BeneDict 地球歴史館

BeneDict 地球歴史館
menu

週刊スモールトーク (第495話) ウクライナ侵攻(1)~不都合な真実~

カテゴリ : 人物戦争終末

2022.03.18

ウクライナ侵攻(1)~不都合な真実~

■ウクライナ侵攻の真相

2022年2月24日、ロシアがウクライナに軍事侵攻した。

主要メディアは「ロシアが悪い、プーチンは狂人」の一点張りだが、もし、原因が他にあったら、問題は解決不能になる。戦争は終わらず、死傷者が増え続けるだけだ。

こういう場合、事実を因果関係で分析することが重要だ。今回、ポイントは2つある。

第一に、ウクライナ侵攻の責任は誰にあるのか?

米国、NATO、ウクライナ、ロシアの4者。

ソ連崩壊後、米国はロシアに「1インチも東方拡大しない」と約束した(文書化されていないが証拠はある)。ところが、その後、旧ソ連共和国が続々とNATOに加盟。あげく、隣国のウクライナまでがNATO加盟を宣言する。ロシアは脇腹に短刀を突きつけられたようなもの、と表現する専門家もいるが、それどころではない。NATOに鞍替えした旧ソ連共和国の核ミサイルは、ロシアに向いているのだ。プーチンが恐怖に駆られ、つぎに激怒してもおかしくはない。

追い込まれたプーチンは、外交で解決しようとしたが、ウクライナのゼレンスキーは拒否。このままでは、ロシアの国家安全保障の根底がゆらぐ。外交でダメなら、武力に訴えるしかない。だから、プーチンは軍事侵攻したのである。戦争が外交の延長にあることが、はからずも証明されたわけだ。

韓国が竹島を占拠するのも、中国が尖閣諸島に侵出するのも、ロシアが北方領土を実効支配するのも、北朝鮮が日本海に弾道ミサイルを打ち込むのも「話し合い」ではなく「力ずく」。ところが、日本は「話し合いで解決」の一点張り。どっちの主張が通るかは明らかだ。日本の外交は「どうぞ獲ってください」と言うようなもの。

バカじゃないのか。

それ以前に、領土問題はどっちの言い分が正しいかは重要ではない。どんな言い分も「力ずく」でひっくり返されるから。それが、我々が今見ている現実だ。そもそも、領土問題は国の存亡にかかわるから「ガチ」になるのはあたりまえ。

今回のウクライナ侵攻は、1962年のキューバー危機に酷似している。

旧ソ連が、米国の「裏庭」キューバに、核ミサイルを運び込んだことが発覚、米国は旧ソ連にミサイルを撤去するよう迫った。核戦争寸前までいったが、両国の最高指導者、フルシチョフとケネディに1ミリの良心が残っていたから、世界の破滅は回避できた。

つまり、ウクライナ侵攻もキューバ危機も「国家安全保障」に起因する。だから、冷静かつ粘り強く対処しないと、行き着くところまで行く。

国の安全保障はそんなに大事?

と、のんきに構えるのは日本人ぐらいだろう。日本はこの80年間、戦争に巻き込まれていない。完全に平和ボケで、「武力に訴える方が悪い」の発想しかない。現実を知らない幼稚園児なみの知力だ。

冷静に考えてみよう。

日本のお隣の中国と北朝鮮は核を保有し、日本に敵対している。さらに、韓国も敵性国家だ。つまり、周囲は敵だらけで、地政学的リスクの高さはイスラエルなみ。にもかかわらず、日本は嬉しそうに平和憲法をかかげ、核を全否定している。日本は「お花畑で平和ボケが闊歩する」国なのだ。

安倍元首相が「核シェアリング(日本に米国の核兵器を配備し共同運用する)」に言及するや、与党のはずの公明党までが猛反発。岸田首相の地元は広島なので、もちろん全否定である。

日本はいびつな国だ。

「日本は被爆国だから核を保有しない」が口グセだが、論理が成立していない。もし、太平洋戦争で日本が核を保有していたら、米国は核を使わなかっただろう。米国は民主主義の国だ。都市が核攻撃で一つでも壊滅すれば、選挙で勝てないから。つまり、「日本は被爆国だから、核を保有する(二度と落とされないように)」なら筋は通る。これを「核の抑止」という。

