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スモールトーク雑記

■新十八史略 2009.08.28

東京でのお仕事終了。最終の新幹線が出るまであと2時間ある。欲しい本があるんだけど、どうするかな・・・

中国史は好きだが、じつは、好きな本はあんまりない。ムリにあげるとすれば、「新十八史略」だろうか。20年ほど前、青本(天の巻)、赤本(地の巻)、緑本(人の巻)の3部作が、河出書房新社から出版されたが、すでに絶版。

ところが、10年前、「新十八史略全6巻」としてリニューアルされた。内容はそのままだが、巻数が増えて、

1.王道・覇道の巻

2.戦国群雄の巻

3.人生朝露の巻

4.秋風五丈原の巻

5.長恨歌の巻

6.草原の英雄の巻

著者:駒田信二、常石茂

行きつけのマニアックな本屋で、偶然、この本を見つけた。ところが、第4巻だけがない。取り寄せてもらおうと思ったが、すでに絶版だという。わずか10年で絶版?と、店員にかみついたけど、どうにもならない。出版業界はボロボロと聞いていたけど、これほどとは・・・

Amazonで中古本を買う手もあるが、カードは使いたくない。たとえ、暗号化されようが、物騒な情報を、さらに物騒なインターネットに流す気にはなれない。それに、本は新品しか買わない主義だ。(家は中古を買った)

「新十八史略」は、中国の「十八史略」が原典で、読んで字のごとく十八の歴史書のつまみ食い。ありていに言えば中国史のダイジェスト版だ。

歴史のダイジェスト版?そんなつまらないものはないだろう。しかり。歴史の教科書を思いおこせば、誰もが納得だ。

ところが、「新十八史略」は別。文体は格調高く、シャレた言い回しで、読み手のココロを離さない。くわえて、歴史を俯瞰(ふかん)した達観が、「悠久の歴史」を感じさせる。

ストーリーは史実中心で、冗長な小説描写はほとんどない。スピード感があって、快調、TVドラマ「24(TWENTYFOUR)」を彷彿させる。

ところが、日本で「十八史略」といえば、陳舜臣の「小説十八史略」が定番だ。Amazonでも、口をそろえての大絶賛。え、なんでだ?あくまで、個人的感想だが・・・

小説部分が退屈で、歴史の臨場感がない。全体に間のびして、スピード感がない。文体は現代風にみえて、じつは古い。誰でも読める平易さはあるが、歴史ゴコロに響かない。「格調高さ」もなし。お、ちょっと言い過ぎたかな。

ここで言う「格調高さ」とは、小難しい言い回しや、上から目線の御高説ではなく、文がもつ「響き」である。

たとえば、中島敦。昭和初期に活躍した作家で、漢文調の美しい文体で知られる。彼の作品「李陵」は、冒頭から読み手を圧倒する・・・

漢の武帝の天漢2年秋9月、騎都尉李陵は、歩卒五千を率い、辺塞遮虜を発して、北へ向かった。アルタイ山脈の東南端がゴビ沙漠に没せんとする辺のこうかくたる丘陵地帯を縫って北行すること三十日。朔風は戎衣を吹いて寒く、いかにも万里孤軍来たるの感が深い。

行間が音楽を奏でるような文体。一文字入れ替えただけで、全体が壊れてしまうような繊細な構造。何を足しても、何を削っても、何を替えても、ダメ・・・

中島敦は、祖父が漢学者で、父は旧制中学の漢文の教員だったという。幼い頃に、漢文の素読をさせられたに違いない。

ノーベル物理学賞を受賞した湯川博士の自叙伝「旅人」の中に、おもしろい記述がある。湯川博士が幼少の頃、意味も分からず、漢文の素読をさせられたという。素読とは、文の意味は二の次で、ひたすら、音読することをいう。

湯川博士の文体は、平易で、読みやすく、深みがある。それもこれも、漢文の素読のおかげ?

デザイナーには「デッサン」が、アスリートには「筋トレ」が必要なように、物書きには「漢文の素読」が必要、とは言い過ぎだろうか。どんな分野でも、基礎がない芸は「恥」である。高校時代、古文・漢文の実力テストは、いつも、5/50点だったけど、こっちは「大恥」かな?

話は戻って、「新十八史略4秋風五丈原の巻」。このレア本を手に入れるため、残り2時間を使い切ることにした。間に合わなければ万事休す。

腹を決めて、池袋のジュンク堂書店本店へ。在庫があることは、ネットで調べてわかっている。ジュンク堂に駆け込み、ゲット。おー、最後の1冊。この書店は、いつも相性がいい。ということで、MissionCompleted!

by R.B

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