タブレットPC(2)~MSサーフェスの衝撃~
■グーグルの野望
まったくもって、グーグルは油断もスキもない会社だ(誉めている)。アップルがiPadで成功し、タブレットPC市場がいけそうだと見るや、グーグルのスマホOS「Android」をもちだし、
「タブレットPCもAndroid!」
と高々と宣言したのだから。
グーグルはこう考えたに違いない。パソコン同様、タブレットPCもOS(基本ソフト)を制した者が勝つ。だから、ブタの尻尾のような「端末の組み立て」はアジアに任せ、心臓の「OS」を独り占めにしよう。タダで配れば、マイクロソフトの「WindowsMobile」なんか恐くない・・・
それにしても、なぜ、タダで会社が成り立つのだ?あの金持ちマイクロソフトでさえ、「Windows」の(高額な)代金を徴収しているのに。理由は簡単、グーグルには、打ち出の小槌、インターネット広告(アドセンス)があるから。
「アドセンス(GoogleAdSense)」とは、グーグルが展開しているインターネット広告のことだ。具体的には・・・
サイトに掲載された広告がクリックされると、広告主のサイトに誘導され、広告が表示される。そのタイミングで、広告料が発生するわけだ。ちなみに、広告料の配分は、
「広告料=サイト運営者の報酬(少ない)+グーグルの手数料(多い)」
一見すると、グーグルの取り分が多いこと以外、特に変わったことろはない・・・ところが、これこそ広告の大革命なのだ!
一般に、テレビ広告にしろ、雑誌広告にしろ、広告は掲載するだけで、広告料が発生する。たとえ、誰も見なくてもだ。ところが、グーグルのアドセンスは、
「広告をクリック→広告を表示→広告料が発生」
つまり、誰かが広告を見て、初めて課金される。
ココが、
「アドセンスは広告の革命」
と言われるゆえんだ。ちなみに、このような広告を「クリック保証型」とよんでいる。
アドセンスにはもう一つ特徴がある。アドセンスは「広告の自動販売機」だということ。うまいネーミングだが、その理由を説明しよう。
まず初めに、広告主が載せたい「広告」と、広告媒体である「サイト」がある。問題は、どの広告をどのサイト(ページ)に載せるか?
ところが、掲載したい広告は何万、何十万とあるだろうし、ウェブサイトはすでに1億を超え、ページ数に至っては神のみぞ知る。
だから、どの広告を、どのサイト(ページ)に載せるかはとても難しい。世界中の広告と世界中のサイト(ページ)を把握する必要があるから。もちろん、人手ではムリ。じつは、ここを処理してくれるのが、グーグル・アドセンス・システムなのだ。
その仕組みは、それほど難しくはない。「クローラー」とよばれるソフトが、世界中のウェブページをグーグルのサーバーにコピーし、「言葉」をキーに、ページの重要度を決定する。たとえば、「空飛ぶ円盤(UFO)」というキーワードでグーグル検索すると、「空飛ぶ円盤」にとって重要なページから順に表示される。じつは、これも、この仕組みのおかげ。
アドセンスもこの仕組みを利用している。まず、その広告にとって重要な言葉を決め、先の検索システムで、その言葉に最適なサイト(ページ)を見つける。あとは、そのサイト(ページ)に広告を掲載するだけ。つまり、広告とウェブページを「言葉」で結びつけているわけだ。
ちなみに、広告主とサイト運営者がやることは、
・広告主→広告のキーワードを決める。
・サイト運営者→広告を掲載したいページにアドセンスのコードをコピペする。
あとは、巨大なアドセンス・システムが自動的に、リアルタイムに、最適な広告を最適なサイトに掲載してくれる。というわけで、アドセンスは「広告の自動販売機」。うまい仕掛けを考えたものだ。グーグルは本当に頭がいい。
■アップルVs.グーグル
話をタブレットPCにもどそう。
そんな経緯で、Androidは瞬く間に普及した(タダなので)。そのあおりをくったのが、マイクロソフトだ。タブレットPC市場で「WindowsMobile」を売り込もうとしていたから。ところが、有料なので分が悪い。
結果、タブレットPCの心臓「OS(基本ソフト)」は、
・iPadの「iOS」
・グーグルの「Android」
にしぼられた。
マイクロソフトは、またしても、グーグルにしてやられたわけだ。かつてのマイクロソフトの勢いを考えると、昔日の感がある。
今から17年前、Windows95が登場した頃、マイクロソフトは無敵だった。ところが、マイクロソフト王国の王様ビル・ゲイツはそれであぐらをかくようなマヌケではなかった。当時、彼は周囲にこう言いふらしている。
「現在の競合相手はもちろん、将来競合しそうな相手もすべてをチェックして、芽を摘め」
では、グーグルはどうやって生きのびたのだ?
