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週刊スモールトーク (第211話) ナチスのサブカルチャーⅥ~ランドパワーの覇者~

カテゴリ : 娯楽思想

2013.06.16

ナチスのサブカルチャーⅥ~ランドパワーの覇者~

■ドイツ騎士団

というわけで、ナチスは物騒な超兵器は作るわ、人体実験はやるわ、戦争はめっぽう強いわ、負けても復活の呪文ですぐ蘇生するわ ・・・ 実際、第一次世界大戦と第二次世界大戦で2連敗しているのに、今はしっかりと、EU最強国。一体どうなっているのだ?

このままでは、いずれ、世界はドイツに征服される!?

と思われてもしかたがない。

そこで、誰かが、または、何かの組織が、あるいは、どこかの国が、ドイツを悪のシンボルに仕立て上げ、その神懸かり的な力を封印した、というのはネタとしては面白い。

さらに ・・・

ドイツ北部は、18世紀以降、プロイセン王国が支配していたが、さらにさかのぼるとドイツ騎士団(チュートン騎士団)に行き着く。ドイツ騎士団といえば、異教徒を抹殺すれば罪が帳消しになり、最終的に救済に至る、と信じたキリスト教最強の戦闘集団である。

敵を殺せば救済される?!

あなたがたの敵を愛しなさい(マタイ5章44節) ・・・ はどうした?

一見、キリスト教の教えに反するようにみえるが、じつは驚くに当たらない。宗教改革の引き金になった「免罪符」と同じではないか。騎士団の場合は「敵の命」と引き替えに、免罪符は「自分のお金」と引き替えに、罪が帳消しになるだけのこと。

おっと ・・・ 罰が当たるといけない、話をドイツにもどそう。

つまり ・・・

「プロイセン王国 → ドイツ第二帝国 → ドイツ第三帝国(ナチス)」の現実の強さに、ドイツ騎士団の神秘性を付加すれば、戦争モノ、ミステリー、オカルト、ホラー、どんな面白いコンテンツも思いのまま!(みんなサブカルだけど)

ところで、本当に、ドイツは強いの?

まるで、子供の問いかけだが、歴史を見る限り、ドイツの国力、特に戦争力は神懸かり的と言っていい。

では、その歴史をみていこう。まずは、ドイツ帝国の前身「プロイセン王国」から。

■普仏戦争

1870年7月19日、プロイセン王国とフランスの間で「普仏戦争」が勃発した。原因は、スペインの王位継承問題。なぜ、スペインの跡目騒動で、プロイセンとフランスが争うかというと、ヨーロッパの王家はみんな親戚だから(縁戚を含む)。具体的には、プロイセン王家のホーエンツォレルン家と、フランス王家のボナパルト家がスペイン王位の継承権を主張したわけだ。

ただし、ボナパルト家は厳密には王家ではない。初代ナポレオン、つまり、ナポレオン・ボナパルドが一代で築いたブリキにメッキの王家なので。

プロイセン王国の支配はドイツ北部に限られていたが、普仏戦争では、ドイツ南部もプロイセンと同盟して戦った。じつは、これは歴史的に大きな意味をもつ。この戦争を契機にドイツが初めて統一されたから。というのも、962年に神聖ローマ帝国が建国されて以来、ドイツは諸侯が乱立し、バラバラだったのである。

ところで、普仏戦争だが ・・・

終始、プロイセン軍がフランス軍を圧倒した。まず、フランス軍が先手をとって、ドイツに侵攻したももの大敗。その後、フランス軍はセダンで包囲され、あえなく降伏した。しかも、フランス皇帝ナポレオン3世まで捕虜になる始末。

それを知ったフランス国民は激怒した。ナポレオン3世は廃位に追い込まれ、フランス第二帝政は崩壊した。ところが、それを引き継いだ第三共和政も連戦連敗、1871年1月28日、とうとう、首都パリまで占領されてしまった。

