電気自動車~テスラ モーターズ~
■完全無欠の電気自動車
100%Electric!
テスラモーターズ(TeslaMotors)のウェブサイトに刻まれたキャッチコピーだ。イーロン・マスク率いるこの無名のベンチャー企業が2008年から量産する「テスラロードスター」は、バッテリーとモーターで走る完全無欠の電気自動車だ。あのコピーは、ハイブリッドカー、つまり、世界のトヨタを挑発している。
自動車も、やっと本来の姿に戻るのかもしれない。今から100年前、自動車の動力はまだ定まっていなかった。ガソリン自動車は爆発の危険があり、電気自動車や蒸気自動車の方がまだマシだった。ところが、不世出の天才ヘンリー・フォードとそのライバルたちの不屈の努力によって、ガソリン自動車が勝利したのである。
あのサバイバル競争で、電気自動車が勝利していたら、世界はどうなっていただろう。電気自動車は「電動モーター+バッテリー」で動くので、排出ガスはゼロ、完全無欠のクリーンエネルギーだ。今より、空気はずっときれいで、地球の温暖化も緩慢だっただろう。もちろん、空の美観も損なわれることはない。モーターでは、あの騒々しい飛行機は飛ばせないから。
飛行機が飛ぶ原理は単純に「揚力>重力」。なので、飛行機のあるべき姿は、
1.重力を小さく→軽量化
2.揚力を大きく→高速化(速く飛ぶほど揚力は大きくなる)
当然、航空機エンジンに要求されるスペックは「軽量で高出力」。ところが、蒸気機関は重量当たりのパワーが小さく、モーターはバッテリーの問題があり、航空機用エンジンとしては使えない。つまり、電気自動車が勝利した世界では、ガソリンエンジン(内燃機関)は淘汰され、飛行機は存在しない。ただ、ギリシャ神話「イカロスの翼」が物語るように、人間には「空を飛びたいDNA」がある。だから、飛行機に代わる別の飛行体が進化していただろう。たとえば、飛行船。
飛行船は、水素やヘリウムが生む浮力で浮遊する。なので、高出力エンジンでガンガン加速して、揚力を稼ぐ必要はない。すでに浮いているものを、前進させるだけでいい。これなら、モーターや蒸気機関で十分である。実際、1852年9月24日に飛んだ史上初の飛行船は蒸気飛行船だった。しかも、この飛行船に搭載された蒸気機関はたったの3馬力。それでも、優雅に空を飛んだ。
一方、飛行機は揚力だけで空を飛ぶ。しかも、大きな揚力を得るには、スピードを上げるしかない。スピードが落ちて、「揚力<重力」なら、たちまち墜落だ。油断もすきもない。外資系企業の気の抜けない激務は、このせちがらい飛行原理にたとえられている。
「外資で働くのは、ジャンボ機を地上10mで操縦しているようなもの」
うまいたとえだが、飛行機の本質を言い当てている。たまに乗っても、生きた心地がしないのはそのせいだ。窓にへばりつき、目をこらし、翼を凝視する。そんな心配をよそに、グラグラ揺れる翼。金属疲労でいつかは折れる・・・絶対だ。ところが、飛行船なら、そんな心配はない。たとえ、エンジンが止まっても、すぐには墜ちないから。飛行船は飛行機より、ずっとスジのいい乗り物なのだ。
■テスラモーターズ
話を「テスラモーターズ」にもどそう。2003年にシリコンバレーで設立されたこの会社は、自動車製造の経験を持たない。ところが、わずか5年で電気自動車の量産にこぎつけた。社名も大胆不敵だ。あの電気工学のカリスマ「ニコラ・テスラ」にちなんでいる(たぶん)。電気自動車でトップを目指すなら、これしかないだろうが。価格も1000万円と唯我独尊だが、歴史年表に刻まれることは間違いない。売れようが売れまいが、「歴史上初の量産型電気自動車」として名が残る。ヘンリー・フォードの「T型フォード」ように。
テスラモーターズのウェブサイトによると、テスラロードスターのスペックは、以下のとおり。
1.ボディー
・座席2つのオープンカー(見るからに狭い)
・型成形によるアルミニウム製シャーシー(強度は大丈夫か?)
2.動力
・三相交流モーター:ニコラ・テスラの発明品(社名はここから)
・最大出力:248馬力-185kW
・最大回転数:1万3000rpm(F1レーシングカーなみ)
・効率:平均90%/ピーク時80%(さすがはモーター)
・最大速度:230km/h
・加速:0km~111km/hまで4秒(ポルシェなみ)
3.エネルギーユニット
・バッテリー:リチウムイオン電池
・航続距離:約407km(実用レベル)
・フルチャージ時間:3.5時間(本当?)
・バッテリー寿命:18万5000km(本当??)
