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週刊スモールトーク (第360話) 究極のチャットボット(1)~異星人の雑談~

カテゴリ : 娯楽科学

2017.05.21

究極のチャットボット(1)~異星人の雑談~

■インベーダー

砂漠の中を、若い男と女が逃げている。それを追う数人の男たち。表情が硬く、挙動が異様だ。男と女は岩陰に隠れ、雑談を始める。

女:「あたし、仲間と違うところがあるの」

男」「どういうことだ、それは」

女:「いってもムダよ。あたしたちのことなんか、わかるわけないもん」

男:「とにかく聞きたいね」

女:「いいわ。どこかが変わってるのよ。あたしは子供のころから、みんなと違っていたの」

男:「どういう風に変わってるんだ」

女:「よくはわからないけど、なんだか、命がとても価値のあるものに思えるのよ。それだけだわ」

男:「ということは、君には『感情』がある」

女:「何なのそれ?『感情』って大事なものなの」

そのとき、追っ手が迫り、2人は農家に逃げ込む。このままではいつか捕まる・・・そこで男が助けを呼びに行こうとすると、女がすがるように言う。

女:「お願い、つれてって。あたし、こんなに人のことが気にかかることなんて、はじめてなの。これが『感情』っていうもの?今あなたのことで頭がいっぱいなの」

男:「ビッキー、君は宇宙の彼方から来たんだよ。別の世界からやってきたインベーダー(侵略者)なんだ」

女:「そんなこと関係ないわ。あたしには」

男:「すまん・・・あきらめてくれ」

男の名はデビッド・ビンセント、しがないフリーの建築家だ。一方、女は地球征服をもくろむ異星人。ビンセントをワナにかけるつもりが、いつの間にか彼に惹かれていた。

恋愛もの、それともSF?

この謎めいたTVドラマは、1967年、米国で放映された「インベーダー」、ファーストシーズンのエピソード3「新たな目撃者」である。

突然変異で感情をもったインベーダー(異星人)が、主人公のビンセントに惹かれ、仲間を裏切るというストーリーだ。だから、れっきとしたSFドラマ。

ところが・・・

「インベーダー」は他のSFドラマと一線を画す。

この時代、米国はSF・TVドラマの黄金期だった。「宇宙大作戦(スタートレック)」、「宇宙家族ロビンソン」、「タイムトンネル」など、キラ星のごとく名作がならぶ。いずれも、派手で、荒唐無稽で、どこか明るい。SFの王道をいくわけだ。ところが、「インベーダー」は地味で、リアルで、暗い。

たとえば、オープニングのナレーション・・・

遠く暗い宇宙の奥から、地球を目指してやってくる・・・それを今わたしたちはインベーダーとよぼう。滅びゆく星からの侵入者たち。彼らの目的は地球をわがものにすることにあるのだ。

そして、ストーリーは・・・

異星人が密かに地球に侵入している。主人公のデビッド・ビンセントは、偶然、その証拠を目撃したが、誰も信じてくれない。それはそうだろう。「異星人が人間になりすまし、地球征服をもくろんでいる」では精神病院に送られるのがオチ(事実そうなる)。

そこで、彼はたった一人でインベーダーに立ち向かう。とはいえ、相手は圧倒的な科学力と強力な武器をもつ異星人、まともには勝ち目はない。こうして、ビンセントの孤独な戦いが始まった、人間不信と絶望感にさいなまれながら。だから、「暗い」を突き抜けて「絶望的陰鬱」。

じつは、この時代、同じオーラを放つドラマがあった。「逃亡者」である。

「逃亡者」は米国TVドラマのエポックメイキング的存在で、当時の視聴率記録を塗り替えた。妻殺しの罪を着せられた医師リチャード・キンブルが、護送中にからくも脱走。天敵ジェラード警部の執拗な追跡をかわしながら、国中を転々とする。真犯人の「片腕の男」を捜しながら。

真実を知るのは自分だけ、誰も信じてくれない、孤独な逃亡と戦いの日々・・・つまり、インベーダーと逃亡者は相似なのである。

それにしても、こんな陰鬱なドラマがなぜ大ヒットしたのか?

