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週刊スモールトーク (第94話) 夢分析(2)~ユングとフロイト~

カテゴリ : 思想

2007.07.29

夢分析(2)~ユングとフロイト~

■ユングの夢分析

小さい頃から眠りが浅く、眠りにつくと、夢のデパートだった。毎晩、いくつも夢をみたが、すべて、総天然色かセピアカラー。ストーリーはよく練られていて、プロの脚本家も顔負け、つまらない話は一つもなかった。ところが当時、「色つきの夢を見る人=頭がおかしい」が常識で、夢のことは誰にも話せなかった。

それにしても、夢はなぜ、人の心を揺さぶるのだろう。夢は現実をアレンジしただけの仮世界なのに、現実よりはるかに刺激的で感動的だ。ところが、心理学者ユングは、仮世界「夢」が持つパワーに注目した。夢を分析すれば、人間の心を把握できると考えたのだ。この夢分析で、ユングの名はフロイトとともに、心理学の歴史に深く刻まれた。当初、ユングはフロイトの精神分析学に共感し、親しく交流するようになった。ところが、その後、意見が対立し、ユングは独自の心理学を構築していく。

ユングは、心の病気を治すためには、意識と無意識の両面からのアプローチが必要だと考えた。とはいえ、本人も見ることができない無意識をどうやって見るのか?ユングは、それを夢に見出した。夢を分析すれば、意識と無意識、ひいては心全体を把握できると考えたのだ。

■夢の正体

ところで、なぜ、無意識は夢の中に現れるのだろう?ユングは次のように考えた。覚醒時に人間を支配しているのは意識、つまり自我である。この自我によって、ないがしろにされ、抑圧された意識は、無意識の中に逃げ込む。一方、夢の中では自我が弱まるので、無意識が力を増し、無意識に封印された意識が夢に現れるというわけだ。

たとえば、人前で正直者を装っている人は、覚醒時には「よこしまな心」を抑圧している(そうしないと正直者になれない)。すると、「よこしま」は無意識に逃げ込み、そこで封印される。ところが、夢ではこの封印が解かれ、「よこしま」が大暴れするのである。現実とは真逆の「悪者」に変身するわけだ。このような夢の特性を、アナトール・フランスはこう表現した・・・

夜、われわれが夢に見るものは、昼間われわれがなおざりにしたもののあわれな残滓(ざんし:残りかす)である。夢はしばしば、軽蔑された事実の復讐であり、見捨てられた人々の非難の声である。

抑圧された意識の中で、最強のパワーをもつのが「コンプレックス」である。コンプレックスは誰にでもあるが、強大すぎて、克服するのは困難である。一方、コンプレックスは夢で実体化するので、夢を分析すればコンプレックスの正体をあばくことはできる。そこで、自分が見た夢を題材に、夢分析をしてみよう。中学校時代から、日記をつけているので、内容は正確に再現できる。意味不明の部分もあるが、そのまま引用する。

■夢1話・電気研究所

変わり果てた町にいる。どうやら、閉じこめられたようだ。町の形はしているが、大気が白っぽく、静まりかえっている。異質な世界だ。2人の男が争っている。一人は刃物をもっている。危険だ。女房らしき女もいる。刃物を持っていない方の男と2人で逃げ出す。走りかけた方角に、人が立っている。みんな、普通じゃない。生命がないのに立っているという感じだ。魂が抜かれた人間かもしれない。その中の一人が、「ここから早く逃げなさい」と声をかけてくれた。男と2人で、この世界から脱出することにした。町の片隅にあった扉を開けて外に出した、つもりだった。ところが、あたり一面、窓だらけだ。窓は体当たりしても、びくともしない。強化ガラスらしい。ようやく、窓を破り、外に出ると、そこは普通の世界だった。車が一台、目の前を通り過ぎる。中の男たちがこちらを見ている。怪しまれたら大変だ。今出てきた建物の前に、「電気研究所」という看板が立っている。どこかの電機メーカーの研究所らしい。わけのわからない怪しい実験は、やはりこんな施設でやるのかと感心している。

