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週刊スモールトーク (第573話) AIバブルは崩壊しない~令和のブラックマンデー~

カテゴリ : 社会経済

2024.09.16

AIバブルは崩壊しない~令和のブラックマンデー~

■過去最大の暴落

世の中は不穏である。

2024年8月5日、突如、株価が大暴落した。

日経平均株価が4451円下がり、1987年10月20日の「ブラックマンデー」を超えたのだ。下げ幅では、過去最大の暴落である。

一部の市場関係者は「令和のブラックマンデー」と命名し、どこか得意げだ。悪くないネーミングだが、一つ謎がある。

暴落の原因がわからないのだ。

株式市場には、暴落がつきものだが、これまでは原因が特定できた。

じつは、この手の因果関係は、複数の原因がからむ。そこで「原因=主因」として話をすすめる。

たとえば、2008年10月のリーマン・ショック

1929年の世界恐慌の再来といわれ、日経平均株価は1ヵ月で42%も下げた。このときの原因は、世界有数の金融機関リーマン・ブラザーズの破綻である。

さらに、リーマン・ブラザーズが破綻した原因もわかっている。リーマン・ブラザーズが、不発なしの爆弾「サブプライムローン」を組み込んだ金融商品を大量に抱えていたから。それがバレて、大騒ぎになったのだ。早い話、爆弾が爆発したのである(比喩です)。

さらに、2020年の新型コロナ・ショックでは、日経平均株価は40%以上下落した。原因は、文字どおり、新型コロナウィルスによるパンデミック(世界規模の感染爆発)。

ところが、今回の暴落は原因がハッキリしない。

もちろん、それでは、専門家やメディアのメンツが立たない。そこで、原因をムリクリでっちあげた。

日銀の植田総裁の発言である。

2024年7月31日、日銀の植田総裁が「継続的な追加利上げ」を示唆した。利上げは、黒田前総裁の尻拭いなので、愚策といえない。早い話、スケープゴートにされたのた。

とはいえ、株価は「金利上昇」を嫌う。

理由は2つある。

第一に、金利が上がれば、借金の利払いが増えるから、企業の儲けが減る。さらに、高い金利で新たに借入れする企業も減るだろう。結果、設備投資が減り、景気が冷え込み、株価が下がる。

第二に、銀行の預金利息が上がるので、安全な銀行預金が増え、リスキーな株式投資は減る。結果、株式市場の入金は減り、出金は増えるので、株価は下がるわけだ。

なるほど、筋は通っている。

だが、問題は程度だ。

40年の長い投資経験からいうと・・・金利が株価に与える影響は小さい。

たしかに、金利が変動すれば、株価はすぐに反応する。だが、最終的にはファンダメンタルズ(経済の基盤)にあわされる。国なら経済成長率や物価上昇率、企業なら売上高や利益だ。事実、金利が上がっても株価が上がることもあるし、金利が下がっても株価が下がることもある。

というわけで、こんな弱々しい根拠では「過去最大の暴落」は説明できない。

では、令和のブラックマンデーの原因は?

ずばり「人間心理」。

■令和のブラックマンデーの原因

株価は、中長期にはファンダメンタルズで決まるが、短期的には「人間心理」で決まる。

みんなが上がると思えば、株は買われ、株価は上昇する。みんなが下がると思えば、株は売られ、株価は下落する。その日の株価はこれで決まる。小学生でもわかる原理だ。

つまり、短期の株価急落は人間心理による(アルゴリズム取引によるフラッシュクラッシュをのぞく)。

そこで、令和のブラックマンデーでおきた人間心理をみていこう。

戦場では、危機的状況になると、新兵はパニックにおちいりやすい。一方、ベテラン兵は冷静でいられる。株式市場も同じだ。戦場は命の取り合い、株式市場はマネーの取り合いで、本質は変わらないから。

