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週刊スモールトーク (第486話) AIの自動販売機~DataRobot株は買いか?~

カテゴリ : 社会科学経済

2021.11.19

AIの自動販売機~DataRobot株は買いか?~

■AIの自動販売機

米国ベンチャー企業「DataRobot(データロボット)」は、史上初の「AIの自動販売機」をめざす。

コインと業務データを投入すれば、望みのAI・人工知能がゴロン。ウソみたいな話だが本当だ(ただし半分)。

AIの専門家のデータサイエンティストもプログラマーも不要、業務知識さえあれば誰でも作れる。

ではどうやって、素人がAIを作るのか?

DataRobotが提供するAIツールを使う。このツールは、クラウドベースのAIプラットフォームで、とても使いやすい。学習データの入ったcsvファイルを、画面上でドラッグ・アンド・ドロップするだけ。すぐに機械学習が始まり、AIモデルが完成する。この高速性は、クラウド(データセンター)側で並列処理することで実現されている。機械学習、とくに深層学習(ディープラーニング)は重いから、並のPCでは手に負えない。

DataRobotのAIはいわば「AIの自動販売機」だが、公式には「AutoML(自動機械学習)」とよばれている。

ところで、そのAIで何ができるのか?

予測と分類。

たとえば、商品の需要や売上の過去データを学習させれば、未来の需要と売上が予測できる。商品開発なら、材料の特性と実験結果のデータを学習させれば、最適な材料をリコメンドしてくれる。開発期間は短縮され、開発コストも下がるからいいことずくめ。

このような機械学習式のAIは、地方でも導入がすすんでいる。たとえば、製造ラインの不良品を検出したり、設備の故障の予測したり。さらに、タブレットで電力メーターを読み取ったり。ただし、DataRobotはほとんど使われていない。自作するか、AIベンダーに委託するかのどちらかだ。

機械学習AIが有効なのは、製造業にとどまらない。電力設備などのライフラインの故障予測。さらに、金融のマネーロンダリングや詐欺やローンの債務不履行の予測。マーケティングでは、広告運用の最適化で使われている。

つまり、機械学習AIとは、過去のデータから、未来を予測したり、モノ・コト・ヒトを分類する仕掛け。

では、データがなければ何もできない?

はい、何もできません。

さらに、精度の高いAIを望むなら、ハンパないデータ量が必要だ。少ないデータから学習できるAIは、まだ実験室を出ていないので。

これには理由がある。じつは、機械学習AIは、人工知能(AI)のサブセットにすぎないのだ。人間脳以上の「AGI(人工汎用知能)」とは似て非なるもの。DataRobotもそのたぐいで、AIのサブセット「機械学習」、さらにその一派の「ディープラーニング(深層学習)」にすぎないのだ。

■DataRobotの限界

DataRobotは一度使ったことがあるが、精度に問題がある(すべての課題に有効というわけではない)。しかも、追加学習ができないので、学習データが増えたら、イチから学習し直し。そのぶん、コストがかさむが、見方を変えれば、商売上手なのだろう。

そして、ここが一番の問題、込み入ったAIモデルが作れない。DataRobotはAIのサブセット「機械学習」だから、当然だろう。

現在、歴史に特化したAIを開発中だが、DataRobotは使えない。歴史AIは、自然言語処理がからむので、データをパターン化するだけの機械学習には限界があるのだ。機械学習(帰納法)だけでなく、アルゴリズムをコーディングするルールベース(演繹法)や、シミュレーション、さらに第三の手法も必要になる(まだ見つけていないが)。

つまり、複数のメソッド、モジュールが必要で、それを統括するメインプログラムが欠かせない。そんなこんなで、PythonやC++で、ごりごりコーディングする毎日だ。ところが、DataRobotはこのささやかな楽しみを奪おうとしている。早い話、この一見イケてるベンチャーは古き良き時代のプログラマの天敵なのだ(本音が出たぞ)。

