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スモールトーク雑記

■さらば朝青龍 2010.02.06

横綱・朝青龍が、酔っぱらって、人をグーで殴って、鼻を折り、引退した。

土俵の内でも外でも、力相撲・・・なんて言うと、元横綱審議委員の内館牧子さんあたりに、「品格に欠ける!」と一喝されそうだ。もっとも、僕は横綱じゃないので、関係ないけど。

今回の騒動の真相は、僕なんかには知るよしもないが、これまでの経緯から推測するに、「やっちまった」だろう。

相撲協会も、マスコミも、街の声も、「横綱としての品格に欠ける。引退すべし!」

・・・

もっともだ。

だけど、僕は、品行方正で弱い横綱の相撲より、品格に欠ける?朝青龍の相撲を観たい、と思っている。なんといっても、朝青龍の相撲は、正真正銘の「ガチンコ相撲(真剣勝負)」だから。

波打つ筋肉、ほとばしる覇気、異次元のスピード、圧倒的なパワー・・・朝青龍の相撲を観ていると、我を忘れる。

僕は相撲は格闘技だと思っている。ルールがないと死人がでるので、厳格なルールとマナーが決められている。だけど、そこに目がいきすぎると、つまらなくなる。相撲はいきつくところ、格闘技なのだから。

では、格闘技とは何か?明快に「疑似暴力(アグロ)」。究極の目的は、相手を倒すことだから。僕は学生時代に剣道部、ボクシングも少しかじったことがある。その経験から推測すると、相撲は、
キックボクシングなみの殺傷力をもつ。

朝青龍なんかに突進され、張り手をかまされた日にゃ、鼻が折れた!ではすまない。そんな真剣勝負の世界で戦っているのに、平和な外界の悪事で葬られる?品格の問題はさておき、悲しい話だ。
ところが、こんな悲劇が起こるのは、スポーツの世界だけではない。

今は亡き、俳優の勝新太郎。映画「座頭市」シリーズは名作だが、大河ドラマ「独眼竜政宗」も秀逸だった。勝が演じたのは秀吉だが、「歴史上の巨人」秀吉を、あんな見事に演じた役者はいない。

もし、黒澤明監督の「影武者」の武田信玄を、あのまま、勝新太郎が演じていたら、歴史に残る名作になっていただろう。(勝新太郎は途中で降板)自然体なのに、圧倒的な存在感、立っているだけで、
何かが伝わってくる。

ところが、1990年1月、ハワイのホノルル空港で、勝新太郎は逮捕された。下着の中に、コカインとマリファナが見つかったのである。その時の勝のセリフは、どんな脚本家でも思いつかないものだった。

「おっ、誰だ!オレのパンツにこんなモノを入れたのは?」

アンタしかおらんやろ・・・

とまぁ、世間を騒がす御仁だったが、礼儀正しい大根役者より、勝新太郎のほうが好きだった。役者は、観てもらってナンボ。

僕にとって、”グレイト”な人は、たとえ、悪事?をはたらいても、それを認めはしないが、心のどこかでゆるしている。

僕にとって、力士の価値は、土俵の内にあり、役者の価値は、銀幕の中にある。その世界で、グレイトなら、無条件でたたえよう。だから、私生活で何をしようが関係ない。

朝青龍は、第68代横綱。本名は、ドルゴルスレン・ダグワドルジ。モンゴル国出身の力士。2001年1月場所に新入幕し、驚異的なペースで勝ち星を重ね、2年後には横綱に昇進した。ところが、早々に、
品格の問題が露呈。

たとえば、負けた悔しさに、「畜生」と叫んだり、みっともない反則をしたり、口論の挙げ句、車を壊したり・・・これは、さすがにヤバイです。

さらに、ケガを理由に、夏巡業をさぼり、モンゴルでサッカーに興じた。マスコミは不謹慎だと大騒ぎしたが、その映像をみて、仰天した。あんなマッスルな体なのに、あんな軽快なフットワーク、
あんな巧みなボールさばき、サイボーグか?

なのに、世間は、あの驚異の運動能力より、仮病の方を騒いでいた。誰かが空中浮遊したとして、「あいつは飛行許可をとっていない!」と、騒いでいるようなもの。一体、どうなってる?

まぁ、そんなこんなで、朝青龍は悪しきレッテルを貼られてしまった。相撲界の問題児、青鬼。その後も周囲の期待にこたえるように、悪役ぶりを披露していった。

そして、冒頭の殴打事件。控えめにみても、横綱どころか、人としての品格にも欠けるのだろう。

一方で、僕は、朝青龍に別の品格を感じている。勝負に対する執念、覇気、パワー、つまり、格闘家としての威厳と風格だ。もちろん、誰もそんなことは言わない。

「品格に欠ける」という言葉には、トゲがある。大切なものが抜け落ちているような、人間失格のような、それだけで全否定されるような響きがある。

でも本当は、性格が粗野なだけでは?

粗野・・・

一見、さげすみの言葉に聞こえるが、歴史上は、良い意味でも使われる。

たとえば、奢侈におぼれる文明を、粗野な国が征服した場合、粗野は、古い文化を壊し、新しい秩序を創造する力を意味する。つまり、スクラップ・アンド・ビルド。歴史には欠かせないプロセスだ。

話を朝青龍にもどそう。とりわけ、残念に思うのは、相撲の歴史を塗り替えるチャンスが失われたこと。朝青龍は、優勝回数25回で、歴代第3位。歴代トップの大鵬の32勝まで、あと7つ。まだ、若いし、
この大記録を破る可能性があったのに。

粗野な性質が災いし、歴史的偉業を失したアスリートは他にもいる。プロボクシング元ヘビー級チャンピオン、マイク・タイソンもその一人。タイソンは、ヘビー級タイトルマッチで、相手の耳をかじり、
かじられた耳がチョコレートに複製され、食品売り場を飾った。合掌・・・

なにはともあれ、朝青龍は相撲界を去った。ヤンチャで、憎たらしいけど、どこか憎めない・・・そんな千両役者も、もういない。

相撲は肥満体の押し合い、と信じていた僕に、ガチンコ相撲の凄さを教えてくれたのが、朝青龍だった。サンキュー。

朝青龍、君のことは忘れないよ。

by R.B

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