BeneDict 地球歴史館

BeneDict 地球歴史館
menu

週刊スモールトーク (第24話) 潜水艦(2)~原子力潜水艦&超音速魚雷~

カテゴリ : 戦争科学

2005.11.27

潜水艦(2)~原子力潜水艦&超音速魚雷~

■核戦争

かつて、核戦争の脅威が叫ばれた時代があった。アメリカとソ連が全面核戦争を引き起こし、地球人類が滅ぶというシナリオだ。ところが、最近あまり聞かない。大騒ぎしている間は大丈夫で、忘れたころにやってくる、というのはよくある話。もし、核戦争が起こったら、勝者は誰か?かつて、アメリカのアイゼンハワー大統領はこう言った。

「核戦争は、敵を倒すことと、自殺することが一組になった戦争だ」

たしかに、勝者を予測するのは難しい。ただし、生き残るのは間違いなく原子力潜水艦だろう。海底深く潜航すれば、地球上の探知機はもちろん、軍事衛星からも探知できない。さらに、食糧の問題さえクリアすれば、一度も浮上することなく、20年間も潜り続けることができる。

原子力潜水艦は攻撃力も凄まじい。射程距離1万kmの戦略核ミサイルを20発も搭載し、地球上のあらゆる都市に撃ち込むことができる。1発で、1つの都市を壊滅させる破壊力をもつ。さらに、原子力潜水艦はミサイルを海中から発射できるので、身を隠した状態で、攻撃できる。

かつて、駆逐艦に追われ、海底を逃げ回っていた惨めな潜水艦は、今は地上最強の軍事ユニットに進化している。潜水艦は異常な閉鎖世界である。呼吸できない海水と、鋼鉄をも押しつぶす水圧に囲まれ、乗組員は逃げも隠れもできない。潜航中にトラブルが発生し、浮上できなければ、全滅する。気の休まらない世界だ。だから、映画やドラマの題材にはうってつけなのだろう。実際、潜水艦ものの映画は多い。

一方、TVドラマではあまり見かけない。あの閉塞感と緊張感を毎週見せられては、息が詰まる。やはり、2時間で完結する映画が似合っている。その数少ない潜水艦ドラマの一つが「原潜シービュー号/海底科学作戦」だ。制作は、B級SFドラマの名プロデューサー、アーウィン・アレン。この作品は同じアレン作の「タイムトンネル」と違い、LDもDVDも販売されている。比較的入手しやすい作品だ。

ストーリーは、ネルソン提督とクレイン艦長が指揮する原子力潜水艦シービュー号が、世界中の海を航海し、様々な事件を解決するというもの。一応、SFなのだが、国家紛争あり、エイリアンあり、亡霊あり、なんでもあり。とはいえ、原子力潜水艦シービュー号の美しいフォルムと、潜水艦ではありえない広大なフロントウィンドウから眺める海底は絶景。原子力潜水艦というよりは、動く水族館というところ。

■潜水艦の歴史

原子力潜水艦以前の通常潜水艦は「潜水も可能な船」で、言ってしまえば、なんちゃって潜水艦。というのも、主動力のディーゼルエンジンが使えるのは水上だけで、電気モーターで潜航しても、バッテリーは37時間しかもたない。しかも、潜航時は、時速14kmがやっと。時速55kmを誇る駆逐艦に見つかろうものなら、海底に逃げ込むしかなかった。とはいえ、最大深度はせいぜい100m。対潜水艦用兵器の爆雷をバラまかれ、海底のもくず・・・哀れなるかな潜水艦。

また、哀れなのは乗組員も同じだった。スノーケル有効深度を超えて潜航すれば、空気が吸い込めないので、酸欠、減圧で、耳鳴り、吐き気を引き起こす。真水が貴重で、皮膚病の洗浄にも事欠いた。潜水艦乗りにしてみれば、修行のような毎日だった。通常潜水艦の惨めな状況は、”ちゃんと潜れない”ことに起因していた。きちんと潜れないから、発見され、発見されるから、撃沈される。潜水艦は、正々堂々の大砲の撃ち合いなど想定されていない。発見されたら、おわりなのだ。

