ヒトラーの官製暴動~水晶の夜~
■官製暴動とホロコースト
R.B様
ご無沙汰しております。○○貿易(上海)の事務所が入っているビルは、上海日本総領事館の隣です。昨日は、本日に備え警察が車両の通行ができないようにバリケードで封鎖していました。周辺に多くの日本料理店があるのですが、看板を隠したり中国国旗を掲げたりと自衛していました。本日、4つのデモ隊が総領事館を目指すことが決まっており、総領事館には近づくなとのことですので、本日は、○○貿易は全員自宅勤務です。とはいえ、これからチャーターした車で客先へ向かいます。おとなしくしていれば大丈夫でしょう。多分。会社の役員からは、
「お前は中国人にしか見えないから大丈夫だろうが、他の社員のことを気を付けるように」
とあたたかいお言葉を頂いています。はやく事態が沈静化することを願っています。
以前いた会社の後輩からのメールである。日付は、2012年9月18日、そう、あの上海の反日暴動が起こった日だ。彼は今、上海の代表処「○○貿易」の首席代表として赴任している。あの後も、上海のレストランで、日本人に対する暴力沙汰があったので、今も生きた心地がしないだろう。まぁでも、いつも明るく元気なナイスガイなので、心の病気にはならないと思うのだが。
あの反日暴動から2ヶ月経ち、日中戦争の足音も聞こえてくるのに、中国の日本企業や日本人に大きな動きはない。息をひそめて、嵐が通り過ぎるのを、じっと待っているのだろう。そのうち、事がおさまると信じて。
しかし・・・
あの反日暴動が、ナチス政権下の「ユダヤ人迫害」と同根だと気づいている人は少ない。
2012年9月以降、中国で起きた反日暴動は「官製暴動」だったことは衆知である。証拠はいくらでもあるが、中でも面白いのは・・・みんな同じ時間に集合して、元気に暴れ回って、お昼は「同じ弁当」を食べて、時間が来たら即解散。みんな「同じ弁当」というのは笑えるが、あれだけの数の労働者が、終日、仕事をサボれるというのが不思議だ。まぁ、「弁当と日当付きの勅令」なら話は別だが。
そんな光景に笑いをとられ、日本人は「官製暴動」に慣れっこになってる。
しかし・・・
「官製暴動」の本質は恐ろしいものである。
「○○人が気に入らねぇ、やっちまえ!」
はいつの時代、どんな地域にも存在するが、国家公認か否かで、天地の開きがある。もちろん、公認すれば「官製暴動」だ。
もし、「官製暴動」なら、壊されようが、焼かれようが、略奪されようが、補償は一切ない。国家公認なのだから。実際、今回の反日暴動で、多くの日本企業が被害を受けたが、何の補償もない。まぁ、補償がないことが官製暴動の証(あかし)なのだが。
冷静に考えてみよう・・・
中国では日本企業の財産は保障されていないのである。
では、「財産」と対の「生命」はどうなのだろう。日本車に乗っていただけで半殺しにされた中国人がいたが、国から保証金が出たという話は聞かない。ましてや、日本人の「生命」など推して知るべし。
つまり・・・
官製暴動をやる国では、攻撃対象の生命と財産は保障されない。それがどんなに恐ろしいことか。
では、日本企業はなぜ中国から撤収しないのか?
食いっぱぐれるから?
ノー!
