■大河ドラマ・平清盛がコケた理由 2012.05.13
NHKの大河ドラマ「平清盛」が大コケらしい。
平均視聴率は14.5%で、歴代最低記録に肉薄・・・NHKにとって笑いごとじゃない(僕は笑ってません)。
モチーフは誰もが知る「平清盛」、キャストは他局ではありえない豪華さ、予算も潤沢だろうし(天下のNHKだぞ)・・・一体、何が悪いのだ?
じつは、大河ドラマ「平清盛」は、初めからケチがついた。兵庫県の井戸知事だ。
いわく、
「画面が汚い。鮮やかさのない画面ではチャンネルを回す気にならない。番組の人気で観光も影響を受ける」
言いたい放題だが、井戸知事にも事情がある。じつは、平清盛の最初の拠点は兵庫県にあった。だから、兵庫県知事としては、大河ドラマ効果で、「観光客増→税収増」をもくろんでいるわけで、当事者のNHKより、視聴率が気になるのだ。
ところで・・・
画面は本当に汚い?
汚い!
見るに堪えないほどではないが。
ところが、NHKのプロデューサーは、「時代のリアリティを出すため」と反論したが、これはまずかった。矛盾しているので。
この時代、建物や人の身なりは汚れていただろうが、自然は今よりずっと美しかったはず。ところが、画面を見ると、自然まで薄汚れている。リアリティはどこへいった?
まぁ、映像全体にあんなエフェクトかければ、人や人工物だけでなく、空気まで薄汚れてあたりまえ。それにしても、下手くそなエフェクトを、「リアリティ」と言い切るのは、プロとして、どうなのかなぁ。
それに、百歩譲って、「汚いリアリティ」に固執するなら、未整備な下水道・・・
ウンコやおしっこもちゃんと再現したら?
そうしないのは、
視聴者に不快感を与えたくないから?
はぁ~、どっちやねん、と、ここでも矛盾。
本来、ドラマは人に観ていただくもの。だから、優先順位は、気持ち良さ>リアリティ。が常識。ターゲットは、カンヌ映画祭じゃなく、茶の間で観る大河ドラマでしょう。
NHKのプロデューサーとあろうものが、そんなこともわからない?(ちょっと言いすぎたかな)
僕は、今どきの韓流ブームを、由々しき事態だと思っているが、歴史ドラマは感心している。最近、秋葉原の中古店で、歴史韓ドラ「朱蒙(ちゅもん)」の中古DVDBOXを買ったが、マジでよくできている。
ストーリーも面白いが、映像が鮮やかで綺麗。特に、衣装は息を呑むほど美しい。これを見て、2000年前にあんな衣装があるわけがない、リアリティがないからサイテー、と非難する人はいないだろう。
NHKの制作者は、これを見習うべきだ。大河ドラマは、史実にこだわるドキュメンタリーではない、エンターテインメントなんだから。
もっとも、NHKにしてみれば、画面が汚いだけで、ドラマを全否定されてはたまらない。中味が良ければいいじゃないか?そのとおり!
で、実際のところ、どうなのだ?
まず、キャスティング。
松山ケンイチ(平清盛)、
伊東四朗(白河法皇)、
三上博史(鳥羽上皇)、
井浦新(崇徳上皇)、
松田翔太(後白河法皇)
・・・
こりゃ凄いわ。これなら演技はOK?
それが・・・パッとしないのだ。
個々に見ると、悪くないのだが、観ていてつらくなる。
なぜか?
みんな、われもわれもと、パワー全開で、画面がいつも張り詰めている。だから、息苦しいし、リアリティもない。「芸」なのに、芸がないわけだ。
だいたい、主役がはれる役者ばかりそろえてどうする?
ブラッド・ピット、トム・クルーズ、ジョニー・デップ、ブルース・ウィリスに、目いっぱい演技させたら、どんな映画になるのだ?
