貧富の差が拡大する原因~勤労所得と不労所得~
■拡大する貧富の差
富の一極集中が加速している。富める者はますます富み、貧しき者はさらに貧しく。
原因は「不労所得>勤労所得」につきるだろう。汗水流して働くより、投資する方が儲かるわけだ。とはいえ、不労所得は投資資金が必要なので、生活で手一杯の人はムリ。非力な勤労所得に頼るしかない。一方、富裕層は強力な不労所得でガンガン稼ぐから、貧富の差が拡大するのはあたりまえ。
米国の状況をみてみよう。2020年末、家計資産の31%を上位1%の超富裕層が保有する。単純計算で、じつに30倍の格差だ。米国は格差社会の象徴だが、最近、日本でも加速している。
中国より社会主義的といわれる「平等国家」の日本が?
イエス。
原因は2つある。第一に、先進国の中で、日本だけが「勤労所得」が伸びていないから。勤労所得が頼りの庶民には大きなハンディだ。第二に、日本はリスク資産に投資する人が少ない。そのぶん、不労所得を得る人も少ないわけだ。これに「不労所得>勤労所得」のルールを掛け合わせれば、日本で貧富の差が拡大する原因が浮かび上がる。
ところで、本当に、日本の不労所得と勤労所得は少ない?
まずは、勤労所得。
日本の世帯年収は、この20年で10%減っている。616万円(2000年)から552万円(2020年)へ。こんな落ち込みは、発展途上国はもとより先進国でも珍しい。伸び率だけではなく、絶対額も少ない。2019年の年収を他国と比較してみよう。
・米国:6万5836ドル
・ドイツ:5万3638ドル
・韓国:4万2285ドル
・日本:3万8617ドル
日本は、米国の60%、ドイツの70%、韓国の90%しかない。ちなみに、韓国は先進国と発展途上国の間に位置する。その韓国にも負けているのだ。この不都合な真実は日本ではあまり知られていない。日本は世界に冠たる経済大国と、みんな信じているのだ。
つぎに、不労所得。
家計所得の内訳をみてみよう。日本は、90%が勤労所得で、不労所得は10%にすぎない。一方、米国は勤労所得は75%で、不労所得は25%と日本の2.5倍。
ではなぜ、こんな差があるのか?
日本人は、不労所得の源泉、リスク資産に投資しないから。
不労所得とは、投資で得られるリターン(利益)のことで、インカムゲインとキャピタルゲインがある。インカムゲインとは、株の配当金や不動産の家賃収入。キャピタルゲインは保有資産の売却益。たとえば、1株500円の株式を1000円で売却すれば、税と手数料抜きで1株あたり500円儲かる。実際、IT、半導体銘柄なら、この数年で2~10倍はザラ。もちろん、株は暴落することもあるが、中長期でみれば、勤労所得を凌駕する。
ここで、日米の金融資産の内訳を比較してみよう。日本は現金・預金が51%で、株式・投資信託は17%。一方、米国は株式・投信信託が48%で、日本の3倍もある。つまり、日本が不労所得が少ないのは、株式・投資信託などのリスク資産が少ないから。
■崩壊する終身雇用
では、勤労所得は頼りにならない?
そうでもない。勤労所得も重要だ。
まず、勤労所得と豊かさはアナログで比例するわけではない。一定額を境に巨大な段差があるのだ。現在、日本の勤労所得は減りつつあるが、ダメージはデジタルだ。年収2000万円が減るのと、年収300万円が減るのでは大違いなのだ。前者は投資に回す金額が減るだけ。では後者は?
勤勉と節約で続けてきたささやかな投資がゼロに。不労所得への道が一気に絶たれる。つまり、勤労所得は不労所得を介して、貧富の差を生んでいるのだ。
それでも、日本は他国にない不文律「終身雇用」があった。給料が安かろうが、社畜と揶揄されようが、定年まで勤めあげれば、人生は成立する。昭和を代表する喜劇俳優の植木等はこう言い放った。
「サラリーマンは気楽な稼業ときたもんだぁ~」
リストラというコトバがまだない時代、それが終わろうとしてるのだ。
厚生労働省のデータをみてみよう。
新型コロナ感染拡大による解雇や雇い止めの人数が、2020年9月に6万人、2021年3月に8万人、4月に10万を突破した。体力のない中小・零細だけではない。大手までが早期・希望退職を加速させているのだ。2021年、上場企業の募集人数は前年同期比で約2倍になったという。
新型コロナで業績が悪化したから?
一理があるが、黒字リストラが増えているのはなんで?
2019年に早期・希望退職者を募集した上場企業35社のうち、6割が黒字だったという。
では、非正規雇用が増えたから?
