■2016年の鳥瞰図・欧米時代の終わり 2016.03.20
米国とヨーロッパと中東とアジアの関係がおかしくなっている(全部!?)。
たとえば・・・
英国は、米国との「特別な関係」を清算して、中国と「英中黄金時代」へ。
一方、米国は、サウジアラビア・イスラエルとの「特別な関係」を清算して、天敵イランと歴史的合意へ。シェール革命で100年分の石油をゲットした米国は、中東がどうなろうが知っちゃいねぇ~
さらに、2016年1月、米国は原子力空母「ジョン・C・ステニス」を南シナ海に派遣した。
それが?
意味するところは大きい。空母が一隻ノコノコ出て行くわけではないから。米国海軍の原子力空母は、巡洋艦、駆逐艦、原子力潜水艦など強力な艦船で護衛されている。タスクフォース(空母打撃群)とよばれる海軍単位で、世界最強、この世で立ち向かえる艦隊はいない(超音速魚雷をのぞいて)。
ちなみに、今回の派遣は、南シナ海でやりたい放題の中国を牽制するため。
というわけで、米国の関心は中東からアジアへ移りつつある。
一方、アジアでは・・・
あいかわらず、中国と韓国が日本に噛みついている。どうやら、この二国は「現在と未来」より「過去」の方が大事らしい。過去の恨みを何度も蒸し返し、現実の問題にぶちまけている。過去の恨みを晴らすことで、今を生きているわけだ。
これに対し、安倍政権は毅然としている(これまでのフニャフニャ政権にくらべて)。それをリスクとみる向きもあるが、大人しくしていると、根こそぎ持っていかれる。どっちがいいですか?
つぎに、ヨーロッパ・・・
「EU(欧州連合)」はボコボコ。
そもそも、こんな矛盾の塊(かたまり)が存在することがおかしいのだ。一つの国でさえ、もめごとが絶えないのに、政治・文化・民族が異なる国が集まって仲良く・・・はムリ。
事実、その矛盾ぶりは驚くばかりだ。
EUは、2016年、28カ国が加盟しているが、似た者同士というわけではない。法律も言語も民族も違う。その上、加盟国の主権が認められているから、ややこしい。
一体何のための連合?
「欧州連合の意義」を引用すると、人間の尊厳に対する敬意、自由、民主主義、平等、法の支配、マイノリティに属する権利・・・
なんのこっちゃ?
なのだが、一応、代弁すると・・・
EU加盟国間の関税や入出国審査を廃止すれば、ヒト・モノ・カネの流れが加速し、経済は発展する。さらに、通貨を「ユーロ」に統一すれば、米国「ドル」に匹敵する巨大経済圏が生まれる。メデタシ、メデタシ。
ところが・・・
EUに加盟しているのに、ユーロを導入していない国がある。その代表が英国だ。今でも昔ながらの「ポンド」を使っている。つまり、EU第二の経済大国が裏切り者?
さらに・・・
ユーロを導入しているのに、EUに加盟していない国もある。
ドーユーこと?
EU・ユーロは、しょせん、「損得勘定」の寄り合い所帯。制度も習慣も考え方も違う。だから、各国の事情を考慮し、例外をみとめるしかない。EUに加盟してもすぐにユーロを導入する必要はないですよ。EUに加盟してなくても、ユーロを導入してもいいですよ~、というわけだ。
なんとチャランポランな!
なのだが、現実にEUは存続している。
なぜか?
メリットがあるから。
統一通貨ユーロの信用力は、加盟国の経済力で平準化される。
そのため、ドイツのような経済大国は、経済の実力にくらべ通貨(ユーロ)の価値が低い。つまり、通貨安。
結果、輸出製品が安くなり、輸出が有利になる。一等国の高品質な製品を、三等国の安い通貨(価格)で輸出するようなもの。これで売れないわけがない。事実、2015年、ドイツの貿易収支(貿易の儲け)は中国についで世界第二位。ドイツがEUで一人勝ちといわれるゆえんだ(反則ですよね)。
一方、ギリシャのような経済小国は、ドイツのような特典はないが、別の恩恵がある。経済の実力にくらべ通貨(ユーロ)の価値が高くなるのだ。つまり、経済力は三等国なのに、通貨(信用力)は一等国!?
そこで、ギリシャはこの信用力を利用して赤字国債をバンバン発行した。購入したのはドイツをはじめヨーロッパの銀行。つまり、ギリシャは他国からの借金で優雅に暮らしていたのである(55歳から年金がもらえる)。
もちろん、国債は決められた期限に返済しなければならない(借金なので)。それが滞れば、デフォルト(破綻)。そして、その寸前までいったのだ(実質破綻)。
きっかけはギリシャの政権交代。新政権がそれまでの粉飾決算を暴露したのだ。当然、ギリシャ国債は信用を失い暴落、ギリシャ破綻問題にまで発展した。あげく、財政赤字の大きいスペイン、ポルトガル、イタリアも次々と国債が暴落。「あんたたちもギリシャのお仲間」というわけだ。
では、EUで得しているのはドイツだけ?
