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週刊スモールトーク (第593話) AIバブル崩壊は妄想である

カテゴリ : 社会科学終末経済

2025.12.01

AIバブル崩壊は妄想である

■狙われたエヌビディアとパランティア

2025年、「AIバブル崩壊」が独り歩きしている。

ありがちなバズワードだが、看過できないことがある。

まず、「AIバブル」は存在しないから、「AIバブル崩壊」は二重の虚言である。

さらに、情報発信しているのが識者、専門家なので、真に受ける人が多い。実害をこうむった人もいるから、言論の自由を考慮しても、迷惑な話だ。「AIバブル崩壊」を信じて、AI株を売った投資家がたくさんいるのだ。AI革命は始まったばかりで、今後、市場規模が何十倍、何百倍にもなるのに。

もし、5年後にAIが衰退していたら、間違いだと認めるけど、人類が滅亡しない限り、ありえない。

一方、5年後にAIが隆盛していたら、それは「ASI(人工超知能)=デジタルゴッド」で、人類は食物連鎖の頂点から転落している。人間はよくて檻の中で、ヘタをすると滅亡だ。

AIが衰退するときは、人類が滅亡するとき。AIが隆盛するときは、人類は滅亡する?

話がややこしくなったので、本題にもどろうう。

「AIバブル崩壊」が、二重の虚言である根拠・・・

2025年11月、AIインフラの王者エヌビディアが、決算を発表した。

2025年8〜10月期の売上高は、前年同期比62%増、純利益は65%増。ベンチャーならいざしらず、時価総額世界一の巨大企業が、売上も利益も1.6倍強!?

トヨタの車が1.6倍、コカ・コーラが1.6倍売れた、と言っているようなもの。異常な決算である。

ところが、この驚異的な決算発表後、エヌビディアの株価は急落した。それだけではない、他のAI企業もなだれうって下落。中でも際立つのが、パランティア・テクノロジーだ。

この無名で風変わりなAI企業は、現在主流の生成AIと一線を画している。トポロジーという手法を使う点で。

「トポロジー」は古典的なAI手法だ。現実世界のモノ・コトを、より上位の概念で意味づけし、それをもとにヒモづけし、巨大な知識体系を構築する。そこから、新しい知見を抽出したり、未来予測するわけだ。次に来るコトバを、統計的に予測して、作文する生成AIとは根本が違う。

パランティアのシステムは、トポロジーの唯一の成功例といっていいだろう。ウサマ・ビンラディンの居場所を特定したというウワサもあったが、本当だろう。パランティアの創業者ピーター・ティールが、自著の中で言及しているから。

そんなわけで、上場する前から、パランティアに目をつけていた。エヌビディアの次はこれしかないと。

ところが、2021年10月に上場したものの、初値は9ドルで、その後2年間も低迷。これは想定外だった。初値は50ドル~60ドル、1年以内に100ドルと予測していたからだ。

2025年12月時点で、160ドルに上昇したが、予定よりだいぶ遅れている。

理由は2つ。

パランティアのシステムが難解であること、業態が人手のかかるSIerであること。

そのパランティアだが、エヌビディアと同じ境遇にある。

2025年7~9月の最新決算は、売上高が前年同期比63%増、純利益は3.3倍で、エヌビディアを凌駕する。ところが、株価は19%も下落したのだ。

一体どうなっている?

■40%ルール

驚異的な成長なのに、株価はなぜ急落するのか?

成長率が高くても、今の儲けが少ないから?

それを測る有名な指標がある。「40%ルール」だ。

具体的には、

売上高成長率(%)+ 営業利益率(%) ≧ 40%

成長する力と今稼ぐ力の合計が、一定値(40)を超えること、これが40%ルールだ。一般論として、成長率が高いと、投資額が増えるので、そのぶん、利益率が低下する。そこで、成長率と利益率の合算が40%以上なら、成長と収益性のバランスが取れていると判断するわけだ。

ちなみに、エヌビディアのスコアは106%で、パランティアは90%、とんでもない外れ値である。

決算が驚異的で、かつ40%ルールも余裕でクリア、それで、どうして株価が下がるのか?

