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週刊スモールトーク (第477話) 日本はパンデミック五輪の実験場~思考停止の国~

カテゴリ : 社会

2021.06.18

日本はパンデミック五輪の実験場~思考停止の国~

■翳りゆく日本

21世紀人間は人生を自動航海している。

人生は大海をゆくがごとし、周囲を見渡しても、空と海しか見えない。ランドマークは皆無で、現在位置を特定するすべもない。だが心配無用、航海用GPSが目的地に導いてくれる。自分がどこにいるか知る必要はないわけだ。

でも一つ疑問が。

われわれはどこへ向かっているのか。

それも知る必要はない!?

高度に管理された社会は、人間の家畜化がすすむ。社会の規範や常識に従っていれば生きていけるから。自分の頭で考える必要はないわけだ。とはいえ、それが常態化すると、自分の望みさえわからなくなる。その先は・・・ここはどこ、わたしはだれ?

長いサラリーマン人生で気づいたことがある。心の病気になる人には共通点がある。「あなたの望みは何ですか?」に即答できないのだ。

とはいえ、ココを深堀りすると、芥川龍之介、太宰治、三島由紀夫の二の舞になる(自死)。人間も人生も複雑なのだ。

昨今、日本人の気質は大きく変わった。それだけはない。国や社会も一変している。

戦後、日本は技術立国、貿易立国、経済大国、平等な国を自負してきた。だが今は違う。技術では中国に追い上げられ、重要なAI(人工知能)では大きく遅れを取っている。

さらに、日本はすでに貿易立国ではない。GDPに占める輸出額比率は16%で、世界143位。日本は貿易立国どころか、内需立国なのだ。内需国の経済は、自国の人口を超えて成長することはできない。その人口も2009年をピークに減少し続けている。つまり、日本は経済成長のエンジンを失ったのだ。事実、日本のGDPの成長率は、G7で最下位。GDP世界第3位を誇る向きもあるが、時間軸を忘れている。変化率が最低なら、いずれ経済大国から転落するのは自明である。

そして、最大の問題は貧富の差が拡大していること。日本の貧困率は15.7%で、先進国で第3位。貧困率が高いと、不幸な国民が増えるだけではない。安定して巨大な大衆消費が減り、富裕層頼みになる。だが、高級品や嗜好品では一国の経済を支えることはできない。さらに、食うに事欠けば治安も悪化するだろう。だから、貧困率が上がれば、国全体が不幸になるのである。

■日本人の今昔物語

日本は技術も経済も停滞し、貧富の差は拡大している。ゆるやかだが、確実に衰退している。ところが、当の日本人は騒ぐ気配もない。

なぜか?

日本人は、自分の頭で考えなくなったのだ。政府やマスコミが垂れ流す情報を鵜呑みにし、真実を見抜こうとしない。結果、日本全体が「ゆでガエル」と化し、危機に対応できなくなっている。カエルを水おけにいれ、少しづつ水温をあげると、それに気づかずに死んでしまう。ところが、熱湯の中に放り込むと、すぐに飛び出す。危機に慣れると致命傷になるという教訓だ。

たとえば、2011年3月11日の福島第一原発事故。政府と東電トップの戦略ミスで、現場にしわ寄せがいき、東日本壊滅寸前に追い込まれた。

ところが、そこから何も学んでいない。

2019年に始まった新型コロナだ。感染症(伝染病)は、初期の封じ込めがすべてなのに、ユルユル、ダラダラ。あげく、GoToトラベルを強行し、感染がさらに拡大する始末。しかも、この結末は専門家が予測、警告していた。だから想定外の事態だった、は通用しない。そんなこんなで、2021年になっても終息する気配はない。

ここで、首都直下地震、南海トラフ地震、富士山噴火がおきたらどうするのか?

心配しすぎ?