ウクライナが、ロシアに軍事侵攻されたのは、旧ソ連から受け継いた核を放棄したから。リビアのカダフィ政権が米国に倒されたのは、核を持たなかったら。北朝鮮が潰されないのは核をもっているから。GDP世界11位のロシアが、やりたい放題なのは核大国だから。つまり、「核の保有」は国の存亡にかかわる最重要事項なのだ。こんな子供でもわかる論理を否定して、きれいごとで国を危険にさらす輩は、国滅の第一級戦犯だろう。

話をウクライナ侵攻の責任にもどそう。

2022年のウクライナ侵攻の原因は、NATOの東方拡大にある。プーチンにとって、その臨界点がウクライナだったのだ。プーチンが酔った勢いで、私欲にかられ、ウクライナ侵攻を命じたわけではない(たぶん)。

おっと・・・プーチンの応援団と思われると困るので、一つ補足。先に手を出した方が悪いという理屈もあるし、主権国家に軍事侵攻するのはさすがにまずい(現実には頻繁におきているが)。というわけで、ウクライナ戦争の責任は、米国、NATO、ウクライナ、ロシアの4者にある。

ところで、今回のウクライナ侵攻は防げなかったのか?

防げた可能性が高い。

プーチンがゼレンスキーに外交を提案したとき、「ウクライナはNATOに加盟しない(中立を守る)。そのかわりロシアはウクライナに干渉しない」という密約を交わせば良かったのだ。双方に妥協は必要だが、戦争で何万、何十万の人間が死ぬよりましだろう。

■超人Vs.超人の戦い

ウクライナ侵攻の第二のポイントは「超人Vs.超人」の戦いであること。

ロシアのウラジーミル・ウラジーミロヴィチ・プーチン大統領と、ウクライナのウォロディミル・オレクサンドロヴィチ・ゼレンスキー大統領のことだ。舌を噛みそうな名前で、とても覚えられそうにないが、この二人が「超人」である可能性が高い。もちろん、二人を讃える意図はなく、象徴的に話を面白くしているわけでもない。

そもそも、ここでいう「超人」は、賢くてたくましい、正義の味方「スーパーマン」ではない。哲学者ニーチェが言う「超人(ウーヴァーメンシュ)」である。「ウーヴァーメンシュ」とは、成功の望みは薄くても、自分の欲望から目をそらさず、挑戦しつづける者、自分の使命に覚醒した者をいう(善人とは限らない)。

プーチンは、少なくとも20年前に覚醒している。ゴルバジョフが壊し、エリツィンがボロボロにしたロシアを立て直し、旧ソ連帝国を復活させようとしているのだ。

新聞記者が、

「あなたが一番愛しているのは誰ですか?」

と問うと、

「ロシア」と即答。

パーフォーマンスではないことは、プーチン20年の治世が証明している。

一方、ウクライナのゼレンスキーも超人だろう。昔は、ひょうきんなコメディアン、運良く大統領になったお調子者、ぐらいに思っていたが、とんでもない。ウクライナ侵攻とともに、「自分の使命=ウクライナの救世主/殉教者」に覚醒した可能性がある。ウクライナを脱出して、亡命政権を樹立するのが定石なのに、祖国に踏みとどまっている。自撮りの映像をSNSにアップして、

「私はここにいる。ウクライナの独立を断固守る。それがわれわれの未来だ」

クドクド現状や実績を説明せず、熱い思いだけを伝え、国民の魂を揺さぶる。覚醒した人間の特徴だ。つまり、プーチンもゼレンスキーも「超人(ウーヴァーメンシュ)」なのである。

それが?

