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週刊スモールトーク (第497話) ウクライナ侵攻(3)~プーチンの思考回路~

カテゴリ : 人物戦争終末

2022.04.15

ウクライナ侵攻(3)~プーチンの思考回路~

■大学教授の反省文

この国はおかしい、何かが狂っている、いや全部かもしれない。

テレビの露出が多い、ある有名大学の教授が、反省文を書いて話題になっている。

彼女はロシア政治が専門で「ウクライナ侵攻を予測できなかった。それを認めた上で、さらに研究を続ける決意をした」という。

これに対し「自分の間違いを認めるのはいさぎよい。研究を続けるバイタリティもすごい」と反響が広がっているという。

でもこの話、おかしくないですか?

金メダルを期待されたアスリートが予選落ちして「負けを認めた上で、次は頑張ります」と言ったら「敗けを認めるのはいさぎよい。次に進むバイタリティもすごい」と称賛されるだろうか?

これと似た話が東京2020 夏季オリンピックであった。このアスリートは称賛されるどころか、ボコボコ。それはそうだろう、オリンピックは金か銀か銅か入賞で、努力賞なんてないから。

マスメディアに出る専門家や識者も同じ。正しい情報を広く大衆に伝える立場にありながら、間違った情報を発信して反省文でおしまい、はないだろう。

プロとアマの違いは一つしかない。カネがとれるかどうか。もし、カネをとるなら、それに見合った責任がある。事実、プロは負けがこむとカネが稼げなくなる。ただ、アスリートは失敗しても、影響は自分止まりなので、大勢に影響はない。だが、マスメディアで発言する専門家や識者は違う。ウソや間違いを触れ回ると、国をミスリードするからだ。

そもそも、誤った情報を発信する、予測を外す専門家は、法律を知らない弁護士、手術がヘタな外科医、料理ができないコックと同じ。失敗したら、反省文ですむのか?

法的に問題はないだろうが、それで専門家を名乗る者、それを雇用する大学、出演させるメディアにも問題があるだろう。

昔、物流機器メーカーで異業種のゲーム事業を始めた時、副社長に呼ばれ、こう宣告された。

「わかっていると思うが、君が言い出した事業だから、努力賞はないよ」

まだ30代で、課長になったばかりだった。サラリーマンでも失敗したらタダではすまないのだ。ところが、この国は、上に行けば行くほど、責任が軽くなくる。それどころか、くだんの専門家は、失敗して称賛されているのだ。だから日本はダメになったのだ。

■日本が衰退する理由

日本はGDP世界第3位の経済大国だが、実感がない。

なぜか?

日本の給与は、2000年から2020年で8.5%も下がっている(残業代も含む)。こんな国は先進国で日本だけ。しかも、現在の給与水準は米国の6割で、韓国にも負けている。これは平均値だが、上位層はさらに悲惨だ。米国IT企業の最上位エンジニアの年収は、メタ(元フェイスブック)が1億1280万円、グーグルが9600万円、アップルが9000万円。一方、日本は、上場企業の社長でさえこの金額に届かない。

日本は消費も減っている。2000から2020年の間に、消費支出額は12.3%も減ったのだ。収入が減るなら支出も減ってあたりまえ。というわけで、日本は確実に貧しくなっている。

現在は第3位でも、衰退し続けるなら、どこまで堕ちるかわからない。だから、日本人は豊かさを実感できないのである。

ではなぜ、日本は衰退していくのか?

「人」につきる。冒頭のエピソードがそれを暗示する。これが日本の専門家、世論なのだ。

一方、隣の中国は強くなるばかり。

では、日本と何が違うのか?

これも「人」につきる。中国は領土が広大で、人口も桁違いに多いが、日本と共通点がある。資源が少ないこと。事実、中国は、穀物、原油、天然ガス、鉱物資源、ほとんどの資源を輸入に頼っている。だから、中国は「人」に賭けるしかないのだ。

中国の「人に賭ける」は、トップリーダーにもあらわれている。中国の指導者層は、日本のように二世議員、三世議員が幅を利かせていない。13億人の競争を勝ち抜いた実力者だ。彼らは、現実主義者で合理主義者で功利主義者で、目的のためには手段を選ばない。それが、内政、外交、軍事にもあらわれている。

たとえば、新型コロナ対策。あれほど徹底した抑え込みができるのは、世界中で中国だけ。これで抑えられないなら、諦めるしかない。さらに、外交は強圧的だが「中華思想(中国は世界の中心)」を固く信じているから。こういうと、日本では、すぐに道理、倫理の話になるが、外交は損得の話。噛み合わなくて当然だろう。

