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週刊スモールトーク (第75話) 宇宙家族ロビンソン(2)~ファーストシーズン~

カテゴリ : 娯楽

2006.12.03

宇宙家族ロビンソン(2)~ファーストシーズン~

■フロンティア・スピリッツ

昭和40年代の傑作ドラマ「宇宙家族ロビンソン」は3つのシーズンからなる。中でも、最高傑作とされるのがファーストシーズン。ストーリーに哲学があり、作りもしっかりしていて、モノクロ映像であることを忘れるほどだ。初期の宇宙家族ロビンソンを支えていたのは、アメリカの「フロンティア・スピリッツ」と「家族愛」。そして、根っこにあったのが「アメリカ西部開拓史」である。

歴史を少しさかのぼろう。1620年12月21日、200トンにも満たない小さな船が、北米のプリマスに着岸した。イギリスからの移民ピューリタンである。ピューリタンとはカルヴァン派のプロテスタントで、イギリス国教会に抵抗したキリスト教の一派である。1517年のルターの宗教改革の後、カトリック派に対抗する多数のプロテスタント宗派が生まれたが、カルヴァン派はその一つだった。彼らは、イギリス国内の宗教弾圧に嫌気がさし、新天地に賭けたのである。

ところが、命懸けの航海の後に待っていたのは、過酷な気候と不毛の土地だった。ピューリタンの半数が、最初の冬を越せず、病気や飢餓で死んでいった。このような過酷な環境で、最初のプリマス植民地が築かれたが、それを支えたのは「フロンティア・スピリッツ(開拓精神)」だった。ただし、アメリカ先住民の親身の援助があったことも付け加えておかねばならない。

最初の植民地建設に成功すると、彼らは自分たちを助けてくれたアメリカ先住民への恩をすっかり忘れてしまった。1860年、西部開拓時代が始まったのである。彼らは、アメリカ先住民の土地を「フロンティア(未開の地)」と勝手に命名し、次々と奪っていった。彼らは家族連れで北米大陸を西進し、19世紀末には太平洋岸に達した。この過程で、厳しい自然とアメリカ先住民を征服する糧(かて)となったのが、「フロンティア・スピリッツ」と「家族愛」である。フロンティア・スピリッツは、チャールズ・リンドバーグの大西洋単独無着陸飛行やアポロ計画など、その後のアメリカ文明の原動力となった。だが、彼らのフロンティア・スピリッツが、多くの略奪と殺戮を生んだことを忘れてはならない。

アメリカ人のルーツ「フロンティア・スピリッツと家族愛」を全面に打ち出したのが、宇宙家族ロビンソン「ファーストシーズン」だった。生命を寄せつけない宇宙空間は北米の厳しい自然そのもので、惑星に出没する恐ろしい怪獣はアメリカ先住民であった。これらすべてが征服すべき対象だったのである。こうして、宇宙家族ロビンソンは人気番組となった。農耕民族の日本でも。一時期、洋モノの最高視聴率35%を記録したほどである。

もちろん、宇宙家族ロビンソンが日本でブレイクした理由はフロンティア・スピリッツではないだろう。たぶん、SFへのモノ珍しさ、アメリカの豊かさへの憧れ。戦後の焼け野原から20年経過し、衣食住もなんとか確保でき、さらなる豊かさを求めようとしていた頃である。そんな時代、宇宙船、レーザー銃、ロボット、宇宙人は、さぞかし刺激的だっただろう。日本で、SFTVドラマが開花したのは昭和41年。そのさきがけとなったのが宇宙家族ロビンソンだったのである。

■SFドラマブーム

昭和41年6月4日、宇宙家族ロビンソンのファーストシーズンがTBSで放映開始された。土曜午後8時、ゴールデンタイムである。その後すぐに、「ウルトラマン」や「サンダーバード」も始まり、翌、昭和42年には、タイムマシンものの傑作「タイムトンネル」も放映された。SFドラマブームの到来である。それまで、一部のマニアが熱中していたSFが、広く大衆に認知されたのである。当時の少年たちの多くが、「科学と技術」のとりこになった。

この頃、子供の科学雑誌「学研の科学」が人気があった。このような科学少年が、戦後の日本の技術立国をささえたと言ってもいい。大きくなったら、ジュピター2号をつくる、アトムをつくる、タイムトンネルをつくる、などなど。科学少年の夢は山ほどあった。ところが、それも今は昔。最近、とりざたされているのが学生の理工系離れだ。面倒で陰気な「物づくり」より、手っ取り早く金儲けができる「マネーゲーム」に、学生の興味がうつっているという。

