、興奮したKディレクターは、サンプルについて、N社を問い詰めた。
すると、N社によれば、そのサンプルは、「S社」から頼まれたのだという。ところが、カネは払ってもらえず、その後も仕事は来なかったという。そしてその時期だが、KディレクターがS社にサンプルを依頼した頃と一致した。
こうして真実が明らかになった・・・
1.KディレクターがS社に評価用サンプルを依頼。
2.S社はそれをN社に丸投げ(N社の品質は高い)。
3.S社は、N社が作ったサンプルをKディレクターに提出。
4.サンプルの出来が良かったので、KディレクターはS社に発注。
5.S社は、別の会社で制作→無惨なほど低品質。
まるで、NHKの経済ドラマだ。面白すぎる!(Kディレクターごめんね)
熱く語ったKディレクターは、最後にこう付け加えた。
「この業界、ほんとに狭いですね。悪いことできないですよ」
ホントだ。
デザイン会社やアニメ会社に仕事を出す場合、先ず、評価用のサンプルを出してもらう。たいてい、エースに描かせるので、出来は良い(この時点で不出来なら論外)。
ところが、実際に作るのはエースとは限らない。結果、「なんやこれ?」はよくある話。
CGにしろ、アニメにしろ、出来はクリエーター次第(会社ではない)。しかも、バラツキは、工業製品の比ではない。人手に頼る工芸品だからだ。なので、ウチは、バラツキを吸収するディレクターをおいてもらっている。ディレクターが優秀なら、バラツキは小さくなるので。
ソフトウェアも人手頼りだが、「バグだらけ」でない限り、品質は目に見えない。ところが、絵の善し悪しは、一目瞭然。だから、アニメ、CGに「ごまかし」がきかない。
最近、パチンコ、パチスロ、ゲームで、アニメ版権が増えている。当然、アニメパートは、アニメ制作会社にいくのだが、たいてい問題が発生する。中には、破綻したアニメ制作もある。
一方、パチンコ・パチスロ業界の映像制作会社は、融通がきくし、粘り強い。そんな彼らがアニメ制作会社と手を組むと、必ず、問題が発生する。
彼らが言うには、アニメ会社は・・・
1.スタート時期が少しでも遅れると、アニメーターを他の仕事にまわす。
2.すべての仕様と素材がそろわないと着手しない。
3.納期は守らない
だから、彼らにしてみれば、アニメ制作会社は宇宙人なのだ。このギャップは当面埋まらないだろう。もっとも、埋まる必要もないかもしれない。
現在、版権を買う力があるのは、パチンコ・パチスロメーカー、あと、一部のゲームメーカーぐらい。今は、パチスロはアニメ版権が繁盛しているが、どこかで、一服するだろう。そうなれば、こんなトラブルもなくなる。
by R.B