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週刊スモールトーク (第492話) 発火法(2)~火花、太陽光熱~

カテゴリ : 歴史科学

2022.02.10

発火法(2)~火花、太陽光熱~

■アハ!体験

古代人も現代人も地頭はかわらない。そもそも同じホモ・サピエンス(現生人類)なので。

それは発火法をみても明らかだ。

現代人ならみんなライターを使う。まれに粋な人はマッチ。それぞれ火花と摩擦熱を利用するが、古代人なら色とりどりだ。火花、摩擦熱はもとより、太陽光熱、さらに空気の圧搾熱というのもある。現代人は、技術の蓄積で古代人に優るが、地頭(発想力)はかわらないのだ。

というわけで、発火法は古代の方が面白い。

では、古代人はどうやって発火方法を見つけたのだろう。

数式はもちろん、文字もない時代なので、「熱力学」から導いたとは思えない。さらに、水も漏らさぬ論理で畳み込んでいく演繹法もムリ。この思考法には文字が欠かせないから。

ではどうやって見つけた?

アハ!体験。

このコトバを日本に広めたのは、脳科学者の茂木健一郎だ。「アハ!」と気づいた瞬間、わずか0.1秒で、脳の神経細胞が一斉に活動し、一発学習する。「気づき→ひらめき→創造」がほぼ一瞬、と言っているのだ。じつは、古代人の発火法もこの「アハ!体験」で説明できる。

火溝式(ひみぞしき)
【火溝式】

左のイラストは、最古の発火法「火溝式(ひみぞしき)」。棒で土台をこすり、摩擦熱で火をおこすのだが、煙が出ていることに注目。この煙が発火法の発見につながったのだ。古代人は、木や竹で道具をこさえていたから、「こする」は日常的だった。あるとき、こすると煙が出ることに「気づく」。すると次の瞬間、こすると火がつくことが「ひらめき」、摩擦熱による発火法を「創造」したのである。

つまりこういうこと。

「アハ!体験」は現代人も古代人も同じ。だから、技術の積み上げのない古代人でも、発火法を発見できたのである。しかも、熱源は、摩擦熱、火花、太陽光熱、空気の圧搾熱と、まるで発火法のデパートだ。

■火花で発火

摩擦熱式に劣らず古い歴史を持つのが火打ち式だ。

火打ち式(ひうちしき)
【火打ち式】

左のイラストのように、石や金属を強くぶつけあうと、火花が散る。その「瞬間の火」で火をおこすわけだ。火花の正体は空気中を流れる電流である。本来、空気は絶縁体なので、電流は流れない。ところが、2つの物体がぶつかって、大きな電位差が生ると絶縁破壊がおこる。結果、電流が流れるのである。雷が大気中をバリバリ伝わるのもこれ。落雷で山火事が発生するなら、火花でも火をおこせるはずだ。

火打ち式を最初を発見したのはクロマニョン人である。最古の痕跡(今のところ)が、1万年前のベルギーのクロマニョン人の遺跡で見つかっているから。彼らは、黄鉄鉱に火打ち石をぶつけると、火花が散ることを知っていた。それを乾燥した苔(こけ)に落とし、火をおこしたのである。ちなみに、クロマニョン人は現代人と同じホモ・サピエンスで、4万年前~1万年前、ヨーロッパに広く分布していた。

その後、鋼鉄が発明され、黄鉄鉱に取って代わった。それが、19世紀のマスケット銃の点火装置へと続く。撃鉄の先端に火打ち石(フリント)を取り付け、鋼鉄製のフリズンに激突させると、火花が飛ぶ。その火花が弾薬を爆発させ、弾丸が飛び出すのである。

つまりこういうこと。

火をおこす方法が、火器を進化させ、ミサイル、ICBM(大陸間弾道ミサイル)を生み出したのである。ICBMは核(水爆)を搭載する恐ろしい兵器だ。都市を丸ごとを破壊するのだから。搭載する核弾頭は10メガトン(0.5メガトン爆弾10個、1メガトン爆弾5個)、TNT火薬1000万トンに匹敵する。広島に投下された原爆の700倍だ。こんなものを都市の上空で炸裂させれば、何がおこるか。想像するだけで恐ろしい。だが、その100万倍恐ろしいのが人間である。

火は街を明るくするが、灰にすることもできる。

技術は人類の助けになるが、滅ぼすこともできる。

人間が生み出した科学技術は諸刃の剣なのだ。

2010年頃まで、その象徴が原子力だった。ところが、昨今、新手が台頭している。人工知能(AI)だ。2050年頃までに人工超知能が出現し、人類は気づく間もなく滅亡するだろう。

それを示唆する事実がある。

2017年5月、囲碁AI「アルファ碁(AlphaGo)」が、人間棋士のトップ、柯潔(かけつ)9段に3連勝した。アルファ碁は人間が想像もつかない意味不明の手を打ち(柯潔)、気がついたら負けていた・・・恐ろしい話だ。

2050年頃までに、AIは人間のすべての仕事を奪うだろう。人間はベーシックインカムで、資源を食いつぶすだけの存在になる。問題はそんな「存在」が認められるか?

