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週刊スモールトーク (第575話) AIで稼ぐ方法(1)~すべての道はAIに通ず~

カテゴリ : 科学経済

2024.10.28

AIで稼ぐ方法(1)~すべての道はAIに通ず~

■翳りゆく本業

2014年、AIがまだ「人工知能」とよばれていた時代。

小さなベンチャーで、新事業を模索していた。

本業が斜陽化し、市場全体も地盤沈下がすすむ。座して死を待つより新事業・・・よくある消去法だ。本来、新事業は、何か閃いて、人生を賭けて事業化するのが筋なのだが、現実は単純ではない。

とはいえ、CGデザイナー30名、プログラマー7名では、大したことはできない。

まず思いつくのは下請け。仕事を選ばなければ、とりえあず、食べていける。

そこで、古い知人に相談した。

知人といっても、お友だちではない。東証一部企業のファウンダーで、本当は、偉すぎて釣り合わないのだが、たまたま社長の友人で、薄くつながっていた。つまり、上司の知人という弱々しい蜘蛛の糸。

その知人は、IT企業のオーナーを紹介してくれた。彼も、一代で会社を上場させた成功者だ。すでに引退していたが、まだ大株主なので、影響力は期待できる。ところが、開口一番「最低、数十人のエンジニアがいないと下請けはムリ」と宣告された。

それはそうだろう。社員数千人の上場企業が、数人の下請けを使うのは効率が悪すぎる。

下請けがだめなら派遣?

事実、友人、知人のソフト会社で生き延びているのは、派遣だけ。すぐにお金になるし、固定客をつかみやすく、安定しているからだろう。ただし、問題が2つある。社員の帰属意識があがらないこと、そして高齢化だ。50歳の派遣プログラマーを受入れてくれる会社は少ないだろう。

■新事業への道

そんなわけで、頭をきりかえて、プロデュース側に立つことにした。

その場合、まずマーケティングだが、小さなベンチャーに正攻法はムリ。

ヒト・モノ・カネの負担が大きすぎるから。

昔、別の会社で、大手シンクタンクに新事業のマーケティングを依頼したことがあるが、この会社は上場企業なみの実力と実績をそなえる中堅企業だった。

で、依頼した結果だが・・・

報告書、プレゼン、質疑応答、どれをとってもスキがない。体系的で、網羅的で、論理的で、エビデンスもしっかりしている。スキがないので、100点満点なのだろう。

でも正解のない新事業企画で、100点って?

何かが足りないのだ。

正攻法のマーケティングは、過去のデータから未来を予測する。一方、新事業は、過去を切り捨てて未来を創る。とくに、画期的なイノベーションは過去とは不連続で、過去の延長上にはない。つまり、新事業は、問題を解くのではなく、閃きでは?

たとえば、パソコン。

史上始めて、商業的に成功したパソコンはアップルの「AppleⅡ」だろう。

パソコンが、モノクロで文字しか表示できなかった時代に、カラー4色 or 16色で、グラッフィクも表示できた。他のパソコンを寄せ付けない圧倒的なスペック。パソコンの進化を、何段も一気に駆け上がったのだ。当然、販売と同時に、飛ぶように売れた。このAppleⅡが、創業期のアップルを10年も支えたのである(その後の新商品はことごく失敗)。

ところが、AppleⅡはマーケティングから生まれたのではない。アップルの共同創業者のスティーブ・ウォズニアック(ジョブズではない)の「閃き」から生まれたのだ。

彼は、自分が欲しいパソコンを設計し、組み立てて、仲間うちで自慢していた。すると、みんな「おー、ウォズ、凄えな。おれたちにも設計図をくれ」。この愉快な仲間たちは、ウォズの設計図をコピーして、部品を買って、組み立てた。もちろん、DIYなので、動くとは限らない。それでも、みんな大喜びだった。

これに目をつけたのが、かのスティーブ・ジョブズである。ウォズをそそのかして、アップルを創業、その第一号機がAppleⅡだったのである。

あの時代、AppleⅡの拡張ボードを設計したことがある。関東圏でパソコンショップを展開する会社から依頼されたのだ。パソコンショップがパソコンの周辺機器を企画し販売する。そんな夢のある時代だった。

そのとき、AppleⅡの設計図をみて感動した(設計図は公開されていた)。カラー&グラフィックの秘術が、信じられないほど小さな回路に凝縮されていた。

つまりこういうこと。

パソコンは、天才マニアが発明し、愉快なマニアたちが育てたイノベーションなのである。そこに、正攻法のマーケティングは1ミリもない。

■すべての道はAIに通ず

新事業に話をもどそう。

マーケティングは、ズルすることにした。つまり、ショートカット。

ズルの第一歩は「方角」から。

20~30年、成長し続ける分野。ニッチでブルーオーシャンであること。経営資源に負担をかけないこと(本業は数年は続きそうだった)。

つぎは、市場調査だ。

大手、中堅、ベンチャーをとわず、企業訪問し、情報交換した。

手ぶらでは行けないので、先方が興味を持ちそうな技術、話題を持参した。幸い、パソコン黎明期からコンピュータ一筋なので、ネタには事欠かない。

1980年代後半、100人のベンチャー企業にいたが、AppleⅡの拡張ボードを作ったのはこの時だった。あるとき、取引先の商社から米国のベンチャーを紹介された。数十人でBasicを開発販売しているという。それがマイクロソフトだった。当時いた会社は、オフコンのハード、OS、簡易言語、アプリを自社開発していたので、Basic?