であれば、作戦期間の2、3ヶ月、潜り続ければいいのでは?ただ、そのためには2つの課題をクリアする必要があった。酸素と推進エネルギー、問題はその量である。2、3ヶ月分の酸素と推進エネルギーを潜水艦内部で確保することは、当時は夢物語だった。ところが、この問題を一気に解決したのが「原子力」である。この魔法の力により、無限の酸素と推進エネルギーが得られたのである。

原子力エネルギーなら、燃料補給無しで20年も航行できる。さすが、原子力。では、原子力でどうやって推進力を得るのだろう?まず、原子力で熱を発生させ、水を水蒸気にかえて、羽根車に吹きつけ回転させる。その回転力でスクリューを回すというわけだ。これ、ただの蒸気力では?一体、どこが原子力なのだ?

ところが、これは紛れもない事実。原子力発電も、原子力潜水艦も、原子力を使うのは熱を得るためで、その後行程は、昔ながらのローテク。とはいえ、原子力のエネルギー効率は極めて高い。そのため、1度原子炉に燃料を注入すれば、20年間も潜航できる。ここが、重油と決定的に違う点だ。次に、酸素と水。潜水艦を取り囲んでいるのは海水。つまり、水は無尽蔵にある。

というわけで、無限の原子力エネルギーと、無尽蔵の海水から、酸素と真水をいくらでも取り出せるのである。かつて、潜水艦の乗組員は酸素と水の不足で、命まで危険にさらされた。ところが、原子力潜水艦は地球上で最も新鮮な空気と真水を得られる。

ただし、放射線漏れの問題があるが・・・1954年、歴史上初の原子力潜水艦ノーチラス号が就航した。ところが、このアメリカ製の原子力潜水艦は、見るべきは原子力のみで、ドイツのUボートⅩⅩⅠ型の焼き直しに過ぎなかった。それでも、1958年、歴史上初めて、北極海の下を潜航し、歴史に名を刻んだ。

ところが、その後、原子力潜水艦は劇的に進化する。まず、潜航に最適な「涙滴型」ボディーにより、潜航速度が飛躍的に高まった。「涙滴型」とは風邪薬のカプセルのような形状で、現在、世界中の原子力潜水艦に採用されている。じつは、「涙滴型」は水上航行より水中潜航のほうが、水の抵抗が小さい。原子力潜水艦は常に潜っているので、合理的な選択だ。一方、通常潜水艦は船舶の形状をしていた。ほとんどが水上航行なので、水上の水の抵抗が小さいほうがいいのである。

■ミサイル型原子力潜水艦

ここで、実戦配備されたホンモノの原子力潜水艦をみてみよう。

原子力潜水艦ネブラスカは、アメリカ海軍の「トライデント型」原潜で、キングズベイを母港としている。1回の作戦はおよそ3ヶ月。その間、ほとんど海中を潜航する。原子力潜水艦ネブラスカの推進システムは、1度原子燃料を注入すると、補給なしで20年間も稼働する。

では、なぜ作戦期間は3ヶ月なのか?乗組員の精神状態と食糧の置き場所を考慮して。原子力潜水艦ネブラスカの乗組員は172名。3ヶ月分の食糧となると、1日3食として172名×3食×31日×3ヶ月=47,988食半端な量ではない。しかも、作戦中は外部からの補給は望めないので、巨大な食糧置き場が必要になる。ということで、艦内が狭くて不自由という状況は、第二次世界大戦の潜水艦と変わらない。

乗組員たちの生活空間は悲しいほど切りつめられている。艦長や将校以外は簡易ベッドを使うが、まるで棺桶(かんおけ)。高さがないので、寝返りをうつのも大変。それでも、TVゲーム機はちゃんとある。

原子力潜水艦ネブラスカの攻撃力は凄まじい。まず、核ミサイルが24発。この核ミサイルは、トライデントD-5ミサイルと呼ばれ、全長15m、重量65トン、射程1万km。いわゆる戦略核ミサイルで、1発で都市を壊滅させる破壊力をもつ。攻撃目標には、10個の弾頭に分裂して落下するので、迎撃は難しい。つまり、原子力潜水艦ネブラスカ1隻で、24発×10個=240個の核弾頭また、対潜水艦用に16発の魚雷も搭載している。

