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週刊スモールトーク (第4話) クノッソス宮殿に死者は住む ~クレタ島の謎~

カテゴリ : 歴史

2005.07.06

クノッソス宮殿に死者は住む ~クレタ島の謎~

■クレタ島

「迷宮に死者は住む」 ・・・ 読むほどに、考えるほどに、背筋が寒くなる本だった。著者はヴンダリーヒというドイツの地質学者である。30年ほど前に出版され、すでに絶版になっている。しかも、紛失して手元にない。そのため、うろ覚えの記憶をたどりながら話を進めるので、多少記憶違いがあるかもしれない。

内容はクレタ島のクノッソス宮殿に関するものである。クレタ島はエーゲ海の中央にある大きな島で、四国の半分ほどの面積をもつ。クレタ島と聞いて、あのユニークな三角帆の風車を思い浮かべる人もいるかもしれない。その北方にクノッソス宮殿の遺跡が発掘されている。このあたりは古代ミノス文明の都クノッソスがあった場所なので、クノッソス宮殿はミノス文明の王宮と考えられている。

ミノス文明は謎が多い文明である。まず、彼らが使用した線文字Aはいまだ解読されていない(2005年7月現在)。さらに、エーゲ海といえば誰でも思い出す「ギリシャ文明」とは民族も文化も異なる。ミノス文明は紀元前2000年~紀元前1400年に全盛期をむかえるが、歴史区分法によれば青銅器文明に属する。花鳥、イルカなどの海洋動物が描かれた壁画。大きな壷(つぼ)があって、紋様にしてはヘンだと思ったら、タコの足と吸盤だったり、平和で開放的な海洋文明を連想させる。

クノッソス宮殿を見学するなら、ギリシャ観光の地中海クルーズがお手軽だ。ところが、クレタ島を含むクルーズは意外に少ない。なので、日程は多めに見ておいた方がいいだろう。ただし、クノッソス宮殿に過度の期待は禁物だ。遺跡の彩色は独特だが、ほこりっぽいし、地味でこぢんまりしているし、ミノス文明に格別の思いがないと、ガッカリするかもしれない。

ところが、ヴンダリーヒは、こんな優雅なクノッソス宮殿を根底からくつがえした。クノッソス宮殿は、宮殿ではなく「霊廟」だというのだ。霊廟(れいびょう)とは、死者の魂を祀(まつ)る建物である。もし、それが事実なら、我々は墓場を王宮と思い込んでいたことになる。それにしても、「霊廟」とは不吉だ。

ヴンダリーヒの仮説は以下のとおり ・・・

まず、王が住む宮殿なのに、外敵を防ぐ城壁がない。また、王宮の入口が凶とされる西の方角にあるのもおかしい。日が昇る東の方角は「誕生と再生」を表し、日が沈む西の方角は「死と黄泉の世界」の象徴だからだ。

しかし ・・・

もし、クノッソス宮殿が霊廟、死者の世界だったとしたら、墓場に防衛壁はいらないし、入口は「死と黄泉の世界 = 西の方角」にあって当然だろう。さらに不思議なことに、建物の内部が石こうで固められているのだ。石こうは、軟らかく傷つきやすいので、人間の居住区には適さないのに。

しかし ・・・

「生きて動き回る者」がいないとしたら、壁に傷がつくことはない。さらに不思議なことに、浴槽らしきものがあるのだが、小さすぎて、人が入れない。

しかし ・・・

死者をポッキリ折って納める棺(ひつぎ)と考えれば問題ない。さらに不思議なことに、浴室に排水溝がない、厨房がない ・・・ やっぱり、クノッソス宮殿は死者の世界だったのだ!ところが、このヴンダリーヒ説が歴史の定説とったという話は聞かない。その後、どうなったのだろう?

■クレタのパラドックス

クレタ島といえば、学校の歴史で習う「クレタ文明」より、「ウソつきのパラドックス」のほうが有名かもしれない。聖書に登場する有名なエピソードで、
「クレタ人はウソつきである、とクレタ人が言った」

もし、この話が真実だとしたら、「クレタ人はウソつき」。ところが、「クレタ人はウソつき」なら、その話はウソ、つまり「クレタ人は正直者」。これは論理が矛盾している。逆に、この話がウソなら、「クレタ人は正直者」。ところが、正直者のクレタ人がウソをつくはずがない。ということで、こちらも矛盾。つまり、どっちにころんでも矛盾、というわけだ。

まぁ、どっちでもいいのだが、タイムマシンの「時間のパラドックス」と同じ、パラドックスの歴史的ネタになっている。ところが、クレタ島にはもっと面白いエピソードがある。出所は世界三大神話の一つ、ギリシャ神話だ。

■アリアドネの糸

ギリシャ神話「アリアドネの糸」はクレタ島のクノッソスの町が舞台になっている。「伝説=史実」はよくある話だが、この場合も期待できるかもしれない。クノッソス宮殿の遺跡が見つかっているからだ。

「アリアドネの糸」には迷宮(ラビリンス)が登場するが、その迷宮は現存するクノッソス宮殿そのものとする説、さらに、迷宮は別の場所で地下深く埋もれているという説がある。どちらにせよ、荒唐無稽の話ではなさそうだ。また、「アリアドネの糸」には複数のバージョンがあり、けっこうややこしい。そこで、面白そうな筋書きだけつまんでいく。

クレタ島のミノス王は、クノッソスに都をおき、エーゲ海を支配していた。あるとき、ミノス王は海神ポセイドンに牡牛(おうし)を捧げるという約束を破ったので、恐ろしい罰をうける。ミノス王の王妃が、あろうことか牡牛に恋をしたのである。王妃はこの恋を成就させるため、知恵者ダイダロスに相談する。