それを決めるのは人間ではない。来たるべき世界で、政治・経済・軍事を牛耳るのはAIだから。AIが人間を目こぼししてくれることを願うばかりだ。

■太陽光で発火

猛暑が続くと山火事がおこる。それは今も昔もかわらない。つまり、太陽光は熱源になるわけだ。

太陽光で火をおこすといえば、アルキメデスの「太陽光熱ビーム砲」だろう。世界最古と断言はできないが、有名なエピソードがある。

紀元前219年、地中海世界の覇権をかけた最終決戦がはじまった。陸の王者ローマ帝国と、海の王者カルタゴの第二次ポエニ戦争である。紀元前214年、ローマの大艦隊がシチリア島のシラクサを包囲していた。シラクサはローマの同盟都市だったが、緒戦でカルタゴ有利とみるや、カルタゴに寝返ったのである。こりゃ許せませんね。

ローマ軍は兵力で勝ったが、シラクサには秘密兵器があった。科学者アルキメデスである。この偏屈な学者はアルキメデスの原理の発見で知られるが、太陽光熱ビーム砲も発明者でもあった。原理はいたってシンプルだ。複数の鏡(青銅か銅)で太陽光を反射させ、その熱線ビームをローマの軍船に集束させ、焼き尽くすのである。物的証拠はないが、原理的には可能だろう。

一方、平坦な鏡より、凹面鏡の方が太陽光を集めやすい。聖火リレーの最初の採火はこれ。古代オリンピックの聖地オリンピアのヘラ神殿で、凹面鏡でトーチに点火し、それをリレーでオリンピック開催地まで運ぶのである。

太陽光を集めるには、凸レンズを使う方法もある。子供のころ、山中で虫眼鏡で枯れ葉を燃やして遊んだものだ。ところが、言うは易し、なかなか火がつかない。それなりのノウハウが必要なのだが、今となっては自慢にもならない。そもそも、今どき山林で火をおこすのは危険です。山火事がおこったらタダではすまないので。

凸レンズの歴史は古い。紀元前1000年頃のアッシリア帝国までさかのぼるのだから。帝都ニネヴェの遺跡から、水晶でできた凸レンズが出土しているのだ。

では古代アッシリア人は凸レンズを何に使ったのか?

火をおこすため。

一方、凸レンズは拡大メガネとしても使える。少なくとも、2000年前の古代ローマ帝国で知られていたらしい。暴君ネロを支えた大政治家で、哲学者、文学者でもあったセネカがこう記しているのだ。

「水の入った球形のガラスの器を通して見ると、文字が大きく見える」

というわけで、人間の「アハ!体験」には脱帽だ。

だが、一つ謎がある。空気を圧縮して火をおこす方法。ただし、並の圧縮ではムリで、強い圧力で搾るように一気に圧縮する。つまり「圧縮」というより「圧搾(あっさく)」に近い。

この発火法は、16世紀の東南アジアで広く使われていたらしい。それをヨーロッパ人が目撃して再発明した、というのが通説だ。19世紀のイギリスで特許が取られているから間違いないだろう。

とはいえ、疑問も残る。

圧搾熱の原理は、熱力学でしか説明できない。この理論は、血も涙もない合理主義者の欧米人が、17世紀のニュートン力学をへて、19世紀にやっと見つけたのだ。それを、16世紀東南アジアのノンビリな人々が知っていたとは思えない。

では「アハ!体験」?

これも難しい。

アハ!体験には「気づき」が欠かせないから。そのチャンスがないのだ。まず、「圧搾熱で発火」は自然現象としては存在しない。さらに、日常の作業で偶然おこることもない。というのも、空気の圧搾には高度な密閉器具が必要で、狙って作らないとムリ。狙って作るなら、原理を知っているはずですよね。

どっちやねん?

原理でもなく、アハ!体験でもないなら、16世紀のアジア人はどうやって見つけたのだろう?

これは謎だ。

《つづく》

参考文献:
・週刊朝日百科世界の歴史20巻、朝日新聞社出版
・ビジュアルマップ大図鑑世界史、スミソニアン協会(監修),本村凌二(監修),DK社(編集)出版社:東京書籍

by R.B

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