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週刊スモールトーク (第483話) AIのおすすめ株(2)~AMD~

カテゴリ : 科学経済

2021.09.24

AIのおすすめ株(2)~AMD~

■ブタ株・ボロ株AMD

米国AMDは、世界有数の半導体メーカーだ。

ところが、トップシェアの商品は一つもない。品揃えはすべて二流で、企業イメージは三流。肝心の経営成績は万年赤字で、サイアク。株価も長期低迷し、5年前(2016年)はたったの2ドルだった。このような超低位株をブタ株・ボロ株とよんでいる。

ではなぜ、ブタ株・ボロ株を推奨するのか?

第一に、AMDは、未来の巨大産業「AI(人工知能)」と「DX(社会の完全デジタル化)」に深くかかわっているから。第二に、2021年9月現在の株価は100ドルで、ライバルのエヌビディアの半値。つまり、伸び代が大きい。

ちょっと待った。

2016年に2ドルだった株価が、2021年9月で100ドル。

5年で50倍?!

大丈夫、まだ伸び代はあります。

とはいえ、この5年で何がおきたか気になるところだ。そこで、AMDの過去を精査し、未来を見極め、投資に値するかジャッジしよう。

AMDの商材は3つある。

・ホストプロセッサ「x86CPU」

・グラフィックプロセッサ「GPU」

・AIプロセッサ「GPGPU」

ホストプロセッサは何でもこなせる汎用チップ、グラフィックプロセッサは描画に特化した専用チップ、AIプロセッサは並列演算に特化した専用チップである。

一番目のx86CPUは、トップがインテルで、AMDはバッタもん。二番目のGPUは、トップがエヌビディアで、AMDは二番手。三番目のGPGPUは、トップがエヌビディアで、AMDは番外。このように、商材がすべて二流以下の企業は、投資家に人気がない。経営効率が悪く、利益率も低く、お先真っ暗だから(当然です)。

といいつつ、4年前、身銭を切ってAMDを11ドルで購入した。

なぜか?

二番手とはいえ、CPUとGPGPUは、未来の巨大産業AIとDXを支える大黒柱だから。しかも、両方作れるのは、世界でAMDのみ。この強みをいかして、CPUとGPGPUを1チップにすれば、高速化と低価格が同時に実現できる。しかも、AI分野では、CPUとGPGPUがセットで使われるから需要も大きい。

じつは、AMDの1チップ化は先例がある。

AMDは、CPUとGPUを融合した「APU」を開発したのだ。それがTVゲーム機のプレイステーションとXBoxに搭載されている。TVゲーム機の3トップ、ソニー、マイクロソフト、任天堂のうち2社を独占しているわけだ。ところが、この事実はあまり知られていない。これも株価低迷の一因になっているだろう。

ではなぜ、APUはTVゲーム機の頭脳の覇者になれたのか?

TVゲーム機は強力なグラッフィク機能が欠かせないが、一方で、コストを抑える必要がある。ところが、CPUとGPUを1チップにすれば、高性能・低コストが同時に実現できる。だから、APUはTVゲーム機にうってつけなのである。

しかも、AIで使われるGPGPUは、グラフィックチップのGPUから、映像出力機能を取り除いたもの。だから、「CPU+GPU」を実現したAMDにとって「CPU+GPGPU」はお手のもの。

じゃあ、なんでさっさとやらない?

そんなどうにもならないことを、あーだこーだ考えていたら、4年前、突然、閃いた。

AMDのAPUが、次世代のプレイステーションとXBoxにも採用されたら?

AMDがCPUとGPGPUを1チップ化したら?

株価は大化け。そんな他力本願の強欲で、ブタ株・ボロ株を買ったのだ。

結果は?

株価は上がったが、原因は外れた。AMDのAPUは、次世代のプレイステーションとXBoxに採用されたが、「CPU+GPGPU」チップはまだ実現していないから。

ではなぜ、AMDの株価は4年で10倍になったのか?

