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週刊スモールトーク (第162話) 放射能汚染列島(1)~東日本壊滅~

カテゴリ : 社会

2011.11.06

放射能汚染列島(1)~東日本壊滅~

■日本の危機意識

伸るか反るかのベンチャーで役員なんかやっていると、見るものすべてが危機に見えてくる。日航や東京電力のように、不始末をやらかしても、国は助けてくれないし、赤字だろうが黒字だろうが、資金がショートした時点でゲームオーバー、社員全員が路頭に迷う。企業年金なんか論外だし、退職金がもらえるかどうかもあやしい。権利があろうがなかろうが、ないものは払えないのだ。

だから、日々、「最悪に備える」を徹底している。日本の法制度「疑わしきは罰せず」ではなく、「疑わしきは備えよ」。ところがそれでも、福島原発事故では、自分の危機意識の低さを痛感した。

2011年3月11日午後3時20分、東京へ長期研修に行っているM君からメールが入った。震度5弱の地震があり、経験したことのない揺れを感じたという。いやな予感がしたので、すぐにネットで調べてみた。すると、東北で大きな地震があり、4.7m~10mの津波警報がでている。日本で地震の津波警報といえばせいぜい30cm。それが、10mの津波?我が目を疑った。もし本当なら、2000人は犠牲者がでる・・・ところが、現実は1桁違った。

この東日本大震災は日本に恐ろしい災いをもたらした。福島第1原発がメルトダウンし、福島県を中心に広域放射能汚染を引き起こしたのである。原発は炉心冷却のため大量の水を必要とする。そのため、日本の原発はすべて海沿いに建設されている。当然、
「大津波→原発損傷→放射性物質放出」
は予想されたが、「メルトダウン」まで想定した人は何人いただろう。ましてや、日本が放射能汚染列島になるとは・・・

ところが、当事者の政府と東京電力までが想定外だったという。もし、本当なら日本はバカが危険物管理者になる国で、もしウソなら無責任な人間が責任者になる国になる。日本の危機管理の低さ、ここに極まり。

今の日本には、2つの未来がある。1つは、放射能汚染で苦しむベラルーシ、ウクライナ、ロシア。1986年4月、チェルノブイリ原発が爆発し、この3国で、800万人以上が放射線にさらされた。結果、ウクライナでは甲状腺癌の発生率が54倍、ベラルーシでは15歳未満の子供の甲状腺癌の発生率が4倍から5倍に急上昇した。さらに、ロシアでは乳癌が121%、肺癌が58%、食道癌が112%、子宮癌が88%増加した。取り返しのつかない大惨事になったのである。

もう1つの未来は、政府や御用学者が言うように、
「チェルノブイリ原発事故の二の舞にはならない」
つまり、汚染された土壌も除染され、住民はみんな故郷に帰れる。

さて、どちらが現実になるかは神のみぞ知る、ではすまされない。2011年11月6日現在、日本で本当に安全なのは沖縄だけなのだから。現在、文部科学省が放射能汚染マップを作成中だが、それが完成した時、日本が放射能汚染列島であることが明らかになるだろう(データの改ざんがないと仮定して)。菅首相は事件直後、「東日本壊滅」を覚悟したといわれるが、それですまない可能性がある。

■先入観

危機に及んで、正しい判断をするには、先入観を捨てることが大切だ。判断を誤って、政府に責任をなすりつけようとしても、自分の命がないかもしれないから。だから、

「政府や御用学者の言うことは本当で、肩書きのない連中の言うことはデタラメ」

は危険な先入観だ。それどころか、この手の問題では、一番とは言わないが、その次にあてにならないのが政府と御用学者なのだから。なぜか?答は日本の歴史にある。

【森永ヒ素ミルク中毒事件】

1955年、森永乳業の粉ミルク「森永ドライミルク」にヒ素が混入し、それを飲んだ乳幼児1万3000名がヒ素中毒になり、130名以上が死亡した。ちなみに、粉ミルクは厚生省の認可が必要だ。国が認可した粉ミルクに毒が入っているとは誰も思わなかっただろう。

【サリドマイド事件】

サリドマイドはドイツの薬品会社が開発した睡眠薬で、日本でも販売された。ところが、妊娠初期の妊婦が飲むと、奇形をもつ新生児が生まれることが判明。ヨーロッパではすぐに販売が中止されたが、日本ではその後、半年間も販売が続けられた。そして、その間に多数の被害児が出生したのである。

一方、アメリカ合衆国では、FDA(食品医薬品局)の審査官フランシス・ケルシーが安全性に疑問を抱き、審査を継続したため、犠牲者はわずかしかでなかった。国が認可した薬で奇形児が生まれるとは、誰も思わなかっただろう。薬害エイズ事件をふくめ、この手の事件は枚挙にいとまがない。

つまり・・・

国や御用学者の
「安全、大丈夫」
を真に受けると、取り返しのつかないことになる

このような歴史的事実をみても、政府や御用学者が言うことが本当で、福島原発事故はチェルノブイリにはならない、と信じられるだろうか?だいたい、福島第1原発の放射能汚染の災害規模は、森永ヒ素ミルク中毒事件やサリドマイド事件の比ではない。

