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週刊スモールトーク (第347話) トランプがゆく(4)~北方領土が返らない理由~

カテゴリ : 人物社会

2017.02.05

トランプがゆく(4)~北方領土が返らない理由~

■トランプの頭脳

1月20日の大統領就任後、トランプは支持者は減らし、非支持者は急増中・・・

過激で矛盾テンコ盛りの発言を繰り返すから。しかも、有言実行なので、始末が悪い。

じゃあ、トランプはアタマ悪い?

そうでもない。

矛盾は多々あるが、支離滅裂というわけではない。それに、奇妙な説得力がある。短文で区切って、わかりやすく、表現に「キレ」があるのだ。

たとえば、台湾総統との電話会談事件。中国政府は激怒したが、トランプの反論は圧巻だった・・・

2016年12月2日、トランプは台湾の蔡英文総統と電話会談した。すると、中国政府は鋭く反応、厳重抗議した。台湾は中国の一部にすぎず、主権はない。なぜ、中国(中華人民共和国)をさしおいて、台湾と話をするのか・・・というわけだ。

これまで、米国側には暗黙の了解があった。中国は1つ、中華人民共和国(台湾ではない)。事実、この40年間、米国大統領は台湾総統と電話会談したことがない。だから、中国側はいきり立ったわけだ。

ところが、くだんのトランプ閣下、悪びれることもなく、こう切り捨てた・・・

「南シナ海のど真ん中に、巨大軍事施設を建設することに、(中国は)われわれに了承を求めたか?」

おみごと・・・難儀な交渉をくぐり抜けてきたビジネスマンの決め台詞だ。

ところが、一方で、トランプはロシアには甘い。

というか、あからさまな「親ロシア」、「親プーチン」なのだ。つまり、オバマ政権とは真逆。

なぜか?

「オバマ嫌い」もあるが、冷徹な計算もある。お得意の損得勘定なのだが、「鉄筋」が一本通っている。矛盾も迷いもない。しかも、論理の明快さは、(アタマがいいはずの)オバマ前大統領を凌駕する。

トランプが賢くて、オバマがおバカ!?

シリア政策をみるかぎり・・・そうかもしれない。

■トランプのシリア政策

シリアは、2011年3月から内戦がはじまった。アサド政権と反政府勢力(IS・イスラム国)の戦闘である。

オバマ前大統領のシリア政策は・・・

アサド政権は反米なので敵。一方、ISはテロを起こすので、やっぱり敵。というわけで、オバマの政策は「反アサド」、「反IS」。

そこで、オバマは行動にでた。「ISを殲滅する!」と宣言し、ISの支配地域を空爆したのである。ところが、空爆は徹底せず、成果も中途半端だった。理由はカンタン、ISは「反アサド」だから。

というのも・・・

ISを徹底的に叩けば、ISをは弱体化し、アサドが勢い盛り返す。それはそれで困るわけだ。ん~、どうしよう・・・結果、アサドもISも生かさず殺さず。

つまり、オバマのシリア政策は、矛盾に満ち、優柔不断。

はぁ~、一体、どうしたいのだ?

トランプはそこを突いた。オバマのシリア政策をバカ呼ばわりしたのである。

事実、トランプのシリア政策は明快だ。

「アサド政権を容認し、ISをせん滅する」

一般市民を殺害するISに比べれば、アサドは「より小さな悪」なのだ。

もちろん、緻密な計算もある・・・シリアがアサド政権でも、米国に大きな害はない。一方、ISはテロを起こすので、被害は深刻だ。

単純な損得勘定だが、論理に矛盾はないし、方針も一貫している。

つまり、トランプのシリア政策は「アサド政権を容認し、ISを殲滅する」。

じつは、これと同じ戦略をとる国がある。プーチン大帝率いるロシアだ。

だから、トランプは他は目をつぶってでも、ロシアと和解したいのである。

二律背反(矛盾)を解決する方法は1つしかない。優先度の高い方をとって、他は捨てるのだ。つまり、

「最大の敵に勝つために、その他の敵と手をむすぶ」

ところが、オバマにはそれができなかった。問題解決の基本中の基本なのに。

だから・・・

オバマはアタマが良くて、トランプはアタマが悪い、とは言い切れないのだ。

8年前、オバマが「Change(変革)!」をスローガンにかかげたとき、国中が歓呼で迎えた。ところが今では、

「Change?うまいこといって、何も変わらないじゃん・・・」

ノーベル平和賞はもらったぞ・・・自分だけ

■トランプの中国政策

トランプの親ロシア、親プーチンの理由は、もう1つある。中国に対する牽制だ。

これまで、ロシアと中国が手を組んで、米国に対抗してきた。ところが、米国がロシアと和解すれば、敵は半分になる。どちらが得か言うまでもない。

ではなぜ、敵はロシアでなく中国なのか?

