AIで稼ぐ方法(1)~すべての道はAIに通ず~
■翳りゆく本業
2014年、AIがまだ「人工知能」とよばれていた時代。
小さなベンチャーで、新事業を模索していた。
本業が斜陽化し、市場全体も地盤沈下がすすむ。座して死を待つより新事業・・・よくある消去法だ。本来、新事業は、何か閃いて、人生を賭けて事業化するのが筋なのだが、現実は単純ではない。
とはいえ、CGデザイナー30名、プログラマー7名では、大したことはできない。
まず思いつくのは下請け。仕事を選ばなければ、とりえあず、食べていける。
そこで、古い知人に相談した。
知人といっても、お友だちではない。東証一部企業のファウンダーで、本当は、偉すぎて釣り合わないのだが、たまたま社長の友人で、薄くつながっていた。つまり、上司の知人という弱々しい蜘蛛の糸。
その知人は、IT企業のオーナーを紹介してくれた。彼も、一代で会社を上場させた成功者だ。すでに引退していたが、まだ大株主なので、影響力は期待できる。ところが、開口一番「最低、数十人のエンジニアがいないと下請けはムリ」と宣告された。
それはそうだろう。社員数千人の上場企業が、数人の下請けを使うのは効率が悪すぎる。
下請けがだめなら派遣?
事実、友人、知人のソフト会社で生き延びているのは、派遣だけ。すぐにお金になるし、固定客をつかみやすく、安定しているからだろう。ただし、問題が2つある。社員の帰属意識があがらないこと、そして高齢化だ。50歳の派遣プログラマーを受入れてくれる会社は少ないだろう。
■新事業への道
そんなわけで、頭をきりかえて、プロデュース側に立つことにした。
その場合、まずマーケティングだが、小さなベンチャーに正攻法はムリ。
ヒト・モノ・カネの負担が大きすぎるから。
昔、別の会社で、大手シンクタンクに新事業のマーケティングを依頼したことがあるが、この会社は上場企業なみの実力と実績をそなえる中堅企業だった。
で、依頼した結果だが・・・
報告書、プレゼン、質疑応答、どれをとってもスキがない。体系的で、網羅的で、論理的で、エビデンスもしっかりしている。スキがないので、100点満点なのだろう。
でも正解のない新事業企画で、100点って?
何かが足りないのだ。
正攻法のマーケティングは、過去のデータから未来を予測する。一方、新事業は、過去を切り捨てて未来を創る。とくに、画期的なイノベーションは過去とは不連続で、過去の延長上にはない。つまり、新事業は、問題を解くのではなく、閃きでは?
たとえば、パソコン。
史上始めて、商業的に成功したパソコンはアップルの「AppleⅡ」だろう。
パソコンが、モノクロで文字しか表示できなかった時代に、カラー4色 or 16色で、グラッフィクも表示できた。他のパソコンを寄せ付けない圧倒的なスペック。パソコンの進化を、何段も一気に駆け上がったのだ。当然、販売と同時に、飛ぶように売れた。このAppleⅡが、創業期のアップルを10年も支えたのである(その後の新商品はことごく失敗)。
ところが、AppleⅡはマーケティングから生まれたのではない。アップルの共同創業者のスティーブ・ウォズニアック(ジョブズではない)の「閃き」から生まれたのだ。
彼は、自分が欲しいパソコンを設計し、組み立てて、仲間うちで自慢していた。すると、みんな「おー、ウォズ、凄えな。おれたちにも設計図をくれ」。この愉快な仲間たちは、ウォズの設計図をコピーして、部品を買って、組み立てた。もちろん、DIYなので、動くとは限らない。それでも、みんな大喜びだった。
これに目をつけたのが、かのスティーブ・ジョブズである。ウォズをそそのかして、アップルを創業、その第一号機がAppleⅡだったのである。
あの時代、AppleⅡの拡張ボードを設計したことがある。関東圏でパソコンショップを展開する会社から依頼されたのだ。パソコンショップがパソコンの周辺機器を企画し販売する。そんな夢のある時代だった。
そのとき、AppleⅡの設計図をみて感動した(設計図は公開されていた)。カラー&グラフィックの秘術が、信じられないほど小さな回路に凝縮されていた。
つまりこういうこと。
パソコンは、天才マニアが発明し、愉快なマニアたちが育てたイノベーションなのである。そこに、正攻法のマーケティングは1ミリもない。
■すべての道はAIに通ず
新事業に話をもどそう。
マーケティングは、ズルすることにした。つまり、ショートカット。
ズルの第一歩は「方角」から。
20~30年、成長し続ける分野。ニッチでブルーオーシャンであること。経営資源に負担をかけないこと(本業は数年は続きそうだった)。
つぎは、市場調査だ。
大手、中堅、ベンチャーをとわず、企業訪問し、情報交換した。
手ぶらでは行けないので、先方が興味を持ちそうな技術、話題を持参した。幸い、パソコン黎明期からコンピュータ一筋なので、ネタには事欠かない。
1980年代後半、100人のベンチャー企業にいたが、AppleⅡの拡張ボードを作ったのはこの時だった。あるとき、取引先の商社から米国のベンチャーを紹介された。数十人でBasicを開発販売しているという。それがマイクロソフトだった。当時いた会社は、オフコンのハード、OS、簡易言語、アプリを自社開発していたので、Basic?
