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スモールトーク雑記

■24-ベンチャー企業編(2) 2010.04.04

前回までのあらすじ・・・

あるデジタルコンテンツの開発プロジェクトで、メーカーから、「人物の服がリアルでない」というクレームが入った。服が”モッコリ”しているのだ。「物理演算(物理シミュレーション)」手法を使えば、問題解決なのだが、コストが跳ね上がる。小さなベンチャー企業にとって、予算オーバーは死活問題だ・・・

これは、とあるベンチャー企業の役員の午後3時から午後6時までに起きた出来事である。

【3:00PM】

「物理演算」でやり直し、追加費用を請求すればいいのだが、1つ問題がある。このメーカーとは今回が初仕事なのだ。

一般に、プロデューサーは、おカネを含めプロジェクトの全責任を負う。予算が確定し、社内稟議が通った後で、「予算がちょっと足りませんでした」ではすまない。どんな理由をつけたところで、社内の立場はフリーフォール(freefall)。

そんな状況で、追加費用でもめれば、プロデューサーにとって、ウチは使いにくい業者となる。初仕事でそれをやれば、「僕たちに明日はない」

さっそく、社内の担当ディレクターと協議する。彼も、「やり直し」が必要だと感じているようだ。物理演算を使用せず、安価な手付けでおしきる方法もあるが、時間を食ったあげく、”モッコリ”はそのまま・・・では、事態はさらに悪化する。

一方、こうしている間にも、外注先で作業がどんどん進んでおり、決断が遅れるほど、ムダな絵を生産することになる。もちろん、こっちもウチの持ち出だし。

そのとき、プロデューサーが前に吐いた言葉を思い出した。「納期がすべてに優先する」

開発現場でよくあるのが、「商品をより良くしよう!」の大号令の元、納期が遅れること。ところが、この会社は、営業の販売計画が第一優先で、納期は絶対厳守だという。

予算ではなく、納期で攻める、方針は決まった。まず、物理演算で作り直し、服の”モッコリ”感を解消する。その分、開発日数はオーバーするが、重要ではない映像を削除、または、アニメーションの少ないものに変え、開発日数を短縮する。これで、最終的な納期は変更なし。

だが、現実は甘くない。「俺は、どうしてもこれをやりたいんだ!納期も絶対だぞぉ!」と譲らない担当者はけっこう多い。

そこで、メーカーの要望を一旦受け入れ、要望リストに追加する。さらに、協議の上、優先順位づけし、それを、毎週更新する。

ここまでやれば、メーカーは進捗状況をリアルタイムで把握できるし、一体感も生まれる。最終的に要望がかなわなくても、現場の状況を共有しているので、納得しやすい。

ということで、方針は決まった。後はディレクターに任せよう。

それにしても、物理演算ごときで、こんな痛い目にあうとは・・・物理演算とは、物理の法則に従い、形状やアニメーションを生成する方法。出来上がりはリアルなのだが、膨大な浮動小数点演算(小数計算)が必要で、時間を食う。高くつくのはそのため。

ところで、浮動小数点演算といえば、事業仕分けで知名度をあげたスパコン。スパコンを使えば、計算時間を劇的に短縮できるはずだ・・・さっそく、ネットで調べることに。

【3:50PM】

検索エンジンに、「スパコン安価自作・・・」と入力した瞬間、内線電話が入った。サウンド制作会社が来社していて、今、音の最終調整をしているところだという。だから?担当者曰く、「先方のプロデューサーが怒ってます。著作権の話なので、よく分かりません。こちらに来て、応対してくれませんか?」

会議室に行くと、サウンド制作会社のプロデューサーがいる。いつもの笑顔はなく、顔がピクピク。確かに怒っているような・・・

彼が言うには、以前、ウチに納入した楽曲が、無断で二次使用されているという。この開発案件では、ウチが映像とプログラムを作成し、この会社が作った楽曲を組み込み、メーカーに納品している。そのメーカーが、ことわりもなく、二次使用しているという。

さっそく、デスクにもどって調べると、ビンゴ!おー、二次使用だ。ただ、契約書を読むと、一切の知財は、最終的にメーカーに譲渡されることになっている。

だけど、販促ならまだしも、対価の発生する商品で、無断で二次使用は、ちょっと・・・。とにかく、音屋さんは著作権にうるさいのだ。

サウンド制作会社には、次の仕事も発注することを”口約束”し、我慢してもらうことに。このメーカーも初仕事なので、著作権なんかでもめれば、「僕たちに明日はない」

【4:30PM】

デスクにもどり、スパコンの調査を再開。すると、面白ウェブサイトを見つけた。米国NVIDIA社。

パソコンのグラフィックは、GPUと呼ばれるグラフィックチップが処理している。今では、「グラフィック=3D」なので、描画時には、三次元形状の生成、アニメーション、彩色と、膨大な浮動小数点演算が必要だ。そのため、GPUの浮動小数点演算の速度は、桁違いに速い。

そこで、NVIDIA社が開発したのが、スパコン用GPU「Tesla(テスラ)」だ。このチップを積んだ拡張ボードをパソコンに差すだけで、スパコンに早変わり。いわば、デスクトップスパコンだ。絶対性能では専用スパコンに劣るが、コストパーフォーマンスは抜群。

これに、CGツール(Maya、Max)が対応すれば、物理演算などあっという間だ。クオリティは上がるし、コストは下がるし、いいことずくめ。問題は、ソフトがいつ対応するかだ。自社開発はムリそうだし・・・

その時、先のディレクターから連絡が入った。先の物理演算の件、メーカーのOKが出たという。ヤレヤレ・・・だが、まだ安心はできない。ディレクターに、要望リストの毎週更新を念押しする。

【5:45PM】

不意に、社長から電話が入る。A社の専務が来社したので、すぐに来てくれと言う。A社はデザインの外注先で、最近、支払いのタイミングでもめている。来たか、カネの問題。一難去ってまた一難。

by R.B

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