■フリンジ(海外ドラマ)・あらすじ 2010.07.04
「フリンジ・FRINGE」は、海外SFドラマで、一部マニアに根強い人気がある。
アメリカでは、ファーストシーズンが終了し、セカンドシーズンの制作も決まっている。昨今のSFドラマは、ファーストシーズンでボツ、がふつうなので、健闘した部類だろう。
一方、日本では「フリンジ」はこれから。CSチャンネル「Super!dramaTV」の放映も決まっている。ただ、「フリンジ・DVDボックス」と「フリンジ・Blu-rayボックス」は、すでに販売されている。
もちろん、レンタルもOK。
「フリンジ」は、ネタ的にはB級SFだが、カネ的には超弩級で、チープさはみじんも感じられない。上品な映像、気の利いたセリフ、役者の演技もなかなかいい。
ストーリーは、科学では説明不可能な奇怪な事件を、政府の特別チームが解決していく・・・なーんか、どこかで聞いたような話。そう、1990年代にブレイクした「Xファイル」だ。
まず、常識を超える怪事件を解決するには、非常識な人間が必要だ。たとえば、
「Xファイル」→FBI捜査官のフォックス・モルダー
「フリンジ」→マッドサイエンティストのウォルター・ビショップ
この2人の共通点は、常識にとらわれない発想と妄想癖。ために、すったもんだはあるものの、最終的には問題解決にこぎつける。
さらに、こんなイッてる天才には、たづなを引きしめるパートナーも必要だ。たとえば、
「Xファイル」→FBI捜査官のダナ・スカーリー
「フリンジ」→ウォルター・ビショップの息子ピーター・ビショップ
この2人の共通点は、冷静さと聡明さ。Xファイルのスカーリー捜査官は、医師免許を持つ秀才、そして、フリンジのビショップは、IQ190の天才。
また、政府内の抵抗勢力から、チームを守ってくれる上司も欠かせない。たとえば、
「Xファイル」→FBI副長官のスキナー
「フリンジ」→国土安全保障省のブロイルズ
どっちも、仏頂面だが、ほんとは信頼できる上司、という設定。
というわけで、登場人物は名前と顔が違うだけで、役回りは同じ。つまり、人物が類型化されている。
ところが、登場人物の類型化は歴史が古い。たとえば、17世紀フランスの「コメディア・デラルテ」。直訳すると「職業俳優による喜劇」で、町角で演じられるドタバタ劇だった。それが、徐々に洗練され、現代の演劇にまで発展したのである。
コメディアデラルテの一番の特徴は、登場人物が類型化されていること。なので、ストーリーは違っても、顔ぶれはいつも同じ。
たとえば、「恋人たち」は劇の中心的な役回り。「アルレッキーノ」は召使いで、ピエロのように笑いをとり、「恋人たち」の恋が成就するように振る舞う。
一方、「パンタローネ」は裕福で意地悪な老人で、恋人たちの邪魔をする。「カピターノ」はほら吹きで傲慢な司令官、という具合。
これだけキャラがとんがっているなら、役回りも説明不要で、筋書きもおよそ検討はつく。それはそれで、観ている方も、安心だし、まぁ、「吉本新喜劇」のようなもの。
では、フリンジは?
まずは、主人公のオリビア・ダナム(アナ・トーヴ)。ちょっとやぼったいけど、表情の変化が魅力的な女性捜査官。数字に対し、異常な記憶力を示し、神経衰弱で負けたことがない。非凡な問題解決能力を買われ、国土安全保障省のブロイルズにスカウトされた。今は、国土安全保障省「フリンジ」チームのチーフ。
次に、民間人の協力者ウォルター・ビショップ(ジョン・ノーブル)。「フリンジサイエンス(fringescience)=境界科学」の第一人者で、IQ196。かつて、政府機関で働いていたが、トラブルがあり、
精神病棟に17年間、閉じこめられていた。
そんな不遇のウォルターに、救いの手をさしのべたのが、主人公のダナム捜査官だ。捜査に協力することを条件に、精神病院から解放されたのである。
ところが、薬物治療の後遺症で、まともじゃない。完全にイッてるし、ふつうに気持ち悪いけど、どこかコミカル。まぁ、善良なマッドサイエンティストというところ。
そんな彼の十八番が、「フリンジサイエンス」だ。「フリンジ・FRINGE」は「外べり」という意味なので、「科学と魔法の境界」というところ。、言ってしまえば、「なんちゃって科学」。
ネタ元は、たぶん、物理学者リサ・ランドールの「余剰次元」理論だろう。日本でも、リサ・ランドールの著「ワープする宇宙―5次元時空の謎を解く」で紹介された。「数式を一切使わず分かりやすく解説」とあるが、とんでもない。これを読んで、フンフンなんて言っている連中は、嘘つきか、勘違いしているだけだろう。
とはいえ、せっかくなので、ランドール理論を簡単にまとめると・・・
「この宇宙には複数の世界が存在する」
このフレーズには少しばかり補足が必要だ。
「この世界を1つのブレーン(薄い膜)とすると、複数のブレーンが重なりあっている(複数の世界が存在する)。それぞれのブレーンは互いに干渉しないが、重力だけはブレーン間を通り抜けできる」
おー、SFネタの「多元宇宙論」!