では、政府や御用学者は、なぜこんな過ちをおかすのか?御用学者は政府の御用聞きだし、政府は10年後の日本に責任を追わないから(もう死んでいるかもしれないし)。たとえ、10年後、

「あのとき、日本はすでに放射能汚染列島だった。だから、首都圏を含め東日本の全住民を移住させるべきだった

と分かっても、政府や御用学者が責任をとることはない。人間という種は、厳しい結果責任を科さない限り、真剣にはならないものなのだ。だから、政治制度を改めない限り、福島原発事故のような人災はまた起こるだろう。

■放射線の基準

つぎに、現在の放射能汚染の状況をみてみよう。まず、2011年11月現在の日本の避難区域。福島第1原発から半径20キロ圏内は「警戒区域」で、一般人の立ち入りは禁止されている。圏外でも、年間の累積放射線量が20ミリシーベルトを超える場合は「計画的避難区域」に指定され、1ヶ月以内に避難しなければならない。ところが、罰則はナシ。罰則のない規則にどんな意味があるのか。

「計画的避難区域」にはさらに重大な欠陥がある。計画的避難区域かどうかの判断基準のあいまいさだ。
「年間の累積放射線量が20ミリシーベルトを超える地域」?
1年経過するか、累積放射線量が20ミリシーベルトを超えない限り、判断できないではないか。そのため、今でも危ないかもしれないのに、多くの人が行動をためらっている。

ここで、放射線の基準値を明確にしよう。クドい理屈は抜きにして「役に立つ」指標にしぼる。

放射性物質(放射線)が人体に与える影響を表すのが「シーベルト(Sv)」で、値が大きいほど人体に有害である。あと、ミリとマイクロは大きさを表す単位で、

・1シーベルト=1000ミリシーベルト

・1ミリシーベルト=1000マイクロシーベルト

前述したように、「計画的避難区域」の対象となるのは、

「年間の累積放射線量20ミリシーベルト以上」

これを時間当たりに換算すると、

20ミリシーベルト÷365日÷24時間=毎時2.28マイクロシーベルト

つまり、

「毎時2.28マイクロシーベルトが1年以上続くなら、避難せよ」

となる。現時点で、1年続くかどうかわからないが、

毎時2.28マイクロシーベルト

は瞬間値として、大きな目安になる。以後、この数値を「第1警戒値」とよぶことにする。

ただし、これはあくまで国の基準値で、本当に安全かどうかは分からない。というのも、

「自然放射線の全国平均は毎時0.05マイクロシーベルト

なので、「毎時2.28マイクロシーベルト」は平常値の45倍。いくら、安全と言われても、「平常値の45倍」はさすがに気持ちが悪い。「45倍の原因」がどこかにあるわけで、しかも、相手は放射性物質。

つぎに、この数値を目安にして、これまでに確認された日本の放射能汚染をみていこう。

■放射能汚染

【世田谷区】
10月29日、東京都世田谷区のスーパー近くの歩道から、毎時110マイクロシーベルトの放射線量が検出された。先の第1警戒値の48倍である。もし、この状態が1年続けば、
110マイクロシーベルト×24時間×365日=963ミリシーベルト。
この値は危険度は↓

放射線量(ミリシーベルト) レベル 被爆の影響
7000~ 致死 100%死亡。
3000~7000 重症 50%死亡。
2000~3000 軽症 5%死亡。白血球減少、出血、脱毛。
1000~2000 死亡率は低い。吐き気、嘔吐。
500~1000 軽度 リンパ球減少。
250~500 白血球減少。
200~250 胎児の異常
0~200 影響なし 被爆の影響は確認されていない

室内にいれば放射線量が減るとか、全身被ばくか一部被ばくか、あるいは、一気に被ばくか1年で被ばくかで影響は違う、などという些末な議論はやめよう。重要なのは「危険の目安」であって、重箱をつつくことではない。それに、結果が取り返しがつかない場合は、悪い方に考えた方がいい。

表を素直に読むと、963ミリシーベルトは、

1.リンパ球の減少

2.白血球の減少

3.胎児の異常

を示唆している。

ここで、本当かどうかは断言できない、で自分を安心させるのはやめよう。事が命に関わるなら、「可能性があるかどうか」が問題なのだ。100%実証にこだわるのは不毛で、そんな暇があったら、災いに備えたほうがいい。

さて、世田谷区の110マイクロシーベルトの件だが、その後、新たな展開をみせた。毎時110マイクロシーベルトの地点を掘り起こしたところ、地表から40センチの場所に、透明の試薬瓶が見つかったのだ。しかも、そこから、毎時40ミリシーベルトが検出されたという。そこで、文部科学省は、
「福島第1原発事故とは関係ない」
と発表した。やれやれ、一件落着。そもそも、原発から220kmも離れた東京まで、そんな大量の放射性物質が飛んでいくわけがない。