最近、「大人の科学」が静かなブームである。買うのはもちろん、昭和40年代、科学少年だったおじさんたち。年配者が科学を懐かしみ、若者が科学から離れていく。資源のない日本は、技術で身を立てるしかないのに。一方、資源がなくても、金融業がある、と主張する人もいる。金融に挑んだホリエモン・ライブドアがどうなったか忘れてはならない。欧米の金融業は歴史、ノウハウ、スケール、すべてにおいて日本を凌駕する。かなう相手ではないのだ。

■宇宙家族ロビンソンの最終回

宇宙家族ロビンソン・ファーストシーズンは、アメリカと日本で大ブレイクし、セカンドシーズンから映像もモノクロからカラーにグレードアップした。ところがその矢先、視聴率が低迷する。セカンドシーズンでは「フロンティア・スピリッツ」が失せ、「家族愛」中心になったからだ。家族愛は、過酷な環境を生きのびるフロンティア・スピリッツがあってこそ、引き立つ。視聴者には、マンネリ化したファミリードラマに映ったのである。

反省したプロデューサーのアーウィン・アレンは原点にもどることにした。サードシーズンから、探検と冒険を再びメインテーマにすえたのである。ところが、結局失敗した。歯車がかみあわず、チグハグで、回を追う毎に、物語は壊れていった。中には、冷笑の対象にしかならなかったエピソードまである。結果、アメリカではサードシーズンで、日本ではセカンドシーズンで最終回となった。

どちらも、最後のエピソードとして作られていないので、なんとも、唐突な最終回だった。これではフラストレーションがたまる。ロビンソン一家を乗せたジュピター2号は、無事アルファセントリーに着いたのか、それとも、宇宙のもくずとなったのか?そんな中、宇宙家族ロビンソンの映画化の話が聞こえてきた。そして、アーウィン・アレンの死後7年経って、映画化がかなったのである。

1998年、「ロスト・イン・スペース」のタイトルで映画版・宇宙家族ロビンソンが劇場公開された。監督はスティーヴン・ホプキンス。ストーリーは面白いし、テンポもいいし、キャラも立つ。SF映画としては間違いなく秀作だ。

しかし・・・

原作のTVドラマとはまるで別物。フラストレーションはたまる一方だ。
ロビンソン一家はアルファセントリー星に無事着いたのか?
それが問題なのだ!

■第11話・希望は空の彼方に

イソップ童話やグリム童話と同じように、宇宙家族ロビンソンは寓話である。擬人化された動物を登場させ、象徴的な喩え話で、道徳を教訓的に説く。それが顕著なエピソードが、ファーストシーズンの「第11話希望は空の彼方に」と「第15話ウィル地球に帰る」である。

先ず、「第11話希望は空の彼方に(原題:Wish Upon AStar)」だが、宇宙家族ロビンソンの核心「フロンティア・スピリッツ」と「家族愛」を前面に出した秀作である。

身勝手で、怠け者のドクタースミスは、天敵ダンウェスト少佐に脅され、嫌々仕事を手伝うことになった。燃料パックの運搬である。ところが、注意して運べと言われたのに、あろうことか、ポイ捨て。直後に、燃料パックは爆発、ダン少佐は危うく命を落とすところだった。ダン少佐は怒りを爆発させるが、ロビンソン博士のとりなしで、事なきを得る。ところが、ドクタースミスの不始末が連発する。今週の水栽培の庭園の当番がドクタースミスだったのに、放置した結果、菜園が全滅。とうとう、ダン少佐の堪忍袋の緒がきれた

ダン少佐:
「ほかの人はともかく、僕の方は、もうつくづく愛想がつきたよ」
「何か起こると、きまってその張本人は貴様じゃないか!」
貴様みたいな疫病神は、とっとっと消えてなくなりゃいいんだ!」

ドクタースミスと仲の良いウィルだけがかばうが、一家の賛同は得られず、ドクターはジュピター2号を放逐される。それでも、心優しいウィルは、ドクタースミスの元に食料を運んでやった。2人は近くで、何世紀もたった宇宙船の残骸を見つけ、そこを住処(すみか)を移す。そこで、2人は帽子の形をした奇妙な機械を発見する。ウィルが試しにかぶってみると、この帽子が、アラジンの魔法の帽子であることがわかった。帽子をかぶり、欲しい物をイメージすると、それが実体化するのだ。

