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週刊スモールトーク (第471話) 菅首相長男の接待問題~劣化する日本の知力~

カテゴリ : 社会

2021.03.26

菅首相長男の接待問題~劣化する日本の知力~

■菅首相・長男の接待問題

菅義偉首相の悪夢はつづく。

政府キモ入りのGoToトラベルが医療崩壊をおこし、派閥の領袖が新型コロナで無症状入院、さらに、緊急事態宣言のさなか、幹部議員が夜の店をハシゴ。つづいて、新型コロナアプリCOCOAにバグ発生。あげく菅首相の側近と身内までが炎上・・・首相お気に入りの内閣広報官・山田真貴子氏と長男・正剛氏である。

山田氏が、正剛氏が勤める放送事業会社「東北新社」から、お一人様7万円の会食接待を受けたというのだ。「ゴチ広報官・山田真貴子氏の素性」のキャッチーな記事がネットを飾った。さらに粋な川柳「モリカケに今度は菅の親子丼」が大手誌を飾る。日本語の表現力には脱帽だが、話はソコではない。これが総務省の一大スキャンダルに発展したのだ。

総務省で接待をうけた職員は12人、うち11人が処分を受けた。さらに、国会答弁で偽証した谷脇康彦総務審議官は、60歳で総務省を退官。本来、高位の総務審議官の定年は62歳だが、審議官を解かれたため、定年が早まったのだ。

とはいえ、会食接待は民間企業では日常。なぜ国家公務員だけがNGなのか?

国家公務員倫理法で、国家公務員が利害関係者から飲食の接待を受けることが禁じられているから。今回のケースでは、国家公務員は「CS放送業務の許認可を与える」総務省で、利害関係者は「CS放送業務を営む」東北新社と正剛氏。これだけでバレバレだが、もう少し詳しくみていこう。

2018年、12社16の番組が、CS放送業務として認定された。このうち、SDTV(標準テレビ放送)は、東北新社子会社の番組「囲碁将棋チャンネル」のみ。他はすべてHDTV(ハイビジョン放送)だった。現在、主流は高解像度のHDTVで、低解像度のSDTVはハンディがあるのだ。

ではなぜ、東北新社のSDTV番組「囲碁将棋チャンネル」が認可されたのか?HDTVでも落ちた番組もあるのに。

SDTVは解像度が低いぶん、制作費も維持費も安い。SDTVで認可されれば、放送業者は一挙両得。だから接待のおかげと疑われたわけだ。中学生でもわかる構図。そもそも、何の魂胆もなく一人7万円もごちそうしますか?

確たる証拠がない?

この手の問題に、物的証拠も状況証拠もないだろう。アヒルのように歩き、アヒルのように鳴けば、それはアヒルなのだ。カラスがアヒルに変装している可能性もある、なんて見苦しい弁解はやめよう。だから「ゴチ広報官」なのだが、話はそこではない。決定権をもつ国家公務員が、利害関係者から接待を受けると、こういうことになるのだ。「国の許認可=接待額」ではシャレにならない。

じつは、この事件には第二弾がある。東北新社は、放送法に違反して、外国資本の出資比率が20%を上回っていたのだ。外資規制をオーバーしているのに免許が認められた?

これにはビックリだ。

低解像度SDTVで認可、どころの話ではない。東北新社の衛星放送「BS4K」は、2017年1月に認定されたが、この時点で外国資本の議決権比率が20%を超えていたという。

結局、東北新社の衛星放送免許は取り消されてしまった。東北新社にとっては致命傷ではないが、これまでの努力がパァ。「見つかってヤバいことはするな」は石油王ロックフェラーのコトバだが、身にしみる教訓だ。今となっては遅いが。

自民党の世耕弘成参院幹事長はこう発言している。「会食によって政策が曲げられたことがなかったか徹底的にチェックする必要がある」

本気か、リップサービスかはさておき、本格的な追求が始まる可能性もある。というのも、この事件には第三弾があるのだ。NTTによる総務省接待疑惑だ。このケースでは、対象者は歴代の総務大臣にまでおよぶ。国会議員も官僚も企業もズブズブ、腐敗の極み?