不自然なものには、理由がある。

まず、株価に高度な合理性はない。物価と同じで、供給と需要だけで決まる。

具体的には、供給(売り)>需要(買い)なら、株価は下がり、その逆も真なり。

つぎに、売りと買いのバランスは、中長期的には収益に収束するが、短期的には人気投票で決まる。今回の株価急落は「短期」の話で、人気投票で売りが買いに勝ったわけだ。

ではなぜ、人気投票で、売りが勝ったのか?

理由は2つある。

第一に、誰もが知る大物投資家が、売りにまわったから。

第二に、識者も専門家も市場も、AIの未来が見えていないから。

■マイケル・バーリの空売り

今回、エヌビディアとパランティアを売った大物投資家が3人いる。

一人目は、ヘッジファンドを運用し、「空売り王」の異名をとるマイケル・バーリだ。

彼は、エヌビディアとパランティアに空売りをしかけた。空売りとは、まず売りから入って、下がりきったところで、買い戻すこと。結果として、安値で買って、高値で売ることになる。ふつうと違うのは、売り買いの順番が逆になること。

ただし、空売りは、株を借りて売るので、すべて買い戻す必要がある。結果、株価は必ず戻る。中長期投資なら、あわてて売る必要はないわけだ。

一方、空売りを仕掛けても、株価が上がることがある。その場合、高く買って、安く売ることになるから、損をする。それどころか、破産することもある。なぜなら、株価は下がってもゼロだが、上がると天井知らず。つまり、損が無限に拡大するのだ。

さて、マイケル・バーリの空売りだが、失敗した可能性が高い。

根拠その1。

彼は、ずいぶん前から、エヌビディアとパランティアを売っていたが、その間、株価が上がり続けたからだ。最近の急落は、この半年間の上昇をほとんど吸収できていない。

根拠その2。

バーリはヘッジファンドを清算し、年内に顧客に資金を返し、ブロガーに転じるという。空売りがうまくいっていれば、こんな結末にはならないだろう。

というわけで、市場は、過去の失敗談をAIバブル崩壊の根拠にしているわけだ。

一方、バーリは、よほど悔しいのか、狼が来たぞ~、あ、いや間違い、AIバブルは崩壊するぞ~、を声高に叫んでいる。

その根拠が、もっともらしい。

GPUの耐用年数は2、3年なのに、主要テック企業は6年に延長して、減価償却費を過少計上し、利益を膨らませているという。テック企業の素晴らしい決算は、詐欺といわんばかりだ。

でも、これはおかしい。

GPUの耐用年数は、数年が一般的だし、10年前のエヌビディアのGPUを使っている現場もある。計算資源は、計算力の総和がすべてだ。高性能の新型GPUが出ても、旧型も計算能力はゼロにはならないかぎり、使う。新型の発電所が完成したら、旧型の型発電所は廃棄する? 電力を生む限り使い続けるだろう。それと同じだ。

そもそも、減価償却の期間を、2年にしようが6年にしようが、減価償却費のトータルは同じ。なので、原価=経費もかわらない。償却期間が6年なら、原価を償却するのに6年かかるが、そのぶん、1年の経費は少ない。一方、償却期間が2年なら、2年間の経費は高くつくが、3年目からがゼロになるので、そのぶん、利益は増える。

それがそんな重要なこと!?

利害がからむ言いがかりか、ポジショントークにしか思えない。

自分が空売りしているから、株価が下がらないと大損するからだろう。

では、ヘッジファンドをたたんだ後も、悪口を言い続ける理由は?