中国は、東シナ海で日中尖閣戦争のリスクを犯し、南シナ海で巨大軍事施設を建設している。太平洋への出口を確保しようとしているのだ。

これは米国の安全保障を脅かす。

中国が東シナ海と南シナ海を支配すれば、中国の原子力潜水艦が太平洋にフリーパスで抜けられるから。

結果・・・

太平洋に中国の「ミサイル型原子力潜水艦(核ミサイル搭載)」がウヨウヨ。原子力潜水艦は陸の核サイロと違って、位置を特定するのが難しい。つまり、米国本土が中国の核の脅威にさらされるわけだ。だから、東シナ海と南シナ海は、米国にとって重要な海域なのである。

一方で、中東の重要性は低下している(米国にとって)。

これまで、米国が中東に執着したのは、石油が欲しいから。ところが、シェール革命で、米国は石油を自給自足できるようになった。

つまり、中東がどうなろうが、ウクライナがどうなろうが、知ったこっちゃない。米国の利害と関係ないから。よって、ロシアと和解する!これが、トランプ式のアメリカファースト(米国第一主義)なのだ。

トランプは、一度決めたら徹底している。たとえば、親ロシア。ロシア政府が、2016年の米国大統領選にサイバー攻撃で介入した可能性は高い。それでも、トランプはロシアと和解しようとしているのだ。そのおかげで、大統領になれた可能性もあるが。

つまりこういうこと。

米国はロシアと手を組んで、中東でロシアと連携する(少なくともロシアとは敵対しない)。そうなれば、中東の戦力を東シナ海と南シナ海に回せる。カンタンな論理だ。

というわけで、トランプ政権は「反中国、親ロシア」。

じつは、日本もこれに便乗しようとしている。

日本も地政学上、ロシアと中国を同時に敵に回せない。勝ち目がないから。だから、日本はトランプに尻尾を振ってアメリカに取り入り、ロシアと連携し、中国に対抗しようとしている。

それを実現するため、安倍政権はなりふりかまわない。その象徴が安倍首相とプーチン大統領の会談だろう。

■北方領土が返還されない理由

2016年12月15日、山口県長門市で、安倍・プーチン会談が行われた。

そのとき、一部にこんな期待があった。北方領土が返還されるかも、少なくとも、2島(歯舞、色丹)は・・・

ところが、12月16日の共同会見では、返還の「ヘ」の字もでなかった。

すると、民進党の蓮舫代表は鬼の首をとったように・・・

北方領土返還はナシ、経済協力だけ約束させられた。ゆえに、安倍総理の一本負け!

しかし、これは本質を見誤っている。もしくは、わかっていて難癖つけたか。いずれにせよ、党首として問題あり・・・事業仕分けでがんばっている方が良かったですね、蓮舫さん。

そもそも、ロシアが北方領土を返すわけがない。

なぜか?

オホーツク海は、漁業資源の宝庫で、サケ、マス、タラ、ニシン、カニ、コンブ・・・

の食欲をそそる話ではなく、ロシアの「国家安全保障」の問題。

冷静時代、旧ソ連と米国は対立し、世界は全面核戦争の縁にあった。

キモとなるのはICBM(大陸間弾道ミサイル)、地上のサイロから発射される核ミサイルだ。ところが、このICBMで旧ソ連は米国に遅れをとっていた。そこで、ミサイル型原子力潜水艦でカバーしようとしたのである。

原子力潜水艦は、一旦潜水すると、探知するのが難しい。だから、核ミサイル搭載の原子力潜水艦は、今でも最強の兵器なのだ。

問題は原子力潜水艦をどこに配備するか?

オホーツク海!

米国全土が射程に入るし、母港のウラジオストックにも近いから。

ところが、ウラジオストックからオホーツク海に至るには、北方領土(4島)を抜けなければならない。とくに、択捉島(えとろふとう)と国後島(くなしりとう)の間の国後水道は、十分な深度があり流氷も少ない。そのため、大型のミサイル型原子力潜水艦が航行するにはうってつけ。その状況は、ソ連がロシアになっても変わっていない。

そこで、ロシア(旧ソ連)は北方領土を要塞化し、「ウラジオストック→オホーツク海→太平洋」のルートを確保したのである。

ところが、北方領土が日本に返還されたら、北方領土は、事実上米国領になる(日本は米国のポチだから)。結果、北方領土に米軍の軍事施設が設置されるだろう。ロシアの太平洋艦隊は監視され、太平洋上の作戦に支障がでるのは間違いない。

つまり、「北方領土返還」は「ロシアの安全保障を脅かす」を意味するのだ。

だから・・・

ふつうに考えても、ムリクリ考えても、ロシアが北方領土を返還するわけがない。過去にどういう経緯があろうと。ことは、国の最優先事項「安全保障」なのだ。

冷静に考えてみよう。

すでに、実効支配している領土を、話し合いで返してくれる?

そんなファンタジー、本気で期待している?

国境線を変えるのは、カネか代替領土か戦争しかない。人間の素性を考えれば、歴史を確認するまでもない。

そもそも、地図に描かれた国境線は、実物の地球には存在しない。あるとすれば、そのときの力関係で決まる境界線だろう。

■安倍・プーチン会談の意義

ではなぜ、安倍首相はプーチン大統領と会談したのか?

会談すること自体に意義があったから。

会談の結果、北方領土が返還されなくても、経済協力させられても、かまわない。日本とロシアが歩み寄ることが重要なのだ。

というのも・・・

前述したように、日本はロシアと中国を両方敵に回すことはできない。だから、ロシアと距離を縮めること、たとえそれがほんのわずかでも。それが、日本の安全保障にとって重要なのである。

というわけで、今後のパワーポリティクスは・・・

日本は米国のポチに徹し、ロシアと仲良くして、中国に対抗する。

米国は、ロシアと和解して、ISと中国に対抗する。

ロシアは、米国と和解して、ISと西ヨーロッパに対抗する。

つまり・・・最大の敵に勝つために、その他の敵と手をむすぶ。

トランプ大統領も、プーチン大統領も、安倍首相も、そういう計算ができるリーダーだ。

われわれが生きている世界はファンタジーではない。

敵者生存、自然淘汰のルールが支配する世界なのだ。生き残れるのはリアリストのみ。

 《つづく》

by R.B

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