グーグルはもっと賢くて、巧妙だったから。
グーグルは、まだヨチヨチ歩きの頃、虎の尾(マイクロソフト)を踏まないよう、細心の注意をはらっていた。
「僕たちの商売は、取るに足らない『ネット広告』で、マイクロソフト様のテリトリーを侵すつもりはありません、絶対に」
ところが、ネット広告(アドセンス)が軌道にのると、驚くべき行動にでる。自社の売上を増やすのではなく、マイクロソフトの売上を減らそうとしたのである。虎の尾(マイクロソフト)を踏まないどころか、腹と頭を同時に蹴飛ばしたようなものだ。
わかったようなことを言うなって?
証拠その1。過去10年間で、グーグルは何をやったか?マイクロソフトの生命線であるOSとOfficeの競合商品をタダで配ってきた。冷静に考えてみよう。タダで配れば、グーグルの売上は増えないが、マイクロソフトの売上は減る。
ということで、証拠2の必要はないだろう。
もっとも、グーグルの主力はあくまでOS。2011年頃までは、グーグルは、アップルのiOS、マイクロソフトの「WindowsMobile」を葬り去るために、「Android」をタダで配ってきた。もちろん、モバイルコンピュータのOSを独り占めにするために。
ところが、グーグルはもう一つのOS「ChromeOS」まで世に送り出した。ちまたでは、「Android」との棲み分けが取りざたされているが、言うほど難しくない。
Androidはモバイル専用。なので、競合はiOSとWindowsMobile(→Windows8)。
ChromeOSはPCを含むWeb専用OS。つまり、競合はMacOSとWindows。
では、タブレットPC、ノートPCみたいな、どっちつかずのデバイスはどうする?たぶん、グーグルは今は様子見。いざとなれば、どっちでもいけるから。もちろん、流れが見えた瞬間、戦闘モードに入り、最終的には勝利するだろう。血の巡りのいいグーグルなら、たやすいことだ。
今となっては明らかだが、グーグルは、モバイルからデスクトップまで、OSを独り占めにしようとしている。繰り返すが、グーグルはアドセンスがあるので、OSやアプリをタダで配っても痛くもかゆくもない。もちろん、マイクロソフトにとっては死活問題だ。
■タイムマシン型ビジネス
面白いのは、グーグルとマイクロソフトはすべてが真逆だということ。
まずは、ビジネスモデル。
・マイクロソフトは、発明品(ソフト)を”売って”儲けている。
・グーグルは、発明品(アドセンス)を”使って”儲けている。
たとえば、タイムマシンを発明したとして、それを”売って”儲けるバカはいない。過去にタイムトラベルして、株式投資やバクチで好きなだけ儲けられるからだ。ということで、グーグルのビジネスは「タイムマシン型」。
つぎに、開発方針。
・グーグルはアイデアを次々とビジネス化し、成果がでないと、さっさと撤退する。
・マイクロソフトは使い物にならなかったWindowsを何年もかけてでっちあげた。
たしかに、マイクロソフトに比べれば、グーグルは辛抱強さにかけるかもしれない。だが、そこがグーグルの強みでもある。「忍耐に欠ける」の反対言葉は「スピード至上」だから。戦争、ビジネス、ゲーム、それが何であれ、勝ち負けなら「スピード」に優る武器はない。グーグルは、時間のかかる創意工夫を切り捨てて、スピードにかけた歴史上まれなハイテク企業なのかもしれない。
というわけで、マイクロソフト危うし・・・
それにしても、ビル・ゲイツはいいときに辞めたものだ。この後、マイクロソフトがどうなろうが、後は野となれ山となれ(ココロは少し痛むだろうが)。
ところが、「一寸先は闇」は政治の世界だけではない・・・
2012年6月18日、モバイル市場に激震が起こった。マイクロソフトが、新型タブレットPC「サーフェス(surface)」を発表したのだ。じつは、世間が大騒ぎしないのが不思議でならない。
■マイクロソフト「サーフェス」
では、マイクロソフトの「サーフェス」はなぜ激震なのか?