ダイダロスは歴史と神話の世界で良く知られた名工である。彼はアテネで暮らしていたが、弟子殺しの罪でクレタ島に逃れていた。王妃に泣きつかれたダイダロスは、その特技を活かし、牝牛(めうし)に似せた人形ならぬ「牛形」を造る。その中に、王妃が入れば、牡牛はそれを本物の牝牛と思いこみ、交わるというわけだ。その結果生まれたのが、牛頭人身の獣人ミノタウロスだった。ここで、人と牛の染色体の数にからむ生物学の話はスキップする。

■獣人ミノタウロス

獣人ミノタウロスは、その尖ったキャラを活かし、映画やテレビドラマで大活躍した。有名どころでは、ハリーハウゼンの特撮映画「シンドバッド虎の目大冒険」。ハリーハウゼンは、ミニチュア人形を使った特撮で歴史に名を刻んでいる。人形のポーズを少しずつ変えながら、1コマづつフィルムに収め、後でつなぐ、という気の遠くなる手法で、独自の世界を創り出した。CGがなかった頃の映画で、ヘンな生き物が登場すれば、大抵これである。

ミノタウロスは、映画「シンドバッド虎の目大冒険」で「ミナトン」という名で出演していた。いちおう、牛頭人身なのだが、憎めない風貌で、ゼンゼン怖くない。その上、魔女に呼び捨てにされ、奴隷のようにこき使われていた。天下無双の怪力なのに、出番の大半は船漕ぎで、黙々とオールを漕いでいた。あげく、落下物の下敷きになってあえなく頓死。歴史と伝説をおよそ無視した脚本である。

一方、ギリシャ神話「アリアドネの糸」の本家ミノタウロスは、寸分のスキもない恐ろしい獣人である。島民を追い回し、喰らい、クレタ島を恐怖のどん底につき落とした。困りはてたミノス王は、名工ダイダロスに相談する。そこで、ダイダロスは巨大な迷宮をつくり、獣人ミノタウロスを閉じこめた。そして、毎年アテネからクレタ島に送られてくる7人の若者と、7人の乙女を、迷宮ラビリンスに閉じこめ、獣人ミノタウロスのエサにしたのである。

あるとき、アテネ王の子テセウスが、7人の若者の中にまぎれ込んでクレタ島にやってきた。獣人ミノタウロスを退治するためである。ところが、ミノス王の娘アリアドネが、このテセウスに一目惚れ。自分をクレタ島から連れ出すことを条件に、テセウスを助ける約束をとりつけたのである。

アリアドネはテセウスを助ける方法をダイダロスに問うた。そこでダイダロスが授けたのが「アリアドネの糸」だった。まず、テセウスは糸玉をもって迷宮ラビリンスに入り、糸玉をほどきながら進む。そして、獣人ミノタウロスを見つけ退治する。その後、糸をたどって、帰還するという段取りだ。ということで、恋人を結びつける運命のきずな「アリアドネの糸」はここからきている。

ところで、この作戦はみごとに成功した。テセウスは迷宮ラビリンスから無事帰還したのである。その後、テセウスは約束を守り、アリアドネとともにクレタ島を脱出した。メデタシ、メデタシ ・・・ ところが、ギリシャ神話はそんな単純ではない。

■イカロスの翼

事の次第を知ったミノス王は激怒し、首謀者ダイダロスとその息子イカロスを迷宮ラビリンスに閉じこめた。ところが、知恵者ダイダロスはこの難問を解決する。羽をロウで固めて翼をつくり、息子イカロスにさずけたのである。イカロスはその翼を羽ばたかせ、迷宮ラビリンスを飛び超え、脱出に成功する。ところが、太陽に近づきすぎたので、ロウが溶けて墜落 ・・・ 有名な「イカロスの翼」の物語である。

話はそれるが、このエピソードが史実だとすると、迷宮ラビリンスには天井がなかったことになる。とすれば、前述の仮説「迷宮は別の場所で地下深く埋もれている」はありえない。それはともかく、その後、ダイダロスは首尾よくクレタ島を脱出する。とにかく、頭も要領もいい人だったようだ。

ところで、クレタ島を脱出したテセウスとアリアドネは?二人はナクソス島にたどりつくが、その後は複数のバージョンが存在する。そこで、悲劇バージョンを一つ紹介する。最終的にテセウスはアリアドネと別れ、テセウスだけがアテネに帰還するのだが ・・・

テセウスは、アテネからクレタ島に旅立つ時、父王とある約束をしていた。怪物退治に成功したら白旗を、失敗したら黒旗をかかげて帰還すると。ところが、テセウスはその約束を忘れてしまった。黒旗をかかげて帰還したのである。父王は、それを見て嘆き悲しみ、海に身を投げてしまった。それ以後、この海はアテネ王エゲウスの名を取り「エーゲ海」とよばれるようになったという。ということで、ギリシャ神話は運命的な筋書きが多く、なかなか面白い。 

■ミノス文明の最期

数々のエピソードに彩られたミノス文明も、紀元前1400頃、突然、歴史から姿を消す。滅亡の原因は2つ考えられている。1つはギリシャ本土から南下してきたミケーネ人に滅ぼされたという説。もう1つは、サントリーニ島で地球規模の火山爆発が起こり、その地震と津波で滅んだという説である。

前者が優勢だが、紀元前1500年と紀元前1450年頃に、サントリーニ島で大爆発が起こったことが確認されている。地震と津波に直撃されて、クレタ島はひとたまりもなかっただろう。その後、クレタ島はミケーネ文明に吸収されていく。ミノス文明は地球上から完全に消滅したのである。

参考文献:
H G ヴンダリーヒ「迷宮に死者は住む」新潮社

by R.B

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