「ゆでガエルの法則」・・・中国の危険に麻痺し、未来に待ちうける「真の脅威」が見えないだけ。もし、資産没収、命も危ないとなれば、一目散に日本に逃げ帰るだろう。命あっての物種なのだから。仕事なんて、命さえあれば何とかなる。
歴史を振り返ってみよう。ナチス政権下のユダヤ人は、まず、財産を没収され、その後、死の収容所に送り込まれ、600万人が殺害された。これが、ホロコースト(大虐殺)である。
ところが・・・
大事の前には小事が多発する。ホロコーストの前に、「サイン(徴候)」があったのである。それが、ナチス政権による官製暴動「水晶の夜事件」だった。この事件は、当時のドイツで、
「Reichs kristall nacht:帝国の水晶の夜」
とよばれたが、この事件を契機に、ドイツ国内のユダヤ人の立場は急激に悪化していく。その終着点が、ホロコースト(大量虐殺)だった。
■水晶の夜事件
1938年11月9日から10日にかけて、ドイツ各地で、ユダヤ人の住宅、商店街、ユダヤ教の会堂などが次々に焼き討ちにされた。
当時、ユダヤ人は、不労所得(金貸し業)で富を得て裕福、というイメージが強く、非ユダヤ系のドイツ国民から嫌われていた。そのため、自然に発生した民衆暴動と思われた。
ところが、後に、「官製暴動」だったことが判明する。もちろん、ナチス政権は認めていないが、ナチス高官の証言、残された電報などからみて、間違いないだろう。
首謀者の名も挙がっている。ヒトラーの最大の信奉者で、ナチス宣伝相のヨーゼフ・ゲッベルス。そして、「死刑執行人」の異名をとった保安警察長官ラインハルト・ハイドリヒである。もろもろの状況証拠、物的証拠から、ゲッベルスが暴動を指示し、ハイドリヒがサポートした可能が高い。
官製暴動を主導したとされるゲッベルスは、小さい頃、小児麻痺を患い、身体に障害があった。しかも発育不良で、成長しても、身長が150cmしかなかった。彼が極端な反ユダヤ主義者であったことは周知だが、このような身体的なハンディが根深いコンプレックスを生み、それが「差別主義」に変質したのかもしれない。
ちなみに、「水晶の夜」はゲッベルスが命名したらしい。暴動で破壊されたガラスが月明かりに照らされて水晶のようにきらめいていたから。
もっとも、物的証拠をあげるまでもなく、水晶の夜事件が「官製暴動」だったことはほぼ間違いない。すでに、ナチス政権は「反ユダヤ」を公言していたし、ドイツ国民を反ユダヤへ誘導しようとしていたことは明白で、その後のホロコーストが何よりの証拠だろう。
つまり、水晶の夜事件を起点に、ユダヤ人の迫害、その終着点「ホロコースト」は1本の鎖でつながっているのである。
ここで、想像力を働かせてみよう。
・「水晶の夜」官製暴動→「尖閣諸島」官製暴動
・反ユダヤ→反日
・ホロコースト→?
ちなみに、水晶の夜事件を契機に、米国に移民し、ホロコーストからまぬがれたユダヤ人もいた。その中の1人はこう証言している(※)。
ある朝、早く目覚めると、「ホルスト・ヴェッセルの歌」が聞こえた。ナチスの党歌だ。歌詞は、
「剣を取り、ユダヤ人の血を流せば、万事うまく運ぶ」
それを聞きながら、無言で通りを歩く人々。その姿を見て、私は祖国を去ることを決意した。
賢者は歴史から学び、愚者は経験から学ぶという。
では、我々はナチスの官製暴動とホロコーストから何を学ぶのか?
■中国に居座る日本企業
反日暴動であれだけの被害をこうむったにもかかわらず、日本企業が中国から撤退する気配はない。
なぜ、そこまでして、中国に執着するのか?
・安い賃金×豊富な労働力→優れた生産拠点
・人口13億→有望な消費拠点
に尽きるだろう。
さらに、企業経営者たちは判で押したようにこう主張する。
・グロバール資本主義で生き残るには人件費の安い中国で作るしかない。
・13億人の消費市場を捨てるわけにはいかない。
なるほど。でも、その代償が、販売店や工場を破壊され、焼き討ちにされ、商品を略奪され、社員の生命さえ脅かされている。しかも、そのすべてが国家公認。それでも、ペコペコしながら、卑屈に中国で商売をするというわけだ。
つまり、「カネ」のために「プライドと命」を差し出しているわけだ。
これを「等価交換」といえるだろうか?
