■不眠症 2009.10.25
とくに、悩みがあったわけじゃないが、小さい頃から、不眠症だった。
床に入り、目をつむると、鮮やかな映像、見たこともない記号、言葉を介さない奇妙な思念が、脳をかけめぐる。これじゃ、眠れない。
意識で止めても、数秒しかもたない。僕の脳は、僕の支配下にはなかった。もっとも、それが夜中で良かった。もし、昼だったら、すでに廃人だ。
高校2年の夏、不眠症はさらに悪化し、学校の成績も落ちた。その頃、学年で5番だったのに、負けるはずのない同級生にも抜かれた。あれは悔しかったな。
それでも、年に1、2回、まともに眠れる日があった。そんな日はソーカイ。何を考えても、すべてのニューロンが反応し、パルスが稲妻のようにかけめぐる。面白いアイデア、ロジックが次々とわきあがる。どんな問題でも解決できそうな・・・ありえないけど。
それでも、毎日熟睡できたら、なんて思わない。今のままで十分。なぜか?
僕は不眠症のDNAをもつが、神様はそれを哀れんで、別のDNAもくれた。脳内で、AnotherWorldを構築する力。
脳が、リアルタイムに世界を創造し、リアルタイムでそれを体験する。自作自演、たった一人の観客、完全無欠のバーチャルワールドだ。
夜、バーチャルワールドにいると、そのまま眠りにつくことがある。すると、その世界が夢に継承される。ビジュアルが一気にグレードアップし、視界を埋めつくす。眼球が、360度全方位をとらえ、息をのむほどの迫力。
一旦、このモードに入ると、途中で目が覚めても、大丈夫。トイレに行って、そのまま眠れば、「つづき」を見ることができる。これは本当に便利。
このDNAのおかげで、僕は宇宙を旅し、宇宙の果てまで行き、時間を旅し、過去と未来にも訪れた。空想は意識の中にあるが、僕のAnotherWorld「バーチャルワールド→夢」は、意識と無意識の境界にある。つまり、意識の”渚”。え、ただの妄想?そうかもしれない・・・
あるとき、こんな夢を見た。大きな家があって、そばに、大きな木がある。空は鮮やかなブルー。
意識が無限に拡大している・・・
そのシーンの中に、「すべてがある」のを感じる。1人も見えないのに、懐かしい仲間がみんないる。それをビジュアルでなく、意識で認知している。体験したことのない至福につつまれた。
ひょっとして、これが、ユングのいう「象徴」かもしれない?心理学者ユングは夢分析を重視し、無意識が意識に投影されたものを、「心像」とよんだ。
無意識は、文字どおり、認知できないが、意識上に具象化されれば、認知できる。これは、意識が生んだ空想や妄想とは別モノ、とユングは記している。さらに、ユングは、「心像」の中で、特に創造性をもたらすものを、「象徴」とよんだ。
夢で見たあのシーンは、無意識の何かが、家、木、空として具象化されたものかもしれない。現実ではありえない至福を、創造したのだから。
その背後にある”存在”にも気づいた。おそらく、無意識の原型。では、それを探知したのは、僕の中の何?視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚のいずれでもない。ひょっとして第六感?そんなもの、本当にあるの?だけど、心の中の何かがそれを探知した。
不眠症のおかげで、僕は脳の神秘にふれることができた。たった1400ccの脳の中に、宇宙サイズの思考空間が広がっている。これは本当にすごいことだ。
今度生まれ変わったら、脳の神秘を解明することにしよう。だけど、また不眠症なら、成績は期待できないだろうし、学者はムリかな。
by R.B