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週刊スモールトーク (第366話) 世界初の潜水艦(2)~タートル号の解剖図~

カテゴリ : 人物歴史科学

2017.07.16

世界初の潜水艦(2)~タートル号の解剖図~

■タートル潜水艇

このタマゴみたいの何?

ブッシュネルの「タートル潜水艇」、世界初の潜水艦である。

タートル号これが「潜水艦」?
水につかってるだけじゃん!
攻撃するって、一体どうやって!
と、ツッコミどころ満載だが、潜って攻撃した記録が残っている。
 それにしても異形だ・・「コロンブスの卵」ではないか(卵が立っている)。
 ところが、ブッシュネルが命名したのは「タートル号(亀)」。ウミガメに見えないこともないが、話はソコではない。
 こんな立ちんぼタマゴっちが、どうやって潜って攻撃するのか?

見てのとおり、タートル号は小さい。高さは2m、幅は1m、人間一人入るのがやっとだ。動き回るのはムリなので、座ったまま、すべてのオペレーションをこなす。

船体は、オーク材の長板を張り合わせたもの。それを鉄の枠で補強している。ワイン樽のイメージだ。

オーク材の表面はタールが塗られ、防水加工されている。潜水中に水が入ったら、シャレにならないから。浸水すると、船が重くなり、ひたすら沈んでいく。しかも、水中なので逃げ場がない。地獄へズブズブ。

ちなみに、防水加工はタートル号が史上初ではない。たとえば、紀元前3000年紀の「インダス文明」の都市モヘンジョダロで使われている。街の丘にある謎の大沐浴場に天然アスファルトが痕跡があるのだ。

謎の大沐浴場?

浴場の深さが2.5m・・・進撃の巨人しか入れないではないか。

さらに、ノアの方舟もタールで防水加工されていた(らしい)。

船は木でできているから、そのままでも水に浮く。

ではなぜ、わざわざ防水にしたのか?

ノアの方舟は「大洪水=大雨」をしのぐために造られた。だから、船全体を防水にする必要があったのだろう。「ノアの潜水艦」説もあるが、そもそも潜る必要はない。大洪水が終わるまで、浮いていればいいのだから。もっとも、ノアの方舟は旧約聖書に記述があるだけで実在したかどうかわからない。

というわけで、防水加工は古い時代から使われていた。ただし、使われたのはタールや天然アスファルトなど天然素材。原油が変質し、地表ににじみ出たものだ。これらはひとくくりで「瀝青(れきせい)」とよばれている。

■タートル号の潜水原理

つぎに、解剖図を参照しながら、タートル号の構造をみていこう。

【タートル号の解剖図】

船体の最上部に、真銀のハッチがあり、ここから操縦士が出入りする。ハッチには窓が6つあり、ここから周囲を一望できる。
 ハッチの右上にシュノーケルがある。潜水中に、空気を取り込むための装置だ。ただし、シュノーケルが水に浸かると、空気の代わりに水が入ってくる。だから、深く潜ると役に立たない。第2次世界大戦中のドイツの潜水艦「Uボート」も、これで散々苦労した。

では、深く潜ったとき、空気はどうするのか?

船内の空気がなくなったら、おしまい。

潜水する前に、ハッチのパイプから空気を取りこんでおく。潜水すると、パイプのバルブが自動的に閉まり、外気が入らなくなる。それでも、30分ぐらいは潜れたという。

船体の右下に、方向舵がある。

船内のレバーに連結しているので、レバーを操作すれば進行方向を変えられる。

船体の左側に2本のスクリューがある。

横向きのスクリューは水平方向に、上向きは垂直方向に移動するための推進装置。

ところで、動力が見あたらないが?

じつは人力駆動なのだ。スクリューに直結したレバーを回して、スクリューを回転させる。

あらら・・・でも、頑張れば、時速5kmぐらいは出たという。

船体の一番下にあるのが、90kgの鉛。

水中で、潜水艇の姿勢を保つための重しである。何かのはずみで逆さになったら、操縦士はたまらない。さらに、緊急時には、この重しを切り離し浮上する。つまり、緊急脱出装置もかねていたわけだ。

その上にあるのがバラストタンク。

潜水するとき、足でバルブを踏むと、バルブが開き水が入る。増えた水の分だけ重くなり、沈降力が得られる。

逆に、浮上するとき、バラストタンクの水を手動ポンプで汲み出す。減った水の分だけ軽くなり、浮力が得られる。

つまり、バラストタンクは「浮き沈み」の調整装置なのである。ちなみに、この方式は現在の潜水艦でも使われている。

というわけで、ブッシュネルのタートル号は、現代の潜水艦と基本原理は同じ。違いは、人力か動力か、それと大きさ?

