2012年人類滅亡説(6)~マヤの予言は嘘?~
■マヤの長期暦
マヤ人たちは、大胆にも、自ら作りあげた暦をもとに、「世界は、紀元前3114年8月12日に始まり、2012年12月22日に終わる」と予言した。ところが、そのマヤ暦だが、核となる「ツォルキン暦&ハアブ暦」の周期は52年しかない。52年しか表せない暦で、どうやって5000年後を予言するのだ?
じつは、マヤ暦には複数の暦があった。その一つが「長期暦」で、周期は1872000日(約5125年)。まぁ、これならなんとか。そこで、マヤ人たちは、この周期が一区切りすると、世界も終わると考えた。では、世界の始まりを紀元前3114年8月12日とした理由は?じつは、わかっていない。ということで、わからないことだらけなのだが、紀元前3114年8月12日+1872000日=2012年12月22日だけが世界の共通認識になっている。あげく、2012年12月22日に人類は滅亡するという。これを聞いて仰天する人は十分まともだ。ということで、この問題をロジカルに検証していこう。
■マヤの基本単位
我々の文明は、「10進法」を用いる。0から9まで数えると、次は桁上がりして、10になる記数法だ。ところが、マヤ人は「20進法」を使った。具体的には・・・
【表1・数の基本単位】 | |
1カトゥン | 20トゥン |
1バクトゥン | 20カトゥン |
1ピクトゥン | 20バクトゥン |
1カラブトゥン | 20ピクトゥン |
1キンチルトゥン | 20カラブトゥン |
1アラウトゥン | 20キンチルトゥン |
「20」を基底に、桁上がりしているのがわかる。10進法が、「10」を基底として、一、十、百、千、万と桁上がりしていくのと同じ要領だ。マヤの「数」の基本単位がわかったので、つぎに、「暦」の基本単位をみてみよう。
【表2・暦の基本単位】 | |
大地の神 | 7日 |
夜の王 | 9日 |
天界の神 | 13日 |
ウィナル | 20日 |
月期 | 29.5日 |
名称から、暦の基本単位が宗教がらみであることがわかる。
■マヤ暦
この【表1・数の基本単位】と【表2・暦の基本単位】をベースに、マヤ暦は構築されている。たとえば、太陽と月をベースにした暦では・・・
【表3・太陽と月の運行による暦】 | ||
名称 | 換算 | 日数換算 |
1キン | 1日 | |
1ウィナル | 20キン | 20日 |
1トゥン | 18ウィナル2×夜の王×ウィナル | 360日 |
1カトゥン | 20トゥン | 7200日 |
1バクトゥン | 20カトゥン | 144000日 |
1ツォルキン | 天界の神×ウィナル | 260日 |
1ハアブ | 1トゥン+5日 | 365日 |
カレンダーラウンド※ツォルキンとハアブの組み合わせ | 52×ハアブ 73ツォルキン | 18980日 |
1時代(長期暦)※2012年人類滅亡説の根拠? | 13バクトゥン | 1872000日 |
ここで、表の最後の「1時代(長期暦)」に注目。「1時代(長期暦)=13バクトゥン」どうやら、マヤの長期暦の周期は13バクトゥンらしい。そこで、【表1】と【表3】を使って、長期暦の周期(13バクトゥン)が何日になるか計算してみよう。先ず、【表1】から、
1バクトゥン=20カトゥン=20×20トゥン=400トゥン・・・①
次に、【表3】から、
1トゥン=360日・・・②
②を①に代入すると、
1バクトゥン=400トゥン×360日/トゥン=144000日・・・③
ここで、1時代(長期暦)=13バクトゥン=13×144000日=1872000日表に記された「1872000日」と一致する。なので、長期暦がテキトーに決められたわけではない。マヤ暦という巨大なシステムの歯車の1つとして組み込まれているのだ。ここで、「1872000日」ではわかりにくいので、年数に換算してみよう。1太陽年(地球が太陽を一周する期間)=365.2422日なので、1時代(長期暦)=1872000日=5125.366年およそ、5125年になる。また、マヤ暦には、「太陽と月の運行」以外の暦もある。惑星(金星と火星)の運行による暦だ。具体的には・・・
【表4・惑星の運行による暦】 | ||
名称 | 換算 | 日数換算 |
金星会合周期 | 584日 | |
火星会合周期 | 3×ツォルキン | 780日 |
金星ラウンド | 2×カレンダーラウンド65×金星会合周期104×ハアブ146×ツォルキン | 37960日 |
火星ラウンド | 6×カレンダーラウンド146×火星会合周期195×金星会合周期312×ハアブ438×ツォルキン | 113880日 |
