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週刊スモールトーク (第375話) おうちでオリーブ栽培~奇跡の果実~

カテゴリ : 科学

2017.10.01

おうちでオリーブ栽培~奇跡の果実~

■奇跡の果実

夏の昼下がり、会社でパンを食べていると、Lineにメッセージが入った。

「庭のオリーブの木に実がなっている」

ありえない・・・

オリーブは1本では実がならない。「自家不結実性」といって、自分の花粉では受粉しないのだ。だから、実をつけるには、品種が違う木を2本以上植える必要がある。

ところが、我が家のオリーブは1本。しかも、町内でオリーブを栽培している物好きもいない。それはそうだろう。オリーブは地中海性気候や瀬戸内海式気候のような「温暖・乾燥・潮風」を好む。寒くて、ジメジメ、積雪もある金沢は論外。シベリアでパイナップルを栽培するようなものだ。だから、「金沢でオリーブ栽培」は狂気の沙汰(鉢植え・園芸なら別)。

最初は「ドッキリ」かと思ったが、写真まで付いている。ホントかも、少年のように胸が高鳴り、仕事が終わるとスッ飛んで帰った。すると・・・本当に実がなっていた(↓)

オリーブの木実は全部で6つ。
みごとなオリーブグリーンだ。派手過ぎず、地味過ぎず、上品で美しい・・・無上の安らぎを感じる。会社のイライラが一気に霧散した。
それから、じわじわと喜びがこみあげてきた。13年間苦労して育てたことが、走馬灯のようによみがえったのだ。
雪が降れば払い落とし、雨がつづけば幹や枝葉をふいてあげる。オリーブは酷寒と湿気が苦手なのだ。

ところが、オリーブの敵はそれだけではない。

■オリーブの天敵

まずは台風。

庭のオリーブは居間から丸見え、だから心臓に悪い。血も涙もない強風がこれでもかと揺さぶるのだ。細い幹が折れそうで、見ていられない。オリーブに一体何の恨みがあるのだ?!?

夜降り積もる雪も、気が滅入る。

朝までに、どれだけ積もるか予測がつかないから。寝てる間に、雪に圧し潰されたらどうするのだ?心配でオチオチ寝ていられない。一晩中起きて、雪を払い続けることもできないし。

そして、最悪は害虫。こまめにチェックしていないと、取り返しのつかないことになるから。

ある日、オリーブをながめていると、異変に気がついた。何枚かの葉が欠けているのだ。鋭い刃で噛み切られたような跡がある。

害虫?

本で調べると、オリーブにつきやすい害虫がのっていた。

まずは、「オリーブアナアキゾウムシ」。

穴を開ける虫?

不吉な名前だ。樹皮の下でふ化した幼虫が幹を食べるという。名は体を表すというが、まんまだ。幹が侵されれば、水分や養分が枝葉まで行かない。結果、葉は黄色に変色し落葉する。ところが、葉は変色していないし、幹の表面も異常ナシ。ということで、犯人はオリーブアナアキゾウムシではない。

つぎにハマキムシ(ガの幼虫名)。

読んで字のごとく、クモの糸のようなもので葉を巻きあげる。巻き上げた葉に隠れて、コソコソ葉を食べるのだという。ところが、「葉の巻き上げ」は見当たらない。よって、ハマキムシでもない。

では、一体何が葉を噛み切ったのだ?

まず、事実だけに着目すると・・・

1.葉が鋭く噛み切られている

2.ただし、葉丸ごとではなく一部

3.噛み切られた形状が不規則

この3つの事実から・・・

葉は、葉より小さな鋭利なもので物理的に切断されている(化学的ではなく)。形状が不規則なので、機械的現象ではなく、生物的現象。つまり、害虫!

そこで、虫眼鏡でオリーブの幹、枝葉をすべてチェックした。すると、カミキリムシを発見。こいつか!