それは、一理も二理もあるだろう。非正規雇用は正社員より解雇しやすいから。
最近、周囲で面白い説がハバをきかせている。非正規雇用が増えた原因は、2001年の小泉首相・竹中大臣にあるというのだ。たしかに、小泉・竹中政権は郵政民営化を断行し、非正規雇用を正当化した。おかげで、企業は業績に合わせて社員を増減できるようになった。早い話、本来「固定費」のはずの人件費が「変動費」に置き換えられたのである。だから、非正規雇用を増やし、終身雇用を破壊したのは小泉・竹中政権!?
ちょっと違うかも。
非正規雇用の増加は、小泉政権の14年前から始まっているから。バブル崩壊前の1987年、非正規雇用の比率は19.7%だった。そこから上昇に転じ、2012年に38%に達し、それが現在まで続く。
とはいえ、何が始まりかは重要ではない。この35年で非正規雇用率が2倍になり、終身雇用の崩壊を加速させたこと、それが問題なのだ。
ところが、一つ謎が。
小泉・竹中政権が非正規雇用を正当化したのは、グローバル化する世界ビジネスで勝利するため。ところが、あれから20年、日本の国際競争力は低下するばかりだ。
2019年から2021年のGDPの伸び率をみてみよう。G5(日本、アメリカ、ドイツ、イギリス、フランス)の中で日本は最低。もちろん、中国には遠く及ばない。これじゃ、所得が伸びないのはあたりまえ。結局、日本で増えたのは、賃金が安く、解雇されやすい非正規雇用だけだった。
■伸びない日本のGDP
ではなぜ、日本のGDPは伸びないのか。
これもビジネス現場では定説が存在する。政府が財政政策に消極的だから。財政政策はおもに公共事業だが、財政支出をともなうので、財政赤字が拡大する。だから、国のサイフを握る財務省が嫌がるのだ。
財務省は「PB=プライマリーバランス=財政収支」を重視する。カンタンにいうと、国の歳入と歳出のバランスをとり、借金を増やさないこと。家計におきかえれば、しごく真っ当だ。身の丈にあった生活をしようと言っているのだから。一方、景気が冷え込んだら、歳出(公共投資や減税)を増やすのも間違っていない。最終的にGDPが増え、歳入(税収)も増えるから。とはいえ、原資は国債(国の借金)なので問題は程度。つまり、ご利用は計画的に!
ところが、最近、過激な説が台頭している。現代貨幣理論(MMT)だ。カンタンに言うと、お札をバンバン刷って、財政政策ガンガンをやろう。財政赤字(借金)がどんだけ増えても大勢に影響はない、というわけだ。一応、根拠もあり、最近は革新派のインテリ層が支持している。とはいえ、極端な財政赤字は、国債と円の暴落を起こしかねない。どっちが正しいかは神のみぞ知る。つまり、出たとこ勝負。
だが、個人的にはこう考えている。GDPと所得が伸びないのは、日本の知力が劣化しているから。国の根幹「人」がダメなら何をやってもうまくいかない。
新型コロナで政治家の不祥事、医療崩壊、COCOAの重大バグ、ワクチン開発はもとよりワクチン接種すら進まない。緊急事態宣言を出したり、引っ込めたり、そのたびに感染者数が増えたり減ったり。同じことを何度繰り返せばわかるのだ?歴史から学ぶどころか、経験からも学べない。これが国のトップリーダーなのだから、その支配下にある国は押して知るべし。
ではなぜ、日本で「知力の劣化」がおきているのか?
20年前、日本人は本を捨て、マンガしか読まなくなった。ところが、その後、マンガの販売部数も減って、ゲームが台頭。今は、スマホとYouTubeが我が世の春を謳歌している。活字は死に、ビジュアルとボイスが生き残ったわけだ。これでは「考える力」が劣化するのはあたりまえ。
なぜか?
一般に、活字は映像にくらべ表現力が少ないと言われる。だが、それは想像力が劣化しているから。活字を読んで想像力を働かせれば、脳内に無限の世界を作り出せる。つまり、活字は想像力、思考力、直感力、洞察力の源泉なのだ。
昨今、情報収集はインターネットが主流だ。本より情報がコンパクトでわかりやすいから。「世界を5分で理解する」というわけだ。んなわけない、森羅万象が5分で理解できるなら苦労はない。
本とインターネットの違いは「長文か否か」につきる。本なら500ページはザラだが、ネット記事ではありえないから。
ではなぜ、長文なのか?
