火星移住100万人計画~マスクの見果てぬ夢~
■多惑星文明の夢
21世紀前半、地球上で最も重要な人物は、イーロン・マスクかもしれない。
彼の身に何かあったら、人類の未来が大きく変わるから。
根拠は2つ。
第一に、マスクが推進する事業は、文明を100年早める可能性がある。
第二に、その事業は困難を極め、マスク以外、誰も達成できそうにない。
そんな大事業を推進するのが、イーロン・マスク率いるマスク帝国だ。
巨大な複合企業体で、宇宙開発の「スペースX」、電気自動車と人型ロボットの「テスラ」、脳とコンピュータを直結するシステムを開発する「ニューラルリンク」、地下トンネルの「ボーリング・カンパニー」の4つの企業からなる。
一見すると脈絡がないが、つなぐと1本線になる。多惑星文明・・・人類を複数の惑星に移住させ、人類の意識を宇宙に拡大するのだ。
話を面白くおかしく盛っているのではない。スペースXの目論見書にちゃんと書いてあるのだ。
「生命を他の惑星へと広げ、宇宙の本質を解き明かし、『意識の光』を星々へ届ける」
壮大で高尚にみえるが、スピリチュアルでなんか怪しい。しかも意味不明。そこで「生命=意識の光=人類」と読み替えると、真意が見えてくる。話は単純に・・・人類を他の惑星に移住させる。
といいつつ、「他の惑星」は太陽系に限定されていない。つまり、恒星間航行もあり!?
地球に近い火星でさえ9ヶ月もかかるのに、どうやって銀河系を旅するのだ?
ワープ航法。
SF・スタートレックは、ワープ航法で銀河系を探検する壮大な物語だ。冒頭のオープニング「宇宙、それは最後のフロンティア・・・」はあまりにも有名だが、舞台は22世紀。
それを、今実現するって?
マスクさん、アタマ大丈夫?
■マスクは天才かペテン師か
マスクは、多惑星文明の第一歩を「火星移住」に定めている。
注目すべきは「探検」ではなく「移住」であること。具体的に、100万人を火星に移住させるという。そんな大都市なら、スタバはあるだろうが、それで安心して引っ越す人はいないだろう。
そもそも、なぜ100万人なのか?
地球の支援なしで、自給自足を持続可能にするには、人口100万人が必要だから(マスク談)。
火星を独立文明にする?
イエス、巨大隕石が地球に衝突して、地球人類が滅亡しても、火星人類が生きのびるため。
マスクは、火星に人類のバックアップ文明をつくろうとしているのだ。
まるでSFだが、よく似たSF小説がある。70年前、レイ・ブラッドベリが書いた「火星年代記」だ。
人類の火星探検から始まり、火星移住ブームがおき、我も我もと火星植民地へ。ところが、ある日突然、地球人類は滅ぶ。残された火星人類が細々と生きていくという結末だ。マスクの物語と違うのは、地球滅亡の原因が、隕石衝突ではなく全面核戦争であること。詩的でSF純文学の金字塔というべき作品だが、熱く語りだすと、長くなるので、またの機会に。
というわけで、火星第二文明というアイデアは、70年前からあったのだ。
一方、テスラはそれをリアルに実現しようとしている。
問題はタイムラインで、それがいつ実現するか?
マスクは2055年をめざしている。
あと29年で、どうやって?
スペースXの次世代宇宙船「スターシップ」を使う。
この巨大な宇宙船は、現在の「ファルコン9」とくらべ、全長は70mから121mに伸び、最大ペイロード(荷物の積載量)も、22トンから200トンへ。自動車100台分だ。
でも、それで本当に、100万人も火星に送り込める?
簡単な計算をしてみよう。
スターシップの最大搭乗人数は100人。毎日、打ち上げれば、1年で3万6500人が地球を出発できる。ただし、火星に到達するのは、6〜9ヶ月後。現在の化学燃料ロケットでは、秒速20kmが限界だからだ。
光速のわずか0.0067%。
化学燃料ロケットは、化学燃料を燃焼させてガスを噴射し、その反作用で推力をえる。ガスを噴射する最大速度は、約秒速4.5kmなので、その制約をうけるわけだ。
噴射が秒速4.5kmなら、なぜ、ロケットは秒速20kmもでる?
じつは、速度ではなく加速度、つまり力で考えないといけないのだが、話が長くなるので、ここは省略。
■火星移住は実現可能か?
火星移住の計算にもどろう。
100人乗せて、100万人運ぶには、火星ロケットを1万回打ち上げないといけない。毎日打ち上げて、1年で365回。1万回打ち上げるには、30年かかる。
この段階でアウトです。
その間に、技術革新が何度もおきて、ちゃぶ台返しされるから。正月のスゴロクじゃあるまいし、技術革新のたびに振り出しにもどる、ではやってられない。
であれば、1日に100回打ち上げれば、3年で完了するぞ。
毎日、100隻の宇宙ロケットをどうやって製造するのだ。ロケットの部品点数は、自動車の10倍であることお忘れなく。
さらに、多惑星文明になると、太陽系を飛び出すので、光速でも、何万年、何百万年もかかる。
具体例を挙げよう。
我々の「天の川銀河」の中心まで、地球から光速で約2万6000年かかる。お隣の銀河の大マゼラン雲は約16万年。アンドロメダ銀河なら約230万年だ。
冬眠カプセルをつかえば、何万年も生きられる?
何万年もたてば、ロケット自体が劣化して、ボロボロになる。
では、太陽系に一番近い恒星系は?
アルファ・ケンタウリだが、それでも光速で4.37年かかる。化学燃料ロケットなら、光速の0.0067%なので、何年かかるというと・・・計算する気にもなれない。
ちなみに、ドラマ「宇宙家族ロビンソン」のロビンソン一家が目指したのはアルファ・ケンタウリだった。原題「Lost in space(宇宙の迷子)」そのまま、今も宇宙をさまよっている。物語はまだ完結していないので。
つまり、多惑星文明はワープ航法がないとムリ。しかも、ワープ航法はSFの話で、理論上成立するかどうかもわかない。
20万年前、毛皮のパンツ一丁の人類が、棍棒を振りかざし、月に向かって「オラあそこに行くだ!」と気勢をあげているようなもの。
ところが、マスクは本気だ。
ホラ吹き、ペテン師、詐欺師、イカサマ師・・・心ない声が聞こえてくる。とくに、マスメディアは、マスクのやることなすこと批判的だ。ただ、マスメディアのようなインテリ左派は、目立つ人物を嫌う傾向にある。そこは割り引いて考えるべきだろう。
では、本当はどうなのか?
マスクは、ペテン師でも詐欺師でもない、真っ当な事業家だ(ホラ吹きの傾向はある)。
マスクが率いるマスク帝国が動かぬ証拠だ。すでに、2つの会社を上場させているから。
では、マスク帝国は「ほんまもん」?
であれば、ペテン師と一刀両断にはできない。
そこで、マスク帝国の実力を精査してみよう。
《つづく》
by R.B