致命的な災厄に備えるのが政府の仕事だろう。国会で居眠りしていても、パンデミックで国民が失業しても、高い報酬をもらえるのだから。

もっとも、東京五輪を強行する気満々だから、天災が重なるとは夢にも思っていないだろう。日本がこれほどユルユル、ダラダラの「ゆでガエル」とは思わなかった。

だが、日本人は元々そうだったわけではない。

太平洋戦争中、米軍の司令官だったダグラス・マッカーサーは、明治時代に来日している。そのとき、日本人の知力、信念と気概、威厳に満ちた顔つきに感嘆している。昔の日本人は、決してユルユル、ダラダラではなかったのだ。

さらに、1863年、スイスの遣日使節団長アンベールは横浜を訪ずれ、こう記している。

「みんな善良な人たちで、私に出会うと親愛の情をこめたあいさつをし、子供たちは真珠色の貝を持ってきてくれ、女たちは、籠の中に山のように入れてある海の不気味な小さい怪物を、どう料理したらよいかを説明するのに一生懸命になる。根が親切と真心は、日本の社会の下層階級全体の特徴である。農村を歩き回っていると、人々は農家に招き入れて、庭の一番美しい花を切り取ってもたせてくれ、しかも、絶対に代金を受けとろうとしない。善意に対する代価を受けとらぬのは、当時の庶民の倫理らしい」(※)

親切と真心、見返りを求めないホスピタリティ精神。ところが、21世紀の日本人は、6世帯に1世帯が貧困(15.7%)でも気にもとめない。

■日本人が変質した理由

極東の日本は、他の地域とは異なる文化・思想を育んできた。ところが、1945年、それが一気に崩壊する。原因は太平洋戦争の敗北である。

太平洋戦争後、ダグラス・マッカーサーを首班とするアメリカ軍が日本に進駐してきた。そして、日本が二度と強国にならないよう、国軍を解体し、おとぎの国ような平和憲法をおしつけた。結果、日本は最も重要な安全保障を米国に丸投げし、戦争を悪と決めつけ、軍事を放棄した。だが、戦争は外交の延長上にある。そんな厳しい現実から目を背け、安易な金儲け(経済)に専念してきたのだ。だから、未曾有の危機に直面すると、オロオロ、バタバタ。2011年の福島第一原発メルトダウン、2021年の新型コロナが、それを物語る。

アメリカ進駐軍の平和憲法は、日本人から危機対応力を奪っただけではない。日本固有の文化や思想まで破壊した。結果、日本人は考える基準を失い、自分の頭で考えられなくなった。さながら、日本列島を漂う根無し草、浮き草である。

2021年の東京五輪強行がその象徴だろう。「国民の命を削ってでも五輪だけはやる」のだから本末転倒。強行というより「凶行」だろう。外国から10万人がおしかけて、五輪が終わると、世界中に散っていく。東京と世界中にウィルスをバラまくのだから、平和の祭典どころか、ウィルスの祭典である。

すでに、日本の都市部では医療崩壊がおき、緊急搬送拒否や自宅待機で、本来助かる命が失われている。そんな状況で、首都・東京にウィルス増幅器「東京五輪」を持ち込むのだから、狂気の沙汰。政府分科会の尾身茂会長が「コロナ禍での五輪開催は普通はない」と発言したが、公衆衛生や感染症以前に、常識の問題だろう。

そもそも、医療体制はどうするのか?

自衛隊や休職中の医療従事者を五輪に投入するというが、そのリソースを医療崩壊している都市部に投入するのが筋だろう。芥川賞作家の平野啓一郎が、こんなツイートをしている。

「能力が無いのに人事パワハラでのし上がった首相が、国家の危機に直面して、結局誰もまともな助言をしてくれる人がおらず、利権と政権維持欲と『思い』とカンだけで対処し、甚大な被害を出した、というのは、末永く訓話として伝えられるべきだと思う」

至言である。

というわけで、日本は本末転倒、巨大矛盾と私利私欲が横行し、論理も倫理もない。それを先導するのが国のトップリーダーというのだから、救いようががない。後世、菅首相にくみしたお仲間は日本の黒歴史にその名を刻むだろう。とはいえ、政権だけが悪いのではない。政権をチェックすべき野党もマスコミも機能していない。ただ、日本共産党だけは、理路整然と、歯切れよく、ガチで攻め込んでいる。次の選挙は、共産党に入れようかな。

そんなこんなで、日本人は自分に火の粉がふりかからないなら、僕たち関係ないもんね?

