BeneDict 地球歴史館

BeneDict 地球歴史館
menu

週刊スモールトーク (第179話) 日中尖閣戦争(2)~領有権に根拠はない~

カテゴリ : 戦争歴史

2012.10.08

日中尖閣戦争(2)~領有権に根拠はない~

■国有化された尖閣諸島

2012年4月、東京の石原都知事がいつものノリで、「頭にきた。尖閣諸島は東京都が買う」とぶちあげた。ところが・・・中国側の反応は意外に静かだった。むしろ、仰天したのは日本の方である。

その後・・・2012年9月9日、ウラジオストクでAPECの会合があり、野田首相と、中国の胡錦濤(こきんとう)国家主席が15分ほど立ち話をした。胡錦濤主席は「固有化は絶対ムリ。日中関係の大局を考慮し、処理してほしい」と訴え、野田首相は、「了解、大局に立って処理する」と答えたという。ところが、その2日後・・・日本政府は「尖閣諸島の国有化」を発表した。しかも、中国側に伝えたのは、外務省の局長レベルだったという話もある(※1)。

もし、それが本当なら・・・なめられたもんだ、弱腰外交のあげくにこのザマか!と党内部で、胡錦濤批判が出ても不思議ではない。まぁ、メンツは丸つぶれ。胡錦濤主席がぶち切れたのは想像に難くない。その後、中国側の対応は迅速だった・・・日本の元首を侮辱し、日本大使公用車の旗を奪い、日本企業の工場や店舗を破壊し、放火し、金目のモノは略奪し、日本車に乗っている中国人まで半殺しにした。もちろんすべて、中国当局が主導する官製デモ。というより、ほとんど犯罪なのだが、中国では「愛国無罪」なのだという。これを見た日本の政府もマスコミも、「非常識だ!冷静に対処しよう」と励まし合った。

この国は、一体どれほどマヌケなのだ?

「冷静に」はあっちでしょ。こっちは、初めから冷静なんだから。もっとも、戦争行為以外全部やっている相手に対し、「それ、非常識ですよ、冷静に冷静に」というのもアホな話だが。日本の首相にいたっては、「我々は冷静に対処する」「緊張感をもって望む」と発言した。これも笑える。国家の非常事に、指導者が国民に向かって、「オレは冷静で緊張している。だから、みんな安心するように」・・・伸るか反るかの状況を一瞬忘れ、不覚にも笑ってしまった。

どう考えても、新入社員なみの意識と能力。これがわが国の首相?日本にはこの程度の政治家しかいないの?そうでないことを心から願っている。さて、尖閣諸島問題だが、まずは結論・・・政府やマスコミは、尖閣諸島が日本の領土である「根拠」を力説しているが、それ自体何の意味もない。それが正しかろうが、間違っていようが、だ。なぜなら・・・中国は、「なにはともあれ、尖閣諸島は中国のもの」だから。それに、ここが重要なのだが・・・領有権の「根拠」って、ほんとにあるの

■アメリカは誰のもの?

たとえば、北アメリカ大陸。1492年、コロンブスがアメリカ大陸を発見し(本当はサンサルバドル島)、続く1620年、イギリスで迫害されたキリスト教の一派が移住し、1783年にアメリカ合衆国が成立した。だから、北アメリカはアメリカ合衆国(イギリス人)のもの。ところが・・・それより、500年も前に、北アメリカに移住した一団がいた。ヴァイキングである。

ヴァイキングは、8世紀から11世紀にかけて、北欧からヨーロッパに侵入したノルマン人のことである。彼らが残した書物によれば、982年、赤毛のエリックという男が、放牧牛のトラブルで殺人を犯し、罰として、氷の大地の探検を命じられたという。そのエリックが発見したのがグリーンランドだった。

さらに、996年、エリックの長男レイフ・エリクソンは、グリーランドを南下して、新しい大陸を見つけた。彼はその土地をヴィンランド(ブドウの国)と命名し、しばらく暮らしたという。その後、1000年頃にエリクソンは帰国した、と書物には記されている。もちろん、グリーンランドをそのまま南下すれば「北アメリカ」だ。

じつは、この伝説が史実であることがわかっている。北アメリカのニューファンドランド北端のランス・オー・メドーで、1000年前の住居跡が発見されたのだ。そこに、ヴァイキング時代のログハウス跡、さらに、鉄の鋲(びょう)、石のランプ、鍛冶場などが見つかっている。これらは、当時の北アメリカの先住民のものではない。さらに、放射性炭素測定により、この遺跡が約1000年前のものと確認された(※2)。

幸村誠の歴史漫画「ヴィンランド・サガ」にも、「ヴィンランド」と「レイフ・エリクソン」は登場する。この漫画はヴァイキングをモチーフにしたフィクションなのだが、歴史考察がしっかりしていて、リアリティがある。しかも、絵がうまく、ストーリーも面白い。幸村誠の作風は「叙事詩」の匂いがするので、歴史物には向いている。古代ギリシャの「ヒストリエ」、中国春秋戦国時代の「キングダム」とならぶ、歴史漫画の傑作だ。

ということで、最初に北アメリカに移住したのは、コロンブスでもイギリス人でもなく、ヴァイキング。とすれば、北アメリカはヴァイキングのもの?少なくとも、ニューファンドランドは。いや、それ以前に、インディアン(アメリカ先住民)が住んでいたのだから、領有権は彼らのもの?ところが・・・ここが歴史の深いところなのだが・・・なんと、「北アメリカの先住民=日本人」という説までてきた。1996年、アメリカワシントン州ケネウィックで発見された人骨が9300年前のものとわかった。