簡易言語の専門会社?
と、上から目線で歯牙にもかけなかった。
ところが、その後、自分が在籍した会社は破綻し、マイクロソフトは・・・
話をもどそう。
半年ぐらい、リサーチをつづけていると、シナプスが再配線され、脳の一部が、ピカピカする。そこにはこう書かれていた。
「すべての道はAIに通ず」
神のお告げ、と言いたいのだが、そんなドラマチックなものではない。言葉として、脳裏をよぎっただけ。
とはいえ、なにか「確かなもの」を感じたので、「方角」をAIに定めることにした。
AIなら、20~30年は成長し続けるだろうし、ニッチでブルーオーシャン。プロダクトを間違えなければ、経営資源も圧迫しないだろう。
■IBMの靴磨きセット
2015年、AIといえばIBMの独壇場だった。
すでに、プロダクトをもっていたのだ。
IBMの創立者トーマス・J・ワトソンの名を冠した「ワトソン」だ。
自然言語による質問&応答システムで、2011年、米国のクイズ番組「ジェパディ!」で人間のチャンピオンに勝利していた。
その後、商品化され、2015年、日本にも進出。日本IBMは、IT系の総合展示会、プライベート展示会でワトソンを出展し、大々的にPRしていた。
IBMのブースは、規模が大きく、洗練されて、華やか。しかも、テーマはAI(人工知能)、ワクワクする未来がギッシリ詰まっていた。
さらに、来場者への「おもてなし」が凄い。もれなく、お土産がもらえるのだ。それも、ちゃちなボールペンのたぐいではない。IBMのクレジット入りの「靴磨きセット」!
ふざけてる?
いいえ、本気です。
物的証拠もある。左の写真は、そのIBMの靴磨きセットで、下はケース、上は中身だ。
天下のIBMの靴磨きセット・・・もったいなくて、使えません!
ところで、AIのフロントランナーが、なぜ「靴磨きセット」?
わからない。
それはさておき、IBMのワトソンは、露出度も高いが、すでに実績もあった。大手都市銀行のコールセンター、大学などなど。
ん~、AIならIBMのワトソンだ。
とはいえ、ワトソンは、小さなベンチャーが扱える商材ではない。実業がムリなら、投資しかない。
そこで、IBMの株を買った。
ただ、投資額は10万円なので、2倍になっても20万円。ん~、人生、大勢に影響がないし、暮らし向きも変わらない。人生を賭けたわりには、やることがミミッチイ。
これには理由がある。
投資歴30年だが、ずーっと守ってきたルールががある。
「投資は余剰資金で」
金持ちになることより、破産しない方を優先したのだ。人間、欲をかくとロクなことはないので。そんなこんなで、今も地味な人生を送っているわけだ。
それはさておき、未来はAIで、そのトップランナーがIBM。それで、なぜIBMの株価は上がらないのか?
たまたま、日本IBMに知り合いがいたので、ワトソンのことを聞いてみた。
そしたら、ビックリ仰天。
ワトソンは旧式のAIだったのだ。
■新式AIと旧式AI
AIには、大きく2つのアプローチがある。
新式の「ニューラルネットワーク」と、旧式の「ルールベース」だ。
新式「ニューラルネットワーク」は、人間の脳を真似たモデルで、データを学習させるだけで、AIが自動生成される。
一方、旧式「ルールベース」は、従来のノイマン型コンピュータで、人間プログラマーがルールをゴリゴリ書く。
たとえば、自動運転で考えてみよう。
信号が赤なら停止する、前方に障害物があれば避ける、といういったルールをプログラマーがいちいち記述するわけだ。
でも、障害物を避けるといってもいろいろある。停止するか、ハンドルを切るか、障害物の状況によって違うだろう。
さらに、人間や猫なら急停止だが、風船や木の葉なら停止しない。子グマが道路を横断するなら、停止だが、でかいクマが襲ってくるなら、体当たりも選択肢に入るかもしれない。
こんな面倒くさいルールを、すべて人間が記述するわけだ。
そもそも、すべての条件を網羅することは不可能だし、新しい条件が見つかるたびに、ルールを追加する?
やっとれん!
というわけで、ルールベースでは、ホンモノのAIは作れない。
これは歴史が証明している。
1982年、日本で、第五世代コンピュータ(AI)を目指す「ICOT」が創設された。1992年まで、10年の歳月と、540億円の国家予算を使ったあげく、大コケした。一部成果をアピールする向きもあるが、現在、使われているものはない。それがすべてだろう。
ちなみに、ICOTはルールベースだった。
10年と540億円かけた国家プロジェクトが失敗したのだから、ルールベースはエセAI?
さては、IBMに騙された?
ノー。
じつは、IBMはワトソンを「AI・人工知能」とは一言も言っていない。
IBMは、ワトソンを「コグニティブ・コンピューティング・システム」とよんでいる。直訳すると「認知コンピュータシステム」。
さらに、IBMは、ワトソンを「AI」とよぶことがあるが、「Artificial Intelligence=人工知能」ではなく、「Augmented Intelligence=拡張知能」と定義している。
あらぁ~、IBMずるいぞ!
いえいえ、こちらのリサーチ不足、勘違いでした。
ところで「すべての道はAIに通ず」も勘違いだったら?
背筋が寒くなった。
《つづく》
by R.B