理由は3つある。
第一に、本格的なビジネスに使えるから(iPad、Androidタブレットはムリ)。
出張の多いビジネスマンにとって、電子端末は欠かせない。メール、サイト閲覧ならスマホで事足りるが、出張先でプレゼン、議事録、こっそり日常業務なら、エクセル、ワード、フォトショップ、パワーポイント、ドリームウィーバーなど、ビジネスアプリが欠かせない。そこで、ノートPCを持ち歩くわけだが・・・重くて腰にくる(歳のせいかも)。
今使っているパナソニックのレッツノートは、ノートPCとしてはベストチョイスなのだが、重量が1.3kgある。持ち運びは可能だが、気軽に携帯とはいかない。中途半端に軽いわけだ。一方、iPadは700gと気軽に携帯できるが、ポピュラーなビジネスアプリが使えない。さらに、ここが重要なのだが、ハードキーボードがないので、ワード、エクセルは使う気がしない。
ということで、ビジネスで使えるタブレットPCは、
・重量が1kg未満
・ハードキーボード付き
・主要ビジネスアプリが走る(=Windowsマシン)
で、マイクロソフトの「サーフェス」だが、「RT」と「Pro」の2つのバージョンがあって、「Pro」は上記の3つの条件をすべて満たしている。
以下、サーフェスProモデルのスペック。
・OS:Windows8(→Windowsアプリが使える)
・CPU:IntelCorei5(デュアルコア:そこそこ高速)
・液晶:10.6インチ/1920×1080
・メモリ:64GB/128GB(iPadは64GB)
・キーボード:タッチ式ハードキーボード(液晶カバーを兼ねる)
・USB:あり
・厚さ:13.5mm
・重量:903g
これなら、ビジネス用途でも十分使える。
「サーフェス」激震の第二の理由。マイクロソフトは、ハード本体までやろうとしている。
これまで、マイクロソフトは、OSを供給するだけで、ハード本体は世界中のメーカーが担当してきた。ところが、サーフェスでは、マイクロソフトはハードまでやるという。マイクロソフトは、PCメーカーにとってパートナーではなく、競争相手になったわけだ。こうして、30年続いた「仲良しクラブ」は解散した。
ところでなぜ、マイクロソフトは「自社開発」にこだわるのか?
アップルの商品、Mac、iPhone、iPadに共通するのは、顧客満足度が高いこと。その一番の理由は、アップルがハードもOSも自社開発しているから。すべて、自社で仕切れば、商品のすみずみまで目が届き、完成度は高くなる。実際、マイクロソフト関係者はこんな発言をしている。
「ソフトだけでなく、ハードまで踏み込んで、革新的な製品を開発しなければ、アップルには追いつけない」
一方のAndroidは、モバイル市場で、アップルを脅かしつつあるが問題もある。同じ
Android端末でも、ソフトが動作したり、しなかったり。つまり、ソフトの互換性の問題だ。そのしわ寄せは、当然、ソフトメーカーにいく。開発したソフトを、すべての機種で動作確認する必要があるからだ。その点、iPhone/iPadは動作確認は1機種ですむ。多くのソフト開発者が、Androidを嫌い、iOS(iPad・iPhoneのOS)を好む理由はここにある。
マイクロソフトが「すべて自社開発」にこだわる理由はまだある。OSだけ供給するビジネスでは、グーグルに勝てないから(タダには勝てない)。だから、思い切って、アップルの丸取りビジネスに走ったのだろう。
「サーフェス」激震の第三の理由。近い将来、パソコン、スマホ、タブレットPC、テレビなどのメジャーな電子端末は、クラウドをベースに融合する。さらに、電子レンジのような家電製品も、いずれ統合されるだろう。じつは、マイクロソフトはその心臓「OS」を「Windows8」で統合しようとしている。1つのOSで、すべての電子機器を支配する。そう、これは、独占ではない、「支配」なのだ。
さらに、マイクロソフトは念には念を入れている。Windows8のユーザーインターフェイス「メトロ」のことだ。ユーザーインターフェイスは「操作」と等価である。だから、メトロが普及すれば、メトロが「操作」のデファクトスタンダードになる。「操作」は慣れると「文化」になるので、他の「操作」は社会から除外されてしまう。「丸いハンドル+アクセル+ブレーキ」以外の自動車が出てこないのはそのためだ。
つまり、マイクロソフトは、Windows8で「OS」を、メトロで「文化」を独占しようとしている。
もちろん、事が成就するまで、グーグルが指をくわえて見ているはずがない。グーグルの狙いも同じだから。今後は、アップル、グーグル、Android端末メーカーを巻き込み、壮絶な戦いが繰り広げられるだろう。全く予断を許さない状況だ。
ところで・・・
日本勢はどこへ行ったのだ?