あるセミナーで、「人間の3大欲求は3F(Feed、Fuck、Fugitive)」と聞かされた。有名な学者の言葉らしいが、名前は忘れてしまった。それに、「Feed」は「Food」だったかもしれない。その中で、一番印象に残ったが、「Fugitive(逃亡者)」だった。「逃亡」が人間の3大欲求の1つ?だが、この時の不信感は、先の夢を見た瞬間、氷解した。あの不気味な町を脱出した瞬間の快感は強烈だった。危険から脱出できた安心感や喜びではなく、「脱出そのものが快感」だったのだ。

海外ドラマの名作に「逃亡者(原題:The Fugitive)」がある。デビッド・ジャンセン演じる主人公リチャード・キンブル医師が、妻殺しの罪で死刑を宣告され、護送中の列車事故でからくも脱出、以後、逃亡生活を送るというストーリーだ。人目につかない寂れた町で、肉体労働で食いつなぐキンブル。それを追い詰める猟犬のようジャラード警部。クライマックスはいつも、ジェラード警部の王手を間一髪で切り抜ける瞬間にあった。キンブルは、つかの間の思い出を残して、次の町へと去っていく。「彼は逃げる・・・現在を今夜を、そして明日を生きるために」しびれるようなコピーだった。ドラマ「逃亡者」は、あきらかに人間の普遍的欲求「逃亡(Fugitive)」を狙っている。アメリカのドラマは奥が深い。

そして、40年経った今観ても、人を惹きつける力を失っていない。結末を知りながら、最後の脱出の瞬間を息をのんで待っているのだ。「汽車に乗ってアイルランドのような田舎に行こう」どこかで読んだ小説の一節だが、タイトルが思い出せない。人間は誰でも今の世界から逃げ出したいという願望があるのかもしれない。もちろん、ほとんどの人は自分のため、家族のため、今の世界にしがみつく。その反動が、夢となって現れるのだろう。

■夢2話・謎の発明家

空中に飛び出すと、目の前に、素晴らしい風景が広がっていた。美しい陸地だ。やがて海が見えてくる。あちこちに島が点在している。その島の一つに舞い降りる。狭い通路を通っていくと、これまた狭い部屋で、1人の男が数人の男たちに囲まれている。男は発明家らしい。それもかなり有名な。それは周囲の男たちの態度で分かった。発明書を読むと、くだらない発明ばかりだ。ところが、あるページに潜水艦の写真が載っていて、それが見る見るうちに浮上する。

「反重力推進だ・・・」

びっくりして、発明家に問いただした。

「この発明は、一体何か?」

すると、発明家は、

「これは消耗品扱いにした」

と、わけの分からないことを言う。この世界では何の価値もないらしい。そこで、

「どうして重さのあるものが、宙に浮くのか?」

と問いただすと、

「ドリルで押し出すのだ」

と、またわけの分からないことを言う。この世界は、まだプロペラ飛行機しか飛んでいないのに、この見捨てられた「反重力推進」だけは超弩級のテクノロジーなのだ。小さい頃、海外ドラマ「タイムトンネル」を観て、大きくなったらをタイムマシン作ろうと思った。そこで、憧れの主人公ダグとトニーを真似て、大学の電気工学に進んだ。

ところが、すぐに現実を思い知らされた・・・「タイムマシンなんてムリ」こうして、怠惰な4年間を過ごした。就職して、電子回路設計者として退屈な毎日を送っていたある日、秋葉原で、アップル社のAppleⅡを見つけた。5年先を行くパソコンだった。こんな凄いモノ、誰が作ったんだろう。すぐにコンピュータの虜になった。その後、ベンチャー企業に転職し、思う存分コンピュータを設計し、「発明」の素晴らしさも堪能した。これで、少年時代の夢は叶えられた、と思っていた。

ところが・・・先の夢を見て、そうではないことに気づいた。くだらない発明ばかりしていた発明家は、じつは、超技術「反重力推進」を発明していたのだ。夢の中のくだらない発明は、現実世界の「コンピュータ開発」で、「反重力推進」は人生の目標「タイムマシン」だったのでは?つまり、「夢が叶った」はずの「コンピュータ」はタイムマシンの代替品にすぎず、じつは、ニセモノの人生を歩んでいた?現実世界で、否定された「タイムマシン」への思いは、無意識世界に逃げ込み、こんな夢になって現れたのだろう。

