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週刊スモールトーク (第61話) ユダヤ人が迫害される理由Ⅱ~ドレフュス事件~

カテゴリ : 歴史

2006.08.26

ユダヤ人が迫害される理由Ⅱ~ドレフュス事件~

■悪魔島

タイムトンネル」は1960年代に放映された海外ドラマである。アリゾナ砂漠の地下深くに、人間を過去や未来に送り込む装置が開発されたという、いわゆるタイムマシンもの。ところが、装置はまだ完成しておらず、不安定で、故障しまくり。タイムトラベラーのダグとトニーは命からがら時空を旅するのだった。

トニーとダグは、いつもタイムトンネルの気まぐれで時空移動させられるのに、行き先は決まって「歴史上有名な事件」。まぁ、これはこれで、科学と歴史が大好きな少年にしてみれば、ワクワクドキドキ。ところが、1話だけ全く理解できないエピソードがあった。第1シーズン第9話の「悪魔島」だ。時代は19世紀後半、実際にあった歴史的事件らしいが、ストーリーはサッパリだし、知っている歴史キーワードも皆無。結局、分からずじまいで話は終わってしまった(ゼンゼン面白くなかった)。

その意味不明のストーリーとは ・・・

タイムトンネルの毎度の不調で、トニーとダグは小さな島に時空移動させられる。そのとき、6人の政治犯が島に着いたが、2人が海に飛び込んで、行方をくらます。そこで、居あわせたトニーとダグが、逃げた2人と間違われ、収監される。看守にしてみれば、6人という数字があってればいいわけで、そもそもこんな島に一般人がうろつくはずがない。というのも、この島は流刑地だったのである。

トニーとダグは、そこで、特別待遇の囚人「ドレフュス」と出会う。この軍人は誠実で正義感の強い人物という設定で、みんなで脱走しようと誘ってものってこない。自分は無実で、脱走すれば自分が有罪だと認めることになるという。周囲の囚人たちの接し方から、ドレフュスはただ者ではないことはわかるのだが、名前は聞いたことはないし、ストーリーもつながらない。だいたい、みんなが逃がしてくれるというのに、ヘンに格好つけて、嫌みなおっさん、ぐらいにしか思えなかった。

■反ユダヤ主義

タイムトンネル第9話「悪魔島」の悪魔島は実在した島である。南アメリカ北部のフランス領ギアナにある小島で、フランスの重罪犯人や政治犯の流刑地であった。この刑務所は1852年に設立され、1953年まで囚人がいたことがわかっている。

タイムトンネル第9話「悪魔島」に登場するドレフュスも実在の人物で、19世紀末に起こった「ドレフュス事件」のキーパーソンである。「ドレフュス事件」は「反ユダヤ主義」の象徴的事件で、高校の世界史にも登場する。ただ、日本ではほとんど知られていない。

「反ユダヤ主義(Anti-Semitism)」とは、ユダヤ人に対する差別、敵意、迫害を意味する。ドレフュス同様、日本でほとんど知られていないのは、ユダヤ人もユダヤ教も日本と接点がないからである。一方、キリスト教が本流の欧米では反ユダヤ主義は古い歴史をもつ。ユダヤ人迫害の歴史は2000年前にもさかのぼるのである。

■ドレフュス事件1・スパイ疑惑

1894年、フランスでスパイ疑惑がもちあがった。フランス陸軍内部にドイツに機密情報を流している人物がいるというのだ。漏洩した機密文書の明細書の筆跡は、フランス陸軍参謀本部付きのアルフレッド ドレフュス大尉のものと思われた。ところが、なぜかフランス軍部は事を急いだ。

簡単な捜査の後、1894年、ドレフュス大尉は軍法会議にかけられた。ドレフュス大尉は終始、無罪を主張したが、結果は有罪、終身刑が宣告された。軍籍を剥奪され、収監されたのが先の悪魔島であった。タイムトンネル第9話「悪魔島」は「ドレフュス事件」をモチーフにしていたのである。ドレフュスは1895年から1899年まで、この島に収監された。ドレフュスの妻と兄は、ドレフュスの無罪を訴え再審を要求したが、世論は冷たかった。

この事件には2つの謎があった。フランス軍部がろくな捜査もせず、ドレフュスを有罪にし、事件の解決を急いだこと。冤罪(えんざい)かもしれないのに、世論が全く反応しなかったこと。この謎は、たった一つの事実に起因している ・・・ ドレフュス大尉はユダヤ人

一方、この事件で、フランスの世論はドレフュス以外にも向けられた。軍部は機密漏洩を許すほどマヌケだし、ユダヤ人は忠誠心のかけらもない売国奴だと。時代は19世紀末、ヨーロッパでは反ユダヤ主義が蔓延していた。反ユダヤ主義者や国粋主義者たちは、この事件をチャンスと見て、反ユダヤ キャンペーンに打って出た。ユダヤ人がフランスを売ったのだと。ユダヤ系フランス人の中には、ドレフュスに同情し、救援の活動をおこなう者もあったが、しょせん多勢に無勢であった。

■ドレフュス事件2・真犯人

ところが、新しくフランス陸軍情報部長に任じられたピカール中佐は、真犯人がエステラジー少佐であることをつきとめた。もし、事実が明るみに出れば、軍のメンツは丸つぶれ。軍は全力をあげて、事実のもみけしにかかった。まず、真相を知るピカールを左遷。次に、ドレフュスの兄に告発され、軍法会議にかけられたエステラジー少佐を無罪放免とした。恐怖の虜となった軍はさらに暴走する。ピカール中佐を文書偽造で告発したのである。