些末なことに目をつむれば、一応、実用レベルだが、問題はバッテリー。フルチャージに3時間半もかかるので、注意が必要だ。無計画に走りまわり、燃料が切れたら、終わり。スタンドで補給というわけにはいかない。充電用スタンドはまだ存在しないし、仮にあったとしても、3時間半も待たされる。ただ、将来的は、ホテルや娯楽施設に充電用スタンドが設置され、レジャーにも使われるようになるだろう。
近い将来、家庭用の「太陽光発電+充電池」が普及し、昼も夜も電気エネルギーが使われるようになる。もちろん、太陽光はタダなので、電気代もタダ。また、日中に充電した電気エネルギーを、夜中に、電気自動車に充電すれば、自動車の燃料もタダ。そうなれば、燃費もクソもない。
■ガソリンエンジン対モーター
ここで、自動車の原動機を整理しよう。原動機とは、車を動かす心臓部で、ガソリン自動車ならガソリンエンジン、電気自動車ならモーターをさす。ガソリンエンジンは、ガス爆発で往復直線運動を発生させ、それを回転運動に変換し、車輪を回す。そのため、効率は悪いし、振動はするし、音もでかい。そもそも、基本はガス爆発。専門書には、「爆発」ではなく「燃焼」と書いてあるが・・・
一方、モーターは、
「磁界の中の導線に電流を流すと、導線が力をうける」
という摩訶不思議な原理で動く。具体的には、
「磁石のそばに電線をおき、そこに電気を流すと、流れている電気が磁石から力を受ける」???
よけいややこしくなったので、一言でくくってしまおう。
「磁石と電気で、物を動かす力を生み出す」
結局、意味不明だが、このような力を電磁力とよんでいる。
モーターの電磁力は、車軸を回転させる方向に発生するので、ガソリンエンジンのように「往復直線運動→回転運動」の変換が不要になる。つまり、効率が良く、音も小さく、振動も少ない。どう考えても、モーターはガソリンエンジンより優れている。ではなぜ、100年前、モーターはガソリンエンジンに敗北したのか?理由は、今も昔も変わらない、バッテリー。
■エネルギーとは?
ここで、「エネルギーと仕事」について考えてみよう。まず、テスラロードスターが停止しているとする。この時、バッテリーに蓄えられているのがエネルギー。エネルギーはモーターを回転させ、車を動かす力を秘めているが、停止している限り、仕事をしたことにはならない。つまり、エネルギーとは仕事をする潜在的能力のことである。一方、仕事とは、運ぶ・持ち上げるなど実際に骨を折ることをさす。
つぎに、アクセルを踏み込み、テスラロードスターを発進させる。このとき、バッテリーに充電されたエネルギーがモーターに注入され、車輪を回転させる。バッテリーのエネルギーが、「車輪の回転=仕事」に変換されたのである。このような装置を「原動機」とよんでいる。つまり、原動機とはエネルギーを仕事に変換する装置のことである。
一見ハイテクに見える原動機だが、じつは、古くから存在する。たとえば、風車や水車。風車は風力エネルギーを、水車は水力エネルギーを、それぞれ回転運動に変換する。これも、立派な原動機だ。もちろん、現代では、主流はモーターや熱機関。モーターは電気エネルギーを、熱機関は熱エネルギーを利用する。熱機関はさらに、内燃機関と外燃機関に大別される。この2つは、現代文明を担う二大機関。教養を深めるため、一気に丸かじりしよう。
■内燃機関対外燃機関
ワットが発明した蒸気機関は、18世紀に起こった産業革命の原動力となった。そして、史上初の人工的機械力でもある。というわけで、蒸気機関の歴史意義は大きい。蒸気機関は、その名のとおり、水蒸気を利用する。まず、ボイラーで燃料を燃やし、水蒸気を発生させ、その蒸気圧でピストンを往復運動させる。この往復運動を変換すれば、回転力を含めあらゆるタイプの「力」が得られる。
一方、水蒸気を羽根車に吹きつけて回転させる、という方法もある。これが、「蒸気タービン」で、船舶や原子力発電で利用されている。船舶ではスクリューを回転させ、推力を得る。原子力発電では、発電機を回転させ、電力を得る。いずれにせよ、燃料を機関の外で燃やすため、外燃機関とよばれている。
外燃機関の反対言葉が、内燃機関だ。内燃機関は、その名のとおり、燃料を機関内部で燃焼させる。円筒状のシリンダーの中で、空気とガソリンの混合ガスを爆発させ、往復運動を発生させ、回転運動に変換するのがガソリンエンジン。現代の自動車、プロペラ飛行機の原動機はこれ。ジェットエンジンは方式は異なるが、燃料を機関内部で燃焼させるので、やはり内燃機関。つまり、我々がエンジンと呼んでいるものは、内燃機関と考えていい。つぎに、外燃機関と内燃機関を比較しよう。
1.外燃機関は燃料を選ばないが、内燃機関は選ぶ。
外燃機関は、燃料を燃やすユニットが機関本体と独立しているので、燃料を選ばない。石油、石炭、木材、廃材、原子力、熱エネルギーが得られるならなんでもいい。一方、内燃機関は、コンパクトで精密なシリンダの中で燃焼させるため、燃料は限られる。たとえば、瞬時にガス化できない石炭や廃材はムリ。
