DeepSeekショック(3)~崩壊する神話~
■崩壊するDeepSeek神話
DeepSeekショックは、真実か、それとも世紀のフェイクか?
牛柄模様。
そのココロは?
白黒はっきりしない。
というのも、2025年1月に世界を騒がせたDeepSeekショックは、徐々に色褪せてきた。DeepSeek神話からDeepフェイクへ。金メッキが剥がれ落ちているのだが、凝視すると、本物の黄金もチラリ。
というわけで、DeepSeekショックはまだら模様。
その顛末をみてみよう。
中国企業DeepSeekが開発したAIが、米国製AIを超えた ⇨ じつは、性能はトントンと判明。
AIの心臓となる先端GPUを使わず、低コストで実現した ⇨ じつは、先端GPUを保有していた。
まず、「性能はトントン」は、ベンチマークテストの結果が公開されているので、間違いない。
つぎに、「先端GPUを密かに保有」は、詳細が明らかになっている。
DeepSeekは、少なくとも5億ドル(750億円)相当のエヌビディアのGPUを購入していた。H800を約1万個、H100を約1万個、H20を約3万個。一方、米国AI企業のCEOは、H100だけで5万個保有していると主張している。
これなら、現在のAIの大基盤「大規模言語モデル」も開発可能だ。
だが、謎がある。
米国は、中国に対し先端GPUの輸出を禁止している。
どうやって入手したのか?
メディアの報道によれば、不正なルートでDeepSeekに渡ったという。
ただし、手口は巧妙とはいえない。
米国が中国に輸出禁止しているのは「部品」としてのGPU。そこで、GPUをAIサーバーに組み込んで「完成品」として不正輸出したのである。それが、マレーシア経由で中国のDeepSeekに渡ったという。2025年2月27日、その容疑で、シンガポール人2名、中国人1名が、シンガポールで逮捕されている。
というわけで、DeepSeekの「低コストで高性能」と「先端GPUを使わない画期的な開発方法」は「大盛り」でした。
さらに、DeepSeekには、深刻なセキュリティ上の問題があるという。
中国国営の通信会社「中国移動通信」のサーバへ情報を送るプログラムコードが仕込まれていたという。つまり、個人情報や検索履歴、オンライン上の行動は中国政府に筒抜け。一方、DeepSeekのプライバシーポリシーには、ユーザーのデータ収集することが明記されているから、文句は言えない。使いたければ、自己責任でどうぞ。
とはいえ、政府が使用すると、国家安全保障が脅かされる。そのため、米国では、政府支給デバイスでのDeepSeekの使用が禁止される可能性がある。一方、日本は警告どまり。さすが「スパイ天国」日本、ゆるゆるでスキだらけ、個人情報、国家情報なんでもどうぞ。毎度の平和ボケ・・・はい、そこまで。
そんなこんなで、DeepSeekは、最初は真っ白だったのに、今は白黒まだら模様。
一方、今も変わらないことがある。
米巨大テック企業の株価が低迷していること。
昨今のトランプ関税で株式市場は暴落中だが、それを差し引いても、おかしい。
というのも、中国DeepSeekのAIが、米巨大テック企業を超えたというのは「盛った話」と判明している。
さらに、GPU不要論もフェイクと判明。事実、米巨大テック企業は「巨額投資&GPU爆買い」を加速し、フルスロットルだ。くわえて、フランス、EU、米国など国家レベルでも、巨額の予算をくんで、GPU爆買いへ。
であれば、米巨大テック企業(とくにエヌビディア)の株価は元にもどるはず。
ところが、株価は低迷したまま(トランプ関税暴落を差し引いても)。
なぜか?
株価急落の原因は、AIの性能とか、先端GPUとか、そんな単純な話ではなさそうだ。
■DeepSeekショックは陰謀!?