簡易言語の専門会社?

と、上から目線で歯牙にもかけなかった。

ところが、その後、自分が在籍した会社は破綻し、マイクロソフトは・・・

話をもどそう。

半年ぐらい、リサーチをつづけていると、シナプスが再配線され、脳の一部が、ピカピカする。そこにはこう書かれていた。

「すべての道はAIに通ず」

神のお告げ、と言いたいのだが、そんなドラマチックなものではない。言葉として、脳裏をよぎっただけ。

とはいえ、なにか「確かなもの」を感じたので、「方角」をAIに定めることにした。

AIなら、20~30年は成長し続けるだろうし、ニッチでブルーオーシャン。プロダクトを間違えなければ、経営資源も圧迫しないだろう。

■IBMの靴磨きセット

2015年、AIといえばIBMの独壇場だった。

すでに、プロダクトをもっていたのだ。

IBMの創立者トーマス・J・ワトソンの名を冠した「ワトソン」だ。

自然言語による質問&応答システムで、2011年、米国のクイズ番組「ジェパディ!」で人間のチャンピオンに勝利していた。

その後、商品化され、2015年、日本にも進出。日本IBMは、IT系の総合展示会、プライベート展示会でワトソンを出展し、大々的にPRしていた。

IBMのブースは、規模が大きく、洗練されて、華やか。しかも、テーマはAI(人工知能)、ワクワクする未来がギッシリ詰まっていた。

IBMの靴磨きセット
IBMの靴磨きセット

さらに、来場者への「おもてなし」が凄い。もれなく、お土産がもらえるのだ。それも、ちゃちなボールペンのたぐいではない。IBMのクレジット入りの「靴磨きセット」!
ふざけてる?
いいえ、本気です。
物的証拠もある。左の写真は、そのIBMの靴磨きセットで、下はケース、上は中身だ。
天下のIBMの靴磨きセット・・・もったいなくて、使えません!

ところで、AIのフロントランナーが、なぜ「靴磨きセット」?

わからない。

それはさておき、IBMのワトソンは、露出度も高いが、すでに実績もあった。大手都市銀行のコールセンター、大学などなど。

ん~、AIならIBMのワトソンだ。

とはいえ、ワトソンは、小さなベンチャーが扱える商材ではない。実業がムリなら、投資しかない。

そこで、IBMの株を買った。

ただ、投資額は10万円なので、2倍になっても20万円。ん~、人生、大勢に影響がないし、暮らし向きも変わらない。人生を賭けたわりには、やることがミミッチイ。

これには理由がある。

投資歴30年だが、ずーっと守ってきたルールががある。

「投資は余剰資金で」

金持ちになることより、破産しない方を優先したのだ。人間、欲をかくとロクなことはないので。そんなこんなで、今も地味な人生を送っているわけだ。

それはさておき、未来はAIで、そのトップランナーがIBM。それで、なぜIBMの株価は上がらないのか?

たまたま、日本IBMに知り合いがいたので、ワトソンのことを聞いてみた。

そしたら、ビックリ仰天。

ワトソンは旧式のAIだったのだ。

■新式AIと旧式AI

AIには、大きく2つのアプローチがある。

新式の「ニューラルネットワーク」と、旧式の「ルールベース」だ。

新式「ニューラルネットワーク」は、人間の脳を真似たモデルで、データを学習させるだけで、AIが自動生成される。

一方、旧式「ルールベース」は、従来のノイマン型コンピュータで、人間プログラマーがルールをゴリゴリ書く。

たとえば、自動運転で考えてみよう。

信号が赤なら停止する、前方に障害物があれば避ける、といういったルールをプログラマーがいちいち記述するわけだ。

でも、障害物を避けるといってもいろいろある。停止するか、ハンドルを切るか、障害物の状況によって違うだろう。

さらに、人間や猫なら急停止だが、風船や木の葉なら停止しない。子グマが道路を横断するなら、停止だが、でかいクマが襲ってくるなら、体当たりも選択肢に入るかもしれない。

こんな面倒くさいルールを、すべて人間が記述するわけだ。

そもそも、すべての条件を網羅することは不可能だし、新しい条件が見つかるたびに、ルールを追加する?

やっとれん!

というわけで、ルールベースでは、ホンモノのAIは作れない。

これは歴史が証明している。

1982年、日本で、第五世代コンピュータ(AI)を目指す「ICOT」が創設された。1992年まで、10年の歳月と、540億円の国家予算を使ったあげく、大コケした。一部成果をアピールする向きもあるが、現在、使われているものはない。それがすべてだろう。

ちなみに、ICOTはルールベースだった。

10年と540億円かけた国家プロジェクトが失敗したのだから、ルールベースはエセAI?

さては、IBMに騙された?

ノー。

じつは、IBMはワトソンを「AI・人工知能」とは一言も言っていない。

IBMは、ワトソンを「コグニティブ・コンピューティング・システム」とよんでいる。直訳すると「認知コンピュータシステム」。

さらに、IBMは、ワトソンを「AI」とよぶことがあるが、「Artificial Intelligence=人工知能」ではなく、「Augmented Intelligence=拡張知能」と定義している。

あらぁ~、IBMずるいぞ!

いえいえ、こちらのリサーチ不足、勘違いでした。

ところで「すべての道はAIに通ず」も勘違いだったら?

背筋が寒くなった。

《つづく》

by R.B

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