そして、その10日前の1月18日、プロイセン王ヴィルヘルム1世はフランスのヴェルサイユ宮殿で、ドイツ帝国の建国を宣言し、初代ドイツ皇帝に即位したである。これが、ドイツ第二帝国(第一帝国は神聖ローマ帝国)。

フランスにしてみれば、連戦連敗のあげく、自国の宮殿で敵国の皇帝の戴冠式が挙行される ・・・ これ以上の屈辱はないだろう。ところが、この屈辱がドイツへの恨みに変わり、第一次世界大戦後、過酷なヴェルサイユ条約を生みだし、その結果、ナチスが台頭した。そして、第二次世界大戦が勃発し、あろうことか、フランスの首都パリが再びドイツ軍に占領されたのである。これ以上の皮肉はあるだろうか?

復讐の連鎖が何をもたらすかは明らかだ。どうせやるなら、根を断つまでやるべきだろう。それができないなら、仲良くすることだ。つまらない感情を優先させるから、同じ過ちを繰り返すのだ。これはそのまま、日本、中国、韓国にもあてはまる。韓国は知らないが、中国は腹をくくっている。だから、日本も腹をくくるべきだろう。

話をプロイセン軍にもどそう。プロイセン軍はなぜ強かったのか?

まず、兵数において、プロイセン軍はフランス軍を圧倒した。フランス軍は常備軍だったが、プロイセンは徴兵でいくらでも兵を集められたから。また、プロイセン側は鉄道網の整備をはじめ、ありとあらゆる準備をしていた。

しかし、プロイセンを勝利に導いた一番の理由は、兵の数でも用意周到さでもない。軍の質である。

■クラウゼヴィッツの戦争論

プロイセン陸軍、それに続くドイツ陸軍の精強さは、将軍カール・フォン・クラウゼヴィッツに負うところが大きい。彼は、普仏戦争の65年前、ナポレオン・ボナパルト率いるフランス軍に完敗した。その屈辱と反省から軍事戦略理論を練り上げたのである。それが、「孫子の兵法」と並び称せられる「戦争論」だ。

ナポレオン率いるフランス軍は強かった。それも、とてつもなく。フランス革命と徴兵制で、兵を集めやすかったこともあるが、数が劣勢でも、ナポレオン軍は強かった。これは「用兵の天才」ナポレオンの個人技に負うところが大きい。とはいえ、天才は天から降ってくるもので、偶然をあてにしていてもしかたがない。そこで、クラウゼヴィッツは考えた。

どうやったら、秀才が天才に勝てるのか?

軍事理論を体系化し、秀才を集めてこれを教育し、「組織脳(参謀本部)」で天才の代用とする。これがクラウゼヴィッツの答だった。こうして、”作られた”天才「参謀本部」に率いられたドイツ陸軍は、その後70年間、世界最強を誇った。

さて、ヴィルヘルム1世の統治のもと、ドイツ帝国は年率3%の経済成長をとげ、20年後には、アメリカ合衆国に次ぐ世界第二位の工業国にのしあがった。ドイツの強さは軍事、経済の両面で発揮されたのである。もっとも、この時期は指導者にも恵まれた。皇帝ヴィルヘルム1世は宰相オットー・フォン・ビスマルクを信頼し、絶妙の二人三脚で、富国強兵をなしとげたのである。

ビスマルクは、力ずくで領土を拡げる愚かさはなかった。列強のパワーバランスを計算しつつ、アメとムチを使い分け、アフリカと大平洋に植民地を築き、帝国の心臓であるドイツの安全を確保する ・・・ ビスマルクの戦略は明快だった。

ところが、ヴィルヘルム1世が死去し、ヴィルヘルム2世が跡を継ぐと、ビスマルクは失脚した。若き皇帝とそりが合わなかったのである。世代交代につきものの失脚劇、それがドイツ帝国でも起こったのである。その後、ドイツの外交は芸のない強気一点張りになり、列強の中で孤立してしまった。その結果、1914年、第一次世界大戦に突入するのである。

