君たちはどう考えるか(3)~科学的思考のススメ~
■なぜ日本は衰退するのか?
昨今、「日本衰退論」がトレンドだが、日本は悪いことばかりじゃない。
戦争や紛争はないし、犯罪も少ない。
国民は温厚で常識があり、どこぞの国と違って、ヒステリックで性悪なところもない。
海外に行けば、日本の食事は安くて美味しい、が身にしみる。普通に暮らすぶんには良い国だ。
だが、不満もある。
日本は、国を左右する政治とマスメディアが劣化しているのだ。
その証拠は枚挙にいとまがない。
松川るい議員と元SPEEDの今井絵理子議員らの「フランス税金旅行」は、あからさまな公金横領なのに、議員辞職する気配はない。政権も国会も司法も見て見ぬふり。マスメディアも大声をあげない。江戸時代の日本なら、「公金横領」は市中引き回しの上、縛り首ですよ!
さらに、天下の愚策「少子化対策」は、数年後を予測すれば、無意味なことが判かるのに、野党もマスメディアも賛同。これにはビックリだ。
そろいもそろって、みんなおバカさん!?
そして、謎のマイナンバーカード。登録ミスを連発しても、ロクな対策も打たず、前進あるのみ。メチャクチャだ。
そもそも、マイナンバーカードは、米国の社会保障番号を真似たつもりだろうが、似て非なるものだ。
というのも、米国の社会保障番号は、国民を識別できる唯一無二の番号である。さらに、銀行口座と紐づけされているから、徴税も災害時の給付金支給もカンタン。なんでもかんでも、この番号一つで解決できる。
ところが、日本は、保険者番号、運転免許証番号にくわえ、金融機関、サービス会社、病院でも、個人を特定する別の番号が存在する。これで、マイナンバーを追加すれば、新たな識別番号が増えるだけではないか。
つまり、国民一人一人が、複数の識別番号を持っているのだ。
識別番号の意味わかってます?
もし、やるなら、マイナンバーで日本のすべての個人番号を統一する前提で、進めるべきだろう。まずは、全体の制度設計から。早い話、日本のマイナンバーカードは本末転倒なのだ。
こんなことをわからずに、税金を投入しているわけだ。税金をたくさん払っているわけではないが、税金返せ、と言いたい。
ところが、マスメディアはそこをつかない。Youtubeの方がまだマシ。国民の第一メディアが、テレビ、新聞からネットにシフトするのは時間の問題だろう。
というわけで、日本は二重、三重に劣化している。
とはいえ、批判するばかりでは、何も始まらない。
なんでも反対の野党といっしょじゃん、と言われると心外なので、問題解決に進もう。
まず、日本が劣化した原因は?
ちゃんと考えないから。
あらら・・・
■警報器の科学
ちゃんと考える、は今流行の「ロジカルシンキング」に近い。
ロジカルシンキングとは、文字どおり論理的思考である。ただし、筋が通っていればいいわけではない。
森羅万象(しんらばんしょう・世界のモノ・コト)は、すべて原因と結果でなりたっている。なにかおこれば、原因があり、それを結果とみなし元をたどると、その原因がある。つまり、この世界は、長大な原因と結果の連鎖で成り立っているのだ。
ところが、結果が出たとして、その原因を特定するのは、難しい。
たとえば、警備会社が設置した警報器が鳴ったとしよう。
普通に考えれば、泥棒が侵入したのだが、猫がセンサーをさえぎったかもしれないし、警報器の誤動作かもしれないし、宇宙人が悪さをしたのかもしれない。ここで、「宇宙人」では聞こえが悪いので「原因不明」にあらたる。
というわけで、原因は複数考えられる。
ここで、役立つのがデータだ。
過去に、警報器が100回鳴って、泥棒の侵入が3回で、猫の悪さが1回で、誤動作が94回で、原因不明が2回だったとしよう。
このデータは「警報が鳴ったら、たいてい警報器が故障している」を示唆している。このように、データから導き出される関係を「相関関係」という。
ただし、警報が鳴る真の原因は、泥棒、猫、誤動作、宇宙人(お、復活)ではない。100%特定できないからだ。
では、真の原因は?