原子力潜水艦ネブラスカのソナーは超ハイテクだ。5000km先のスクリュー音も探知できる。さらに、艦船まで識別できるが、聞き分けるのは人間。ソナーのグリーンモニター上では、海中のノイズは点で、水上艦の航路はラインで表示される。このソナーさえあれば、すべてお見通し。逆に、原子力潜水艦ネブラスカはスクリュー音が極端に小さいので、ソナーで探知されにくいという。

じつは、スクリュー音というのは、スクリューが回転したとき、そのエッジにできる水泡が水圧で「プチッ」と潰れる音。それを5000km先から探知する?原子力潜水艦の任務はつねに隠密作戦。潜水艦の居場所は、艦内でも一部の将校しか知らない。司令部でさえ、およその海域を知るだけで詳細位置はわからない。秘密主義が徹底される世界である。

また、原子力潜水艦ネブラスカに、ミサイル発射を命令できるのは、アメリカ合衆国大統領ただ一人。ネブラスカは、極低周波の無線で海中でも暗号命令を受信できる(高周波の電波は水中では×)。命令を受信したら、艦長は自分だけが知る暗号かどうか確認する。ニセの命令もありうるからだ。命令が本物であれば、艦長と副官と2名の将校の立ち会いのもと、再度、命令を確認し、はじめてミサイル発射命令が下される。金庫から艦長キーが取り出され、発射のためのキーがONされる。これほど慎重を期すのは、なんといっても核ミサイルだから。一旦、発射されれば、後戻りできない。核の報復攻撃で世界は破滅するのだ。

一方、ロシアも原子力潜水艦には力を入れてきた。ロシアのアメリカ「トライデント型」に対抗するのが、「タイフーン型」原子力潜水艦だ。世界最大の原子力潜水艦で、全長は183mもある。スペースに余裕があるのか、サウナ、プールまである。もちろん、プールといっても50mプールとはいかない。湯船に毛が生えたようなもの。また、戦略核ミサイルは20発搭載している。

■攻撃型原子力潜水艦

アメリカの「トライデント型」やロシアの「タイフーン型」のように、核ミサイルを搭載する原子力潜水艦は「ミサイル型原子力潜水艦」とよばれている。もちろん。任務は都市の攻撃。一方、艦船を攻撃する原子力潜水艦も存在する。こちらは「攻撃型原子力潜水艦」とよばれている。

例として、アメリカ海軍の攻撃型原子力潜水艦マイアミをみてみよう。原子力潜水艦マイアミはアメリカのグロストンを基地としている。艦船の攻撃が主任務なので、兵装のメインは魚雷。原子力潜水艦マイアミが装備するADCAP魚雷は、恐ろしい破壊力をもつ。全長7m、重さ1.5トン、エンジンと燃料を内蔵し、時速110kmで潜航する。魚雷と原子力潜水艦マイアミはワイヤーで結ばれ、ワイヤーを通じて魚雷を操縦できる。ワイヤーの長さは最大30km。ミサイルが敵船に達したとき、直撃ではなく、その真下で爆発させる。爆発の瞬間、巨大な真空が発生し、周囲との猛烈な圧力差で、艦船の竜骨を真っ二つにする。恐ろしい大技だ。

このように、原子力潜水艦の任務は「都市の攻撃」と「艦船の攻撃」だったが、新しい運用も始まっている。1991年の湾岸戦争で、アメリカのロサンゼルス級原子力潜水艦がイラクにむけトマホークを発射したのである。通常兵器による軍事施設の破壊である。また、アメリカ海軍の特殊部隊「シールズ」を目的地まで運ぶ役目も担っている。原子力潜水艦の運用は多様化しているのだ。

一方、原子力潜水艦の実戦は過去に一度だけ。イギリスとアルゼンチンが戦ったフォークランド紛争である。1982年4月、イギリス原子力潜水艦コンカラーはアルゼンチン巡洋艦ベルグラーノを魚雷で撃沈した。もちろん、一般人は知らないだけで、他に実戦はあったのかもしれない。そもそも、我々は、原子力潜水艦が何隻いて、どこにいるのかも知らないのだから。