本業のx86CPUで、AMDがインテルを逆転したのだ。わずか数年で、バッタもんから、ほんまもんへ。こんな逆転劇は、時計が7倍の速度ですすむ「ドッグイヤー」の半導体業界でも珍しい。

■x86CPUでインテル超え

AMDの過去5年の奇跡は解明された。そこで、つぎは未来を予測しよう。

AMDの未来は、現在絶好調のCPUと、まだ芽の出ていないAI・DXにかかっている。

まずは、CPUからみていこう。

CPUの優劣は、アーキテクチャー(構造設計)とチップ(半導体製造)の2つできまる。この両方で、AMDはインテルを圧倒しているのだ。

インテルが新しいアーキテクチャーに手間取るなか、2017年、AMDは新アーキテクチャー「Zen」を発表した。さらに、そのアーキテクチャーをベースにしたCPU「Ryzenシリーズ」を量産化し、大ヒットしている。結果、万年赤字から脱却したのである。

ただし、AMDがアーキテクチャーで勝利したのは自力だが、チップは他力本願。

半導体チップは、回路の線幅が小さいほど、スペースに余裕ができ、部品がたくさん詰め込める。さらに、線幅が小さいほど消費電力が少ない。つまり、線幅が小さいのはいいことづくめ。

ちなみに、AMDのRyzenの線幅は7nm(1nm=10のマイナス9乗m)だが、インテルの主力製品は14nm。じつに、2倍の差がある。理由はカンタン、AMDは世界最大最強の半導体製造会社TSMCに委託し、インテルは内製しているから。早い話、半導体製造技術では「TSMC>>インテル」なのだ。

つまりこういうこと。

AMDは、経営資源を設計(アーキテクチャー)に集中し、半導体製造(チップ)は世界最強のTSMCに委託している。一方、インテルは設計も製造も自前で、その志は立派なのだが、二兎を追う者は一兎をも得ず。

というわけで、製品力では「AMD>インテル」。

では、販売実績は?

様々なデータがあるが、諸々考慮すると、2021年にAMDがインテルを超えた可能性が高い。少なくとも、CPU単体の販売数では、2020年には逆転している。2017年、インテル85%、AMD15%だったのが、2020年はインテル30%、AMD70%だから。

さらに、高性能が要求され、利幅の大きいサーバー分野でもAMDがインテルに猛追している。たとえば、動画配信大手のNetflix(ネットフリックス)。AMDのサーバー向けCPU「EPYC」とインテルのサーバー向けCPU「Xeon」と比較テストを行った結果、EPYCがXeonより高速であることが判明。AMDを採用している。

というわけで、製品力でも市場シェアでも、AMDはインテルを圧倒している。

では今後は?

まずは線幅(製造プロセスルールという)。TSMCは、2022年に3nmに移行するが、インテルは10nmさえ怪しい。そもそも、TSMCは半導体製造専業で、世界一の技術とシェアを誇るから、インテルに勝ち目はない。

つぎにアーキテクチャー。インテルがAMDを超えるのは至難だろう。

なぜか?

当面、CPUのアーキテクチャーのキモはマルチコアだが、この技術で、AMDに一日の長があるから。マルチコアとは、1つのCPUチップに複数のコア(頭脳)を組み込むこと。コアの数が多いほど、同時に実行できる処理数が増えるので、高速になる。CPUは、低消費電力が重要なモバイルをのぞき、速くてなんぼ。だから、マルチコアが重要なのである。

では、他に高速化する方法はない?

これまでは、動作周波数を上げることで対応してきた。動作周波数とは、CPUが1秒間に処理できる基本数で、1GHzなら、1秒間に10の9乗回。動作周波数が高いほど、1秒間で処理できる数が増えるから、処理速度が上がる。シンプルでカンタンな方法だが、10年ほど前、完全に行き詰まった。動作周波数を上げると2つの弊害が生まれたのだ。

第一に、消費電力が増え、発熱が増えた。CPUに巨大なファンとヒートシンクを直付けしても、冷却できなくなったのだ。現在、動作周波数は3~4GHzだが、そのあたりが限界だろう。それを超えると、CPUがメルトダウンするから。ただ、そうなる前に、段階的に動作周波数を下げ、最終的にCPUは停止するのだが。

第二に、動作周波数が上がるとリーク電流(漏れ電流)が発生する。半導体は、読んで字のごとく、電流の流れる導体と、電流が流ない絶縁体のハイブリッドになっている。信号を伝える回路は、電流が流れるので導体、その周囲は電流が漏れないよう絶縁体になっている。ところが、動作周波数が高くなると、絶縁体に電流が漏れる。これがリーク電流だ。それが正しい信号電流と衝突すると、誤動作をひきおこす。半導体が微細化し、回路間の距離が短くなったことも、リーク電流の一因だろう。

というわけで、現在のシリコン半導体では、これ以上動作周波数を上げるのはムリ。コア数を増やすしかないだろう。コアに直付けする高速キャッシュメモリの容量を増やせば、CPUとメモリ間のデータ転送は高速になるが、グロスでみると効果は限定的。他にも方法はいろいろあるが、すでに実装され、大きな改善は見込めない。さらに、画期的なアーキテクチャーも望めない。なぜなら、現在のコンピュータは、根本がノイマン型アーキテクチャーで、それを超えることはできないから。

ところで、コア数が増えたら、アプリも高速になる?