センサーが作動すること(誤動作も含む)。
泥棒、猫、誤動作、宇宙人はセンサーが作動する原因にすぎない。センサーが作動した結果、警報器が鳴るのだから。
つまりこういうこと。
原因と結果は相関関係で予測できるが、100%正確ではない。つまり、因果関係が見つからないかぎり、真の「原因」はわからないのだ。
ん~、相関関係と因果関係の違いが、イマイチ。
そこで、有名なイギリスの寓話を紹介しよう。
これで、相関関係と因果関係は一刀両断です。
■七面鳥の科学
イギリスのとある村で、七面鳥が毎朝エサをもらっていた。雨の日も晴れの日も雪の日も、9時キッカリに。賢い七面鳥は、この過去のデータから、ある法則を発見した。
「毎朝9時にエサがもらえる」
さらに、この法則から、未来を予測をした。
「明日9時に、エサがもらえる」
ところが、翌日、七面鳥は首を切り落とされた。その日はクリスマス・イヴだったのである。
つまりこういうこと。
七面鳥がエサをもらえたのは(結果)、クリスマスの夜、食卓を飾るため(原因)。ところが、七面鳥は、その因果関係に気づかず、過去データの相関関係をうのみにした・・・
これで、相関関係と因果関係がスッキリしました。
ただし、すべての事象のカラクリが、この話のように、スッキリというわけではない。
そこで「科学」の出番だ。
科学は、森羅万象を解明する強力な道具である。
手法はとてもシンプルだ。
何か出来事や現象がおこったら、まず仮説を立てる。そのとき、役に立つのが、先の相関関係だ。データをとって、もし相関関係が確認できれば、それが原因の候補になる。それを「仮説」という。このようにデータから仮説を立て、推論することを帰納法という。
一方、この仮説が成立するなら、この仮説が成立する・・・という具合に、因果関係だけで、推論することを演繹法という。
科学は、帰納法と演繹法で進めるのが一般的だ。
仮説を立てたら、つぎは、実験で検証していく。うまく検証できれば、その仮説が真実と証明されるわけだ。
ところが・・・
科学も「完全な」真実を見つけることはできない。完全な検証はありえないからだ。
具体例をあげて説明しよう。
■科学的思考のススメと限界
科学の黎明期、世界は謎だらけだった。
なぜ、太陽や惑星や星々はあんな動きをするのか?
なぜ、リンゴは木から落ちるのか?
原因もカラクリもサッパリ。世界は暗闇に包まれていたのである。
ところが、17世紀、世界に光明がさす。
ニュートンが「ニュートン力学」を発表したのである。この理論は、現実のデータとみごとに一致したから、検証も完璧だった。こうして、天体の運行と物体の運動が解明されたのである。
ところが、20世紀初頭、世界は再び、暗闇にもどる。
アインシュタインが「相対性理論」を発表したのである。この理論は、ニュートン力学が正確でないことを証明した。
その後、量子力学が登場すると、ミクロの世界では、ニュートン力学も相対性理論も通用しないことがわかった。
これは不吉な原理を暗示する・・・真実にどれだけ近づいても、真実にたどりつけない。
2500年前、ギリシャの哲学者プラトンは、この大原理を独自の概念で説明した。
プラトンは、物質界の上にイデア界があると考えた。
イデアとは永遠不滅の真実で、究極まで抽象化されている。実体をもたないので、劣化することも朽ち果てることもない。われわれの物質界は、このイデア界をひな形に模造したもの。つまり「作り物」なので、不完全でいつか朽ち果てる。だから、完全な真実はイデア界にあり、物質界には存在しないのだと。
ただし、今のところ、イデア界は検証されていない。
それはそうだろう。
物質界の粗末な道具で、高度に抽象化されたイデア界を確認できるはずがない。そもそも、イデア界に「確認」という概念が通用するかどうかもわからない。
一方、物質界で、イデア界と物質界の概念を利用している分野がある。
コンピュータソフトウェアだ。
現在主流のオブジェクト指向プログラミングは、プログラムに登場するすべてのモノ・コトを、まずクラスという抽象的なひな形で定義し、そこからインスタンスという実体を生成し、プログラミングする。
つまり、現在のプログラミングはプラトン哲学を踏襲しているわけだ。
2500年前の古代人プラトンに万歳三唱!
完全に脱帽です。
最後に「ちゃんと考える」をおさらいしよう。
まず、科学的思考に徹すること。
具体的には、「相関関係と因果関係」さらに「帰納法と演繹法」を理解し、使い分けること。真実に近づくために、検証を続けること。それでも真実は永遠に見つからないのだが。
この科学的思考を使えば、たいていのことはわかる。
でも、こんな声が聞こえてきました・・・
フランス税金旅行も、少子化対策も、マイナンバーカードも、科学などいらない。正しいか間違っているか、常識で判断できます。
ぐうの音も出ない。
by R.B