しかも、他の世界への移動手段まで明らかに・・・人間をグラビトン(重力を伝える素粒子)に変換すれば、重力にのせて、他の宇宙へ”転送”できるわけだ。でも、どうやって、向こう側で復元するのだろう?
話はもどって、フリンジ。
ドラマの後半で明らかになるのだが、「フリンジ」のメインテーマもココにある。古ネタなのだが、筋書きにひねりがあって、けっこうドキドキする。
事件を解決するのは、たいてい、イッてるウォルター爺なのだが、彼をフォローするのが、息子のピーター・ビショップ(ジョシュア・ジャクソン)だ。才能だけで暮らしているテキトー男で、仕事も転々。ところが、頭は父親譲りで、IQ190。父ウォルターを、皮肉でイビリ倒すが、けっこうイイ人。
ウォルターは、事件に熱中すると、ハーバート大学の地下にあるプライベートラボに閉じこもるが、そこに、かわいい助手がいる。魅力的な黒人女性で、ハイテクにも精通するFBI捜査官だ。顔のつくりも、表情も、セリフも、すべてがピュア。これまでにないキャラだ。(僕が知るフリンジファンの中では一番人気)
ところが、ボスのウォルターになかなか、名前を覚えてもらえない。「アストリッド・ファーンズワース(ジャシカ・ニコル)」・・・確かに覚えられそうもない。
一方、主人公のダナム捜査官をサポートするのが、FBIのチャーリー・フランシス(カーク・アセヴェド)だ。”善良”が歩いているような人物で、彼女の良き理解者。FBI捜査官を束ねるチーフで、公私を超えて、ダナム捜査官を支援する。
そして、フリンジチームのボスが、国土安全保障省のフィリップ・ブロイルズ(ランス・レディック)。背が高く、精悍な黒人捜査官だ。ダナム捜査官には厳しくあたるが、じつは、彼女のために命を張っている。
一方、フリンジチームを妨害する人物もいる。フリンジチームの視察役サンフォード・ハリス(マイケル・ガストン)だ。かつて、性的暴行容疑で、ダナム捜査官に逮捕されたことを根に持ち、嫌がらせをする。「コメディアデラルテ」なら、意地悪な老人「パンタローネ」ホラ吹き司令官「カピターノ」というところ。憎たらしい役柄だが、ファーストシーズン最終回には、地獄が待っている。
フリンジチームが追う奇怪な事件は、「パターン」と呼ばれている。その鍵を握るのが、巨大企業「マッシブ・ダイナミック社」だ。フリンジなテクノロジーを開発する企業で、すべてが謎に包まれている。
このマッシブ・ダイナミック社の女性重役が、ニーナ・シャープ(ブレア・ブラウン)だ。年齢不詳の強面のおばさんで、片腕がハイテク義手、心臓は特殊合金、とハイテクパーツで身をかためている。国土安全保障省のブロイルズとは旧知の仲で、ダナム捜査官にもすすんで協力するが、何を考えているかわからない。だが、何かを知っている。
そして、パターン事件現場に、決まって現れる黒づくめの監視人。スキンヘッドで眉毛ナシの異形の風貌。味覚が鈍感で、大量の胡椒とタバスコがないと、サンドイッチも食べられない。
さて、役者はそろった。
フリンジは、こんな個性的なキャラにささえられ、物語はすすんでいく。確かに面白いし、ひきこまれる部分もある。ところが、登場人物の設定はありきたりで、新鮮みはない(アストリッドは別)。さらに、「24・TWENTYFOUR」のようなハラハラドキドキはないし、「LOST」のように人生や運命を深く考えさせられることもない。
しかも・・・
ネタはSFオタクなら、どこかで観たもの、あるいは、想像のつくものばかり。科学的説明も、Xファイルの域を超えておらず、突っ込みは甘い。なので、「超ハイテク=魔法」的ゾクゾク感もナシ。
とはいえ、それでも、フリンジは面白い!
無数の布石を張り巡らし、視聴者の想像力をかきたてる。J・J・エイブラムスお得意の手だ。ただ、この方法は、度を超すと失敗する。からみが複雑になり、つじつまが合わなくなり、収束不能におちいり、最後は「とんずら」。
その良い例が、浦沢直樹の「20世紀少年」だろう。初めから伏線を張りまくり、想像力をかきたてて、煽るだけ煽って、最後は・・・あんな結末はないと思うのだが。
そして、フリンジも、ファーストシーズンで、収束不能の臨界点にある。もし、セカンドシーズンで、ロジックが破綻すれば、サードシーズンはムリ。
あーだ、こーだ、いろいろ言ったけど、フリンジは、成功したドラマであることは間違いない。
だから・・・
ネタや手法が古くても、カネをかけて、丁寧に作れば、それなりのものができるということ。やっぱり、コンテンツはカネかなぁ。
by R.B