もし本当なら、アメリカ大陸最古の遺骨である(今のところ)。ところが、その頭蓋骨の形状が、一見してインディアン(アメリカ先住民)のものとは違うらしい。アイヌ系に近い特徴が確認され、日本の縄文人の可能性も否定できないという(※2)。では、北アメリカは日本のもの?そんなことを言い出せば、キリがないわ・・・そのとおり。しかし今、日本と中国が口から泡を飛ばしてののしりあっている論点は、「過去の歴史=領有権の証明」にある。

■実行支配の罠

では、今問題になっている尖閣諸島の歴史をみてみよう。1894年、日本と清(中国)との間で日清戦争がおこり、勝利した日本が尖閣諸島を取得した。ところが、1945年8月、日本は太平洋戦争に敗北、尖閣諸島はアメリカの占領下に入った。その後、日本に返還されたが、これを中国は認めていない。だから、尖閣諸島は中国のものというわけだ。だが、冷静に考えてみよう。本当に、「昔の地図」が領有権の根拠になるのだろうか?

もし、そうなら一大事だ。たとえば・・・2000年前の地図を引っ張り出すなら、イタリアは大喜びだ。スペイン、フランス、地中海沿岸諸国、さらに、イギリスもイタリアの領土になる。イタリアの祖先「古代ローマ帝国」の支配地だからだ。しかし、13世紀の地図なら、今度はモンゴルが大喜びだ。旧ソ連、中国、東欧の一部を含むユーラシア大陸の大半がモンゴル帝国の領土なのだから。そこまでいうなら、トルコも黙ってはいないだろう。

15世紀の地図なら、オスマン・トルコ帝国の領土は、地中海沿岸諸国の大半、エジプト、トルコ、東欧・・・これでは、らちがあかない。では、どうすればいいのか?昔のことを言い出せばキリがないから、「一番新しい地図」で・・・は、一見よさげなアイデアだが、その意味するところは、「領有権=今支配している国」つまり、「領有権=実効支配」であれば・・・これから占拠すればよいではないか

というわけで、歴史の根拠などクソくらえで、手っ取り早く武力制圧したほうが勝ち!が現実なのである。実際、歴史上の領土問題は、だいたいこの方法で解決している。道理や理屈で解決したためしはないのだ。でも、フランス革命&ナポレオン戦争の後始末「ウィーン会議」では、ヨーロッパの領土問題はすべてフランス革命以前に戻す、という「道理」で解決したではないか?

たしかに、一見そうみえる。ところが、このときも、「武力」がモノをいったのだ。「ヨーロッパの国境をフランス革命以前に戻す」という「正統主義」を主張したのはフランスだった。ところが、ほとんどの国がこの案に反対した。なぜか?一番得をするのはフランスだから。自分で革命と戦争を引き起こしておいて、ヨーロッパを荒らし回ったあげく、戦争に負けたら、すべてなかったことにしよう?!そりゃないやろ、というわけだ(気持ちは分かる)。

ところが・・・会議が遅々として進まない中、とんでもない情報が飛び込んできた。ナポレオン戦争を引き起こした張本人で、幽閉したはずのナポレオンがエルバ島を脱出したというのだ。恐怖の大王ナポレオンが、再びヨーロッパを戦渦に巻き込む・・・尻に火がついたヨーロッパの首脳たちは、あわてて手じまいした。これが事の真相なのである。つまり、物事を解決するのは「力」なり。でも、それって、200年前の話でしょ?では、最近の中国の領土問題の「力業」をみてみよう。

■中国の領土問題解決法

1974年1月、西沙諸島の領有権を巡って、中国と南ベトナムの間で海戦が勃発、中国が圧勝した。結果、南ベトナムは西沙諸島から追い出され、今は中国が実効支配している。1988年、中国はベトナムと領有権を争っていた南沙諸島へ侵入し、観測所を設置した。ベトナム側は応戦したが敗北。さらに、2012年7月、中国側は同地に自治体「三沙市」を作り、実効支配を確固たるものにした。さらに・・・1995年、中国はフィリピンのミスチーフ環礁に小屋を建設。フィリピン側の再三の抗議にもかかわらず、今も中国が実効支配を続けている。というわけで、普通に考えれば・・・

次に、中国が「実効支配=強制占拠」を狙うのは尖閣諸島。もし、中国が「アメリカの中立」さえ担保できたら、何のためらいもなく、尖閣諸島を占拠するだろう。もちろん、領土問題に善悪などない。力が支配する世界なのだから。これまでの日本なら、たかが無人島一つで、中国様のご機嫌を損ねるのは得策ではない。ここは譲歩して、尖閣諸島を中国にプレゼントしようという意見も出ただろう。ところが、今回の日本はこれまでとは違う。あの正気の沙汰とは思えない暴動デモを見て、何をされるかわからんぞ、と悟ったのだろう。

もちろん、カルタゴ滅亡の歴史をみるまでもなく、譲歩すれば、譲歩の連鎖が始まり、最後は丸裸にされる。さらに、相手が悪ければ、カルタゴのように国が滅ぶかもしれない。コワイコワイ・・・では、今回の尖閣諸島の場合、譲歩の連鎖で何が起こるのか?もし、日本が譲歩して、中国に尖閣諸島をプレゼントすれば、次は沖縄を要求してくるだろう。沖縄が中国領?ありえない、一寸の根拠もない!平和ボケの空想的平和主義者なら、そう言い張るだろう。ところが・・・「沖縄は中国領」の根拠はないこともないのだ。

《つづく》

参考文献:
(※1)Newsweek10.3阪急コミュニケーションズ
(※2)週刊歴史のミステリーNo.3出版社(デアゴスティーニ・ジャパン)

by R.B

関連情報