ドレフュスにとって最悪の展開だった。ところが、文豪ゾラがドレフュス事件を一変させる。ゾラはフランスの小説家で、自然科学の実証性を文学に導入した自然文学の先駆者として知られていた。

1898年1月13日、新聞「オーロール」に「われ弾劾す」というゾラの告発文が掲載された。その中で、ゾラは軍法会議は軍部にねじ曲げられた偽りの審判と糾弾した。ゾラの告発は世論を大きく動かした。そして、再審にむけて運動がはじまったのである。

これに対し、軍部や王党派やカトリック教会などの保守勢力は、猛反発した。軍部にしてみれば、軍法会議の蒸し返しは軍の威厳にかかわるし、カトリック教会にとって、主イエスを十字架刑に科したユダヤ人は2000年来の敵である。だがどんな理由をこじつけようが、つまるところは人種差別。とはいえ、この時点では、反ドレフュス派はまだ優勢であった。ゾラは名誉毀損で告訴され、イギリスへの亡命を余儀なくされたのである。

■ドレフュス事件3・再審

ド レフュス大尉の再審を求めるド レフュス派とその反対派の抗争は、やがて、国政にまで及んだ。当時フランスでは、共和制を支持するグループと王党派グループの対立があったが、これにリンクしたのである。じつは、1789年に始まるフランス革命で、フランス共和制が確立したわけではない。その後も、政治的混乱が続いたのである。

1793年1月、ルイ16世とその王妃マリー アントワネットが断頭台で処刑された後も、王党派はまだ大きな力をもっていた。そもそも、ドレフュス事件が起こる20年前に、第3共和制が成立したばかりであった。つまり、フランス革命勃発後、100年間も王党派と共和党派の抗争が続いたのである。

1898年8月、ドレフュス有罪の決め手となった証拠が偽造だったことが判明した。さらに、1899年2月には、ドレフュス派のルーベが新大統領に就任、劣勢だったドレフュス派の巻き返しが始まった。1899年8月、再審がはじまり、軍は徐々に追い詰められていった。もはや、軍が執着するのはメンツだけだった。

もちろん、メンツを守るには有罪しかないが、一方で、世論も気になった。国民から、またマヌケ呼ばわりされては信頼の回復はもうムリ。こうして、裁判は苦しまぎれの妥協案で決着することになった。ドレフュスは再び有罪となったものの、刑期は終身刑から10年の刑へと減らされたのである。軍にとっては、唯一の落し所だった。

ところが、ドレフュスは納得しなかった。あらためて、再審請求を提出したのである。まさに、ドラマ「タイムトンネル」のドレフュス同様、信念の人であった。一方、このドタバタにウンザリしたフランス政府は、ドレフュスに対し大統領の特赦を与えることにした。有罪はそのままで、軍の顔をたて、特赦でドレフュスを釈放するというのである。ところが、ドレフュスは一歩も引かなかった。完全無罪を主張しつづけ、1906年7月、ドレフュスはついに無罪を勝ち取る

■ドレフュス事件4・結末

ドレフュス事件はたわいもないスパイ事件から始まったが、容疑者がユダヤ人だったことから、政治抗争にまで発展した。さらに、普及が始まった新聞の助けもあり、世論が大きな力をもつことも証明された。この事件で、大衆の影響力を見誤ったカトリック教会は地位を大きく失墜させ、王党派は政治生命を完全に断たれたのである。

結局、ドレフュス事件は、フランス共和制を盤石にし、フランスの歴史まで変えたのである。ところで、フランス革命はあれだけ有名なのに、なぜ、ドレフュス事件は日本では知られていないのか?ユダヤ教やユダヤ人にバイアスがかかっていないからだろう。ユダヤ人の歴史は日本人にとっては遠い世界なのかもしれない。

■リンドバーグとネオコン

リンドバーグは「大西洋単独無着陸飛行」をなし遂げた歴史的英雄である。そんな英雄が口にしたささいな一言が、彼から栄光の翼をもぎとった。その一言とは、
「アメリカでは、映画界をはじめどの世界でも、ユダヤ人が支配している

最近、ニュースで「ネオコン」という言葉がよく登場する。「ネオ コンサーバティブ(新保守主義)」の略だが、このネオコンを支える勢力の一つがユダヤ系アメリカ人と言われる。アメリカ国民に占めるユダヤ人の比率はわずか2%だが、富と権力を指標にすれば、比率はずっと大きくなる。結果、ユダヤ人の存在がアメリカの国家戦略に大きな影響を及ぼしていると言われる。

ユダヤ系アメリカ人の祖国イスラエルは、現在、パレスチナ問題をかかえており、その上位に中東問題がある。その核心はイスラエルとアラブ諸国の生存をかけた戦いである。これに、アメリカがイスラエルを支援し、アメリカがアラブ諸国と対立する構図があり、総体として一触即発の対立を生んでいる。

また、ハイテク兵器をもたないアラブの一部の組織はテロに訴え、状況をさらに複雑にしている。このような対立は、もはや、「反ユダヤ主義」のような単純なイデオロギーではくくれない。反ユダヤ主義は別の場所にある秘密の生存競争のための方便なのかもしれない。

《完》

by R.B

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