ドイツは東方のロシア、西方のフランスに対し、危険な二正面作戦を敢行した。苦戦が続いたが、間一髪の所で、ロシアに革命が起こり、ロシアは戦線離脱した。東方の脅威は消えたのである。そこで、ドイツは全軍を西方に集中し、西部戦線でも優位に立った。ドイツ軍はフランスの首都パリに120kmまで迫っていた。

ドイツ皇帝ヴィルヘルム2世はドイツの勝利を確信した。しかし、ドイツ軍の将軍たちは、アメリカが参戦した以上、有利な状況で講和に持ち込むしかないと考えていた。そして、1918年5月、ついにアメリカ軍の上陸が始まった。以後、毎月30万人のペースで増兵され、形成は一気に逆転した。結局、ドイツはアメリカの物量に負けたのである。

戦後、ドイツ帝国は君主制から共和制に移行し、ヴァイマル共和国として生まれ変わった。ところが、保守派、革命派、左派、右派、キリスト教派が乱立し、政局は混乱を極めた。さらに、ヴェルサイユ条約で多額の損害賠償金が課せられ、国軍は骨抜きにされ、領土は奪われ、ハイパーインフレが猛威をふるい、国民生活は破綻した。ドイツ国民は希望を失っていた。

当時の世情を記した日記が残っている ・・・

失業、飢え、まともに援助を受けられない戦傷者。暗い世情でした。ゼンドリンガー門広場には、失業者が1ペニヒかせいぜい3ペニヒ程度の賭けトランプで時間をつぶしていました。彼らは不幸で、孤独で、自分に仕事を持ってきてくれない両親に腹を立てていました。そして国家には腹を立てていました。この人たちこそ、ナチスのために見いだされた生贄(いけにえ)だったのです ・・・ (※1)

こんな切羽詰まった状況で、台頭したのがナチス(国家社会主義ドイツ労働者党)だった。

じつは、国情がどん底なら、政権を取るのは難しくない。屁にもならないイデオロギーなど棚に上げて、不幸の原因を取り除けばいいのだから。

具体的には、
① ドイツ国民のプライドと富を奪ったヴェルサイユ条約を破棄する。
② 再軍備宣言し、プライドと外交力を回復させる。
③ 失業をなくし、国民生活を安定させる。

結局、この3つを公約し、実現したのは、ナチスだけだった。結果、ドイツは10年も経たずして世界の一等国に復活したのである。ところが、ヒトラーの望みはそんなものではなかった ・・・ 東方に生存圏を拡大し、ヨーロッパとロシアを含む超国家「ドイツ第三帝国」を打ち立てる、つまり、世界征服。

こうして、第二次世界大戦が始まった。ドイツ機甲軍は瞬く間にヨーロッパを征服し、ソ連の首都モスクワまであと40kmまで迫った。

つまり、ドイツは、普仏戦争でフランスを一刀両断にし、第一次、第二次世界大戦で世界を敵に回しながら、勝利まであと一歩に迫ったのである。神懸かり的な強さ ・・・ じつは、この強さは国民性のみならず、地理的条件「地政学」にもよっている。

■シーパワーの時代

地政学の父、ハルフォード・マッキンダーによれば ・・・

「東ヨーロッパを支配するものがハートランドを支配し、ハートランドを支配するものがユーラシア大陸を支配し、ユーラシア大陸を支配するものが世界を支配する」
※ハートランド:文字通りユーラシア大陸の心臓部(地域は特定されておらず抽象的な概念)

つまり、陸をたくさん支配した国が世界を支配する。

あたりまえ?