長文は、無数の単語と長大な文脈を分析・理解し、記憶する必要がある。でないと500ページも読めないから。つまり、長文は脳全体を使いきらないとムリ。
わかりやすい話をしよう。
ホログラムは、立体画像を映し出す装置だが、写真とは根本が違う。写真は画像の半分を切り取ると、残った半分だけが見える(あたりまえ)。一方、ホログラムは画像の半分を切り取ると、半分の画像が映し出されるわけではない。全体がぼやけた画像が映し出されるのだ。つまり、ホログラムの画像情報は、ホログラム全体に分散されている。
人間の脳も、写真ではなくホログラム式なのかもしれない。具体的には、脳の思考や記憶は、脳全体のニューロン間の接続の強度を調整すること。つまり、脳はホログラム同様、分散表現なのだ。
カリフォルニア大学の研究によれば、脳はコトバや情報から「エピソード的な文脈」を作り、この文脈をもとに思考、検索、記憶を行うという。エピソードは物語であり、単語のつぎはぎではない。つまり、思考・記憶のフォーマットは、脳内ネットワーク全体を使った分散表現なのだ。というわけで、長大な文章を読み、脳全体を活性化させるることは「知力」の向上につながる。
ところが、それ以前に、日本人は自分のアタマで考えなくなっている。政治の劣化はその象徴だが、経済もしかり。これまで、4つの会社で働いたが、ムダ・ムラ・ムリがはびこっていた。とくに、ムダな仕事、会議、出張が多い。それに疑いをもつ者もほとんどいない。たとえいたとしても、「カイゼン」の名のもと、ムダ・ムラ・ムリの微減で満足している、残業が増えるのはあたりまえ。
一方、最近、日本では、官民あげて残業時間を減らそうとしている。残業が「悪」に認定されたのだ。
でも、これもおかしい。
圧倒的な商品力と高い時価総額を誇るアップル、電気自動車のテスラは、残業はあたりまえ、過酷な労働で知られる。国や企業の力は、ありきたりのモノサシでは測れないのだ。一方、日本にも日本電産(小型モーター)やキーエンス(電子機器)や信越化学(半導体ウエハ)のように、独自の経営方針で圧倒的競争力を誇る企業がある。彼らが自分のモノサシをもっていることは明らかだ。
劣化する年金
話をもどそう。
日本は、給料は上がらず、退職金も減り、リストラ・早期退職が常態化している。これは、一体何を意味するのか?
じつは恐ろしい話・・・「労働」自体の価値が急落しているのだ。
じゃあ、ボク、ワタシの老後はどうなる?
年金に頼るしかない?
それもムリ。
2019年、金融庁の報告書で露見した年金2000万円問題である。老後、年金だけでは2000万円不足するというのだ。
年金の保険料をちゃんと払っているのに、もらう段になったら、不足するって、どーゆーこと、政府は責任を放棄するのか、と非難の声があがった。あわてた麻生金融担当大臣が、国民に誤解と不安を与えたとして、報告書の受理を拒否。前代未聞の事態となった。
でも、政府を非難しても何も解決しない。事実として受け入れ、解決するしかないだろう。どこの誰でもない、自分自身の老後なのだから。
まずは状況把握しよう。
非難をあびた金融庁の報告書「高齢社会における資産形成・管理」が参考になる。論理に誤魔化しはなく、事実だけが淡々と記されている。しかも、すべてエビデンス付き。的中率99%の予言の書と言っていいだろう。
ところが、マスメディアや識者は、論点をずらして責め立てた。いわく、ローンを抱えている人、資産を持っている人、暮らしぶりも人それぞれ、それをいっしょくたに「2000万円」はおかしい、というわけだ。
そこ?
的外れですよね。このまま少子高齢化社会が続けば、2050年には1.3人で1人を支える社会が到来する。現役世代1.3人で、1人分の年金を負担するわけだ。2020年は2.0人で1人を負担しているので、解決方法は3つしかない。年金支給額を33%減らすか、保険料を33%増やすか、支給開始年齢を繰り下げるか。実際は、この3つの合わせ技になるだろう。というわけで、リタイア後、年金一本はムリ。
ではどうしたらいいのか?
自助しかない。
昨今の政府は、失策と不祥事を連発し、不用意な言動も後をたたない。そんな政府に、自分の老後を賭けるのはリスクの大きいギャンブルのようなもの。
ノー、確実に失敗するギャンブルです。
じゃあ、具体的にどうすればいい?
リスク資産に投資するしかない。
銀行預金は?
論外。銀行にお金を預ければ、増えるどころか、確実に目減りする。メガバンクの銀行利息が年率0.002%、をお忘れなく。日本の物価は安定しているから大丈夫では?
とんでもない。
最近、仰天することがあった。
今、パラレルワールドにドハマリで、そのバイブル「ワープする宇宙5次元時空の謎を解く」を愛読している。ハーバード大学の終身教授のリサ・ランドールの名著だが、話はそこではなく、2007年に買ったとき2990円だった。それが、2021年現在、3990円!
本が14年で33%値上がりしているとは、夢にも思わなかった。銀行利息0.002%で回収するには、単純計算で1万6500年、シャレにならん!
値上げは本だけではない。この20年で自動車は1.5倍になっている。電車賃など公共料金も上がるばかり。生活に欠かせない食料品もステルス値上げが横行している。価格をすえおいて、中身を減らす悪徳商法?つまり、物価は確実に上がっているのだ。それも0.002%どころではない。
つまりこうこと。
リスク資産は勝つか負けるかは五分五分。一方、銀行預金は負けが確定。だから、消去法で投資しかないのである。
by R.B