タイムマシンは人生で最大最強のコンプレックスになってしまった・・・それにしても、象徴的な夢だ。自分の無意識が書いたシナリオとは思えない。このような夢の力を、哲学者シェーペンハウエルはこう表現した。「夢においては、だれもが自分自身のシェークスピアである

■夢3話・死後の世界

父と2人でトロッコに乗っている。これから、死後の世界に行くらしい。ところが、皆なかなか成仏できないようだ。前に座っていた人が、成仏できない人の心臓を2本指でさわると、丸く光るものが飛び出した。多分、魂なのだのだろう。触られた人は、その直後に死んでしまった。それを見て、早く成仏しなければと思い、その洗礼を受けた。やっと、死んだみたいなのだが、死んだ後も何も変わらない。自分が生きていた部屋で、何かを触ると、まだ触感がある。そのあと、死後の世界に行く。広い平野の上に、背の低い建物がいくつも並んでいる。博物館まである。前の世界と、ぜんぜん変わらない。意外に快適そうだ。物知りの老人が現れたので、

「死んだ後何も変わらないのに、昔のことを思い出せない。それは、繰り返し生まれ変わり、そのとき過去の記憶を失うからですか?」

と尋ねると、

「自分勝手なことを言うな」

と怖い顔をした。自分の中に、「死後の世界」を知りたいという強い願望があった。目の前を一匹の虫が歩いている。突然動かなくなる。死んだのだが、その瞬間にこの虫のすべてが終わったとは思えない。この世界で完全に消滅することなどあるのだろうか?宇宙は神の一撃で誕生したのであり、それ以来、宇宙内部の増減は一切ない。何かが消えたように見えても、形を変えて存在しているのだ。このような「保存則」に立てば、人間が今生(こんじょう)で体験した記憶が、脳という物質ととも完全消滅するとは思えない(思いたくない?)。人間は肉体と魂からなり、体験した記憶は魂に封印され、別の世界に行くのかもしれない。そんなことを考えていたから、こんな夢を見たのかもしれない。

この夢は、現実世界の自我=意識そのもので、抑圧された意識ではない。ユングも言っているが、夢には様々のパターンがある。自分の意識とは無関係に、未来に起こる事を予知する「予知夢」もその一つだ。

■第4話・黒いクマ

久しぶりの大雪だ。あたり一面、真っ白な世界。昨日黙って家を出て、その朝帰りなので、しかられるのでは、と心配している。やがて、たくさんの獣たちに囲まれて、池の中にロープを入れてガソリンを吸い取っている。一本吸い取ってやめると、獣たちのボスがもっとやれという。この作業をやりたくないので、ボスをおだてることにする。

「お前が一番強いからボスだ」

いつの間にか、ボスは材木に変わっている。周囲で、一番太くて重そうな材木に。家の庭の端に行く。すると真っ黒なクマの首のまわりを、これもまた真っ黒なキツツキがせっせとつついている。つつかれたところから黄緑色の美しい木くずがあらわになっている。黄緑色の木くずが次々と削られ、やがてクマの首が落ちそうになる。思わず目をそむけた。下を見みると、小さいクマがいる。あいかわらず、黒いキツツキが首をつついているが、やがて、かわいらしいクマができあがった。クマはこっちを見るなり、こう言った。

「あぁ、あれはあの時の青年だ。なんと感じの良い青年だろう」

クマはそばにかけ寄り、接吻した。感激し、崇高な感動に満たされる。獣、ガソリンの池、キツツキに首を落とされるクマ、自分に接吻するクマ・・・サッパリわからない。これまでの体験、意識、コンプレックスにも心当たりはない。筋書きは飛び飛びだし、因果関係も不明。ところが、この夢の中で、非常に強い感動を受けたことは覚えている。

脳は無秩序には動かない。何か理由があって、このストーリーが生まれたはずなのだが。この夢を理解するには、夢の深層心理まで踏み込む必要がありそうだ。

《つづく》

参考文献:(※)河合隼雄著ユング心理学入門培風館

by R.B

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