まず、表の「××会合周期」について。たとえば、「金星会合周期」とは、「地球-太陽-金星」がある位置関係からスタートして、再び、その位置関係まで戻るまでの期間をさす。
また、「火星会合周期」は、金星を火星におきかえたもの。つぎに、表の「××ラウンド」について。たとえば、「金星ラウンド」とは、金星会合周期とカレンダーラウンド(太陽と月の暦)が同期する周期である。具体的には、カレンダーラウンドのある日付で金星会合周期がスタートしたとして、次に、カレンダーラウンドの同じ日付で、金星会合周期がスタートするまでの期間である。また、「火星ラウンド」は金星を火星におきかえたもの。
ところでなぜ、マヤ人は、面倒な惑星運行を取り入れたのだろう。「カレンダーラウンド(ツォルキン暦&ハアブ暦)」は、1年365日固定で、うるう年がない。そのため、100年で約24日の誤差が生じる。その誤差を、金星ラウンドや火星ラウンドで修正したのである(詳細はこちら→2012年人類滅亡説Ⅴ~ツォルキン暦と占い~)。
■会合周期の計算方法
せっかくなので、会合周期の計算方法をマスターしよう(難しくないです)。会合周期は「地球-太陽-惑星」がある位置関係からスタートして、再び、その位置関係まで戻るまでの期間。そこで、金星を例に計算してみよう。まず、金星と地球は太陽を中心に回っている(公転)。360度回転すれば、ちょうど一周するわけだ。また、一周に要する期間を公転周期とよんでいる。たとえば、地球なら約365日。すると、金
星が1日に公転する角度=360度÷金星の公転周期・・・①
地球が1日に公転する角度=360度÷地球の公転周期・・・②
①と②の値は違うので、日が経つにつれ、金星と地球の公転角度の差は広がる。言いかえると、「地球-太陽-惑星」の位置関係がズレていく。そこで、1日あたりの地球と金星の公転角度の差=金星が1日に公転する角度-地球が1日に公転する角度=360度÷金星の公転周期-360度÷地球の公転周期・・・
①と②からここで、S日後の公転角度の差は、(360度÷金星の公転周期-360度÷地球の公転周期)×Sとなる。この差が360度になれば「地球-太陽-金星」の関係は一巡して元に戻るわけだ(ココがキモ)。つまり、(360度÷金星の公転周期-360度÷地球の公転周期)×S=360度・・・③を満たすSが「金星会合周期」となる。
そこで、③からSを求めると、
S=1/(1/金星の公転周期-1/地球の公転周期)・・・④
ここで、金星の公転周期=224.701日地球の公転周期=365.2422日を④に代入すると、S=583.9589日これが、我々文明が割り出した「金星会合周期」である。では、マヤ文明は?マヤ人は金星の運行を観測することで、金星会合周期を「584日」と定めた。石造りの天文台と、肉眼の観測にしては、恐るべき精度である。また、④の「金星の公転周期」を「火星の公転周期」におきかえれば、火星会合周期が求まる。ということで、④式は、太陽を中心に公転する惑星であれば、土星であれ、冥王星であれ、どんな惑星にも適用できる。
■マヤ暦の歴史
さて、話をマヤの長期暦にもどそう。マヤの長期暦のスペックがわかったところで、証拠はあるの?イエス!マヤ暦で最もよく使われたツォルキンは、サポテカの遺跡から「紀元前600年」の日付が、オルメカの遺跡からは「紀元前650年」の日付が発見されている。
一方、長期暦は、オルメカのトレス・サポテス遺跡から「紀元前34年」の日付が、マヤ地域のエル・バウル遺跡から「36年」の日付が確認されている。そして、最古の長期暦の日付は「7バクトゥン16カトゥン(紀元前36年)」で、オルメカとマヤの間にあるチアパ・デ・コルソ遺跡で発見されている(石碑2号)。
ということで・・・長期暦は、誰が発明したかはわからないが、紀元前1世紀頃、メソアメリカで使われたことは確かだ。しかし・・・マヤの長期暦が本物として、それが「2012年人類滅亡説」にどう結びつくのか?世間で流布するウワサを整理すると・・・
1.世界はいくつもの時代をへて、今の「1時代(長期暦)」に入った(マヤの神話)。
2.今の「1時代」は、「13.0.0.0.0 4アハウ8クムク(紀元前3114年8月12日に相当)」に始まった(アハウはツォルキン暦の日の名前、クムクはハアブ暦の月の名前)。
3.この期間が終わると、地球は大災害によって破滅する(ウワサ)。