そうでもない。

じつは、19世紀まで、世界を支配していたのは「陸の帝国」ではなく「海の帝国」だったのである。

地球の文明がリンクしたのは、15世紀の大航海時代以降である。それまで、地球の文明は陸単位で孤立していた。大海が人間の移動を妨げたのである。だから、「世界征服」など夢のまた夢。

ところが、15世紀、ヨーロッパ人は大海を移動する道具を発明した。大型帆船である。これに大砲を備え付ければ、海上要塞に早変わり。ヨーロッパ人たちはこの「移動式海上要塞」に乗り込み、大海に乗り出していった。そして、アフリカ、インド、アジアと世界中を荒らし回ったのである。これが、歴史の教科書でおなじみの「大航海時代」。

じつは、大航海時代には3つの段階があった。まず初めに、ポルトガル海上帝国が繁栄し、その後、スペイン、エリザベス女王のイギリスオランダ海上帝国が覇権を争い、最後に大英帝国(イギリス)が締めくくった。つまり、15世紀から19世紀に世界を支配したのは「ランドパワー(Land Power」)ではなく、「シーパワー(Sea Power)」だったのである。

ところが ・・・

20世紀初頭、マッキンダーはこう予言した。これからは「ランドパワー」の時代になると。

■ランドパワーの時代

そして、時を経ずしてこの予言は的中する。1941年6月22日、東ヨーロッパを挟んで、西の大国ドイツと、東の大国ソ連が激突したのである。マッキンダーの言う「ハードランド」を巡って。これが、史上最大の陸上戦「バルバロッサ作戦」である。

この戦いには2つのシナリオがあった。ドイツが勝利して、西のフランスから東のシベリアまで征服する。逆に、ソ連が勝利すれば、そのすべてがソ連領に。

ところが ・・・

結果はいずれでもなかった。ソ連はドイツに勝利したものの、手に入れたのは東ヨーロッパと東ベルリンのみ。最大の功労者はアメリカ合衆国だったからである。もし、アメリカが参戦せず、ソ連が単独で勝利していたら、全ヨーロッパはソ連領になっていただろう。

実際、スターリンは、対ドイツ戦でこれだけ犠牲を強いられたのに、得るものが少ないと不満タラタラだった。アメリカとイギリスは漁夫の利を得ている、われわれはだまされたのだ ・・・ と深い恨みをもっていた。

その鬱憤(うっぷん)は、第二次世界大戦後、「東西冷戦」となって表れた。アメリカ合衆国を中心とする西側陣営と、ソ連を中心とする東側陣営が対立したのである。

そして、1970年代初頭、ソ連は驚くべき軍事作戦を立案する。第三次世界大戦勃発と同時に、「T72」の大戦車部隊が西方に電撃侵攻し、ヨーロッパ全土を制圧する。西側の指導者たちは、それが現実になるかもしれないと怯えていた。T72の機動力(時速60km)はそれほど高かったのである。

しかし、結局、第三次世界大戦は起こらなかった。もっとも、起こっていたら、この一文は存在しない。第三次世界大戦は全面核戦争とセットなので。

というわけで、ドイツ、ソ連、いずれもユーラシア大陸征服には至っていない。補足すると、フランスのナポレオン・ボナパルトもこの企てに失敗している。ヒトラー同様、西ヨーロッパは征服したものの(イギリスを除く)、ロシア侵攻で失敗したのだ。

ということは ・・・ それほど、ロシア(ソ連)は鬼門?

もしそうなら、ソ連が世界征服に一番近いかも。いや、今なら、中国かな(中国人の喜ぶ顔が目に浮かぶ)。

ただし ・・・

アメリカ合衆国がこの世に存在しないという条件付きで。

《つづく》

参考文献:
・(※1)ヒトラー権力掌握の20ヵ月 グイド クノップ (著), 高木 玲 (翻訳) 中央公論新社
・ヒトラーと第三帝国 (地図で読む世界の歴史) リチャード オウヴァリー (原著), 永井 清彦 (翻訳), 秀岡 尚子 (翻訳), 牧人舎 (翻訳) 河出書房新社

by R.B

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