そうでもない。
ドイツの金融機関は、ギリシャの国債を大量に購入しているから。それが暴落したのだから大損ですよね。
あげく、
ギリシャ人:「借金返せないから減額してね!」
ドイツ人:「バカこけ、借りたカネ返せよ!」
ギリシャ人:「あっそ、じゃ自己破産しよっかな~」
そうなると、ギリシャ国債は大損どころか「紙くず=ゼロ」になる。それなら、借金棒引きしても、払ってもらった方がいい。
そしたら、すかさず、
ギリシャ人:「じゃあ、当分の生活費も貸してよ!」
ドイツ人:「・・・」
というわけで、信用力の低い国でも、統一通貨ユーロを導入すれば、ドイツ並の信用力が得られる。じつは、スペインもこの方法で資金を集め、不動産開発に精を出し、一大不動産バブルを生んだ(後に崩壊)。
EU、ユーロ、本当に大丈夫?
そんな中、英国が「EU離脱か残留か?」で揺れている。
2016年6月、英国で国民投票が行われるという。エリザベス女王が「EU離脱」を支持したとか、そんなこと言ってません、とか上を下への大騒ぎだ。
ふつうに考えれば、英国がEUを離脱するメリットはない。EUは世界最大の経済圏なので、加盟していても損はないから。長いものには巻かれろである。
ではなぜ、英国はEU離脱を考えているのか?
現在、ヨーロッパ大陸は移民やテロの問題で大混乱だ。そんな地域とヒト・モノ・カネが自由に行き来すれば、英国も巻き込まれる。災いは、イギリス海峡で絶て、というわけだ。
なるほど。
でも、本当の理由は・・・
歴史的に、英国はヨーロッパ大陸と距離をおいてきた。だから、ヨーロッパ大陸の紛争から避けることができたのである。英国は、フランスにナポレオンが台頭するとドイツ(プロセイン)を助け、ドイツにヒトラーが台頭するとフランスに加担した。この方法で、ヨーロッパ大陸で強国が出現するのを防いできたのである。
ただし、すべてうまくいったわけではない。
ヒトラー対策では深入りしすぎて大やけどをしている。第二次世界大戦前夜、ドイツがポーランドに触手をのばすと、ポーランドに安全保障を約束したのである。これは、英国にとって荷が重すぎた。ドイツがポーランドを攻撃したら、英国はドイツに宣戦布告する義務があるから。日本で話題の集団的自衛権である。
この英国の軽率さが第二次次世界大戦の原因となった。元々、ヒトラーは英国と事を構えるつもりはなかった。それどころが、英国を尊敬していたのである。それを幹部の前で熱く語ったほどだ。つまり、英国が何もしなければ、第二次世界大戦はおこらなかった。ドイツとソ連の戦争ですんだのである。
ところが、現実は・・・
1939年9月1日、ドイツ軍がポーランドに侵攻すると、英国はドイツに宣戦布告した。とばっちりを受けたのがフランスだ。英国にそそのかされ、仕方なくドイツに宣戦布告したのだが、ドイツ軍に攻め込まれ、わずか1ヶ月で占領された。
英国のトチ狂った正義は高くついた。米国のおかげで戦争には勝利したものの、ドイツと日本の猛攻で足腰を砕かれたのである。そして、二度と世界の頂点に立つことはできなかった。
2015年の世界の経済力ランキング(GDP)をみてみよう。
1位:米国
2位:中国
3位:日本
4位:ドイツ
5位:英国
かつて、米国をしのぐ技術力、工業力、金融力を有し、世界中に植民地を張り巡らせた「太陽の沈まぬ帝国」。その英国が第5位に甘んじているのだ。しかも、勝ったはずの日本とドイツにも負けているではないか。太陽の沈まぬ大帝国は、自沈したのである。
というわけで、英国は「EU=ドイツ帝国」を快く思っていない。だから、EUを離脱して、中国の経済力にすがろうとしているのだ。
じつは、英国だけでなく、EU全体で米国離れがすすんでいる。旧ソ連(ロシア)の衰退にともない、NATOの価値が薄れたからだ。
かわりに、ヨーロッパ諸国は英国同様、中国に接近している。中国が米国を抜き去り、世界一の経済大国になると信じているのだ。つまり、すべてカネのため。
では、ヨーロッパ諸国は、中国の侵略主義、覇権主義、軍国主義が気にならないのだろうか?
ヨーロッパにとって、中国は遠い国。東向きにはロシアがはばみ、西向きにはアメリカ大陸がはばむ。「遠交近攻(遠い国と仲良くして近くの国を攻める)」の戦略に従えば、中国は仲良くすべき国なのである。
一方、米国は太平洋をはさんで中国と向き合う。だから、中国に対する警戒感はヨーロッパとは次元が違う。
現実に、中国は東シナ海で日中尖閣戦争の火ダネをつくり、南シナ海で人工島&軍事基地の建設に余念がない。ノーベル平和賞もらってウハウハ、事なかれ主義のオバマ政権だから許されるのだ。ブッシュ政権なら軍事衝突がおこってもおかしくない。
ではなぜ、中国の南シナ海侵出は、米国の国家安全保障を脅かすのか?
放っておけば、南シナ海は中国の湖になり、つぎに太平洋が中国の湖になるから。その大海に、探知不能の中国の原子力潜水艦がウヨウヨするのだ。米国近海から核ミサイルを撃ち込まれたら目も当てられない。
それがどれほどの脅威かは説明するまでもないだろう。
そんなこんなで、米国とヨーロッパの利害が一致しなくなっている。「欧米の時代」は終わろうとしている。
by R.B