今回の暴落のはじまりは、2024年1月の新NISAだ。

新NISAとは、投資の優遇制度である。

上場株式(外国株式を含む)、ETF(上場投資信託)、REIT(上場不動産投信)、公募株式投資信託に投資する際、一定の限度額で、非課税になる。

家計の資産形成を助けるためだが、年金2000万円問題の不安を忘れさせるため、とケチをつける者もいた。

間違いではないが、そこはどうでもいい。

重要なのは、非課税枠が増えたので、投資が有利になったこと。

さらに重要なのは、株式市場が、初心者でいっぱいになったこと。

これは問題だ。

経験の浅い投資家が増え、市場はパニックになりやすくなったから。

本来、株は安値で買い、高値で売る。そんなのあたりまえ、とツッコミが入りそうだが、多くの投資家は、逆をやる。

株価が急落したら、永遠に下がると思い込み、株を売る(狼狽売り)。逆に、株価が急上昇すると、永遠に上がると思い込み、株を買う。つまり、安値で売り、高値で買うわけだ。冷静に考えれば愚策だが、人間心理を考慮すれば、合点がいくだろう。

さて、そんな状況で、「AIバブル崩壊」と「エヌビディア・バブル崩壊」がテレビ、新聞、ネットを賑わせていた。そのため、投資家は、今来るかとビビリの状態だった。

そこへ、日銀の植田総裁の「追加利上げ」声明。

株式市場はすぐに反応し、株価の急落が始まった。つぎに、新参の投資家が、パニックになり、売りが売りをよぶ。結果、ありがちな急落が、ブラックスワンの大暴落になったのである。

一方、こんな反論もあるだろう。

事情はどうであれ、結果として、株価が暴落したのだから、専門家は正しかった!

さにあらず。

暴落の翌日、一転して、株価は急騰したのだ。

上げ幅は3217円で、こちらも過去最高。その後、数日で、日本株も米国株も値をもどした。暴落がネガティブなパニックなら、急騰はポジティブなパニックだ。

じゃあ、専門家とメディアはオオカミ少年だった?

ところが、その後、日本株と米国株は再び急落。

さては二番底!

と思ったら、再び株価はもどる。

一体、何がおきているのだ?

じつは、何もおきていない。

今後、ホンモノの二番底がくるだろうが、「AIバブル崩壊」や「エヌビディア・バブル崩壊」とは関係ない。

そもそも「AIバブル」、「エヌビディア・バブル」からして、間違っている。

AIもエヌビディアも、バブルではなく、ホンモノだから。それどころか、成功の物語は始まったばかりなのだ。

50年前、パソコンが誕生したとき(当時はマイコンとよばれた)、「パソコン・バブル崩壊」を触れ回るようなもの。結果どうなったかは、みんな知っている。

もちろん、ホンモノもいつか消える運命にあるが、それは「荘厳な死」であって「泡が消える」とは言わない。

■AIバブルの妄想

ではなぜ、「AIバブル崩壊」、「エヌビディア・バブル崩壊」が生まれたのか?

2024年初頭、「生成AI(ChatGPT)」がブレイクし、AI関連株が上昇し、「AIバブル」なるテクストが生まれた。

本来なら、バブルかホンモノか精査するべきなのに、専門家は「AIバブル」と決めつけた。あげく、バブルは必ず弾けるという理屈で「AIバブル崩壊」まで出回る始末。

この一連の報道には、間違いが2つある。

第一に、AI株の急騰は「生成AIのブレイク」で始まったわけではない。その1年前の2022年末から上がり始めていた。経済の専門家より、欲の皮が突っ張った(失礼)、狡猾な投資家の方が先見の明があるわけだ。

第二に、AIはバブルではなく、ホンモノである

生成AIをさきがけたのは、ChatGPTを開発したOpenAIだ。そのAIの殿堂を追放されたアッシェンブレナーはこんなリポートをネットで公開した。

「AGI(人工汎用知能)の誕生は2027年、人間を凌駕するASI(人工超知能)はそれから1年以内」

さらに、OpenAIの現CEOのサム・アルトマンも「AGIは2027年から2030年」と言っている。

にわかには信じがたい・・・

ところが、2024年9月13日、驚くべきニュースが飛び込んできた。

OpenAIが、新しいAIモデル「OpenAI o1」を発表したのだ。

サム・アルトマンは「汎用的で複雑な推論ができるAIという新しいパラダイムの始まり」と強調している。

ツボを得た表現だが、抽象的なので、具体的に言うと・・・

「strawberry」の中に「r」は2個あります・・・なんて誤答はしない(ChatGPTは誤答)。ちゃんと「3個あります」と正解する。論理的に「数えている」から当然だ。