まぁでも、官民の贈収賄は今に始まったことではない。これほど長く続くのは、ある種の合理性があるからだろう。

■盗人にも三分の理

もちろん、合理性があれば許されるわけではない。ただ、接待した側もされた側も、情状酌量の余地はあるかもしれない。

「盗人にも三分の理」というではないか。意味するところは「悪事を働くにも相応の理屈がある」。フォローしているのか、けなしているのかわからないが、話を進めよう。

総務省は菅義偉首相の天領、は周知の事実。さらに、菅首相が言うことを聞かない官僚をバンバン左遷することも周知。だから、総務省の役人は菅首相の長男から誘いがかかれば断れないだろう。役人が権力者に忖度するのは、道徳と法の問題はさておき、理由があるわけだ。

もちろん、例外もある。

元財務省・近畿財務局の赤木俊夫さんもその一人だろう。「森友学園への国有地売却」で決裁文書の改ざんを苦に自ら命を断っている。だが、こんな命懸けの正義を、公務員に期待するのは酷だろう。長年積み上げたキャリアと、自分と家族の生活を犠牲することになるから。というわけで、悪事ではあるが、情状酌量の余地あり。

では接待した菅首相の長男は?

ミュージシャンを目指していたというから、ビジネスの経験はない。だから、採用してくれた東北新社の恩に報いるには、父親の威光を利用するしかない。そもそも、親の七光り、役立たずと言われたくないだろう。つまり、自分ができることで、会社に貢献しようとしたわけだ。その心掛けに問題はない。だが方法がまずかった。規定をやぶり、最終的に会社に損害を与えたのだから。というわけで、悪事に変わりはないが、こちらも情状酌量の余地あり。

一方、東北新社にしてみれば、番組の認可は死活問題だ。きれいごとを言って、赤字垂れ流しなら、会社は傾くし、社員は路頭に迷う。そうなれば、経営トップは、役立たず、給料泥棒とののしられ、無能経営者の烙印をさおれるだろう。だから、使える手駒はすべて使って、業績を伸ばすしかない。つまり、法スレスレ。たとえて言うなら、刑務所の塀の上を歩くようなもの。塀の外側に落ちれば名経営者だが、内側なら犯罪者だ。

というわけで、総務省の官僚、菅首相の長男、東北新社、それぞれ三分の理がある。もちろん、悪いことは悪いこと、罰せられて当然だろう。そもそも、本件は重大な問題を包含している。本来は贈収賄なのに「国家公務員倫理法」で処理され、減俸や降格ですんでいる。行政処分(職場からの罰)のみで、刑事処分(国からの罰)は免除されているのだ。もし贈収賄で起訴されたら、重い刑事罰が課せられただろう。

それなら、マスメディアも国民も上級国民を糾弾するべきでは?

それはそうだが、何事も限度がある。度を過ぎた誹謗中傷は、当事者を見世物にするだけ、人の道に外れるだろう。

ではどうしたらいいのか?

現状のまま進めるしかない。悪事が露見したら、それを防ぐ法律をつくる。それが破られたら、それをカバーする法をつくる、それを繰り返すしかない。歯切れは悪いが、現実解はこれしかないだろう。人間は狡猾で欲望に限りがないから、悪を撃ち抜く「銀の弾丸」は存在しないのだ。

■菅首相の資質

しかし、国のトップリーダーは別。強大な権限に見合った厳しいルールが課せられるべきだろう。失敗は「傾国」を意味するから。

では菅義偉首相は?

不祥事がつづき、何をやってもうまくいかない。支持率も急落している。とはいえ、新型コロナがなければ、ここまで追い込まれなかっただろう。だから運もあるが、気になることが。菅首相の「言い間違い」だ。森喜朗元会長の失言どころでない。

森元会長は昔から、サービス精神旺盛で、ウケ狙いで失言することがあった。後で非難をあびるのだが、「意識して」ウケを狙っている。ところが菅首相は根本が違う。「無意識に」言い間違えているのだ。

具体例をあげよう。

「あらゆるゼンタイ」→「あらゆる主体」の間違い

「そこそこある」→「そこにある」の間違い

「静岡」→「福岡」の間違い

「限定的」→「徹底的」の間違い

このような初歩的な言い間違いが、枚挙にいとまがない。そもそも、原稿の棒読みなので、「言い間違え」ではなく「読み間違え」。

首相がこれで、この国大丈夫!?