このような、「身の危険」も「屈辱」も顧みず、金儲けができれば全部オッケーの「拝金主義」は、時に身を滅ぼすことがある。
■満鉄の教訓
たとえば、1906年、満州で設立された「満鉄(南満州鉄道株式会社)」もそうだろう。満鉄は、鉄道事業を中心に事業を拡大し、やがて、日本有数のコンツェルンにのし上がる。ところが、満州は元々、女真族の土地で、漢民族も多数住んでいた。はした金で、満州の土地を買いたたき、現地の人間をこきつかえば、日本人は憎まれて当然である。もちろん、これも「等価交換」ではない。であれば、長続きするはずがないではないか。
1945年8月8日、ソ連が日ソ中立条約を破棄し、満州に侵攻、その後、中華民国軍、共産党軍も満州に侵攻し、満鉄はあっけなく崩壊した。たった40年の泡沫会社であった。その時、満鉄の社員、満蒙開拓移民団など100万人以上が帰国しようとしたが、混乱の中、多数の日本人が命を落としている。
つまり・・・
金儲け最優先で、反日国に進出しても、「政治」次第で、すべてを失う可能性がある。満鉄の歴史はそれを示唆しているのだ。もちろん、その構図は今も変わっていない。経済の世界では、これを「チャイナリスク」と呼んでいる。
もっとも、最近の中国は、チャイナリスク以前に商売としてのうまみも減りつつある。
先日、知り合いの広告代理店の支店長から面白い話を聞いた。すでに中国に進出している多くの企業経営者たちは、
「これから中国に進出しても、メリットはない」
と判断しているという。
理由は至極簡単。
まず、中国の労働賃金だが、もう安いとはいえない。最新情報によると、上海のホワイトカラーの初任給は10万円前後。それでも、日本の半分だが、労働争議があるたびに、給与がアップする。さらに、それに味を占めて、労働争議が頻発し、給与の上昇トレンドが止まらない。労働争議をたきつける専門の弁護士までいるのだから。
さらに、労働争議があるたびに、工場は停止し、損害が発生する。当然、損害保険の保険料も上がるので、それが生産コストを押し上げる。
それに、中国人労働者は簡単に辞めるし、気に入らないことがあると、すぐに暴動を起こす。そもそも、中国は韓国とならぶ筋金入りの反日国なのだ。当然、中国政府も何を言い出すかわからない。
たとえば・・・
2011年11月から、中国で働く外国人に社会保険の支払いを義務付けた。ところが、社会保険料を払うのはいいのだが、外国人が失業保険、家族保険を受け取るケースが思い浮かばない。
ということで、中国の狙いは明白だ。まず、外国企業を誘致して、雇用を確保し、GDPを押し上げ、技術やノウハウを吸収したら、外国企業に不利な法律を制定し、追い出す。それがわかっているのに、目先のカネに目がくらんで、中国に進出したわけだ。
■失われる中国メリット
ところが、中国のリスクは、それだけではない。「高齢化」である。中国の人口は、2000年から高齢化が始まり、2015年には、生産年齢人口が減少に転じる。そして、ここが重要なのだが、中国の高齢化は他の経済発展途上国よりペースが速い。
では、なぜそうなったのか?
原因は、1979年に導入された一人っ子政策にある。それにくわえ、中国では男子が好まれるため、数百万人の女子が中絶されているという。その結果、中国の人口構成は、女子100人に対して男子の数は119人(自然に任せれば、女子100人に対し男子104人)。
女性が少ないので、その分、出産も減り、高齢化に拍車がかかるわけだ。このような人口動態は一朝一夕で変わるものではないから、今後の中国経済に大きな影響を与えるだろう
というわけで・・・
生産拠点としてのメリット「豊富な労働力」は失われつつある。さらに、高騰する人件費、それを加速する「労働争議」もおさまる気配がないとすれば、
・高い賃金×減少する労働力
に変質し、チャイナリスク以前に、商売のうまみもなくなる。
このような状況を考慮すれば、「生産拠点の尺度」を見直す必要がある。
つまり・・・
産拠点の尺度=賃金×労働人口×忠誠心×インフラ
①賃金:安いほど○
②労働人口:多いほど○
③忠誠心:高いほど○(会社や仕事への忠誠心)
④インフラ:交通網、電力網、水道網が充実しているほど○
じつは、これまで、中国は①~④をほぼ満たしていた。だからこそ、世界中から工場を誘致できたのである。ところが、「③忠誠心」は低下し、労働争議が多発し、「①賃金」が継続的に上昇しつつある。
では、忠誠心は、なぜ低下したのか?
中国の労働者が、真実を知り、人間としての欲求に目覚めたから。
■チャイナリスクの真相
では、中国の労働者たちは、どんな真実に気づいたのか?