とても重要なことだ。この二人を超人(ウーヴァーメンシュ)と認識しないと、行動が読めないから。

事実、ウクライナ侵攻は、専門家の予測が面白いほど外れている。北京2022冬季五輪が始まった頃、まさか、ロシアは武力には訴えないだろう。ロシアがウクライナ東部に派兵しても、まさか軍事侵攻はしないだろう。ロシアが軍事侵攻しても、まさか首都キエフまで攻めないだろう。ロシア軍がキエフを攻めたら、キエフはすぐに陥落するだろう・・・全部大外れ。

予測が外れると、エライ先生たちは「プーチンは異常者、狂人である」と決めつける。自分が理解できないと「あいつはおかしい」で片付ける無脳者のおきまりのパターンだ。「私は専門家ですけど何もわかりません」と白状するようなもの。

プーチンは異常者でも狂人でもない。最近の映像をみても、腹も目も座っていて、論理は明快。言っている内容が、恐ろしくて、みんな受け入れられないのだ。そもそも、異常者や狂人なら、スキがあるから、カンタンに取り押さえれられる。そうならないのは、スキがないなら。

スキがなく、行動が読めず、大事を成し遂げるなら、それは超人である。

■クーデターか全面核戦争か?

戦争は悲劇だが、一旦始まれば、勝つか負けるかがすべて。

太平洋戦争で日本は敗北した。300万人の国民が命をおとし、原子爆弾を落とされ、国は荒廃した。あげく、すべての権益を失い、平和憲法という連合国に都合の良い憲法までおしつけられた。もし、日本が勝っていれば、ここまで国益を損なうことはなかっただろう。

でも、太平洋戦争は日本に責任があるからしかたがない?

米国が日本に突きつけたハル・ノートは「まともな主権国家」なら、絶対に呑めない。つまり、先に銃を抜いたのは日本ではなく米国なのだ。ロシアが先に軍事侵攻したから、ロシアが悪者になったのと同じ。

では、ウクライナ戦争の結末はどうなるのか?

ロシアは、短期間でウクライナを征服することはできないだろう。理由は3つある。

第一に、ウクライナ人は独立心が強く、容易に降伏しない。すでに、民間人がドローンを使ってウクライナ軍に協力している。今後、市街戦が激化すれば、市民も銃を持つだろう。

かつて、ウクライナは東スラヴ民族の中心地だった。8世紀頃、この地にルーシという公国が建国され、キエフが首都となった。その後、9世紀末、スウェーデンのヴァイキングがキエフを攻略、ルーシを征服した。それがキエフ・ルーシ(キエフ大公国)である。首都キエフは繁栄し、ルーシ(ロシア)の母とまでいわれた。そのキエフが、現在のウクライナの首都なのだ。

つまり、ウクライナはロシアの起源であり、それがウクライナのアイデンティティを形成し、独立心を培った、といっても過言ではないだろう。

第二に、ウクライナ軍はゲリラ戦で成果をあげている。

トルコから偵察攻撃ドローン「バイラクタルTB2」、米国から対戦車ミサイル「ジャベリン」、携帯型地対空ミサイル「スティンガー」を供与され、有効活用している。この小型兵器を携帯したウクライナ歩兵は、物陰やビルで潜んで、ロシアの航空機や戦車を破壊している。地の利があるぶん、ウクライナ軍に有利だろう。ベトナム戦争でベトナムがフランスと米国に勝ったのも、アメリカ独立戦争で、植民地側がイギリス本国に勝ったのも、このゲリラ戦のおかげ。隊列をくまず、バラバラで戦うので「散兵戦」ともいう。

第三に、ロシア軍は絶対兵力が足りない。ウクライナの人口は4400万人だが、これを完全に制圧するためには、数十万の兵力が必要だろう。

根拠がある。

太平洋戦争末期、米国による日本本土上陸作戦「ダウンフォール作戦」が計画された。

まず、1945年11月1日にオリンピック作戦が始動する。九州南部に空軍基地を設置し、日本本土全域を空爆するのが目的だ。九州に上陸するのは、海兵隊と陸軍の14個師団で、総兵力40万人。

つぎに、1946年3月1日、コロネット作戦が始動する。目標は首都東京の占領と日本の降伏だ。湘南海岸と九十九里浜に二手に分かれて上陸する兵力は、25個師団、50万人。この時代の日本の人口は、現在のウクライナとほぼ同じなので、これくらいの兵力は必要だろう。

ところが、現在のロシアの地上軍は10万強。

では、ウクライナ戦争はロシアが負ける?