それですめばいいのだが。

80年前、反ナチス運動マルティン・ニーメラーはこんな言葉を残している。

「ナチスが最初、共産主義者を攻撃したとき、私は声をあげなかった。私は共産主義者ではなかったから。つぎに、社会民主主義者が攻撃されたとき、私は声をあげなかった。私は社会民主主義者ではなかったから。さらに、労働組合員が攻撃されたとき、私は声をあげなかった。私は労働組合員ではなかったから。そして、私が攻撃されたとき、私のために声をあげる者は、誰一人残っていなかった」

■パンデミック五輪の実験場と化す日本

五輪はスポーツである。それ以上でも、それ以下でもない。それを国民の命に優先させるのだから、恐ろしい話だ。でも、アスリートは五輪に人生を賭けているから可哀そう?

柔道五輪のメダリストで、JOCの山口香理事がこんな発言をしている。

「体操の内村航平さんの『お盆も正月もなくやってきた。この舞台のためにアスリートは命をかけている』という発言が注目されました。本当にそうだと思う。でも、国民の目線だと『すごい覚悟。でも好きでやっていたんだよね。誰かにやらされてやっていたんですか』と、そこに尽きるんです。皆、それぞれが、自分が好きなこと、生きることを頑張っている。アスリートだけが特別じゃないんです」

至言だ。

医療従事者も、飲食業・旅行業で働く人たちも、仕事に人生をかけている。そうしないと生きていけないから。だから、みんな同じ、と言いたいのだが、少し違う。政府は、医療従事者のワクチン接種が完了していないのに、五輪関係者の接種を終えた。国民の命より五輪が大事・・・不要不急、優先順位の意味わかってます?

とはいえ、これは確信犯だ。東京五輪凶行の狙いはハッキリしているから。IOCがカネ、カネ、カネで、己の既得権益しか頭にないことは周知である。だから、日本人が何人死のうが知ったこっちゃない。

日本人はそろそろ気づくべきだ。

日本がパンデミック五輪の実験場にされていることを。伝染病が世界で蔓延する中、五輪を開催したらどうなるか、そのデータ取りなんですよ。今後の伝染病五輪に役立つからいいって?

実験台にされる日本人はたまりません。

それを率先しているのが日本政府というのだから、これまたビックリだ。彼ら彼女らは誰から報酬をもらっているのだろう。日本国民の血税と思っていたのだが、間違いですか?

■人間牧場

太平戦争後、日本人は変質したが、半世紀前の日本人はまだ気概があった。たとえば、1960年の安保闘争。一部の国会議員、学生、市民が日米安保条約に反対し、大規模なデモ運動を行った。体を張った本気の反政府運動で、死者まで出ている。今の日本からは想像もできない。最終的に、日米安保条約は強行採決されたものの、岸内閣は混乱の責任をとって総辞職。国民の気概が政権を倒したのだ。

さらに、1968年、全国の大学で学生運動が始まった。火炎瓶や角棒を使った実力闘争で、封鎖される大学もあった。運動はエスカレートし、1969年、東大入試は中止となった。

その数年後、大学に入学したが、学生運動はまだ続いていた。大学の構内で、デモ隊と機動隊が衝突し、角棒や投石による肉弾戦が繰り広げられた。授業は潰され、全員留年の可能性もあった。その後、ギリで授業は再開されたが、それを知らないクラスメートもいた。大学は休校と思い込んで遊び呆け、留年。そんなこんなで、わがクラスは前代未聞の留年者をだした。電気工学科40人の中で、4年で卒業できたのは半分強。半分笑え、半分笑えないが、今となれば懐かしい思い出だ。そして、何より熱い時代であった。

学生運動の目的は、大学や組織によって異なるが、最大公約数は反権力・反体制である。何でも反対、中には自分探しでやっている者もいたので、決してほめられられたものではないが、自分が正しいと信じたことをやりきる気概は必要だろう。でないと、日本がパンデミック五輪の実験場にされても、気づかないから。

平穏な毎日は捨てがたい。同じことの繰り返しは安全だ。誰もがそう思いたい。だが、自分の頭で考えて行動しないと、人間は家畜化する。

家畜の末路は哀れだ。

最後は、飼い主の食い物にされるから、牛や豚やニワトリのように。飼い主がIOC・日本政府で、牛・豚・ニワトリが日本国民とまでは言わないが(言ってるぞ)。

参考文献:
(※)逝きし世の面影、渡辺京二、平凡社

by R.B

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