イソップ寓話の「酸っぱいぶどう」。

キツネが、狙っていたぶどうがとれなかったので、あのぶどうは酸っぱくて不味い、とうそぶいた話。カンタンにいうと、負け惜しみ。

よって、バーリが空売りしたからといって、AI株を売るのはもったいない。

■AIエージェントが見えないピーター・ティール

二人目の売り主は、ピーター・ティールだ。

彼も、エヌビディアとパランティアをすべて売却した。ティールは、ペイパルとパランティアの共同創業者なので、さぁ、大変と市場は大騒ぎだ。

ティールが売った根拠も、もっともらしい。

AIは最終的に社会に浸透するが、現在はAIバブルで、時期尚早というのだ。

これもおかしい。

2026年、AIによる発明発見が本格化する。さらに、AIエージェントが社会に深く浸透し、仕事や生活に欠かせなくなる。それどころか、AGI(人工汎用知能)が誕生する可能性もでてきた。

それなのに、AIは時期尚早?

完全に間違っている。

AIの時間軸は、ティールが考えているよりずっと短縮されているのだ。

つまりこういうこと。

有名人が言うことがいつも正しいとは限らない。

知り合いの知り合いに、9年で100倍強のパーフォーマンスを達成した株式投資家がいる。この9年に限れば、投資の神様ウォーレン・バフェットを凌駕する。彼は無名だが、本当の成功者は、TVやYoutubeに露出して自慢しないのだろう。

ティールが、AIの2年後を見誤ったのは、AIエージェントの世界が見えていないから。見えていれば、絶対に売らない。

一方、それがはっきり見えている投資家がいる。

ソフトバンク・グループのトップ、孫正義だ。

■AIエージェントが見えすぎる孫正義

孫正義はこんな発言をしている。

AIエージェントの社会では、無数のAIエージェントが互いにコミュニケーションをとりながら、タスクをこなす。そのとき、AIエージェントの数は、億ではなく、兆、京の桁になるだろう。さらに、生成AIは、必要なときだけ、プロンプトでお伺いをたてるが、AIエージェントは、常時ON。たとえば、AIが会議に出席して、話を聞きながら、リアルタイムで議事録をとり、要約、意見を出す。さらに、残り時間は自動学習している。

これが、AIエージェントの世界なのだ、と。

さて、ここから何が読み取れるか?

AIエージェントの数が、兆、京・・・孫正義の大ボラがまた始まった・・・は間違い。

話の核心はそこではなく、無数のAIエージェントが、24時間、365日稼働すること。

なぜ、この話が信用できるかというと、相関関係と因果関係が成立しているから。

だが、それだけではない。

孫正義はOpenAIの大株主だからだ。

彼は、一般投資家がチラ見することもできないOpenAIのリポートを見ている。サム・アルトマンのレクチャーも受けることもできるだろう。つまり、この話は、AIのトップランナーOpenAIのレンズを通してみた未来なのだ。

さて、何億、何兆というAIエージェントが、常時稼働したら、データセンターは今の10倍、100倍あっても全然足りない。中学生でもわかる話だ。

現実に、アマゾン、マイクロソフト、グーグル、オラクルのようなスーパースケーラーは、兆円単位でデーターセンターを建設している。彼らは、身銭を切って、会社の存続を賭けているわけだ。

一方、身銭を切らないし、発言にペナルティも課せられないお気軽な識者、専門家は、「AIバブル崩壊」を声高にさけぶ。

さて、どっちを信用しますか?

ところが、その孫正義が、エヌビディアをすべて売却した。

なぜか?

彼は、スターゲート計画に大金を投資する約束したから、現金が必要だったのだ。それだけのこと。

つまりこういうこと。

三人の大物投資家が、エヌビディア、パランティアを売却したのには、理由がある(勘違いを含め)。

よって、中長期的にみて、売りは、大きな機会損失になる可能性が高い。

■AIバブル崩壊は妄想である

今回、株式市場の人気投票で、売りが買いに勝った第二の理由。

識者も専門家も市場も、AIの未来が見えていないから。

彼らには歴史観がない。

もし、AIをバブルというなら・・・

蒸気機関の発明は「人工動力バブル」、ライト兄弟の初飛行は「飛行機バブル」、エジソンの白熱電灯の発明は「電気バブル」、マイクロプロセッサの発明は「コンピュータバブル」・・・これらがバブルで終わったかどうかは、現代人はみんな知っている。すべて、何百倍、何万倍の市場に拡大したのだ。