というわけで、ChatGPT(現GPT-4o)は国語が得意だが、OpenAI o1は数学が得意。

事実、o1は物理学、数学、生物学で博士課程の学生と同等のパフォーマンスを発揮したという。コンピュータをスケールすれば、o1は、トップレベルの研究者・技術者を超えるのは時間の問題だろう。おそらく、1年もかからない。

AIが、論文や特許を書くようになれば、科学者・技術者は、頭を突き合わせて履歴書を書く羽目に。とはいえ、履歴書を出す先がない。早い話、廃業だ。

遠い未来の話ではない、リーチがかかったのだ。

これはヤバい。

GPT-4oとOpenAI o1は、別々のモデルだが、1つのモデルにシームレスに統合されれば、AGIの誕生だ。ただし、ハイブリッドでくっつけてもAGIにはならない。

AGIは、発明・発見はもとより、政治、経済、外交、軍事、文化、あらゆる分野で人間よりうまくやる。つまり、AGIに一番乗りした者が、世界を丸取りするわけだ。

であれば、話はカンタン。

国も企業も、金に糸目をつけず、一生全力AGI!

経済安全保障、食糧安全保障、そんな悠長な話ではない。国の存続に直結する国家安全保障なのだ。

そんな重大なプロセスが、バブル(泡沫)?

バカじゃないのか。

専門家が言うのだから、ビックリだ。

ところで、AGIの先は?

考える必要ないです。

1年以内に、人間を凌駕するASI(人工超知能)が誕生し、地球の食物連鎖の頂点に立つから。地球のルールを決めるのは、人間はなく、マシンになる。株式投資どころか、資本主義もなくなるだろう。それ以前に人類が存続も怪しい・・・

というわけで、「AIバブル」は虚言、当然「AIバブル崩壊」は言葉として成立していない。

■エヌビディア・バブルの妄想

つぎに、エヌビディア。

「生成AI→AGI→ASI」は、来たるべき地球の未来である。

そして「生成AI→AGI」をささえるのは、エヌビディアだ。

なぜなら、エヌビディアはAIのキモを握っているから。

AI開発に欠かせないのが、巨大なAIスパコンだ。勝敗はそのスケールで決まる。ライバルの2倍のAIスパコンをぶん回せば、2倍の速度で、AGIに近づく。つまり、AIは史上最大の設備産業なのだ。

そして、AIスパコンの心臓がGPUで、その絶対王者がエヌビディアである。世界シェアは8割といわれるが、実態は9割を超えるだろう。

その王者ぶりは、すでに数字となって表れている。

2024年2月のエヌビディアの決算は、驚異的だった。

売上高は前年比「2.3倍」の9兆1573億円。営業利益が同「7倍」の4兆9622億円。

ベンチャーじゃあるいまいし、売上「ん兆円」の巨大企業が、1年で、売上2倍、利益7倍!?

トヨタが、1年で自動車が2倍売れて、売上も2倍になりました?

ありえない。

当然、株価は急騰した。そこで、「AIバブル」のノリで「エヌビディア・バブル」が生まれたのである。

ただし、事実はビミョーに違う。

エヌビディアの株価が上り始めたのは、この決算の1年前の2022年末である。

欲に目がくらんだ俗物の投資家は、エヌビディアも見逃さないわけだ。けなしているのではない、褒めているのだ。

個人的見解と断った上で、経済の専門家は、金持ち以外信用していませんから。

だってそうではないか。

まずい料理しかつくれない料理評論家のコトバを信じますか?