■超音速魚雷

近々、原子力潜水艦を超える超兵器が開発されるかもしれない。潜航する際、一番の障害になるのは水の抵抗。抵抗が大きいほど、潜航速度が低下するからだ。空の最高速はミサイルで、マッハ4(時速5000km)前後。マッハ9.6を記録したNASAの超音速飛行機もあるが、実用レベルではないし、開発が継続されるかも分からない。なので、あくまで参考値。

一方、水中の最高速は魚雷で、時速110km前後。ちなみに、海の王者シャチは時速82Km。有機体の肉体運動だけでこの快速、驚異である。いずれにせよ、移動速度では、水中は空中の50分の1。ところが、水中の潜航速度が時速500km、さらに時速5400km(水中音速)が実現できるかもしれない。もし本当なら、空を飛ぶミサイルよりも速い!水に潜ったときのあの重い低抗感を思い出せば、妄想としか思えない。

ところが、話の出所は、トンデモ本のたぐいではないのだ(※)。このような水中超高速は「スーパーキャビテーション」という物理現象によっている。流体の中を物体が超高速で移動しているとき、水圧が水の気化圧と同じになった時、流体が気体に変わる。つまり、水が水蒸気になるのだ。すると、水蒸気の泡が物体を包み込み、水との摩擦抵抗は激減する。極論すると、物体の周囲は濡れていないのだ。こうして、水の抵抗が失われ、超高速が実現される。

実際、1997年、アメリカのロードアイランド州にある海軍水中戦センターで、スーパーキャビテーションの実験が行われた。スーパーキャビテーション弾丸を水中で発射したところ、秒速1549mに達したという。水中音速(秒速1540m)を超えたのだ(※)。感覚的にはとても信じられない。

このスーパーキャビテーション技術では、ロシアが先行しているらしい。すでに、スーパーキャビテーション水中ミサイル「シェクバル」を試作したといわれる。長さ8mほどの円筒型で、固体ロケットモーターでスーパーキャビテーション速度まで一気に加速し、主エンジンに切り替える。その後は、接続されたワイヤーで、制御しながら潜航する。これは、先の原子力潜水艦の魚雷と同じ方式である。一般的な固体ロケットモーターでも、秒速200m(時速720km)まで出せるという(※)。

ここでいう「固体ロケットモーター」とは固体ロケットにモーターをつけたものではない。固体燃料ロケットのことだ。つまり、燃料と酸化剤を混合した固体状の推進薬を燃焼室に入れたもの。液体燃料ロケットに比べ、構造もシンプルで安価だ。ところが、点火したら最後、燃焼をコントロールすることは難しい。そこで、小さなミサイル、使い捨てのブースターロケットなどに使われている。一方、液体燃料ロケットは燃焼をコントロールできるので、宇宙ロケットにメインエンジンに使われている。

いずれにせよ、水中「マッハ4.4」は「ワープ潜航」を意味する。実現すれば、戦争の戦略も戦術も一変するだろう。例えば、超高速魚雷に核弾頭を搭載したら?海中を「ワープ潜航」する魚雷は、地上はおろか軍事衛星からも探知できない。原子力潜水艦は探知できるかもしれないが、探知したところで、時速5400kmではなすすべがない。敵地ギリギリまで潜航し、空中に飛び出し、核爆発させれば迎撃は不可能。

また。現在、最強の空母艦隊も、超音速核魚雷1発で壊滅。兵器の歴史年表を刻む大発明である。恐ろしい世界になったものだ。ということで、スーパーキャビテーション技術は原子力に続く第二の「パンドラの箱」?結果としてはそうなのだが、良い面もある。冷静に考えれば、スーパーキャビテーション技術の核心は「ワープ潜航」にある。不思議なことに、水上を走るより、潜った方が速いという話だ。

それなら、超音速潜水船はどうだろう。「東京-上海」なら片道20分、中国は完全に通勤圏内になる。中国で働く日本人ビジネスマンは多いので、こっちも歴史的な大発明だと思うのだが。

《完》

参考文献:(※)「日経サイエンス」謎の新兵器超音速魚雷S.アシュレー

by R.B

関連情報