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週刊スモールトーク (第236話) 利己的な遺伝子(3)~自然淘汰と適者生存~

カテゴリ : 科学

2013.12.22

利己的な遺伝子(3)~自然淘汰と適者生存~

■カンブリアの大爆発

遺伝子は闘っている・・・地球のはるか太古の時代から。

2013年12月、グリーランドで38億年前の微生物の化石が見つかった。これが地球の生命の起源である(今のところ)。それにしても、微生物から人類まで38億年・・・気の遠くなるような話ではないか。もっとも、38億年間、生命が連続的に進化したわけではない。約5億前のカンブリア紀に、「進化の大爆発」が起こっている。突然、地から湧いたように、多種多様な生物種が出現したのだ。この進化の異常現象は、その時代の名を取って「カンブリア大爆発」とよばれている。

それにしても、なぜこんな「大爆発」が起こったのだろう?生物学者スティーヴングールドによれば、進化論では説明できない特殊な要因があったのだという。特殊な要因?グールドは正統派の学者だから、「創造論(インテリジェント・デザイン)」者のように、「生命は神が造りたもうた」などと言ったりはしない。むしろ、創造論を否定していた。

ところが、一方で、「宗教もいいところがある」とヨイショしたので、リチャード・ドーキンスの反論をあびてしまった。ドーキンスの反論はこうである。カンブリア紀に、突然、大量の生物種が出現したのは、特殊な要因があったからではない。その前から、段階的に起こっていたのである。だから、「突然」は不適切だし、「爆発」は完全に間違っている。

さらに、ドーキンスはグールドが宗教を擁護した内容に一つ一つケチをつけ、宗教を大いに批判した。というのも・・・ドーキンスは名うての無神論者なのである。神秘的なことや、神懸かり的なことを全否定し、世界は「自然法則と偶然」によって支配されていると主張する。2006年には、タイトルからして挑発的な啓蒙書「神は妄想である」を発表し、宗教関係者を激怒させた。

ということで、ドーキンスはバリバリのダーウィン主義者である。しかも、その主張は明快だ。人間のような複雑な生物が出現したのは、奇跡でも、神の御業(みわざ)でもない。自然淘汰の累積によって進化し、生まれたのだと。もちろん、このプロセスは、適者生存のルールと偶然によって支配されている。だから、世界の設計者(神)など存在しないのだと。

ところが、生命より根源的な宇宙の起源について、神の介在を示唆する学者もいる。ただし、ここで言う神は宗教上の神ではなく、宇宙の創造主である。この著名な学者によれば、「宇宙は神の一撃で始まった」さて、どっちが真実なのだ?というのは、今回の主題ではないので、ドーキンスをたてて、話を進めよう。

■闘う遺伝子

生命の進化は、適者生存を闘い抜いた生き残り組の累積結果である。では、「闘っているのは誰?」ドーキンスによれば、生物種でも、個体でもない、遺伝子なのだという。遺伝子が闘う!?地球は、国家間の紛争が常態化し、企業間では経済戦争が加速し、組織内では出世競争・・・世界は隅から隅まで、アリーナ(闘技場)で埋めつくされている。もちろん、闘っているのは、遺伝子ではなく、われわれ人間だ。なぜなら・・・遺伝子が、「やられたらやり返す。倍返しだ!」などと吠えるはずがないではないか。と、熱くなる前に・・・遺伝子って?遺伝子とは、遺伝情報の最小単位で、目の色、身体のサイズ、頭の良し悪しなどの機能を決定する因子である。じゃあ、目の色、身体のサイズ、頭の良し悪しが闘っているわけ?そんなものが闘ってどうする?

ここで、話を簡単にするため、身体のサイズを一意的に決める遺伝子があるとする。この場合、身体をでかくする遺伝子と、小さくする遺伝子が闘うことになる。では、勝つのはどっち?普通に考えれば、身体をでかくする遺伝子。実際、6500万年前、地球の王者は「でかい」の象徴「恐竜」だった。ところが、6500万年前、直径10kmの巨大隕石が地球に衝突して、状況は一変した。衝突の衝撃で吹き上げた粉塵が太陽光を遮断し、光合成を破壊し、地上の食糧が激減したのである。結果、大食漢(大飯食らい)の恐竜は滅んでしまった。

ところが、ここで注目すべきことがある。このとき滅んだのは恐竜だけではないことだ。動物園に足を運べば、一目瞭然である。恐竜はもちろん、恐竜なみに「でかい」動物はどこにもいない。つまり、6500年前に滅んだのは、恐竜ではなく、「でかい」遺伝子だったのである。ということで、自然淘汰のキモは2つ・・・強い者が生き残るのではなく、環境に適応した者が生き残る。適応した者とは、生物種でも、個体でもなく、遺伝子である。実際、6500万年前の隕石衝突で大型動物が絶滅し、生き残ったのが哺乳類の先祖「有胎盤類」だった。その大先祖が「プロトゥンギュレイタム・ダネー」である。ハツカネズミのような冴えない小形動物だが、あなどってはいけない。人間はもちろん、現在の哺乳類の93%がここから進化したのだから。ということで・・・「小さい」ことはいいことだ(今のところ)。

■遺伝子とDNA

遺伝子は闘っている・・・身体のサイズ、目の色、身体能力、頭の良し悪しをかけて。6500万年前の大異変をみれば、「でかい」と「小さい」の差は深刻だが、目の色が種の存続に直結するとは思えない。なぜなら、現在でも、人間の目の色は多種多様だから。ブラック(黒色)、ブルー(青色)、ブラウン(茶色)、グリーン(緑色)、グレー(灰色)、驚くなかれ、レッド(赤色)まである。もし、目の色が種の存続に直結するなら、不都合な目の色は淘汰され、目の色のバリエーションはもっと少なかっただろう。

ということで、目の色は地味。一方、遺伝子と個体の関係を知る上で分かりやすい遺伝因子でもある。たとえば・・・われわれは、両親から遺伝子を受け継いで、個体を形成している。では、母親の目の色がブルーで、父親がブラウンだったら、子供の目は何色?ブルー(青色)とブラウン(茶色)を混ぜたら、何色になるのだろう?などと真剣に考える必要はない。ブルーかブラウンかのどちらかで、中間はない。では、どんな仕組みで、目の色は決まるのだろう?