最近、ネットで面白い記事をみつけた。
DeepSeekショックは、組織的なフェイク・キャンペーンの可能性があるというのだ。おー、陰謀論か、と面白半分で食いついたら、発信者は大手投資ファンドのアナリスト。底の浅い陰謀論ではなさそうだ。
じつは、心あたりがある。
知人の証券マンは、エヌビディアが大嫌い。(どんだけ悪いことしたら)あんな卒倒するような決算がでるのか、と顔をまげて話すから、好意をよせているとは思えない。しかも、個人的見解というより会社の総意の臭いがする。ちなみに、この証券会社は日本有数の金融機関だ。
「どんだけ悪いこと(商売上は善)」をあらわす指標がある。「純利益率=純利益÷売上高」だ。
たとえば、100円売って(売上高)、儲けが20円なら(純利益)、純利益率=20円÷100円=20%。この値が大きいほど、儲けが大きく、割がいい。
割がいい商売といえば、米巨大テック企業、利益率が図抜けて高い。
たとえば、Appleの純利益率は24%、Googleは28.6%、Microsoftは35.9%。一方、エヌビディアはなんと55.8%。。ちなみに、日本を代表するハイテク企業ソニーグループは8.1%だ。
一体、どんだけ悪いこと・・・商売上は善です。
さらに、広告業界にいる友人いわく、メディアはみんなエヌビディアが大嫌い、株価が暴落することを心から願っているという。
まるで、呪いのワラ人形ではないか(五寸釘が打ち込まれたかは不明)。
みんなで、呪えば・・・
さて、ここで、先の陰謀論の登場だ。
エヌビディアをおとしめる世界的陰謀があって、組織的な偽情報キャンペーンを流している。その第一弾がDeepSeekショックだった。それを主導するのが、映画007の最大の敵「スペクター」、仮面ライダーの国際秘密結社「ショッカー」、0011ナポレオン・ソロの国際犯罪組織「スラッシュ」のリアル版「悪の組織」・・・話としては面白いが、さすがにそれはないだろう。
一方で、主導者不在のゆるい「アンチ・エヌビディア」が存在することは間違いない。
彼らは社会的影響力が大きいので、「AIは過大評価されている。AIバブルは必ず崩壊する」と主張すれば、それが社会と株式市場のコンセンサスになる。
では、真実は?
真逆。
AIは過大評価どころか、過小評価されている。
AIはバブルではなく、本物である。
根拠はこうだ。
2025年~2026年、AIエージェント、AIアシスタントが社会実装される。この2つのAIは、2023年にブレイクした生成AIをすべてにおいて凌駕する。仕事と生活に欠かせないツール、スマホをこえる巨大ビジネスになるだろう。
しかも、自動運転はまだ手づかずだ。これが実用化されたら、AIの市場規模がどうなるか想像もつかない。
それでも、AIは過大評価されている?
さらに、AGIが誕生すれば、人間にかわって発明・発見を行う。それが人間社会にどんな影響を与えるか、人類文明にとって何を意味するか、中学生でもわかる話ではないか。
それでも、AIはバブル?
ふつうに情報を集めて、常識で考えれば、わかることなのに。
つまりこういうこと。
AI革命はまだ始まったばかり。そして、人間最後の発明「AGI(人工汎用知能)」が誕生すれば、AIが人間に代わって働くようになる。結果、人間の労働価値はゼロになる。一方、AIの元締め、米巨大テック企業の価値は極大化する。それに優る文明の利器はないから。よって、米巨大テック企業の株価は高騰する。
■蒸留はズルか?
欧米は、中華文明の台頭を快く思っていない。
事実、DeepSeekには、ズルの疑いまでかかっている。
「蒸留」と呼ばれる手法を使って、OpenAIのAIモデルの技術を盗み取ったというのだ。盗んだのなら、開発の手間が省けるから、低コストはあたりまえというわけだ。
ただし、プログラムやデータをそのままコピーしたわけではない。
では、間接的コピー?
・・・
具体的に説明した方が早そうだ。
「蒸留」は、一言でいうと、学習済みのAIモデルから「知能」を抜き取って、目的のAIモデルに移転すること。
移転元のAIモデルを「教師モデル」、移転先のAIモデルを「生徒モデル」という。
手順は以下のとおり。
まず、教師モデルに質問し回答を得て、学習データセットをつくる。それを教師データとして、生徒モデルを学習させるのだ。質問と回答が吟味されるので、コンパクトで応用が効く学習データが作れる。そのぶん、効率よく学習できるわけだ。要領を得ない参考書10冊より、優れた参考書1冊の方が、学習効果が高いのと同じだ。
つまりこういうこと。
玉石混交の膨大なテキストを学習させるより(事前学習という)、吟味された学習データで学習させる方が、効率がいい。
でも、疑問がわく。
質問し、回答を得て、それを学習させたら、ズル、盗人?
さすがにそれはない。
そもそも、蒸留はこれまで一般的に行われてきた。
大きなAIモデルを、小さなAIモデルに移転する手法として。
つまり、蒸留は、DeepSeekの発明でも、専売特許でもない、一般的な手法なのだ。
大学でAIを教えている知人も、研究といえば、蒸留でAIモデルをつくること。数年前から何度も聞かされたので、間違いない。そもそも、大学のつつましい予算で、スクラッチ(ゼロから)でAIモデルは作るのはムリ。
ではなぜ、DeepSeekだけがズルなのか?