中国共産党が喧伝する「中華思想(世界の中心は中国)」を信じ、国の発展に自分の発展を重ね合わせ、そこに自分の夢を描いていた中国人労働者たち。しかし、毎日13時間働いても、何も変わらなかった。
それどころか、大学を出ても、3人に1人が職も見つからない。仕事にあぶれた大卒者たちは、狭い部屋で共同生活し、地方からの出稼ぎ労働者なみの年収15万円~30万円(月収ではない)に甘んじている。彼ら彼女らは、中国では「蟻族」とよばれている。
一方、時流にのった一部のエリートたちは大金を稼いでいる。その貧富の格差たるや、日本の比ではない。
たとえば、中国の工場労働者の年収は15万円程度だが、上海のホワイトカラーは年収120万円以上。つまり、ホワイトカラーはブルーカラーの8倍も稼ぐわけだ。日本では考えられない格差である。ちなみに、中国の労働者の90%が年収15万円以下である。
さらに、2011年、中国で年収2000万円以上の富裕層の調査をしたところ、80%が中国以外への移住を希望しているという。頑張って、リッチになったので、先行き不透明な中国から逃げだそうというわけだ。
ところで、中国の年収2000万円は、日本ではどんなクラスになるのだろう。年収2000万円は、中国の90%を占める一般的労働者の130倍になるので、日本の平均年収450万円を130倍してみよう。
450万円×133倍=6億円
つまり、単純計算で、中国の年収2000万円は、日本では年収6億円に相当する。東証一部上場企業の社長でも、年収1億円を越える人はほとんどいない。それが6億円?中国の貧富の格差がいかに大きいかがわかるだろう。中国は資本主義で、日本は社会主義といわれるゆえんである。
また、最近、中国で非難をあびているのが「裸官」。じつは、中国政府がもっとも警戒するキーワードでもある。平たく言うと、私腹を肥やして、自分が失脚した場合、あるいは政権崩壊に備え、家族や資産を国外に逃がしている共産党の幹部のことである。
もし、中国人民が、自分たちが生きている間に格差は是正されず、一部のエリートや、裸官だけが、大金を貯め込み、逃げ道まで確保していると知ったら。しかも、中国は共産主義、つまり、能力に応じて働き、必要に応じて受け取る、国なのに。これほど巨大な矛盾はないだろう。
だからこそ、中国政府はインターネットを恐れ、制限と介入をつづけている。もし、中国人民がその真実に気づき、ネットを通じて、一斉蜂起したら・・・アラブ世界で起きた反政府運動「アラブの春」の二の舞になるだろう。
そうなれば、被害をこうむるのは中国のエリート層だけはない。中国に進出している企業も大損害を受けるだろう。いや、すべてを失う可能性もある。社員と家族が無事帰国できればそれでよし・・・70年前、日本人が満州から引き揚げたように。
現実を直視し、想像力を働かせるだけで、中国の日本企業がどれほどのリスクを背負っているかがわかる。
■日本の対中国戦略
最後に、中国に進出している外国企業のリスクを4つあげる。
第一に、中国が外国企業の技術とノウハウをマスターしたら、法律を改正して、外国企業を追い出しにかかるだろう。たとえ、投資分を回収していたとしても、技術とノウハウを習得した中国が圧倒的優位に立つ。ゆえに、その後、外国企業はジリ貧になる。
第二に、中国の貧富の格差とインターネットのシナジー効果で、内乱が起きる可能性がある。その場合、中国の外国企業は多大な損失をこうむるだろう。
第三に、反日暴動が慢性的に起こるため、破壊と略奪による損失、さらに損害保険料のアップも含め、目に見えない経費が生産コストを押し上げる。
第四に、水晶の夜事件が暗示するように、日本人の生命と財産がさらなる危険にさらされる可能性がある。
三番目と四番目は日本企業だけにあてはまるが、すでに、現実になりつつあることに注意が必要だ。根は「反日」にあるが、あれだけ「反日教育」が徹底していると、反日は2代、3代と100年は続く。つまり、将来、日中関係が好転すると期待して、現在を我慢する意味がない。
そもそも、尖閣諸島問題でさえ解決していない。ユニクロの社長のように、領土問題を早く外交で解決せよと、政府を非難する人もいるが、まずは、歴史を学ぶべきだろう。
領土問題が戦争以外の方法で解決したことがありますか?
自分の商売の視点だけで、政治・軍事を論じる怖さがここにある。こういう人が識者として、マスメディアで発言を許されること自体、国益を損なうのである。
いずれにせよ、もし、日中尖閣戦争が勃発すれば、中国の日本企業は、70年前の満鉄と同じように、すべてを失うだろう。資産凍結、インフラ没収は普通にありうる。相手は中国だし、敵国の企業なのだから当然である。
しがらみを断ち切り、目先の損得に目をつむり、現実を直視すれば、中国の日本企業は今のうちに撤退したほうがいいだろう。一時的な損失は出るだろうが、最終的な損得(数学の期待値)は高くなるから。何より、社員の命が守れるし、イヤな思いもしなくてすむ。
それに、今後は中国にすり寄る企業は、売国奴よばわりされ、日本で不買運動にまで発展する可能性もある。それが正しいとは言わないが、事実として対処しないと、大事な商売が打撃を受ける。
戦後、日本は、資源がない、カネがない、技術がない、ないないずくしからスタートした。不可能と思えるような困難を克服して、世界有数の大国にのしあがったのである。
中国から撤退することは、戦後の焼け野原から復興したことに比べれば、屁みたいなものだろう。そのあとを埋めるのは大変だろうが、命までとられることはない。
ところが・・・
もし、このまま、中国に居座れば、命まで危なくなる。
参考文献:
(※)WWII~HDで甦る第二次世界大戦~販売元:Happinet(SB)(D)
by R.B