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週刊スモールトーク (第373話) 宝達山の謎(2)~伝説の森・モーゼパーク~

カテゴリ : 人物娯楽歴史

2017.09.17

宝達山の謎(2)~伝説の森・モーゼパーク~

■モーセの十戒

父の話を真に受けたわけではないが、宝達山を探索することにした。

「宝達山」は、石川県・能登地方の最高峰である。

名に「宝」を冠しているのは、昔「金(Gold)」が採れたから。とはいえ、今は金も採れず、標高は700m足らずで、風光明媚というわけでもない。ところが、そんな何のとりえもない山に驚くべき伝説がある。なんと、「モーセの墓」があるというのだ。

「モーセ」といえば、ハリウッド映画「十戒」を思い出す人もいるだろう。ヘブライの民を率いて、エジプトを脱出、行く手をはばむ紅海を真っ二つ・・・お騒がせ名優チャールトン・ヘストンがモーセ、地味な名優ユル・ブリンナーがエジプト王ラムセスを演じていた。原作は旧約聖書の「出エジプト記」、昔一世風靡した歴史スペクタクル映画である。

モーセは、海を割ったあと、ヘブライの民といっしょに海を渡り、再び海を閉じて、追ってくるエジプト軍を壊滅させた。その後、モーセはシナイ山にのぼり、神から十戒を授かった。およそ3000年前の話である。

そのモーセの墓が、石川県・能登の宝達山にある!?

モーセが来日していた!?!

一体どうやって!?

シナイ山から宝達山まで、地球を半周すること9197km。こんな長大な距離をどうやって移動したのだ?

3000年前だから、飛行機はもちろん、大洋を航海する船もない(川舟はあったと思う)。

荒唐無稽、奇妙奇天烈・・・4文字熟語が次々と湧き上がる。いつもなら歯牙にもかけないのだが、今回はそうはいかない。宝達山の第二の謎がからんでいるのだ。

■オリーブとモーセの墓

宝達山の近くに謎の巨木がある。

巨木と言っても、杉や松なら気にもとめないが、なんと「オリーブの木」なのだ!

樹高は10mを超えるから、樹齢は数十年以上だろう。ところが、日本でオリーブの栽培がはじまったのは100年前。温暖な香川県(小豆島)、三重県、鹿児島で栽培されたが、成功したは小豆島だけだった。オリーブは地中海原産なので、地中海性気候に似た「瀬戸内海式気候」でしか育たなかったのだろう。

ところが、豪雪地帯の北陸で、数十年以上前からオリーブがすくすく育っている!?

北陸地方は、20年前まで平野部で積雪2、3mも珍しくなかった。そんな酷寒の土地で、地中海原産の樹木がどうやって生き延びたのだ?

荒唐無稽、奇妙奇天烈・・・ところが、今回は物的証拠がある(↓)

宝達町の巨大オリーブの木背景の民家はぼかしてあるが、樹高は10mを超える。北陸でこんなオリーブの巨木、見たことがない。
しかも、実がたわわ。オリーブは1本では実がならないはずなのに(例外はある)。

つまり、宝達山のオリーブの巨木はオーパーツ!?(その時代、その場所ではありえないモノ)

そして、この二つの宝達山の謎、「モーセの墓」と「オリーブの巨木」をつなぐと、面白い仮説が生まれる・・・宝達山に、オリーブの木を持ち込んだのは、モーセではないか?

オリーブは地中海原産で、モーセは地中海世界で活躍した人物である。もし、モーセが来日?していたら、そのときオリーブを持ち込んでいても不思議はない。

そう考えると、「不自然な」オリーブの巨木も説明できる。

モーセが植えたオリーブは、折れたり、枯れたりしたかもしれないが、落ちた実の種から発芽し、何代にも渡って生き続けた。その末裔が現在の宝達山の巨木なのでは?(仮説です)

■オリーブと旧約聖書

オリーブは、旧約聖書とも関係が深い。

たとえば、ノアの方舟(ノアの洪水伝説)。

神が、ろくでもない人間に愛想を尽かし、地球規模の大洪水をおこすという話だが、オリジナルは他にある。ギルガメシュ叙事詩の「ウトナピシュティムの洪水伝説」だ。ストーリーはソックリで、違うのは固有名詞ぐらい。そして、ギルガメッシュ叙事詩の方が年代が古い。