これをすべて信じたとして、一体何が原因で滅ぶのか?じつは、メソアメリカの石碑や書物からは「原因」の記述は見つかっていない。そんなこんなで、仮説は雨後のタケノコ、百花繚乱(ひゃっかりょうらん)の様相。たとえば、太陽の黒点の大周期説というのがある。太陽の黒点の変動によって、出生率が低下し、人口が激減、さらに地球の磁場が変化し、震と洪水と台風を引き起こすという。もっとも、世界を滅ぼすためには、ノアの方舟伝説なみの大洪水が必要だが。
また、「フォトン・ベルト説」というのもある。銀河系にある「フォトン」のドーナッツ状の帯が、地球をおおい、人類の遺伝子を書き換え、進化を引き起こすというもの。進化?滅亡だったのでは?それに、フォトンって「光子」のこと?光には、波動説と粒子説があって、フォトン(光子)は粒子説の呼び方。どちらにせよ、光なら、直進するわけで、帯状に点在するというのは、意味がわからん・・・じつは、そのフォトンベルトだが、人体に影響を与えるだけではないらしい。強力な電磁波によって、電子機器が使えなくなるという(強力な電磁パルスで電子機器が破壊されるのは事実)。そうなれば、機械時計の時代が来るぞ・・・機械時計バンザイ!(高くて買えないけど)
仮説はまだつづく。地球はすでにフォトンベルトに入っていて、最近、異常気象や火山活動・地震が頻発しているのは、そのせいだという。まぁ、信じるかどうかは自己責任ということで。しかし・・・この説明では、マヤの長期暦と人類滅亡はつながらない。だいたい、マヤの石碑や書物に、本当にそんなことが書いてあるの?書いてあるのは暦のスペックだけでは?やっぱり、マヤの予言は嘘?
ところが・・・メキシコのチアパス高原の一番北の斜面に、古代マヤのトルトゥゲ一口という遺跡があって、「モニュメント6」という遺物の中に「13バクトゥンのサイクルの終了日」の記述があるという。ただ、モニュメント6の左翼側は欠損し、中央部も損耗し、問題の予言が描かれている右翼部分にも大きな亀裂が入っているらしい。全部ダメじゃん・・・
ところが、2006年4月にテキサス大学の碑文学者デイヴ・スチュアートが解読に成功したという。その結果は・・・13番目のバクトゥンは4アハウ3カンキンに終わるだろう。××が起こる。(それは)9人の支持××神の?への降下××(なるだろう)(※3)???滅亡予言の臭いがしないでもないが、意味不明。ということで、マヤの長期暦と人類滅亡を結びつける確かな証拠はない(今のところ)。
しかし、気になることがある。マヤ人の「周期」に対する執着だ。おそらく、マヤ人は「歴史は繰り返す」と信じていた。世界は、異なった周期をもつ複数の要因で合成されていると考えたのである。そこで、それぞれの要因を、周期が異なる暦に対応させ、暦から未来を予知したのではないか?周期がわかれば、未来も予測できる。つまり、周期と予言は等価なのだ。
音波を考えてみよう。高校で習う「sin関数」や「cos関数」の波形は周期的で美しい。そのままスピーカーに出力すれば、ノイズのない透明な音になる(音叉のように)。一方、人間の声や楽器の音の波形は規則性(周期性)のないノイズのようにみえる。ところが、そんな複雑な波形も「sin関数」や「cos関数」で合成することができる。実際、シンセサイザーの複雑な音色は、この方法で作られている。何が言いたいのか?
複雑にみえる現象も、単純な周期的現象の合成で表せる。当然、周期がわかれば、未来も予測できる。「sin関数」の未来が予測できるように。そして、周期が終われば、現象(世界)もリセットされる。だから、マヤ暦の予言は嘘とは言い切れないのだ(たとえ、的中しなくても)。ということで、こういうなんちゃって科学を「フリンジ(疑似科学)」とよんでいる。
■人類滅亡の日
さて、歯切れの悪い結論になったが、もう一つ気になることがある。ちまたに流布するウワサをすべて信じたとして、2012年12月22日が本当に審判の日なのか?つまり・・・3114年8月12日+187万2000日=2012年12月22日?じつは、この計算は見た目ほど簡単ではない。「うるう年」があるからだ。4年に一度はうるう年、ただし、100年に一度は平年、ところが、400年に一度はうるう年。まぁ、こういう場合、方程式で一発計算するより、逐次計算するほうが楽ちんだ。
そこで、簡単なプログラムを作って逐次計算させると・・・紀元前3114年8月11日+1872000日=2011年12月22日あれ、もう終わってる!こんな簡単なプログラム間違えるわけないし・・・一体、どうなっているのだ?
《完》
参考文献:
(※1)「マヤの予言」エイドリアン・ギルバート/モーリス・コットレル共著田中真知訳凱風社
(※2)同時代史的図解世界史ジェフリー=パーカー著浅香正訳帝国書院=タイムズ(※3)「古代マヤの暦」ジェフ・ストレイ著駒田曜訳創元社
by R.B