「逃亡者(Fugitive)」は人間の3大欲求の1つだから。残る2つは「食べ物(Feed)」と「性交(Fuck)」。この3つを頭文字をとって「3F」とよんでいる。制作者がそれを狙ったかは知る由もないが。

ちなみに、「逃亡者」と「インベーダー」を制作したのは、同じクイン・マーティン・プロダクションズ。「逃亡者」がブレイクした後に、「インベーダー」を制作したのだ。

ところが、二匹目のドジョウはいなかった。「インベーダー」の視聴率はイマイチで、第2シーズンで打ち切られたのだ。伏線を張るだけ張って、盛り上げるだけ盛り上げて、パッツン・・・このやり場のない不満、どこへ持っていけばいいのだ。

■ボイスインターフェイスの衝撃

米国ドラマは競争が激しい。

ビッグタイトルだろうが、面白かろうが、盛り上がろうが、関係ない。視聴率が落ちたら、パッツン。だから、米国ドラマは面白いのである。しかも奥が深い。

「インベーダー」もしかり。じつは、冒頭の「地球人と異星人の雑談」で、第3のチャットボットを思いついたのだ。

2015年以来、人工知能(AI)の世界は戦場と化した。ディープラーニング(機械学習)がブレイクスルーを起こしたのだ。それまで、人間がやるしかなかったパターンの「特徴」の抽出を、マシンがやるようになった。これが第3次人工知能ブーム(弱いAI)に火をつけたのである。

人工知能の世界は変化が激しい。その凄まじさはトレンドキーワードにも表れている。

「ビッグデータ&ディープラーニング」から始まり、つぎに「ビッグデータ」が「IoT(すべてのモノがインターネットにつながる)」に呑み込まれ、最近は「チャットボット」が熱い。

チャットボットとは、おしゃべりロボットだが、「自然言語で会話できる人工知能(AI)」と考えていいだろう。近い将来、ユーザーインターフェイスの主流になるのは間違いない。

たとえば、アップルのSiri。すでに、iPhoneの重要なユーザーインターフェイスとなっている。

さらに、今後「雑談」の覇者になるだろうAmazonのEcho。アメリカでは、すでにリビングを乗っ取り、お買い物のスタンダード・インターフェイスになっている。やがて、家族と雑談し、趣味・趣向を読み取り、精度の高い「おすすめ」をするようになる。潜在的需要まで掘り起こすわけだ。究極のリコメンデーションといっていいだろう。

今後、Amazonは目のくらむような成功を手にするだろう。株価「$959」がそれを物語る。

米国株で「$100」超えは至難である。

情報収集と広告ビジネスを一変させたGoogleの株価が「$934」。預金量23兆円という途方もないお金持ちAppleが「$153」。世界一の特許王国にして未来テクノロジーの殿堂IBMが「$151」。ディープラーニングのエンジンの絶対王者で、自動運転AIの先頭を走るエヌビディア(NVIDIA)でさえ「$136」(2017年5月20日時点)。

つまり、Amazonは、超金持ち、超ハイテク、巨大産業丸取り・・・のさらに上をいくと思われているのだ。有体物、無体物を問わず、小売を独占し、さらに、リコメンデーションのツールを発展させ、普遍的雑談AIの覇者になろうとしている。だから、欲の皮が突っ張った連中が血まなこになるのはあたりまえなのだ。

ところが・・・

IBMのWatson(ワトソン)の野望は、AmazonのEchoのはるか上をいく。人間の仕事を丸取りしようとしているのだ。IBMはWatsonを「友だち」と言っているが、絶対信じない。

Watsonは、コールセンター業務、保険支払いの審査、与信審査、医療、法務、税理・会計、教育・・・あらゆる知的業務を人間から奪おうとしている。もし、Watsonがやらなければ、他のAIがやるだろう。

そのキモとなるのがボイスインターフェイスだ。一度使ったら、キー入力にはもどれない。

ボイスインターフェイスは3つのパートからなる。

1.音声認識(入力音声をテキストに変換する)

2.自然言語処理(テキストを理解し、答えをテキストで返す)

3.音声合成(テキストを音声に変換する)」

「3.音声合成」は完成の域にあり、「1.音声認識」は実用レベルに達している。残るは「2.自然言語処理」のみ。これが進化したのがチャットボットなのだ。

チャットボットは大きく2つある

アップルのSiri、AmazonのEcho、IBMのWatsonのように明確な目的(仕事)があるもの。これを「タスク型」とよんでいる。

タスク型は「役に立つ」から、ビジネスになる。そのため、Google、Microsoft、Facebook、IBMなどの巨大企業がしのぎを削っている。さらに、自社のツールとして開発している企業が山のようにある。その過熱ぶりは「熱い」どころではない。友人が「チャットボットは2018年では遅すぎる」と言っているが、間違いないだろう。