ところが・・・

解剖図をみると、現代の潜水艦にないモノがある。最上部に突き出たドリルだ。ドリルはロープを介して水雷(水中爆弾)につながっている。

一体何の仕掛け?

じつは、これがタートル号の対艦兵器なのである。

■タートル号の珍兵器

でも、ドリルとロープと水雷で、どうやって敵艦を沈めるのか?

仕掛けはアッと驚く為五郎・・・3コマ漫画で説明しよう。

【タートル号の撃沈方法】

タートル潜水艇【第1コマ】タートル号が潜航し、敵艦の船底に潜り込み、ドリルをねじ込む(拡大図を参照)。
 ドリルを残したまま、その場を立ち去る。
 【第2コマ】敵艦の船底に食い込んだドリルが、ロープを引っ張り、水雷が水中にぶらん(時限装置は作動中)。
 タートル号はトンズラ・・・
 【第3コマ】タートル号が安全圏に達したとき、時限装置がタイムアウトで、大爆発。
 敵艦は真っ二つ、恐ろしい大技だ。

水雷とは、水中で爆発する爆弾である。

直接、艦船を破壊するのでなく、爆発の水圧と衝撃で破壊する。水を介する間接破壊なので、爆薬の量がハンパない。

事実、タートル号の水雷は70kgの火薬が詰められていた。当時の軍艦なら3隻を撃沈する破壊力だ。

ただし、破壊力が大きいぶん、タートル号が巻き込まれる可能性もある。そこで、逃げる時間を稼ぐための「時限式水雷」なのである。

水雷のタイマーの最長時間は12時間。一つの作戦を遂行するには十分な時間だ。作戦開始時にタイマーを始動させ、敵艦に「ぶら下がり水雷」をセットして離脱。設定時間が過ぎると、水雷内部のハンマーが鉄片を叩いて火花が発生、火薬に引火して、ボン!

というわけで、タートル号は「潜って攻撃する」のすべて備えていた。

水上では、ハッチの窓をのぞきながら操縦する。水中では、水深計とコンパスを頼りに操縦する。そして、必殺の「ぶら下がり水雷」で敵艦を撃沈するわけだ。

でも、一つ疑問が・・・

潜れば、船内はすぐに暗くなる。夜間ならなおさらだ。照明がないと、水深計もコンパスも見えないではないか。

エジソンが発熱電球を発明するのは、タートル号の100年後。つまり、この時点では電気照明は存在しない。では、暗闇で、どうやって計器を読み取るのか?

■タートル号の照明

ブッシュネルの時代、ロウソクはあった(マッチはまだない)。とはいえ、水中の密室では使えない。火を燃やせば、すぐに酸欠になるから。事実、ブッシュネルはロウソクで失敗している。

それでも、ブッシュネルはあきらめかった。

「火」以外の照明はないだろうか?

そして、ついに「燐光(りんこう)」を思いつく。

燐光とは、木に付着した菌類が発する微弱な光である。船内を照明するのはムリだが、水深計とコンパスなら読み取れるかもしれない。

この時代の水深計は、ガラス管の中にコルクがあり、それが浮沈と連動して上下する。つまり、コルクが光れば、水深がわかるわけだ。そこで、ブッシュネルはコルクに菌類を塗り、暗闇でも見えるようにした。

コンパスは、針に菌類を塗って、方角を読み取れるにようにした。

ところが、問題はまだあった。操縦が難儀なのだ。

水深計やコンパスを見ながら、スクリューを回し、方向舵を操作し、ポンプを動かす。頭も筋力も体力も使う過酷な作業だ。しかも、船内はタールの臭いがプンプンし、空気は汚れて薄い。こんな粗悪な環境にブッシュネルは耐えられなかった。

そこで、弟のエズラが操縦士に選ばれた。彼は膂力があり、忍耐強く、屈強な若者だった。タートル号の操縦士にはうってつけだ。もっとも、他に成り手はいなかっただろうが。

エズラは、数カ月でタートル号の操縦をマスターした。エズラ・ブッシュネルは世界初の潜水艇の操縦士になったのである。

1775年秋、ブッシュネル兄弟は、タートル号の初実験を行った。コネティカット川に廃船を浮かべて、破壊するのである。

エズラは、計器を頼りに廃船まで潜航し、水雷をセットし脱出。その後、水雷が大爆発、廃船はこっぱみじんに吹き飛んだ。

史上初の攻撃型潜水艦が誕生したのである

《つづく》

参考文献:
(※1)「兵器メカニズム図鑑」著者 出射忠明 グランプリ出版
(※2)「戦争と科学者・世界を変えた25人の発明と生涯」著者 トマス・J・クローウェル 訳者 藤原多伽夫 原書房

by R.B

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