老後の沙汰も金次第~介護と老人ホームの現実~
■老後の現実
子供の頃、「老後」なんて考えもしなかった。
成人しても、「老後」は言葉でしかなかった。
概念をこえず、実感がともなわなかったのだ。
では、あらためて。
「老後」とは?
上着やズボンのボタンが止められない。
道や階段でつまずく。
モノが手からすべりおちる。
食べ物を口に運ぶのが難しい。
さらに「老後」がすすむと・・・
自分で着替えができない。
介助がないと、食べれない、歩けない、入浴できない、トイレができない。
今日は何曜日かわからない(忘れたのではなく、見当がつかない)
そして最後は・・・
ここはどこ、わたしは誰?
つまり、長生きするほど、赤ん坊にもどっていく。
これが、他の誰でもなく、自分の身におきるのだ。
ある意味、認知症は幸福である。
家族は大変だが、本人は自分を再帰的に意識できないので、幸も不幸もない。脳は死に、心臓だけが動く。恐ろしい世界だ。
認知症がすすむと、家族関係も悪化する。あんな親孝行の子がなぜ・・・そんな話が周囲にあふれている。
■老後の備え
じゃあ「怪しく」なったら、老人ホームへ行こう!
話はそうカンタンではない。
理由は3つある。
第一に、「怪しく」なると、脳が劣化し「決断」できなくなる。
第二に、決断できても、すぐに施設に入れるとは限らない(順番待ち)。
第三に、施設によっては「利用料>年金」なので、死ぬのが先か、資金ショートが先かのチキンレースになる。
鬱になりそうな話だが、これが現実だ。立ち向かうしかない。終わりよければすべて良しというではないか(慰めになります?)。
じつは、この問題を一気に解決する方法がある。
「施設に入る時」を、あらかじめ決めておくのだ。
たとえば・・・
・77歳になったら。
・曜日がわからなくなったら。
・オムツが欠かせなくなったら。
・自分で自分のことができなくなったら。
・要支援、要介護、認知症の認定をうけたら。
など、具体的に決めておく。肝心なのは、それを家族に宣言しておくこと。施設に入るには、手続き、準備が必要で、一人で入居できないから。
では、家族がいなかったら?
自立している間に、さっさと施設に入る。
この備えは、とても有効だ。
まず、「怪しく」なっても、慌てずにすむ。
つぎに、入居する施設を吟味し、早めに申し込むことができる。老人ホームは、希望しても、すぐに入居できるとは限らないから(順番待ち)。死ぬのが先か、入居するのが先かのチキンレースなのだ(どこかで聞いたぞ)。
ということで、備えあれば憂いなし。これで、第一の問題と第二の問題はクリアだ。
残るは第三の問題、つまり、お金。
■自立・要支援・要介護
地獄の沙汰も金次第・・・日本の古いことわざだ。
地獄の閻魔大王の裁きも、カネで決まるから、現世もカネ次第というわけ。
では、老後の沙汰も金次第?
はい。
まず、施設に入居するには条件がある。さらに、条件をクリアしても、お金がないと入れない(あたりまえ)。
入居条件は、年齢と心身の状態で決まる。心身の状態は、自立、要支援、要介護の3つに分類される。
1.自立
食う・寝る・歩く・トイレ・入浴などの基本的動作も、お金の管理、書類手続きなど手段的動作もできる。支援は不要で、文字通り、自立した日常生活が送れる。
2.要支援
日常生活の基本的動作はほぼできるが、複雑な手段的動作は支援が必要になる。
3.要介護
日常生活の基本的動作も手段的動作も、自分で行うことが困難で、介助が必要になる。
要介護は、軽度の要介護1から、重度の要介護5に分類される。たとえば、要介護1は、食う・寝る・歩くは一人でできるが、入浴やトイレなど一部に介護が必要になる。つまり、日常生活の基本的動作が怪しい。だから一人暮らしはムリ。
ところで、自立、要支援、要介護は誰が決める?
市役所か町村役場、つまりお役所だ。
役所に相談すると、職員とケアーマネージャーが家に訪問し、本人と面談し判定する(結果は後日郵送)。これとは別に、かかりつけ医の診断書も必要だ。
要介護認定をうけると、役所が、対象者にケアマネージャーをつけてくれる。ケアマネジャーは、介護サービスのプランを作成・提案し、サービス事業者の斡旋と調整を行う。介護のスペリシャリストで、介護サービスの中心的人物だ。
ここで、介護の流れをみていこう。
要介護認定をうけた後は、ケアマネージャに任せればいい。問題はその前だ。
まず、かかりつけ医がいる場合。「怪しく」なると「そろそろデイサービスを行きませんか」とアドバイスしてくれる。このタイミングで役場に相談すればいいだろう。
かかりつけ医がいない場合、本人か家族が判断するしかない。日常生活の基本的動作が怪しい、が一つの目安だ。
同居者がいない場合、家族が定期的に訪問し、確認するしかない。だが、家族が遠方に暮らしている、あるいは、天涯孤独なら、家族はあてにならない。だから、痛ましい孤独死が後を絶たないのだ。もし、そんな状況なら、早めに老人ホームに入る方がいい。孤独死が気にならないなら話は別。
要介護認定をうけて、ケアマネージャがつけば、介護サービスが始まる。第一ステップは、たいていはデイサービスだ。
デイサービスは、日帰りの通所介護である。利用者が、デイサービスの施設に通い、食事や入浴や、生活向上の訓練をうける。レクリエーションや、利用者同士の交流もあるので、気晴らしになる。しかも、送迎付き。
日本はいい国だ。だから、介護保険料にケチをつけるのはやめよう。いずれ、自分もお世話になるから。
ただし、デイサービスは要介護1以上でないと、利用できない。元気な人が、気晴らしや物見遊山で利用できないわけだ。税金を使うから当然だろう。
では、デイサービスが利用できなくなったら?
