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スモールトーク雑記

■トヨタのリコール 2010.02.20

「Please,believe me!(私を信じてください)」トヨタのトップが吐いた一言が、世界中を駆けめぐった。

こんなセリフを吐くのは、何を言っても信じてもらえない状況にあるわけで、そこで、「とにかく、俺を信じろ」とは、ずいぶんな言い分ではある。かつて、トヨタは、「巨大な田舎企業」と揶揄(やゆ)されたが、それを彷彿させる。

日本には、「KY」という言葉がある。「K(空気が)Y(読めない)」という意味。それほど日本人は、気遣いを大切にする民族らしい。でも、冒頭のセリフが本当なら、「日本人=KY」とはいえない。

本当の気遣いとは、空気を読んで、「相手に伝わる言葉できちんと説明する」であって、「自分の思いをそのまま口にする」ではないだろう。もっとも、気遣いの前に、「日本人は説明がヘタ」という事情もある。

オバマ大統領と比べるまでもなく、日本のリーダーの演説のヘタぶりは、際立っている。東南アジアのリーダーは、欧米の教育を受けたせいか、演説はスマートだ。

日本人のスピーチは、話の展開にキレがなく、言い回しもありきたりで、抑揚がない。演説上手と言われる政治家でも、たいていは、紋切り型で、本人が熱くなっているだけ。これでは、聴衆の心には響かない。

日本は明治維新以来、欧米文化を信奉し、さかんに取り入れてきたが、浸透しなかったものもある。「修辞学(しゅうじがく)」もその一つだ。

修辞学とは、聴衆を言いくるめる話術で、古代ギリシャ、ローマで発達した。欧米ではエリートの必須科目とされ、学問の一つにも数えられた。

これに、シェークスピアのシャレた言い回しを散りばめれば、欧米流話術のできあがり。ポイントは、万国共通の「泣き笑い」を突くこと。ハリウッド映画が世界でヒットする理由もここにある。日本の「わびさび」はダメ。

最近、会社にスペイン人が入社した。油絵出身の男性で、CGツール「Maya」を使いこなす。手が速く、クオリティも高い。しかも、大学院で、バーチャルリアリティを修得している。

彼は、とても礼儀正しい。朝会うと必ず、日本語で、「おはようございます」その後、顔を合わせるたびに、「ごくろうさまです」日本人より日本人らしいと、社内でも評判だ。

彼は、スペイン語、ドイツ語、フランス語、イタリア語が話せる。日本語も流ちょうで、漢字以外は、ほぼパーフェクト。もっとも、漢字となると、日本の総理でもあやしいのだが。

彼は、平易な単語を組み合わせ、巧みに日本語を操る。分かりやすく、説得力があり、思いがビンビン伝わってくる。日本人より語彙(ごい)が少ないのに、どうして?

ある時、僕は彼の故郷について尋ねた。彼が生まれ育ったのは、ピレネー山脈に近いフランスとスペインの国境の町。それを、彼はこう説明した

「僕の町は、国境を一歩またぐと、左足がスペイン、右足がフランス。日本では考えられないでショ。だから、郵便配達も大変・・・ハハハ」

誰でも、イメージできるし、難しい言葉もない。やはり、話術というのは、単語ではなく、文章の組み立て方、ロジックなのだろう。

とすれば、日本人にも脈はある。退屈なシェークスピアを読んで、気の利いたセリフを覚える必要はない。誰でもわかる平易な言葉で、相手がイメージできるよう、論理的に説明すればいいわけだ。

では、あの時、トヨタのトップは、どう言えば良かったのだろう?普天間基地の報復説もあるほどで、たぶん、何を言っても同じ。今と状況は変わらない。

今回のトヨタのリコールで、「トヨタの安全神話」は地に落ちた、とまで言われた。だけど、その根拠は、「真実」ではなく、「作為」にあるような気がする。

僕は今でも、「トヨタ車は世界一安全」と思っている。プリウスのようなハイブリッド車ならなおさらだ。輸入モノのハイブリッド車なら、おそらく・・・「ブレーキが甘い」ではすまない。

自動車の部品点数は10万と言われるが、もう一つ隠れた大部品がある。走行を制御するコンピュータソフトだ。そのステップ数は、100万行にも達しているという。1行は、ハード部品1点に相当するので、実質、部品点数は110万!昔の旅客機の部品点数を超える。

今回リコールの対象となったのは、ブレーキの効きが甘い、瞬間、効かないことがある、という点。原因は、ABSの制御ソフトにあるらしい。

凍結した路面でブレーキを踏みつけると、スリップすることがあるが、一旦、滑り出せば制御不能になる。ABSは、ブレーキのON/OFFを自動制御し、このような事態を防ぐ機構だ。

プリウスの場合、通常の油圧ブレーキにくわえ、モーターでエンジンブレーキをかける回生ブレーキも装備する。これらすべてを、コンピュータが制御しているわけだ。これほど完成度の高いハイブリッド車は、トヨタしか作れない(たぶん)。

もちろん、だからと言って、「ブレーキが効かなくてもいい」と言うつもりはない。それくらいの常識はある。だが、今回のトヨタ・パッシングは、常軌を逸している。

問題があれば、そこを直せばいい。そのための「リコール制度」だ。ところが、今のアメリカは、トヨタを破滅の縁まで追い込んでいる。政府と議会はトヨタを非難し、消費者は訴訟に余念がない。中には、今回のリコールで評価額が下がったから、弁償しろ、というものまである。こんな連中を相手にするのは大変だ。

トヨタが、「巨大な田舎企業」と皮肉られたのは、脇目も振らず、物作りに集中したから。トヨタ車の完成度は高いし、企業体質も極めて強靱。決して油断しない企業だ。

それでも慢心は生まれ、いつかはミスを犯す。だから?するべき修理を行い、なすべき補償をすればいいのでは?なにも、クビまで取ることはないだろう。

世界中からパッシングされるなら、せめて日本だけでも、トヨタに救いの手をさしのべよう。ここは、アメリカを見習って、「バイ・トヨタ(BuyToyota)!」

しかし・・・

大きな声では言えないが、僕はトヨタ車が好きではない。トヨタが作っているのは、「クルマ」ではなく「売れるモノ」だから。

ということで、クルマ好きの僕がこよなく愛するのは、プジョー307SW。電気系統は弱いし、ワイパーは拭き残すし、トランスミッションはギクシャク、だけど、いつまでもドライブしていたい・・・トヨタさん、これが”Fun To Drive”では!

by R.B

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