■アマゾンのキンドルファイア
2012年9月6日、アマゾンは新型の電子書籍端末「キンドル・ファイア」を発表した。アマゾンといえば、目に優しい電子ペーパー「EInk」の電子書籍専用の端末で知られている。
しかし・・・
今回発表された「キンドル・ファイアHD」の8.9インチモデルのスペックをみると、
・液晶:1920×1200ピクセル、カラー、フルタッチパネル
・メモリ:16GB~64GB
・通信:WiFi、Bluetooth
・重さ:約567g
・価格:16GB(299ドル/約2万4000円)、32GB(499ドル/約4万円
電子書籍端末?どう見ても、多機能タブレットPCだ。しかも、iPadの半額。今後は、iPad、Androidタブレット、サーフェスととも競合していくだろう。アマゾンが、あえて、電子書籍専用端末から、多機能タブレットPCに舵を切ったのは正解かもしれない。そう遠くない日に、電子書籍はウェブ書籍に取って代わられるからだ。
ウェブ書籍は、電子書籍のように、わざわざダウンロードする必要はない。ウェブサイトを閲覧するように、そのまま読むだけ。だがそうなると、お金を取るのは難しい。ウェブ上のコンテンツの99.99・・・%はタダだから。よほど専門性が高いか、よほど面白くないとムリ・・・いや、たぶん、最終的にお金が取れるのは前者だけ。つまり、「よほど面白い」もムリ。
なぜか?
アマチュアのコンテンツのレベルが急上昇しているから。たとえば、ニンテンドーDSiの無料ソフト「うごくメモ帳(うごメモ)」。このツールを使えば、音付きのパラパラマンガが簡単に作れる。さらに、自分の作品をアップロードして、みんなに見てもらったり、コメントをもらったりできる。子供の頃からこれでは、末恐ろしい(良い意味で)。しかも、そのランキングのトップクラスともなると・・・もうプロ並。
コンピュータが安価になり、ソフトツールがタダになると、コンテンツ制作の敷居が劇的に下がる。そうなれば、クリエーターの層が厚くなり、クオリティもあがる。反面、クリエーターで生計を立てるのは難しくなるだろう。ということで、
よほど面白いコンテンツもフリー!
ところで、もう一つのネットの話題「フェイスブック(Facebook)」は?
「お友達帝国」と言えば聞こえはいいが、個人と国家を破滅させるリスクを抱えている。いずれ、一大事を起こして崩壊するか、ジミに消えていくかのどちらかだろう。そもそも、趣味のコミュニケーションのために、個人情報をネットにさらす?そんな勇気はどこから湧いてくるのだろう。
■近未来のネット社会
ここで、近未来のネット社会を予測しよう。
楽天のようなネット商店街、Amazonのようなネットデパートは消えてなくなるだろう(専門店は生き残る)。なぜなら、本当に必要なのは、作り手と使い手だけだから。今は、作り手はネット世界にむけて、商品を露出するすべがない。だから、楽天に加盟、あるいは、アマソンに依頼して販売しているわけだ。
しかし・・・
近い未来、今よりはるかに高性能な「検索エンジン+広告」が実用化されるだろう。そうなれば、ユーザーは欲しい商品、それを販売するサイトを「検索エンジン+広告」で簡単に見つけることができる。さらに、エージェント機能が進化すれば、ユーザー(ご主人様)のお気に入りの商品を勝手に見つけ出し、ご機嫌をとるようになるだろう。結果、作り手は楽天に加盟したり、アマゾンに商品を委託する必要がなくなる。
というわけで、グーグルの未来は明るい。
「検索エンジン+広告」でトップだから。この分野で、グーグルに対抗するには、強大な資金力とずば抜けた頭脳集団が必要だが、現実にはムリだろう。あのマイクロソフトでさえ敗退したのだから。もし、可能性があるとすれば、全く新しいテクノロジーで、「検索エンジン+広告」に革命を起こすしかない。かつてのグーグルのように。
ということで、近未来のインターネット社会は、
・デジタルコンテンツはフリー(無料)
・物品販売は、作り手と検索エンジンだけが生き残る
2012年現在、インターネット平野には、果実がたわわに実っている。だから、発明家、身なりのいいビジネスマン、一攫千金を夢見る山師など、無数の人間がこの地にやってくる。けれど、近い未来、果実が実っているのは、ほんのわずかのエリア。あとはペンペン草も生えていない。恐ろしい事実だが、あと20年もすれば、誰もが知るところとなるだろう。
■ノートPCの未来
話をタブレットPCにもどそう。少なくとも、今後5年間は、マイクロソフトのサーフェスの未来はバラ色にみえる。
でも・・・
ビジネスで使えるタブレットPCの条件は、
・重量が1kg未満
・ハードキーボード付き
・主要ビジネスアプリが走る(=Windowsマシン)
これって、「軽いノートPC」のことでは?レッツノートが、Windows8になって、タッチパネル対応になって、もっと軽くなれば・・・サーフェスじゃなくてもいい?
タブレットPC、ほんとに大丈夫かな?
《完》
by R.B