ちなみに、エヌビディアの株価は、この2年で「9倍」になっている。

2年で資産が9倍?

メチャクチャ・・・

■ITバブル崩壊の妄想

ではなぜ、専門家は、AIとエヌビディアをバブルと見誤ったのか?

AI関連株やエヌビディア株を買いそびれた、妬(ねた)み、嫉(そね)み?

それもあるだろう。

少し名の知れたAI専門家が、Youtbeでエヌビディアをこきろしている。エヌビディアの競合製品がでるたびに、大げさにもちあげて、最後は決まり文句の「これでエヌビディアは終わり」。

これにはビックリだ。

AIの主流である大規模言語モデルは、トレーニング(学習)とインフェランス(推論)に分類される。前者は膨大なデータを学習し、モデルを造る。後者はそのモデルを使って推論する。ChatGPTの質疑応答や要約は、後者に属する。

容易に想像がつくが、トレーニング(学習)は、インフェランス(推論)より処理が重い。エヌビディアのGPUは、とくにトレーニング(学習)が強い。というか、トレーニングならエヌビディア一択と言っていい。ところが、この専門家は、ベンチャーが発表したインフェランスにしか使えないGPUをもちだして、コスパは高い、消費電力が少ないと絶賛している。

なんと・・・

用途が違う劣ったGPUとくらべれば、コスパは無意味だし、消費電力は少なくあたりまえ。GPUを比較するなら、最低、トレーニング用かインフェランス専用か明示するべきだろう。

そもそも、エヌビディアの優位性は、ハードよりソフトにある。CUDAというエコシステム(開発環境)を10年以上かけて構築してきたのだ。どんな良いハードでも、開発環境を一から勉強してまで、乗り換える者はいない。この重要な要因を無視して、GPUのアーキテクチャーだけ讃えて(製品は出荷されていない)、優位性を誇示するのは、根っこが間違っている。

話をもどそう。

では、専門家やメディアは、根拠もなく、AIとエヌビディアをバブルと言い張ったのか?

根拠を、21世紀初頭におきた「ドットコム・バブル崩壊」にこじつけている。

インターネット関連企業の株価が急騰し、2000年に暴落した事件で、日本では「ITバブル崩壊」といわれている。

「AIバブル崩壊」は「ITバブル崩壊」とセットで語られることが多いので、間違いない。

ところが、「ITバブルの崩壊」自体が間違っている。

冷静に考えてみよう。

当時、IT企業だったアップル、マイクロソフト、インテル、グーグル、アドビ、オラクルは、今もピンピンしている。それどころか、大発展を遂げている(インテルをのぞく)。

つまり、あのとき崩壊したのは、見てくれだけで実体の伴わない企業だけだったのだ。それなら、IT業界に限らず、どんな業界でも言えるではないか。

つまり、「ITバブル崩壊」ではなく「ダメ会社崩壊」というべきなのだ。

わざわざ固有名詞にする必要はないですね。

これが、専門家の発言なのだから、ビックリだ。

ところで、「AIバブル崩壊」も「エヌビディア・バブル崩壊」を予測した専門家には、もっと酷いミスがある。

AIの未来を完全に見誤ったことだ。

なぜなら、AIとエヌビディアの成長は、バブルどころか、今始まったばかりなのだ。

というわけで、二重三重に間違っている。

これで、専門家を名乗り、報酬を得ているなら、詐欺師、ペテン師?

ちょっと言い過ぎですね。

ドイツの哲学者ショーペンハウエルはいわく・・・

才人は誰も射ることのできない的を射る。天才は誰も見えない的を射る。

天才にしか見えない未来が、見えないからといって、詐欺師、ペテン師よばわりしてはいけません。

とはいえ、あの暴落の日、AI株(とくにエヌビディア株)を売った人は、悔やんでも悔やみきれない。何もしなければ、損せずにすんだのだ。

責任者でてこい!と叫びたいところだが、専門家もメディアもどこ吹く風。

投資は自己責任ですから~

あらぁ~

by R.B

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