幸い1匹だったので、カンタンに駆除できたが、ムカつくことこの上なし。大事なオリーブを、抵抗できないのをいいことに、好き放題食べるとは、許せん!

おっと・・・この世のルール「自然淘汰・適者生存」を忘れるところだった。

■オリーブを植える

オリーブが我が家にやってきたのは13年前だった。

父が、オリーブの苗木を買って庭に植えてくれたのだ。父は長らく農業短大で教鞭をとっていた果樹の専門家だ。その父が選んだ品種は「ミッション」。寒さに強く、真っ直ぐ伸びる性質がある。だから、寒冷な金沢、狭い我が家にはうってつけ、というか一択。

それにしても、植樹があんなに大変だとは思わなかった。苗木のサイズに合わせて、穴を掘って、埋めて、土をかぶせて、一丁上がり・・・ではないのだ。父の作業を見ていてそれがハッキリわかった。

というわけで、父に感謝感謝。プロに頼めばお金がかかるし、自分で植えれば速攻で枯れていただろうから。

最初、オリーブの樹高は30センチほどだった。吹けば飛ぶような華奢な姿形で、北陸の厳しい風雪に耐えられそうになかった。しかも、父によれば「北陸でオリーブ栽培」は聞いたことがないという。

父は、退官後、自分の農園で様々な果樹を栽培している。寒冷地(青森)のリンゴから、温暖地(愛媛)のみかんまで、100種にもおよぶ。ところが、オリーブは思いもつかなかったという。寒冷な北陸ではオリーブはムリ、が専門家の常識なのだ。

そんなこともあり、父はオリーブの植樹にヤル気満々だった。60年間培ったノウハウを総動員して、庭にオリーブを植えてくれたのだ。その甲斐あって、北陸の風・雨・雪に耐えながら、少しづつ成長した。1メートル弱になったところで、添え木をはずして、独り立ち。この時は、わが子が初めて直立したときのように嬉しかった。その後、10年ほどで樹高は160cmに達した。もはや、苗木のひ弱さはない。

ところが、そこで成長が止まった。

■伸び悩むオリーブ

父に相談すると、養分が足りないのだという。

そこで肥料をまくことになった。

ところが、これがカンタンではない。店に行っても「オリーブ用」の肥料なんて売ってないから。もちろん、テキトーに肥料を選んで、テキトーに与えて、水をまいて、おしまい・・・というわけにもいかない。テキトーが何かもわからないから。

というわけで、父の出番。父は肥料の種類と量を吟味し、ブレンドでオリーブに与えてくれた。そのとき、肥料の説明を受けたが、まったく覚えていない。

かくも、農業(果樹)は難しい。

ところが、それでも身長は伸びなかった。

一方、父が同時期に実家の農園に植えたオリーブは「伸びない」どころではなかった。1本は積雪でポッキリ、1本は長雨で枯れてしまった。やはり、寒冷な北陸では、オリーブはムリ。実をつけるなんて、夢のまた夢。生存確率でさえ1/3なのだ。

ところが・・・

2年後、わが家のオリーブは再び成長がはじまった。そして、今では2.6メートルに!(↓)

庭のオリーブの木しかも、幹の太さは直径7センチもある。
台風でも豪雨でも大雪でもかかってこい!
そして、今年の8月、待望の実がなったのだ。
さっそく、実家に帰って報告すると、父は飛び上がらんばかりに喜んでくれた。そして、こう言い切った。
「奇跡だ・・・」

さらにこう付けくわえた。
北陸で一番立派なオリーブだろう・・・ただし、謎の宝達山のオリーブの巨木をのぞいて。

オリーブは長寿で知られる。

2011年3月、スペイン・アンダルシア地方から小豆島にオリーブの古木が移植された。樹齢は1000年を超えるという。わが家のオリーブも「1000年長寿」を願っている。そのとき、人類は存在しないかもしれないが。

参考文献:
・NHK趣味の園芸「よくわかる栽培12ヶ月オリーブ」岡井路子著、NHK出版

by R.B

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