船頭多くして船山に登る・・・
つまり、役者ではなく、制作側の問題なのである。
結局、2、3話観てやめてしまったが、視聴率が低迷しているというので、原因を見きわめようと、じっくり、観ることにした。
その結果・・・
このドラマをダメにした真犯人がわかった。演技でも、画面の汚さでもない・・・脚本。
もっと、はっきり言うと、このドラマはエンターテインメントのルールを忘れている。映画もTVドラマも脚本できまる、という大法則だ。だから、制作者が悪いというより、脚本家の選定ミス。
NHK大河ドラマの歴史をふりかえると、最高のヒット作は、「独眼竜政宗」(1987年)。あれは、たしかに面白かった。
役者は、勝新太郎、渡辺謙、津川雅彦・・・と名優ぞろいだが、力まず、自然体なので、演技が映えた。役者がコントロールされているのだ。もちろん、一番の立役者は、ジェームス三木、つまり、脚本。
「独眼竜政宗」は、モチーフが戦国時代なので、行きつくところ、命の取り合い、国盗り合戦だ。だから、本当は、ドロドロしていて、血なまぐさい。
それはそれで、ジェームス三木は、きっちり描いているのだが、要所要所に、ジョーク(笑い)を散りばめている。それがスパイスとなって、どこか明るくて、風どおしがいい。
しかも、「独眼竜政宗」は、戦国時代をモチーフにしながら、テーマは、「人間の泣き笑い」。じつは、これが映画・ドラマの成功の方程式なのだ。
僕も視聴者も、自分では作れないけど、何が面白かは知っている。それが、制作者にとっての厳しい現実。まぁ、そういうことだ。
そして、「面白さ」を制御できるのは、「脚本」だけ。
たとえば、最近、NHKで高視聴率を記録したドラマがある(過去8年間で最高)。朝ドラの「カーネーション」だ。じつは、僕はこれにはまった。
主人公は、ファッションデザイナー「コシノ3姉妹」を育てた母だが、大阪・岸和田の洋装店の店主で人生を終えているので、物語としては地味。
ところが、ひたすら面白い。テンポがいいし、泣き笑いがフルスロットルだし、明るいし、風どおしもいい。
つまり、脚本がいいのだ。
もちろん、役者にもめぐまれた。そこは、NHKのこと、ギャラに困ることはないから。
とくに、主役の尾野真千子の演技は秀逸だった。ネイティブな関西弁をまくしたて、気丈で、攻め一本の泣き笑い人生を見事に演じている。たぶん、彼女の人生で、これ以上のはまり役はないだろう。
さらに・・・
舞台となった岸和田の商店街が最高!
昭和初期の街並みなので、本当は、古くて汚いはず。「平清盛」なら、リアリティとかなんとかで、映像を汚すのだろうが、「カーネーション」の商店街は、住んでみたくなるほど、魅力的。うまく言えないが、独特の「美」があるのだ。だから、古いから汚い、というのは、子供の論理。
ということで、朝ドラ「カーネーション」最高!
そして、脚本家「渡辺あや」万歳!
脚本が命、の証拠はまだある。
名匠スティーヴン・スピルバーグの話だ。SFドラマ「Lost」、「フリンジ」をあてて、絶好調のJ・J・エイブラムスに焦りを感じたのか、あのスピルバーグが、SFTVドラマを制作したのだ。もっとも、
スピルバーグは、TVドラマが初めてというわけではない。過去には、TVアニメも制作している。たしか、タイトルは「インヴェイジョン」だったが、あれはマジで面白かった。
それはさておき、スピルバーグのTVドラマ最新作だが、タイトルは、「TerraNova(テラノバ)~未来創世記~」。
ネタはありがちだが、ひとひねりしてある。2149年、人口爆発と大気汚染により、地球は危機的状況にあった。そこで、たまたま見つかった時空の裂け目を通り、8500万年前の白亜紀に人間を送り込む。そこで、コミュニティをつくり、恐竜や反逆者と戦いながら、歴史を変えようというストーリーだ。だから、ネタ(原作)は悪くない。
ところが、僕は、4話見てやめてしまった。つまらないから。アメリカでも視聴率は低迷し、第2シーズンが危ぶまれている。特に、脚本は、集中砲火をあびてボコボコ。
これは僕も同感だ。
ストーリーは、中途半端に「おこちゃま」スペックで、子供も大人も楽しめない。イベント振り分けが悪いので、トートツ感はあるが、ワクワク感はない(これって最悪)。
しかも、セリフが、ものすごく陳腐。たまに恐竜が走り回るので、気晴らしにはなるのだが。見るBGMか?
ということで、たしかに、脚本は悪い。では、スピルバーグは悪くない?そうでもない。
じつは、テラノバには、脚本の他に、致命的な欠陥がある。演出が”古い”のだ。
僕は仕事がら、海外ドラマをよく観る。エンターテインメントの最先端をいっているからだ。というわけで、TVを観て気にいったら、あるいは、amazonで評価が高かったら、Blu-rayかDVDのBOXを買い、一気に観る。
そんな習慣で、気づいたことがある。映画にしろ、ドラマにしろ、ゲームにしろ、”古い”は致命的なのだ(古典作品は除く)。ストーリー以前に、画面を見る気がしなくなるから。
さて、NHK大河ドラマ「平清盛」に話をもどそう。
1.画面が汚い。
2.演技に芸がない。
3.脚本が悪い(セリフが陳腐、分かりにくい、どこか暗くて、風どおしが悪い)
4.やや古い
だから、みんなダメ。
ただし・・・
NHKの大河ドラマだから、見る目が厳しいのであって、ふつうに見る分には、そんなでもない(僕はもう観ないけど)。
そんなこんなで、エンターテインメントは、非難するのは簡単だが、作るのは難しい。
ということで、NHKさん、つぎは、「カーネーション」みたいの作ってね。
by R.B