2.外燃機関は小型化は難しいが、内燃機関は可能。
外燃機関は、機関本体のほかに、燃料を燃やすユニットが必要なので、小型化が難しい。一方、内燃機関は、機関本体と燃焼ユニットが一体化しているので、小型化が容易だ。
3.外燃機関は動作音が小さいが、内燃機関は大きい。
基本、外燃機関は「燃焼」、内燃機関は「爆発」である。
4.外燃機関は重量あたりの出力が小さいが、内燃機関は大きい。
外燃機関、内燃機関ともに熱エネルギーを機械的エネルギーに変換する。そのため、変換効率が高いほど、大きなパワーが得られる。この熱効率において、内燃機関は外燃機関に優る。しかも、パワーが同じなら、内燃機関は外燃機関より軽い。つまり、軽量で大出力を得るなら、内燃機関。自動車、飛行機など輸送機械で、内燃機関が使われるのはそのためだ。
5.外燃機関は大型化が可能だが、内燃機関は難しい。
内燃機関は外燃機関より、はるかに精密なので、大型化が難しい。小さくて、精緻な機械式腕時計を、そのまま大型化したことを想像してほしい。あちこち、曲がったり、たわんだり。ちゃんと動かすのは大変だ。つまり、内燃機関のような精密機械を大型化するのは難しいのである。
総括すると、燃料を機関の外で燃やせば「外燃機関」、中で燃やせば「内燃機関」。違いはこれくらいで、大きな差はない。燃焼ユニット、往復運動ユニット、回転運動への変換ユニット、と基本構造はほぼ同じ。
ところが・・・
モーターはまるで別もの。燃焼ユニット、往復運動ユニット、変換ユニットのいずれもない。しかも、利用するエネルギーは、熱エネルギーではなく、電気エネルギー。熱機関に比べれば、モーターは異形のテクノロジーなのだ。ところが、こんな相いれないテクノロジーの混合種が存在する。ハイブリッドカーだ。
■ハイブリッドカー
ハイブリッドカーといえばトヨタのプリウス、プリウスといえば高燃費。驚異のカタログスペックはさておき、実際、リッター20km以上は走るらしい。普通のガソリン車の約2倍。プリウス愛好家の友人が言うには、
「ガソリンを入れるの忘れる」
ハイブリッドカーの高燃費の秘密は、ガソリンエンジンとモーターを併用することにある。ガソリンエンジンは、低速域では燃費が悪い。そのため、スタート時にはモーターを使う。逆に、高速域では、ガソリンエンジンの燃費が向上するので、ガソリンエンジンに切り替える。どっちが燃費がいいかを都度、計算し、自動的に切り替えてくれる。低速走行が多い町乗りなら、燃費はかなり向上するだろう。一方、高速道路ではどうか?「一定速度で高速走行」では、モーターの出番はなく、常時ガソリンエンジン駆動となる。当然、モーターとバッテリーの重量分、ガソリン車より燃費は悪くなる。
ところで、バッテリーの充電はどうするのだろう?じつは、充電を意識する必要はない。減速時に自動的に充電してくれるから。仕掛けは、
「モーター=発電機」
にある。モーターに電気を流せば回転力が生じるが、逆に、外部から回転力を与えれば、モーターに電気が生じる。これが発電機だ。具体的には、減速時に、モーターへの通電をやめれば、発電機に変身、車輪の回転力から電気が得られる。それをバッテリーに充電するわけだ。
■未来の動力
効率化を徹底し、利用できるものは何でも利用する。これが日本式だ。ハイブリッドカーは、第二次世界大戦中、驚異の燃費を誇ったゼロ戦をほうふつさせる。ゼロ戦は、機体形状を維持する骨組みにまで穴を開け、軽量化を徹底した。欧米にはない発想だ。既存技術を駆使し、ちまちま改善するのが日本式だ。ハイブリッドカーはその延長にあり、この世界で、日本の右に出る者はいない。
一方、テスラモーターズが目指すのは、完全無欠のアメリカ式。中途半端は切り捨てて、100%Electric!シンプルで、カッコ良く、明快。さらに、リスキーな未完のテクノロジーにかけるのもアメリカ式だ。当面、ハイブリッドにはかなわないだろうが、最終的には勝利するだろう。歴史的にみて、ハイブリッド種が長生きした試しはないので。
たとえば、17世紀初頭に登場した機帆船(ペリーの黒船もこれ)。機帆船は、蒸気機関で外輪を回し、推力を得るが、帆も備えていた。つまり、「蒸気船+帆船」のハイブリッド種。このハイブリッド船は、歴史上類を見ないほど短命で、模型マニアが見向きもしないほど不格好だった。
バッテリーの充電能力が劇的に向上すれば、輸送機械に革命が起こる。地球を害する化石燃料を大量消費するエンジンは衰退し、クリーンなモーターが主流になるだろう。少なくとも、陸上輸送はそうなる。電気自動車にとって100年越しのリベンジなのだ。
これまで、こぢんまりした家電製品にとどまっていた電気技術が、自動車、船のような「輸送機関」まで乗っ取ろうとしている。電気技術は、制御だけでなく動力の世界でも、機械技術に取って代わろうとしている。後世、今の時代は、エジソン以来の第二の電気革命と呼ばれるかもしれない。
by R.B