アプリによる。

まず、アプリがマルチコアに対応していないと速くならない。さらに、原理的に並列処理がムリな処理もある。たとえば「①ファイルからデータを読み込む→②データを加工する→③データをファイルに書き込む」の3つの処理は並列処理できない。①②③を同時に処理したら、結果がメチャクチャになるから。このような処理を逐次処理とよんでいる。

一方、コア数が多いほど速くなるアプリもある。

今、自然言語処理AIのプログラムを書いているが、劇的に速くなる。処理対象のテキストを分割して、複数のコアで割当てて、並列処理させるのだ。テキストを10に分割し、10個のコアに並列処理させれば、10の処理が一度に実行できる。理論上、処理時間は1/10になるが、オーバーヘッドがあるのでそこまで速くならない。とはいえ、コア数が多いほど高速になるのは間違いない(実証済み)。

現在使用中のパソコンは2コアだが、AMDの「RyzenThreadripper3990X」を検討している。コア数が64個なので、20倍は速くなるだろう。たとえば、自然言語処理の前処理の形態素解析(品詞分析)で、現在100分以上かかっているが、5分ですむ。夢のような話ではないか。パソコン本体が90万円もするが、それを補って余りある。

では、インテルは?

ハイエンドCPU「Xeon」でも、64コアは存在しない(2021年9月)。仮にリリースされても、パソコン本体で軽く100万円は超えるだろう。

ということで、結論。

当面、x86CPUなら、AMDの一択。絶対スペックもコスパも圧倒しているから。それが市場シェアにも反映されているわけだ。

■AMDの隠し玉

AMDには秘密の隠し玉がある。

最近、注目されている半導体「FPGA」だ。半導体はハードウェアなので、一度作ると、論理回路を変更できない。CPU、GPU、GPGPU、特定用途向けのASICもすべてこのタイプだ。

ところが、FPGAは論理回路を何度も変更できる。しかも、FPGAはハードウェアなので、CPU(ハードウェア)とプログラム(ソフトウェア)で処理するより、はるかに高速だ。つまり、FPGAはハードウェアの高速性とソフトウェアの可変性をそなえた万能チップなのだ。ただし、欠点もある。作るのが難しく、開発費が高騰すること。そのため、現在は、高速最優先で金に糸目をつけない戦闘機やフィンテック(金融工学)で使われている。

じつは、そのFPGAに、AMDが本腰をいれようとしている。

2020年10月、AMDはFPGAの王者ザイリンクスの買収を発表。さらに、2021年1月、「CPUとFPGAのハイブリッドプロセッサ」の特許を出願している。変更できないCPUと、変更可能なFPGAをシームレスに融合して、新しい半導体を作ろうとしているのだ。

だから?

地味でわかりにくい話だが、半導体技術のブレイクスルーになる可能性がある。

技術はいいとして、どうやってお金に換える?

AIで、高速が要求されるパートはFPGA、それ以外はCPUかGPGPUで。つまり、高速かつプログラマブルなハイブリッドAIチップを狙っている。さらに、FPGAは、ネットワークのキモ「仮想技術」に有効なことがわかっている。AMDが、巨大市場のデータセンターも射程にいれていることは間違いない。

というわけで、AMDの戦略は地味でわかりにくいが、未来産業のAIとDXのツボをおさえている。しかも、王者エヌビディアとはアプローチが違うから、差別化も万全。そして、ここが肝心、一般投資家はこの事実に気づいていない。こんな面倒くさい技術の話など、誰も解さないから。一方、現場の技術者はわかっているが、本業に追われ、投資する余裕がない。というわけで、AMDは大穴?

■AMDの死角

では、AMDに死角はない?