尖閣諸島も、当初中国は関心がなかった。ところが、周辺海域に原油の埋蔵が確認されるや、すぐに所有権を主張。尖閣海域に、中国船を送り込み「力ずく」を行使している。これに対し、日本政府は「まことに遺憾」、「外交ルートを通じて厳重抗議する」・・・

バカじゃないのか。

銃口を突きつけられて、話せばわかる、と言っているようなもの。

これはジョークではない、本当にあった話。1932年5月15日におこったクーデター「五・一五事件」だ。反乱軍の青年将校が、犬養毅首相に銃口を向けたら、犬養首相は「話せばわかる」、すると将校は「問答無用」でズドン、犬養首相は射殺された。「話し合い」が「力ずく」の前でいかに無力か。

それでも、話し合いで尖閣諸島を解決しますか?

こんな無為無策、無知無能なら、つぎは沖縄だろう。

かつて、沖縄は「琉球王国」で、中国・明王朝の朝貢国(従属国)だった。それを明治政府が併合し「沖縄県」に変えたのである(琉球処分という)。だから、中国が、我が国の朝貢国を日本が奪ったから、取りもどし、独立させる、といえば大義名分は成立する。そもそも、大義名分なんて、言ったもん勝ち、やったもん勝ち。現実は道理のゲームではない、パワーゲームなのだ。

かつて、日本の宇宙飛行士が「宇宙からは国境線はみえなかった」と発言し、そこから「存在しない国境線を巡って争うのは愚か」という言説が、あたかも真実のように拡散した。

でも、本当にそうだろうか?

絶対的な国境線がないからこそ、「力ずく」で国境線を上書きできるのでは?

事実、人間の歴史は「国境線の上書き」の繰り返しだ。

中国が尖閣諸島に侵出し、韓国が竹島を占拠し、ロシアが北方領土を占拠し、ウクライナに軍事侵攻するのも、すべて「国境線の上書き」。しかも、「話し合い」ではなく、すべて「力ずく」だ。

自国の国境線を上書きされて、「愚か」で済みますか?

相手が「力ずく」なら「力ずく」対抗するしかないではないか。ウクライナ戦争の教訓を持ち出すまでもなく、ふつうに理解できる話だ。

この現実を受け入れないかぎり、「日本」はいずれ消滅するだろう。満州を祖地とし、古代ローマ帝国に比肩する中国・清朝を築いた女真族が、中国・漢族に同化し、言語も文化も消滅しようとしている。それを同じ運命をたどるのだろうか。

■ロジカルシンキングのすすめ

では、日本は座して死を待つしかない?

ノー!

「人」が育てば、挽回のチャンスはある。

では、どうすればいいのか?

専門家や識者のコメントを鵜呑みにせず、自分の頭で考える・・・それしかないだろう。ただし、やみくもに努力するのはおすすめできない。冒頭の専門家の顛末がそれを示唆する。人生をロシア政治にささげて、その結果があの反省文なのだから。

では、具体的にどうすればいい?

2つある。

(1)複数の情報源からデータ収集し、比較検討し、矛盾をあぶりだし、ニセ情報を排除する。

(2)論理的に考える(ロジカルシンキング)。

「ロジカルシンキング」とは、直訳すると論理的思考だが、具体的には、因果関係と相関関係を駆使すること。

この世界で、真実を見つける方法は2つしかない。

第一に、因果関係。原因と結果を追究する方法で、既存のルールから新しいルールを見つける演繹法と深く結びついている。

第二に、相関関係。データの相関関係を追究する方法で、事実や事例からルールを見つける帰納法と深く結びついている。

ロジカルシンキングとは、この2つを駆使すること。

そこで、冒頭の専門家の発言をロジカルシンキングで考えてみよう。

■論理的思考ができない専門家

まず、くだんの専門家の発言。

「研究成果にもとづけば、ロシアがウクライナに侵攻するはずはなかった。論理的な説明はできない。全く合理性がない決断だ・・・今回の軍事侵攻でパラダイム・シフトがおきている」

おかしなところが3つある。

第一に「論理的な説明はできない」。

因果関係と相関関係で論理的に説明できます。

プーチンはソ連帝国の復活を夢見る権威主義的な指導者だ。「ソ連崩壊は20世紀最大の地政学的大惨事」と言い切っているのだ。ところが、NATOは旧ソ連の共和国を併呑しながら東方拡大を続け、ウクライナまでがNATO加盟を画策する。さらに、ウクライナのゼレンスキーは、ウクライナ国内のウクライナ人と親ロシア派の内戦を停止する「ミンスク合意」を履行しない。ソ連帝国の復活どころか、領土は減るばかり。この現状とプーチンの性格をかけ合わせれば、ウクライナ侵攻の原因が浮き彫りになる。つまり、因果関係は成立している。