しかし・・・

この敷地内の他の場所(地表)から、毎時1~2.5マイクロシーベルトが検出された。これも、試薬瓶のせい?さらに、その前の10月13日、世田谷区の別の場所(弦巻の路上)で、毎時3.35マイクロシーベルトが検出されている。この値でも、「第1警戒値(毎時2.28マイクロシーベルト)」を超えている。これも、あの試薬瓶のせい?これで、安心しろというほうがムリ。

【千葉県船橋市】

10月12日、千葉県船橋市の「船橋アンデルセン公園」で、毎時5.82マイクロシーベルトが検出された。第1警戒値の2.5倍、平常値の100倍である。もし、これが1年続けば、累積で50ミリシーベルトに達し、日本の基準では「計画的避難区域」、チェルノブイリ事故が起こったウクライナなら「強制避難レベル」。

ところが、近所の人によると、
「船橋市内では、別の公園や施設でも、以前から毎時4マイクロシーベルト程度の数値を検出しており、いまさら驚かない」
毎時4マイクロシーベルトが珍しくない?第1警戒値の1.7倍。このまま1年続けば、「計画的避難区域」に該当するのに。1年経っていないから、まだ大丈夫?

【千葉県柏市】

10月21日、千葉県柏市の根戸の道路脇で、地表から3~40センチの穴を掘ったところ、毎時57.5マイクロシーベルトが計測された。ただ、地表の放射線量は低く、10メートル離れた場所の空間放射線量は0.3マイクロシーベルト以下だった(それでも平常値の6倍)。

【千葉県我孫子市】

千葉県我孫子市内の小学校2校の敷地内で、毎時10マイクロシーベルトが計測された。側溝底の土から、1キロ・グラム当たり6万768ベクレルの高濃度放射性セシウムが検出されたので、福島原発が原因であることは間違いない。

【長野県軽井沢】

10月24日、長野県の軽井沢高校の側溝で、毎時1.16マイクロシーベルトが検出された。第1警戒値こそ下回るものの、平常値の20倍。すぐに、除染作業が行われたという。それにしても、長野県で平常値の20倍?福島原発から246kmも離れているのに。やはり、日本は放射能汚染列島?

■ホットスポット

以上の放射能汚染情報を総括すると、ポイントは2つ。

1.原発から220km離れた首都圏でも、「計画的避難区域」を超える放射線量(1時間当たり)が計測された。しかも、複数の場所で。

2.原発から246km離れた軽井沢で、平常値の20倍の放射線量が計測された。

もちろん、原発からの距離が同じでも、放射線量が低い区域もある。ではなぜ、これほどばらつくのか?地形、風、雨、たまに試薬瓶。

「原発から半径20km圏内は無条件に危険」は納得できるとして、その圏外でも、放射線量が高い場所が存在する。このような局所的な高濃度汚染地帯をホットスポットとよんでいる。じつは、チェルノブイリ原発事故でも、ホットスポットが多数確認されている。Wikipediaによれば、

チェルノブイリは、
350kmの範囲内にホットスポットが約100カ所点在する」

半径350km!?

普通に考えれば、原発から離れるほど、ホットスポットの数は減る。だから、ホットスポットがゼロになる半径が重要になる。その外側なら、たぶん安全だろうから。ところが、チェルノブイリでは350km!ということは、

安全圏は原発から350km以遠

そこで、福島第1原発を中心に半径350kmの円を描いてみよう。AtomicPolutionArea図を見ると、福島第1原発の350km圏は、北は青森、西は静岡、富山あたり。ちなみに、首都圏はすっぽり入る。先に、長野県軽井沢で平常値の20倍の放射線が検出されたが、その長野も圏内で、つじつまは合う。ひょっとして、東日本壊滅?

ただし、放出された放射性物質の量が、
「福島>チェルノブイリ」
なら、このホットスポット圏はさらに拡大する。では実際はどうなのだろう?

10月30日、ノルウェーなど欧米の研究チームは、そのヒントとなるデータを公表した。
「福島第1原発の事故で、大気中に放出された放射性セシウムは、(日本の)内閣府の原子力安全委員会が公表した推定値の3倍になる。これは、チェルノブイリ原発事故の放出量の4割にあたる」

しかし、現実に放出された放射性物質の量はこれですまないだろう。理由は2つ。第1に、このデータは事故が起きた3月11日から4月20日までの計測値。第2に、チェルノブイリでは10日で放射性物質の放出をくいとめたが(完全ではない)、福島第1原発は今も漏れ続けている。

さらに、11月2日、東京電力は、
「福島第1原発の2号機で、原子炉の格納容器の中で核分裂反応が起きている可能性がある」
と発表した。つまり、ゼンゼン収束していない。

ということで・・・

もろもろの情報を考えあわせると、
「半径350km圏外でも安全とは言いきれない」
東日本壊滅どころか、日本は放射能汚染列島!?ではなぜ、みんな行動を起こさないのだろう?日本人特有の、お上を信じる、危機意識の欠落、行き場がないので安全だと信じたい、そして、見えない、聞こえない、臭わない・・・しかし、
命取りになることは、悪い方に考えたほうがいい

《つづく》

by R.B

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