一方、Microsoftの「りんな」は明確なタスクがない。おしゃべりを楽しむだけ。そのため、「雑談型」とよばれている。個人的には「暇つぶし型」と思っているのだが。もっとも、商売上手なMicrosoftが、暇つぶしや、シャレで、経営資源(ヒト・モノ・カネ)を使うわけがない。だから「りんな」は「暇つぶし型」を装った「タスク型」。

■究極のチャットボット

ここで、チャットボットビジネスを俯瞰してみよう。

タスク型と暇つぶし型(偽装を含めて)はすでに大手が参入している。そこへノコノコ出ていっても、一刀両断にされるだけ。そこで、究極のチャットボットを思いついたのだ。

そのヒントが冒頭のインベーダーの雑談に潜んでいる。

冷静に考えてみよう。

この雑談は、人類史上初の画期的なコミュニケーションなのだ(ドラマの中ではあるが)。

ビンセントとビッキーは見てくれは同じ人間だが、じつは似て非なるもの。生物種も、DNAも、生まれ育った星も違う。当然、法律や制度、習慣、文化、考え方も違うだろう。ところが、共通点が一つだけある・・・英語。

つまり、2人を結びつけているのは「言葉」だけ。異世界に生まれ育った知的存在が、「言葉」だけを頼りにコミュニケーションする。そこに、究極のチャットボット(AI)を見たのだ。

このチャットボットは、人間の知識を有し、人間のように考え、人間のように話す、人間シミュレーターではない。異星人のように、異世界の知識を有し、異世界の経験を積み、異質の思考をする、オリジナルの知性なのだ。そんな未知の知性とのコンタクトは「究極のコミュニケーション」と言ってもいいだろう。

というわけで、究極のチャットボットとは・・・

人間のアーキテクチャーをマネた「人間型」知能ではなく、コンピュータのアーキテクチャーに最適化された「コンピュータ型」知能。

じつは、以前から、人工知能(AI)の方向性に疑問を感じていた。行き着くところは「人間のマネ」だから。コンピュータに人間のマネをさせて何が面白いのだ?

たとえば、コンピューターは夢を見るか?

ふつうに見るだろう。

コンピュータの通常の思考空間とは別に、夢の思考空間をつくる。そこで情報処理をさせればいいのだ。現実も夢も情報処理に変わりはないから。「人工知能」ならぬ「人工夢」である。

なんかアヤシイ・・・

たしかに・・・

でも「人間の夢」もアヤシイですよ。

現実であれ夢であり、主観的思考(情報処理)にすぎないから。「客観的」だと言い張ったところで、エビデンスはすべて主観に帰着する。それが、デカルトの「我思う、故に我在り」なのだ。現実と夢の違いは、リセットのタイミングぐらいだろう。現実は「死」によって、夢は「目覚め」でリセットされる。

ただし、人間の夢とコンピュータの夢には根本的な違いがある。

人間の夢には明確な目的(タスク)があること。ユングの夢分析によれば、夢は現実を補完しているという。だが、もっと確かなタスクがある。

「疲労回復と生命維持」

つまり、「存在」に直接かかわっているのだ。

人間は眠らないと、脳と身体の活動が維持できない。ところが、コンピュータには疲労も心もない。だから、コンピュータに「夢」は必要ないのだ。何の効用もなくマネるだけに、何の意味があるというのだ。

つまり、「コンピュータが夢を見るか?」は究極のナンセンス、「言葉の遊び」に過ぎない。今の人工知能はまだこんな段階にあるのだ。

まぁしかし、「人工知能」・・・読んで字のごとく、人間をマネたバッタモン知能だから、仕方がないが。

ということで・・・

人間は人間らしく、異星人は異星人らしく、コンピュータはコンピュータらしく雑談をすればいい。

つまり、今狙っているチャットボットは、「タスク型」でも「暇つぶし型」でもない。愉しければそれでいい、つまり「知のエンターテインメント型」なのだ。

「未知の知的存在」とのコミュニケーション・・・

これに優るワクワク・ドキドキはないだろう。

 《つづく》

by R.B

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