つぎに相関関係。

プーチンは、2000年チェチェン、2008年グルジア、2014年クリミア、2015年シリアに軍事介入している。このデータから「プーチンは軍事侵攻をいとわない」は明白だ。よって「ウクライナ侵攻」はデータの相関関係も成立している。

因果関係と相関関係が成立しているから「ウクライナ侵攻」は論理的に説明できる。ところが、この専門家は「論理的な説明はできない」と言い切っているのだ。一体何を研究し、どう考えたら、そんな結論になるのか。中学生でもわかる話ではないか。

第二に「全く合理性がない決断」。

プーチンは合理的に決断している。

ゼレンスキーがミンスク合意を履行せず、下落した支持率を上げるため、NATOとEUの加盟を画策し始めた。そこで、プーチンは外交で解決しようとしたが、ゼレンスキーは拒否。外交でダメなら軍事侵攻しかない。くわえて、米国とEUの弱々しいウクライナ支持をみれば、NATOが軍事介入する可能性は低い。だから、プーチンは軍事侵攻を決断したのである。

「十分合理性のある決断」では?

この専門家は、軍事侵攻は倫理に反するし、コスパも悪いから、そこまでやらないだろうと考えたフシがある。だが、倫理と論理は別モノだし、国の存亡がかかる国家安全保障では、コスパは二の次。そのコスパも、ありがちなゲーム理論「ナッシュ均衡」あたりから解を得たとしたら、的外れ。僅差の損得を競う理論なので、秀才ならいざしらず、「天国の下僕より地獄の支配者を選ぶ」プーチンには通用しない。

つまりこういうこと。

「ウクライナ侵攻は全く合理性がない」は全く合理性がない。これで専門家を名乗れるのだから、日本はメチャクチャ、カフカの不条理の世界だ。

第三に「今回の軍事侵攻でパラダイム・シフトがおきている」。

パラダイム・シフトはおきていない。

パラダイム・シフトとはゲームのルールが変わること。

人類の歴史は戦争の歴史だ。19世紀には大英帝国、20世紀には米国という覇権国家が存在し、21世紀には、ロシアと中国が米国に挑む。つねに覇権国が存在し、それに取って代わろうとする国が後を絶たない。事実、第二次世界大戦が終わったあとも、紛争や戦争が絶えない。最後にものをいうのは「力ずく」、そのルールも変わっていないのだ。

この専門家は歴史を学ばなかったのだろうか?

もしそうなら、「体験」からしか学べないから、未来予測は絶対ムリ。

■失敗に酔い痴れる専門家

この専門家にはさらに稚拙な発言がある。

「研究は戦争を止められないのか、自分の長年の研究は何だったのだろうか、そして人間は戦争を防げないのか、という絶望的な気持ちにさいなまれた」

研究で戦争を止められないのか・・・あたりまえ。

自分の長年の研究は何だったのだろうか・・・感傷にふける私。

人間は戦争を防げないのか・・・歴史を勉強しましたか?

絶望的な気持ちにさいなまれた・・・どうにもならないことに絶望、何様?

つまりこういうこと。

自分が予測できなかった失敗を、ノスタルジックに美化し、酔い痴れている。

ウクライナで何千、何万もの人が死んで、数百万人が難民になっているのに。

不快感を覚えるのは気のせいだろうか?

さらに、この専門家、予測ロジックの根本がおかしい。「主語」が欠落しているのだ。

ウクライナ侵攻は誰が決めるのか?

あなたではなく、プーチンですよね。

決断するのは、何十年もかけて詰め込んだバラバラの知識と、論理が欠落した凡人脳ではなく、プーチン脳。ところが、この専門家はプーチン脳ではなく、自分の凡人脳で考えているのだ。「ウクライナ侵攻は全く合理性がない」と言い切ったのがその証拠。

誰の合理性?

あなた、それともプーチン?

日本にはこんな「専門家」しかいない?

とんでもない、賢い専門家はたくさんいる。

ではなぜ、マスメディアに出てこないのか?

本物の専門家は本業に忙しくて、大衆にかまっているヒマはない。さらに、テレビの出演基準は、みた目、話題性、女性、タレント性・・・賢さより大衆受け。視聴率をとるためしかたがない?

じゃあ、せめてNHKには頑張ってもらわないと。

ところで、プーチン脳で考えるには、どうしたらいい?

プーチンの思考回路を解明すればいい。

■適性検査で行動予測

プーチンは、目的のために手段を選ばない、血も涙もない人間・・・おっ、いきなり結論?