車椅子でも移動が難しく、認知がかなり進んだ状態だ。
この場合、自宅で家族に24時間介護してもらうか、老人ホームに入るかの二択。前者は普通の家庭ではムリ。一方、後者はお金がかかる。
そこで、老人ホームにフォーカスして、話をすすめよう。
■老人ホームと入居条件
老人ホームは、大きく3つのタイプがある。
1.特別養護老人ホーム
入居条件は、65歳以上で、要介護3以上。老人施設の中では最も条件が厳しい。
要介護3とは?
生活全般で、24時間介護が必要。具体的には、着替え、トイレ、入浴も一人でできない。足腰が不安定で、一人で立ち上がれない。この段階になると、車イスの人が多い。
利用料金は最も安く、月額12万~15万円。そのため、人気があり、順番待ちが一番長い。田舎でも、3年待ちはザラ。申し込んでも、入居する前に、寿命がつきることも。
2.グループホーム
入居条件は、65歳以上で、要支援2または要介護1以上。くわえて、認知症であること。「認知症」が条件になるのは、グループホームは、トレーニングによって認知症を改善し、社会復帰を目的としているから。
ただし、地域密着型のサービスなので、住所がある市町村の施設しか利用できない。
利用料金は、特別養護老人ホームより安く、月額15万円前後。
3.有料老人ホーム
介護専用型と混合型と住宅型がある。
入居条件は、それぞれ異なる。
介護専用型は、65歳以上で、要介護1以上。
混合型は、65歳以上で、自立もOK。つまり、誰でも入居できるわけだ。
住宅型は、入居条件は一律ではないが、自立もOK、60歳以上が多い。
ところで、自立しているのに、なぜ施設に入るのか?
有料老人ホームのマネージャーに聞いたら、「一人でいるのが寂しいから」。
それだけ?
最近、ヘンな犯罪が増えている。たとえば、一人暮らしの老人が強殺され、金品が奪われる。金目当てなら、命までとる必要はないのに。昔と違って、今は年寄りの一人暮らしは命がけなのだ。それに、一人暮らしだと、急に倒れても、救急車もよべない。
一方、施設に入居していれば、安全だ。強盗にあうこともないし、何かあればスタッフが対応してくれる。つまり「自立で施設に入る」は十分な合理性があるのだ。
というわけで、有料老人ホームは、特別養護老人ホーム、グループホームに比べ、条件がゆるい。
反面、利用料金が高い。心身の状態にもよるが、月額25万円~30万円。年金でカバーできる額ではない。つまり、貯金が物を言う。年金2000万円問題なんて言っている場合ではない。
つまりこういうこと。
家族に迷惑をかけまいと、早めに施設に入るのは、殊勝なことだが、おカネがないとムリ。老後の沙汰も金次第なのだ。
■老人ホームの快適度
仮に老人ホームに入れたとしても、別の問題がある。
施設によって、快適度が違うのだ。
特別養護老人ホームは、2、3人相部屋もあるし、照明が暗く、雰囲気が暗い。重度の利用者が多いので当然だろう。一方、24時間、複数のセンサーで見守られているから安心だ。安心を自覚できるかどうかわからないが。
グループホームは、基本、個室だが、照明が暗く、やはり、雰囲気が暗い。軽度の認知症の人は、辛く感じるだろう。ただし、施設によって個体差がある。料金はほぼ同じだが。
ここで結論。
要介護3以上なら、特別養護老人ホームに順番待ちして、空きが出るまで、他の施設で過ごす。その場合、グループホームがおすすめだ。
では、有料老人ホームは?
先日、有料老人ホームを見学した。
施設内は照明が明るく(廊下も!)、部屋は個室で、ホテル並み。さらに、麻雀部屋まである。スタッフも若く、老々介護の暗いイメージがない。
そもそも、自立している人も入居しているので、特別養護老人ホームやグループホームよりも快適にみえる。唯一の欠点は、利用料金が高いこと。早い話、死ぬのが先か、資金ショートが先か、あらら、ここでもチキンレース。
これまで「勝ち組負け組」という言葉が嫌いだった。人生は複雑なのに、単純な二元論で白黒つけるのは、タワマン・ヒエラルキーとかわらない。早い話、気持ち悪かったのだ。
ところが、ある出来事がきっかけで、考えが変わった。
母がデイサービスを利用し始めたのだ。老人ホームも視野に入ったので、特別養護老人ホーム、グループホーム、有料老人ホームをいくつも見学した。なんでこんな熱心なのか不思議だったが、すぐに気づいた。母の施設ではなく、自分の未来の施設を探していたのだ。
それで、考えがどう変わった?
人生最後の勝ち組は、有料老人ホームで麻雀して過ごすこと・・・全然、笑えません。
ところで、そんな金どこにある?
あらら、安楽死しかないですね。
by R.B