教師モデルがオープンソースモデルなら、問題はない。
オープンソースモデルとはコード、モデルの重み、どちらかまたは両方を公開しているもの。コードはプログラムのソース(設計図)で、学習用(AIモデルの生成)と、推論用(AIモデルの使用)がある。モデルの重みとは、学習済みパラメータで、脳の神経細胞のつながりの強さ(脳の配線構造)に相当する。公開しているので、コピー、改変、利用はもちろん、蒸留もOK。
ただし、オープンソースは色々なタイプがあって、コードは公開といいつつ、学習用は非公開で、推論用は公開というのもある。たとえば、MetaのLlamaがそうだ。よって、利用する場合は「オープンソース」をうのみにせず、個別に確認した方がいい。
その真逆が、クローズドソースモデルだ。
コードもモデルの重みも非公開で、コピーはもちろん、蒸留も禁じていることが多い。
2025年1月、OpenAIとその出資者マイクロソフトは「DeepSeekがOpenAIの製品を蒸留した証拠がある」と告発した。OpenAIのAIモデルはクローズドソースモデルで、利用規約で蒸留を禁じているからだ。
つまり、利用規約をやぶったかどで、DeepSeekはズル呼ばわりされたのである。
では、法的には?
ビミョー。
というのも、クローズドソースモデルも、質問して回答を得ることに問題はない。事実、我々は、毎日、生成AIを使っている。ただし、それをAIモデルの学習に使ったかどうか調べるのは至難だ。なぜなら、AIモデルの内部はブラックボックスだから。
そもそも、OpenAIも偉そうなことは言えない。
新聞社ニューヨーク・タイムズに、記事をAIの学習用に許可なく使用したと訴えられているのだ。
さらに、Google、Microsoftの検索エンジンもボットを使って、世界中のウェブサイトをせっせとコピーし、利用している。対価も払わずに。
というわけで、現状、AIも検索エンジンも、法的には「牛柄模様」。
では、未来は?
著作権を含む知的財産は、すべてAIに呑み込まれる。
理由はカンタン。
多数派をしめる消費者にとって、得だから。
知的財産権の侵害は、生産者側の問題で、消費者にはドーデモいい。安く、便利に使えればOKだ。
著作権とコンテンツの未来は、ハッキリ見える。
本、コミック、絵画、音楽、映画、ドラマ、ゲーム、ニュースあらゆるメディアは、AIに併呑される。AIは、メディアであり、唯一のユーザーインターフェイスになる。
たとえば、本が読みたくなったら、本を買う必要はない。AIにむかって、テーマ、ストーリー、登場人物、文体など要望をAIに伝えれば、その場で書いてくれる。芥川龍之介風もOKだ。この場合、ユーザーインターフェイスは、本ではなくAIになる。よって、「本」というメディアも概念も消える。
映画が観たくなったら、同じように要望をAIに伝えれば、その場で映画を制作してくれる。よって、「映画」も消えてなくなる。
つまりこういうこと。
コンテンツは「消費者=生産者」になる。そして、メディア=ユーザーインターフェイスは、AIに1本化される。
■5年後の世界
DeepSeekショックは、AIの未来、人類の未来にとって、誤差のようなもの。
もっと重要なことが、数年以内におきる。
AI企業のCEOたちが、こまめにSNSで情報発信している。大丈夫か?と思うほど本音で。
総括すると、こうなる。
2025年末までに、AIが2時間程度のソフトウェア開発をこなす。
2026年末までに、AIが複数日程度のソフトウェア開発をこなす。
2027年以降、AI企業の労働力の大部分がAIで構成される。支配層は、AIエージェント数百万体を研究、安全保障、商業、軍事などに配分する。
2027年末までに、AGIが実現する。
2028年末までに、人間が技術研究に関与しない可能がある(科学者と技術者の完全廃業)。
さらに、怖い予測もある。
政府は、AIが国家権力に与える影響に気づいたとき、AGI企業への圧力、国家化、監督を行う。弱小AI企業は、国家に計算資源(AIスーパーコンピュータ)を接収される可能性がある。
悪意あるアクター(テロリストなど)が、AIの登用や悪用を試みる。
AGIは、軍事バランスを激変させ、核戦争のリスクが高まる。核戦争確率は、10年以内に15%。
ASI(人工超知能)誕生後の資産価値は不透明である(資本主義の崩壊?)。
予測だけでなく、行動指針も提言している。
行動計画は、AGIが出現する前にやるべきことに集中せよ(AGIが誕生したら、すべてちゃぶ台返しなので)。
これは遠い未来ではなく、数年後の世界なのだ。
ところが、大騒ぎになる気配ない。
理解できないのか、見たくないものに目をつぶるのか、どちらにせよ、行く着くところは同じ。
今回の脅威は、自然でも人間でもない。AI、すなわち「機械仕掛けの神」なのだ。よって、勝ち目はない。
ペイパルの創業者ピーター・ティールはこう言っている。
AIを制御できれば、ユートピアに行ける。失敗したら、地獄だ。
そのティールから出資をうけ、大成功したイーロン・マスクはこう言っている。
ペンタグラムと聖水を手にした少年(人間)が、悪魔(AI)に立ち向かおうとしている。彼は必ず悪魔を支配できると思っているが、結局はできはしないのだ。
小事の前には大事が多発する。
備えあれば患いなし・・・今からでもおそくはない。
by R.B