こういうと、識者が決まって取り上げるのが、2001年のインターネット・バブルの崩壊だ。

「ドットコム会社」と呼ばれるITベンチャーが続々と設立され、1999年~2000年に株価が急騰して、2001年に急落した。

このインターネット・バブル崩壊を、AIバブル崩壊に重ねているわけだ。

このもっともらしいアナロジーは、根本が間違っている。

インターネット・バブル崩壊で、破綻したITベンチャーは、実態が全く伴っていなかった。売上はひ弱で、赤字続きで、期待だけが膨れ上がっていた。

一方、現在のAI企業はとてつもない収益を叩き出している。しかも、祖業で成功した巨大企業だ。

この似て非なる事象を、同じとみているわけだ。

インターネット・バブル崩壊 → AIバブル崩壊、古いアナロジーを、適合しない現象に適用して膨らませただけ。これを識者、専門家が言っているのだから、ビックリだ。

さて、ここから、AIの核心。

今おきているAI革命は、人類による最後の産業革命になる。AIは人類最後の発明で、その後は、すべてAIが仕切るからだ。

すでに、AIは、イノベーションから、設備投資産業にシフトしている。具体的には、無数のGPUで構築された巨大なデーターセンターだ。その本質は「計算力」である。

それを前提に、「AIバブル」を検証してみよう。

GPU&データセンターは、兆円単位で建設されているので、回収する見込みのない過剰投資といわれる。これがAIバブルの根拠だ。

もちろん、間違っている。

AIへの巨額投資は、投機ではない。需要待ちの弱々しい投資でもない。すでに巨大な需要が存在するのだ。見込みではなく、契約書に裏打ちされた強固な需要である。

2025年10月29日、マイクロソフトは、自社クラウド「Azure」のAIサービスが、供給を上回ったと報告した。さらに、約4000億ドル(約63兆円)の契約済みの将来収益もあるという。しかも、テスト運用ではなく、AI計算を日常業務とする企業の拘束力のある契約なのだ。

これでも、AIバブルと言えるだろうか?

AI産業をおとしめるポジショントークか、まったく先が見えていないかのどちらかだろう。

ここで、来たるべきAI世界の価値は何か、を問う。

エネルギー(電力)と計算力である。

食料と水は?

それは人間にとって必要なもので、食物連鎖の頂点に立つASIには不要である。

これまで、エネルギーは文明の「普遍的通貨」といわれてきたが、計算力も加わるわけだ。

われわれが目撃しているのは、「エネルギーベースの知能」へのパラダイムシフトである。

AIは、従来のソフトウェアとは異質なものだ。

これまでのソフトウェアは静的だった。マシンが持つ知性は、事前に人間が作り込んだもので、指示通りに動くだけ。

一方、AIは動的だ。事前に書かれた台本は存在しない。あるのはポテンシャルだけで、それが計算によって具現化される。

AIは、電気を燃料に、リアルタイムで知性を製造する工場なのだ。「データセンター=計算資源」が巨大化するのは当然だろう。

われわれは、まだその初期段階にいる。

AIが、人間にとって変わるのを、われわれはまだ目撃していない。

AIエージェントが、人間社会に根付いた世界も経験していない。

AIは、ソフトウェア産業ではない。エネルギー集約型の産業であり、認知の上に築かれた新種の産業セクターなのだ。

これに気づかない識者、専門家があまりにも多い(すべてではないが)。

古典的な知性は、人間の知能に頼るが、新しい知性は計算力に依存している。

知性に限界はないから、計算力の需要も無限なのだ。

それでも、AIバブルは崩壊しますか?

by R.B

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