しかも、ノアの大洪水伝説は書き加えられた形跡がある。

ノアの大洪水伝説が出てくる旧約聖書「創世記」はモーセ五書の一つだが、複数のバージョンが存在する。紀元前8世紀~紀元前10世紀に編集された「ヤハウェ資料(J)」と、紀元前5世紀~紀元前6世紀の「祭司資料(P)」である。問題は方舟の大きさだ。

古い「ヤハウェ資料(J)」に記されていないのに、新しい「祭司資料(P)」には「長さ300アンマ(135m)、幅50アンマ(23m)」と明記されている。新しいほど、内容が詳細になるのは、追記の証拠。だから、オリジナルとは言い難い。

話をオリーブにもどそう。

ノアとその家族は、神が耳打ちしてくれたおかげで、方舟をこさえて、大洪水をのがれることができた。方舟がアララト山の頂きに達したとき、ノアはハトを放った。すると、ハトはオリーブの小枝をくわえて戻ってきた。洪水が引いて、平和がもどったのである。

それから、オリーブは平和の象徴となった。たとえば、国際連合の旗。地球をオリーブの小枝が優しく包む、地球が平和でありますように。

というわけで、素材はそろった。そこで「知の遊び」をはじめよう・・・

とその前に、

この仮説には大前提がある。宝達山にモーセの墓が実在すること、ホンモノかニセモノかはさておき。

父によれば、宝達山のふもとで、白人団体客を乗せた大型観光バスが、度々目撃されているという。地元では「白人のモーセの墓参り」とよばれているらしい。父には妄想癖はないので(たぶん)、とりあえず、宝達山に行ってみることにした。

■モーゼパーク

実家から、宝達山までは車で20分もかからない。この日は快晴だった。

くだんの「オリーブの巨木」を通り過ぎ、宝達山のふもとに入る。駐車場があったので、そこで車を停めた。

すると、そこに驚くべき光景が・・・(↓)

モーセパーク写真右側の石版に注目・・・
「伝説の森」
「モーゼパーク」
「THE MOSES LEGENDARY PARK」。
モーゼのテーマパーク!?

「モーゼ」とは「モーセ」のことである。昔は「モーゼ」だったような気がするが、英語では「Moses」なので、ビミョー。まぁ、どっちでもいいだろう。話の本質ではないので。

それしても、モーゼパーク・・・あからさまというか、まんまというか。こんな大胆なネーミングをするからには、モーセの墓があるに違いない。

ウロウロしていると、偶然、観光マップを見つけた(↓)

写真中央の上部に気球に乗ったおじさんがいる。ひょっとして、モーセ?
そっか・・・モーセは気球で来たんだ!
飛行機はムリだが、気球ならなんとかなるかも・・・

なんともならん!

気球は見た目ほどカンタンではないのだ。

気球が最初に飛んだのは、1783年6月4日。フランスのモンゴルフィエ兄弟が、ヴェルサイユ宮殿で熱気球の飛行を成功させた。ただし、パイロットは人間ではなく、羊と鶏とアヒル。「迷える」羊と「飛べない」鶏とアヒル・・・的な含みがあったのか、今となっては知る由もない。

とはいえ、このときは、「迷う」ことなく、「飛ぶ」ことができた。飛行時間はたった8分だったが。見物人は、フランス国王ルイ16世や王妃マリー・アントワネットと豪華絢爛だったから、モンゴルフィエ兄弟も鼻が高かっただろう。

その後、兄弟は有人気球も成功させている。高度は900メートルで飛行距離は9km。ところが、途中で縫い合わせた気球の布が焦げて、緊急着陸・・・あぶないところだった。

というわけで、3000年前に気球で9197kmはムリ。

《つづく》

参考文献:
・世界の歴史を変えた日1001ピーターファータド(編集),荒井理子(翻訳),中村安子(翻訳),真田由美子(翻訳),藤村奈緒美(翻訳)出版社ゆまに書房
・週刊朝日百科世界の歴史100、朝日新聞社出版

by R.B

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