ドクタースミスは、この機械が安全かどうかが分かるまで、ロビンソン一家に内緒にするよう、ウィルに口止めする。もちろん、独り占めするためである。ウィルはそれを見抜き、ドクターを責め、結局、ドクターが譲歩する。純粋だが敏感な少年と、悪党だがそれを見透かされたくない老人、心理描写が秀逸だ。ファーストシーズンには、随所に、このような踏み込んだ心理描写がみられる。ところが、セカンドシーズン以降、単純な喜怒哀楽、当たりさわりのない人間関係が中心になり、典型的なファミリードラマへと変質していく。

結局、ドクターはウィルに譲歩し、アラジンの帽子をロビンソン一家にも開放する。ところが、どういうわけか、アラジンの帽子は1日に2度しか使えない。使いたい人は後を絶たないのに。問題はすぐに表面化した。ウィルとペニーは、アラジンの帽子の取り合いでケンカになり、ウィルが席をはずしているすきに、ペニーはこっそり使ってしまう。大好きな音楽テープを手に入れるために。ウィルは怒り、父ロビンソン博士に訴える。ペニーをうんと叱ってやってくれ、もう二度とアラジンの帽子を使わせないように、と。ロビンソン博士は、ペニーを呼び、静かに語りかける・・・

ロビンソン博士:
「知ってるかな、お前は。こすいって」

ペニー:
「こすい?そんな作曲家、知らないわ」

ロビンソン博士:
「だったら、こういうのは知ってるかな」
「似たような名前で、うそ、ずるい、ペテン・・・」
「もうぴんときたかな。それともまだ?」

ペニー:
「わかりました」

ロビンソン博士:
「お座り」
「お前らしくもないことを」
「テープのかわりに、お前は自分の大事なものを犠牲にした」
「ものにはかえられないもの」
「わかるだろう、これ」

ペニー:
「わかります・・・ゴメンなさい」

ロビンソン博士:
「わかったら、二度とこんなことのないよう、頼むよ」

ペニー:
「わかりました」

少年時代に観たこのシーンを、今でも鮮明に覚えている。自分が諭されているような深い感銘を覚えたのだ。これが、教え、育む(はぐくむ)、つまり教育なのかもしれない。ロビンソン博士は、この後、一家全員を集めて諭した・・・

ウィル:
「機械がやってくれるのに、なぜ働くの?」

ロビンソン博士:
「ウィル、いままで私たちは、うまくやってきたね」
「お互いに助け合い、励まし合い」
「大事なのはそれだよ、こんなもんより」
「なまじ、いけないことに、これのおかげで夢がかなう」
「ところがどうだろう」
「持ち込まれたものは不平不満、嫉妬に、怠け心」
「確かに、これは夢をかなえてくれる」
幸せと引き替えにね

こうして、アラジンの帽子は一転して、悪者になった。アラジンの帽子を破棄するよう言われたドクターは、腹を立てて、帽子とともに再び古巣へもどる。高価なイスやテーブル、贅沢な食べ物に囲まれながら、ご機嫌のドクタースミス。やがて、欲が欲を呼んで、ついには召使いまで願うことに。ところが、現れたのは、のっぺらぼうの不気味な宇宙人だった。この宇宙人は、両手をさしだし、機械を返せと要求する。その直後、アラジンの帽子が生み出した食べ物、音楽テープ、ドレスすべてが腐ってしまう。

ロビンソン博士に命じられ、ドクタースミスは宇宙人に帽子を返すことにした。アラジンの帽子を取りもどした宇宙人は、錆びた扉を開け、自分の世界へと帰っていく。そして、残されたロビンソン一家・・・

ウィル:
「パパ、どうもわかんないな」
「どうして、一度くれたものを、持ってちゃったんだろう」

ロビンソン博士:
「ドクターがよくばったからだろう」
「適当にしとけばよかったのさ」
「でもそうはいかん、欲が欲をよんでね」
つき合いきれないんだろう、宇宙のアラジンとしちゃあ

■第15話・ウィル地球に帰る

原題は「Return From Outer Space」。心に残るエピソードだ。第10話「声なき侵入者」の宇宙人親子が残していった物質電送機を使って、ウィルが地球に帰るお話。