ノー、これは「印象」であって「事実」ではありません。血も涙も出ない人間なんていませんから。そこで、プーチンの思考回路を科学的に解明しよう。

一番確かなのは、プーチンに「適性検査」を受けてもらうこと。でも、現実にはムリ。そんなことをお願いしたら、こっちが動物実験されますから。

「適性検査」は入社試験の一つだが、目的は2つある。人物の資質を見抜くこと、そこから行動を予測すること。つまり、適性検査をすれば、プーチンの行動は予測できるわけだ(100%ではない)。

日本で適性検査といえば、リクルート社の「SPI」か、SHL社の「GAB」。人間のパーソナリティは性格と知能で定義できるが、それを数値化し、人物を評価する検査だ。ただし、SPIとGABは方法に大きな違いがある。SPIは心理学を、GABは統計学をベースにしていること。

以前、ベンチャー企業にいた頃、選考会でSHL社の適性検査を採用した。理由はカンタン、統計学は怪しいが、心理学はもっと怪しいから。

デザイナーはGAB(性格のみ測定)で、プログラマーはCAB(性格と知的能力を測定)で検査を実施した。ただし、検査をしても、結果を読み解くスキルがないと評価できない。そこで、SHL社で講習を受け、トレーニングを積んだ。

SHL社によれば、GABとCABの的中率は60%ぐらいだという。だが、10年以上使用し、検査結果と入社後の実績を比較すると的中率は90%をこえる(個人的見解です)。というわけで、SHL社の適性検査には信頼をおいている。

■プーチンの適性検査

その経験をもとに、プーチンの適性検査をシミュレートしてみよう。

SHL社のGABの項目は大きく3つあり、それぞれ小項目がある。項目別に、プーチンの資質をシミュレートしてみよう。

(1)人との関係

・自己主張:極大。

・人付き合い:強面だが悪くない。

・他人への配慮:味方は優遇、敵は抹殺。

(2)考え方

・関心領域:ソ連帝国の復活、またはプーチン王朝の創設。

・思考形式:ロジカルシンキング。

・物事の進め方:目的のためなら手段を選ばない。

(3)感情・エネルギー

・行動力:極大。

・競争性:極大。

・上昇志向:極大。

・決断力:極大。

ちなみに、経験上、最も重要なのは「(3)感情・エネルギー」と考える。この資質は「バイタリティ」に直結し、鍛えようがないから。これが極大だと、絶対に諦めない、なんとしてでも成し遂げる(善悪とは関係ない)。

SHLのGABは、項目別の評点にくわえ、人物の総評も出力される。その総評を、13年間の経験からシミュレートすると・・・

プーチン大帝は「平時にはリーダーにしてはいけないが、非常時ではこの人に賭けるしかない(消去法で)」。これは創作ではない。これと全く同じ総評の人物が過去に1人いたのだ。

ここでいう「非常時」とは、混乱と混迷の中で、ルールが崩壊し、無法状態で、誰が味方で敵かもわからない。正攻法がまったく通用しない世界。しかも、破滅が目前に迫っている。プーチンがトップに立ったのはこんな時期だった。ゴルバジョフがぶち壊し、エリツィンがボロボロにしたロシアを引き継いだのである。

こんな状況では手段を選んでいる余裕はない。敵はすべて排除する。ポロニウム(放射性物質)の使用もいとわない。血も涙もない悪魔とののしられようが、人でなしと罵倒されようが、カエルの面に小便、馬耳東風、気にもとめない。結果、ロシアは経済成長し、よみがえったのである。GABの総評と現実が見事に一致!?

プーチンの適性検査のシミュレーション結果がでたので、これをもとに、核兵器の使用を予測してみよう。

並の指導者もプーチンも、緒戦で核兵器の選択肢はない。だが、とことん追い詰められて、勝ち目がなくなったら?

並の指導者なら核兵器の使用をためらうが、プーチンは躊躇しない。勝ち目がないなら、引き分けに持ち込む、という超合理的は判断が働くからだ。つまり、全面核戦争。この超合理性は、プーチンの「天国の下僕より地獄の支配者を選ぶ」資質が関係している。さらに、プーチンにとって、核爆弾は14世紀の黒色火薬と同じ、とまではいわないが、似たようなものなのだ。

つまりこういうこと。

どんな困難な状況でも、目的を見失わず、解決策をみつけだし、躊躇なく実行する。そのために、どんな犠牲がでようが、国が燃えようが、世界が破滅しようが、知ったこっちゃない、それがプーチンの思考回路なのだ。

こんな分かりやすい人間の行動を予測できないなら、専門家は廃業した方がいいだろう。賢い専門家はいくらでもいるから。

《つづく》

by R.B

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