それを理解するために、まずは遺伝子のキーワードのおさらい。遺伝子はモノではなく「遺伝情報=データ」である。しかも、目の色など特定の機能だけを受け持つ。さらに、生物種1セット分の遺伝子を総称して「ゲノム」とよんでいる。もちろん、ゲノムも「遺伝情報=データ」であって、モノではない。では、遺伝子はどんな「モノ」でできているのか?DNA・・・炭素を骨格とする有機化合物である。さらに、このDNAで作られた個体1体分の遺伝情報が「染色体」である。

人間の場合、染色体の総数は、「23本×2セット=46本」ここで、2セットのうちわけは、父親からの1セットと母親からの1セットである。つまり・・・遺伝子は染色体上にあり、一定区間を占有している。目の色の遺伝子は染色体のここからここまで、背丈の遺伝子はここからここまでという具合である。ところが、染色体上に、遺伝子の区切りがあるわけではない。見た目には染色体が連続しているようにみえる(実際に見たわけではいが)。

さて、次に寿命だが・・・遺伝子の寿命は数万年から数十万年、場合によっては1億年を超える。もちろん、有機物の染色体(DNA分子)はそんなに長くは生きられない。せいぜい、数年だろう(有機物なので腐る)。では、なぜ、遺伝子だけが長生きできるのか?遺伝子は「データ」なので、細胞分裂でDNAを再生し、コピーできるから。コンピュータのデータをディスクにコピーすれば、ディスクが壊れてもデータは永遠に保存できる。それと、同じことだ。だから、遺伝子はバトルで負けない限り、地球全域が破壊されない限り、半永久的に生き続けるのである。

ところで、染色体の寿命は?個体の寿命と同じ。つまり、あなたが死ねば、あなたの染色体は消滅する。もし、子供がいれば、染色体の半分はコピーされるが、残り半分はパートナーの分である。だから、あなたの染色体は一代限り。生き残るのは一部の遺伝子であって、あなた固有の遺伝情報ではない。ここで、ちょっと余談・・・染色体は人間一体分の遺伝子をもっている。であれば、「個人認証」に最適なのでは?イエス!現在の指紋認証や網膜認証など、「遺伝子認証」の足元にも及ばない。

遠い未来、人間の染色体を非接触で読み取る装置が発明されれば、ログイン、契約、取引、すべてにこの「遺伝子認証システム」が採用されるだろう。そうなれば、あの味のあるアナログの象徴、実印も認印もこの世から消えてなくなる。でも、一方で・・・密かに、個人の染色体を読み取り、今よりはるかに進化した3Dプリンターで人間をコピーできるようになるかもしれない。これは、クローンよりはるかに手っ取り早い。長い年月をかけて成長させる必要がないから。でも、プリントされた人間は、肉体はあるけど魂がないから、ゴーレム?はい、くだらない妄想はここまで。

■優性遺伝と劣性遺伝

目の色に話をもどそう。その昔、アテネの空港で、透き通るようなブルーの目をした女性を見た。その目はうっとりするほど深淵で、目の奥にもう一つの世界があるような錯覚をおぼえた。あやうく、目の中に吸い込まれるところだった(ホントだぞ)。ということで、黒い目より、青い目の方が魅力的だから、青い目の方が、子孫を残しやすい?でも、黒い目の方がまぶしさに強いので、太陽光が強い環境では生き残りやすい?でも、黒い目はいつもサングラスをかけているのと同じだから、色差に鈍感。というわけで、どっちが環境に適しているかは簡単ではない。

そろそろ、本題にもどろう。母親の目の色がブルーで、父親がブラウンだったら、その子の目は何色?答は、ブラウン!じつは、ブルーの目の色とブラウンの目の色のように、ライバル関係にある遺伝子を「対立遺伝子」とよんでいる。つまり、目の色を決める遺伝子は、染色体上の同じ位置にあって、互いに張り合っているのである。

ただし・・・子供の目がブラウンでも、母親の「ブルーの遺伝子」は子供にしっかり伝わっている。単に、ブルーの遺伝子が無視されただけなのである。このように無視された遺伝子を劣性遺伝子、その反対を優性遺伝子とよんでいる。そして、ブラウンの目をつくる遺伝子は、ブルーの目をつくる遺伝子に対して優勢である。だから、子供の目はブラウンなのである。

では、どうやったら子供の目はブルーになる?

目の色の遺伝子が両親ともブルーの場合のみ。だから、日本人には「碧眼(ブルーの目)」はムリ、コンタクトで偽装するしかない。もっとも、日本人のノッペリ顔には似合わないと思うが。

《つづく》

参考文献
(※)「利己的な遺伝子増補改題『生物=生存機械論』」リチャード・ドーキンス(著),日高敏隆(翻訳),岸由二(翻訳),羽田節子(翻訳),垂水雄二(翻訳)出版社:紀伊國屋書店

by R.B

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