もちろんある。そもそも、死角のない企業はないので。

AMDの株価が、この5年で50倍、4年で10倍になったのは、x86CPUでインテルに勝利したから。だが、CPUはx86だけではない。じつは、この数年、ARM(アーム)の台頭が著しい。ARMは英国ARM社が提供するCPUの総称である。

10年前まで、パソコンと組み込み型コンピュータでCPUといえば、ほぼx86一択だった。パソコンは様々なアプリが走る汎用機、組み込み型コンピュータは特定のアプリが走る専用機と考えていい。

一方、モバイルコンピュータは、バッテリーで動作するから、消費電力が少ないほどいい。そのモバイル機で圧倒的なシェアを誇ったのがARMだった。つまり、x86はハイスペック、ARMは省エネという暗黙の棲み分けがあったのである。

ところが、近年、ARMの処理能力がメキメキ向上している。2020年6月のスパコン世界ランキングで史上初の4冠を達成した「スパコン富岳」のCPUもARMだ。さらに、アップルは、MacのCPUも、x86からARMに替えようとしている。

というわけで、今後、ARMが増え、x86は減るのは間違いない。じゃあ、x86CPUはもう終わり?

話はそうカンタンではない。

x86CPUは、完成品(チップ)で供給されるので、すぐに使える。一方、ARMは設計データとして提供されるので、自社でカスタマイズして、半導体チップを製造する必要がある。

ではなぜ、そんな面倒くさいARMを使うのか?

カスタマイズすれば、オンリーワンのCPUがつくれるから。つまり、コンピュータの頭脳CPUで他社と差別化できるわけだ。たとえば、アップルはCPUを内製化し、iPhone、iPad、MacのCPUをARMで統一しようとしている。

メリットは2つある。まず、CPUを内製化すれば、AMDやインテルのロードマップ(開発スケジュール)の制約を受けないので、開発スピードがあがる。つぎに、CPUを1つにすれば、アプリが共有できるので、ソフトの開発スピードがあがる。さらに、アップルのすべての製品がシームレスにつながり、モノリシック(一枚岩)な巨大なコンピュータシステムが誕生する。効率も利便性も劇的に向上するだろう。

ただし、Windowsパソコンは別。

Windowsパソコンは、すでに膨大な数のアプリが稼働している。もし、CPUをx86からARMに替えたら、Windowsとアプリを修正する必要がある。Windowsとほとんどのアプリは、CPU固有のコードで書かれているからだ。そのため、CPUを替えると、それにあわせ、プログラムを修正する必要がある。

そんな面倒をしょいこんでまで、CPUを替える必要があるだろうか?

そもそも、Windowsパソコンは複数のメーカーが製造しているから、各社のARMの仕様を統一する必要がある。でないと、メーカーの互換が保てないから。それなら、今のx86のままでいいではないか。なぜ、わざわざソフトウェアを修正してまで、ARMに替える必要があるのか。

というわけで、Windowsパソコンで、CPUをx86からARMに替えるのは有害無益。ちなみに、パソコンの市場シェアは、Macが数%で、残りはWindowsなので、パソコン市場でARMがAMDの脅威になることはないだろう(当面は)。

一方、ARMにも死角がある。

AIチップの王者エヌビディアが、ARMを買収しようとしているのだ(2021年現在ソフトバンクが所有)。もし、この買収が実現したら、エヌビディアと競合する企業は、これまでのようにARMを自由に使えなくなる可能性がある。

では、ARMを採用している企業はどうするのか?

フリーのCPU「RISC-V」に走るだろう。設計データが無料で手に入るし、自由に制限なく使えるから。それが加速すれば、ARMはエヌビディアしか使わなくなる。結果、ARMのシェアは激減するだろう。

とはいえ、そんな事態は、世界中の企業も国も望んでない。公正な競争が阻害されるからだ。事実、世界各国の競争監視機関は、エヌビディアのARM買収に懸念、または反対している。そんなわけで、エヌビディアがARMを買収できる可能性はほとんどない。

おいおい、どっちやねん?

AMDに投資するべきしないべきか、それが問題だ。

では、エヌビディアとAMD、両方買えばいい(実際に身銭を切って買いました)。

どちらかがコケたら、もう片方が生き残る。残った方が丸取りするから、株価は10~100倍になるだろう。つまり、コケた方の損失を補って余りある。もちろん、投資はバクチなので、100%そうなるとは限らないが。

というわけで、自分で頭でナットクできるまで考えましょう。そして、実践するなら、腹をくくって自己責任で!

《つづく》

by R.B

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