戦線が膠着すれば、クーデターの確率が高まるから、早期決着しかない。そのためには、プーチンは戦術核(小型核爆弾)の使用もいとわないだろう。その場合、ウクライナは大損害を被るが、ロシアは国際社会で孤立する。さらに厳しい経済制裁も課せられ、ロシアの経済は一時的に破綻するだろう。

だが、ロシアは米国とならぶ資源大国だ。時間はかかるが、最終的に自給自足できる。問題は、西洋文化に慣れ親しんだ若い世代がどれだけ我慢できるか?経済が安定するまで、政権がもつかわからない。少なくとも、クーデターの確率はさらに上昇するだろう。さらに、ロシアが孤立すれば、旧ソ連大帝国の復活は望めない。強大な「米国&EU&NATO」連合に押し込まれ、ジリ貧になるだろう。

つまりこういうこと。

ロシアがウクライナを制圧しようがしまいが、プーチンに「勝利」はない。とはいえ、プーチンは超人(ウーヴァーメンシュ)で稀有の勝負師。決して負けは認めない。

では、どうするのか?

引き分けに持ち込む。つまり、全面核戦争だ。

おおげさ?

さにあらず。

■核報復システム「死の手」

2005年に、ガイアチャンネルチャンネル~3D地球儀で眺める世界史~という歴史コンテンツがリリースされた。人類5000年歴史を再生するPCソフトだが、後に仮想シナリオが追加された。尖閣諸島で有事が発生し、偶然に偶然が重なり、「ロシアの死の手」が始動し、全面核戦争が勃発、人類が滅亡するという筋書きだ。

その仮想シナリオに登場する「ロシアの死の手」が現実になるかもしれない。

じつは、ロシアの「死の手」は実在する可能性が高い。他国の核攻撃を検知したら、自動的にICBMを発射するシステムだ。つまり、ロシアの指導者が死んで、核のボタンを押せなくなっても、核の報復ができる。

問題は、どんな条件で核が自動発射されるのか?

信じたくないが、「プーチンの死」も含まれると言う説がある。その場合、クーデターでプーチンが失脚しても、核は発射される。ロシアの最新のICBM「サルマト」は、マッハ20で飛行するので、迎撃は不可能。しかも、最大16個の核弾頭が搭載されるので、10発で米国を壊滅させられるという。

「ウクライナ侵攻はプーチンが悪い」なんて言っている場合ではない。悪者を指名したところで、全面核戦争は回避できないのだ。

そもそも、もめ事は両方の言い分を聞くべきだ。理由はさておき先に手を出した方が悪い、では問題解決にならないから。

そんなこんなで、ウクライナ侵攻は「不都合な真実」で彩られている。

ひるがえって日本。

北朝鮮が弾道ミサイルを日本海に打ち込もうが、中国が尖閣諸島に侵出しようが、ロシアが北方領土を実効支配しようが、ウクライナ侵攻がおころうが、「まことに遺憾」、「重大な懸念」、「緊張感をもって対処したい」・・・

バカじゃないのか。

「何もしません」と公言するようなものじゃないか。これで高額な議員報酬をもらえるなら、政治家は「いい商売」だ。二世、三世議員がはびこるのは当然だろう。

かつて、ウクライナは旧ソ連で第2位の軍事大国だった。ところが、ソ連崩壊後、平和国家をめざし、通常兵力を削減し、核兵器も放棄した。もし、ウクライナがかつての軍事大国だったらら、こうもカンタンに攻められなかっただろう。

ここでカンタンな質問。

平和憲法で日本が守れますか?

ロシアから日本を守れますか?

中国から日本を守れますか?

核ミサイルから日本を守れますか?

見たくないものから目をそらし、きれいごと言ってると、ウクライナの二の舞になりますよ。数万の死傷者をだし、数百万人の難民をだしても、平気ですか?

もっとも、日本は四方を海に囲まれているから、「難民」は難しい。韓国や中国が受け入れるとは思えないから。狭い島国に押し込まれて討ち死に?

誰かが言いましたとさ・・・

日本の為政者は、自分の財産が増えるなら、国が燃えるのも見ていられる人間です。

《つづく》

参考文献:
第二次世界大戦秘録幻の作戦・兵器1939-45マイケル・ケリガン(著),石津朋之(監訳),餅井雅大(翻訳)出版社:創元社

by R.B

関連情報