一方、菅義偉さんを擁護する意見もある。官房長官としては有能だが、首相は合わないだけ。だが、言い間違いは官房長官時代にもあったのだ。

2019年3月11日、大震災追悼式で、「追悼式」を「記念式典」と言い間違えたのだ。これは凡ミスですまされない、大失態である。

さらに気になるのは、国会答弁があまりにも酷いこと。表現力、説得力以前に、質問に対する「答え」になっていない。Q&Aの基本ロジックが破綻しているのだ。たぶん日本語なのだろうが、意味不明、コトバとして成立していない。民間企業なら「お前、バカか!」で一刀両断なのに、それを壊れたレコードのように延々と繰り返す。

トップリーダーなら、立場上、正直に答えられないこともあるだろう。だが、もっと上手な誤魔化し方がある。それが為政者の「知力」というもの。ところが、菅義偉首相にはそれがない。そして、情けない話だが、他の大臣や官僚も同じ。

日本は本当に先進国なのだろうか?

難しい話をしているのではない。言い間違い、受け答え、つまり、基本的な「知」が欠落していると言っているのだ。それが、国を背負うトップリーダーだとしたら?

だが、菅義偉首相個人を責めるのは酷だろう。ことは知の資質にかかわるから。遺伝子を非難するのは不毛です。責任があるとすれば、首相を選んだ与党、マスメディア、国民だろう。というわけで、日本は「知力の劣化」に直面している。

■日本人の資質

東大合格を目指したAI「東ロボくん」の新井紀子さんが面白いことを言っている。

「ポピュリズム(大衆迎合政治)が始まったのは、小泉政権のときだったと私は思っているのです。小泉さんは国民の『論理で考える力』が相当崩壊していることを見抜いた。昨今の政治状況をみていると、国民はあのときよりもっと見くびられているんじゃないでしょうか」(※)

でも、本当はこう言いたかったのでは?

日本は、政治家も国民も知力が崩壊している。知の基本「読み書きソロバン」も怪しいのだと。

新井紀子さんの著書「AIVs.教科書が読めない子どもたち」がベストセラーになっている。でも、本当のタイトルは「教科書が読めない大人たち」なのでは?

国会答弁を聞いていると、それが本当に思えてくる。

人生は問題解決の場、生き抜くためには高度な「知」が必要だ。たとえば・・・

感覚より論理、からみを読み解く、何事もバランスとタイミング。

モノゴトは抽象化する、面で思考、時間軸を忘れずに、などなど。

でも、読み書きソロバンが怪しいなら、そんな上等なことは言っていられない。それ以前の問題だ。

その証拠もある。

日本は、先進国で唯一、GDPと世帯収入が伸びていない。この2つの指標は、官力と民力の和なので、総体的「知」が劣化しているのは明らかだ。

それは、新型コロナのワクチン接種にもあらわれている。日本は接種開始はG7で最も遅く、接種した人数も最低レベルだ。米国4453万人、ドイツ325万人、英国230万人に対し、日本は2万人強。他の先進国より2桁から3桁も少ない。根本がおかしくなっているのだ。

あげく、この状況で、東京五輪を強行しようとしている。新型コロナの感染が拡大することを知りながらやるのだから、太平洋戦争を超える暴挙。太平洋戦争には日本の主権を守る大義があった。だが、東京五輪にはそんな大層なものはない。アスリートのため?世界中で伝染病が蔓延するさなか、そんなことを言っている場合ではないだろう。オリンピックの利権者のため?それならナットクだ。

世論調査の結果もそれを示唆する。東京五輪の「延期・中止」派が8割超え。このような民意を無視した強行策には驚愕する。2021年・東京五輪は、1941年・太平洋戦争を超える暴走だろう。結局は開催できないだろうが。

それだけではない。デジタル化も日本は最低レベル。COCOAのバグ騒動はその象徴だろう。これほど不始末を乱発する政権は珍しい。というか、近年記憶にない。それでも政権が倒れないのは、野党、マスメディア、国民のせい。つまり、日本の知は劣化しているのだ。

つまりこういうこと。

日本は経済大国、技術立国は、遠い昔の話。「日本の知力」は読み書きソロバンさえ怪しくなっているのだ。

だが、まだ遅くはない。活字を読んで、知識を仕入れ、自分の頭で考えよう。政治に興味をもって、賢い政治家を当選させよう。失政で国が傾いても、政治家は辞職ですむが、国民はタダではすまないから。

参考文献:
(※)AIの壁、人間の知性を問いなおす(PHP新書)養老孟司(著)

by R.B

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