ウィルは、ロビンソン博士に禁じられたにもかかわらず、宇宙人親子が残していった物質電送機を使おうとする。0800時(8時00分)にウィルを地球に送り、1200時(12時00分)に、ウィルをここに連れ戻すよう、フライデーに命令したのである。0800時、フライデーが物質電送機を作動、強力なメザー光線がウィルを包み、地球への電送を成功させる。ウィルが送られたのは、バーモントにある小さな町ハットフィールドだった。そこで、年上の少年デビッドと、その里親のクララおばさんと出会うが、ウィルが何を話しても取り合ってくれない。

それもそのはず・・・
「ぼくは、地球から10光年先にあるプリプラナス星から、メザー光線でやってきたロビンソン一家で、ケープケネディにあるアルファ基地に連絡しないといけない」

信じろと言うほうがムリ。アルファ基地になんとか電話しようとするウィル。高額な長距離電話などされてはたまらないと怒り心頭の店主。さらには、ウィルに好意をもち、自分の養子にしようともくろむクララおばさん。宇宙気狂いのために、長距離電話をかけさせては町が笑い者になると心配する町の有力者たち。やがて、彼らはウィルを、郡立少年施設行きのバスに乗せることにする。養護施設に送りこみ、里親を見つけようというのだ。

ウィルは、バスの出発を待つ親のいない子供たちとケンカになる。ウィルが、自分が1年前に地球を飛び立ったロビンソン一家だと、言い放ったからである。リーダー格の少年は、誇大妄想のウィルに腹を立て、言い返す。

「本当のウィルロビンソンは、死んだんだよ」
「一家もろとも、とっくの昔に死んじゃったんだ」
「全滅さ。ジュピター2号にのってるのは、みんな死んだんだ」
「今ごろは、その骸骨が宇宙をフワフワ・・・」

その瞬間、ウィルは激怒し、取っ組み合いのケンカになる。ケンカが収まった後、リーダー格の少年曰く・・・

「あれじゃ、里子の口も養子の口もねえや」
「これから先、一生、檻の中にいるといいんだよ・・・」

バスの出発を待つ少年たちにしてみれば、里子や養子の口さえあれば、自分の未来は開ける。だが、あの誇大妄想のウィルにはその可能性もない、というわけだ。反面、その少年たちに親がいないのだと思うと、自分のことのように寂しく思えた。やがて、郡立少年施設行きのバスは出発するが、その寂しい未来を想像した。たとえ、辺境の惑星とはいえ、家族が待つウィルの方がよほど幸せなのだと思った。すべて、少年時代の記憶である。

ウィルには時間がなかった。1200時までに、自分が来た場所に行かないと、帰還の道は断たれる。1200時きっかりに、その場所にメザー光線がふりそそぎ、ウィルをプラナス星に連れ帰るのだ。やがて、ウィルを信じるようになったデビッドは、隔離されていたウィルを助け出し、目的の場所まで誘導する。一方、町の新聞記者が、ウィルの荒唐無稽な話を、週末の読み物のネタにしようと、アルファ基地に電話していた。そして、ウィルがメザー光線で帰還した直後、アルファ基地から連絡がとどく。ウィルの話は本当だったのだ。

無事、プリプラナス星に帰還したウィル。そこには、かけがえのない家族が待っていた。ウィルにとって、家族のいない豊かな地球より、家族がいる辺境の惑星のほうが幸せなのだ。ところが、今度は、家族が地球に帰ったことを信じてくれない。ところが、証拠があった。ウィルは、食料貯蔵に必要な四塩化炭素が不足しているのを知っていて、地球から持ち帰ったのである。透明のビンのラベルには、こうかかれていた・・・ハットフィールド金物店。

この話が、なぜこれほど強く、心に残ったかはわからない。少年時代、両親は共働きで、ほとんどかまってくれなかった。それでも、このエピソードを観ながら、親のありがたさをかみしめていた気がする。宇宙家族ロビンソン・ファーストシーズンには、直接心に訴えかけてくるエピソードが多い。素晴らしい情操教育である。我が家の子供たちはみんな宇宙家族ロビンソンを観て大きくなったのだ。

《つづく》

参考資料:
「宇宙家族ロビンソンBOX」パイオニアLDC株式会社

by R.B

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