DataRobotをディスりついで、もう一声。

DataRobotのAIは、専門家が不要でリーズナブルに見えるが、ゼンゼン安くない。14日間の無償トライアル版があるが、機能が試せる程度と思った方がいい。実用的なAIを期待するなら、有料のエンタープライズ版しかない。しかもバカ高い。中小・零細企業が手を出せるレベルではない。そもそも、クラウド(従量制)なので、使ったぶん、料金が発生する。いきあたりばったり、試行錯誤を繰り返せば、卒倒しますよ。

AIに限らず、ITの世界では、この手のリスクは常にある。アイデアがイケそうなので、大枚はたいて作ったら、使い物にならなかった・・・はよくある話。

そこで重要なのが「PoC」だ。

「Proof of Concept」の略語で「概念の実証」を意味する。いきなり作り込まず、まずアイデアがモノになるかを実証実験する。ところが、そのPoCも安くはない。大手ITベンダーなら、ん百万円、ん千万円(完成品ではない!)。そこで、知人のAIベンチャーは、PoCを大手の1/5~1/10で請けたら、受注が急増。今は人手不足で頭を抱えている。人生はうまくいかないものだ。

伏線が長すぎた。ここで結論にうつろう。

PoC(実証実験)なら、DataRobotがうってうけ。アイデアを試すだけなら、作り込む必要がない。つまり精度は二の次で、DataRobotでも問題はない。さらに、DataRobotはAIに自動販売機なので、ユーザーだけ試せる。くわえて、クラウドなので負荷が増えてもカンタンにスケールアウトできるから、いいことずくめ。

というわけで、PoCならDataRobotの「AIの自動販売機」はベターな選択だ。

それに、DataRobotでPoCがうまくいけば、その延長で最終AIモデルを作り込める。シームレスで一気通貫の開発ができるから、開発者の負担も少ない。

■DataRobotVs.パランティア

DataRobotの良いところ、悪いところ、いろいろあげたが、大事なのはそこではない。

ズバリ、DataRobotは投資する価値はあるのか?

たぶんある。

できることは限られるし、精度にも問題がありそうだが、それをおぎなってあまりあるメリットがある。

まず、方向性が間違っていない。AI・IoT・DXは輝かしい未来が待っているから。

AI・IoT・DXは、大きくハードウェアとソフトウェア(サービス)に分類できる。

まず、ハードウェアは、エヌビディアAMDラティス・セミコンダクターがイチオシだろう。

つぎに、ソフトウェアは、パランティア・テクノロジーがイチオシだが、DataRobotが強力なライバルになる。ともにAIサービスを生業にするが、サービス形態が真逆だから。形態が異なるなら、両方に投資するのが賢明だ。確率論の損得勘定「期待値」が上がるから。

では、その2つの形態とは?

SIer(エスアイアー)とクラウド。

SIerは、顧客が望むコンピュータシステムを、コンサルから始め、設計、実装まで行う。人間のスペシャリストとAIのコラボで、顧客に寄り添って作り込むので、高品質のシステムが作れる。反面、ベンダー側に手間ヒマがかかるので、そのぶん、利益率が低下する。

クラウドはその真逆だ。ベンダー側はデータセンターにハードウェアやソフトウェアをデプロイ(設置)するだけ。顧客はそれを使って、問題解決するので、ベンダー側に人手はかからない。そのぶん、ベンダーの利益率は向上する。それを機械学習AIで極めたのが、DataRobotなのだ。

ただし、SIerとクラウドは、ボーダレスになりつつある。たとえば、SIerのパランティアも、クラウドでツールを提供し、コードレス化(プログラムを書かない)が進んでいる。

早い話、パランティア(SIer)は「半自動AI」、DataRobot(クラウド)は「完全自動AI」なのだ。

では、株価はどっちが上がるのか?

クラウドのDataRobot。

人手がかからないぶん、利益率も成長率も高いから。一般に、投資家は小難しいテクノロジーに興味はない。利益率、成長率など実利に目がいく。すでに上場しているAI企業の株価をみれば明らかだ。

SIer代表のパランティアは万年赤字で、株価は22ドルで低迷(2021年11月)。一方、クラウド代表の「アルテリックス」は70ドル(2021年11月)。パランティアの3倍もある。SIerとクラウドと株価の相関関係は明らかだ。

■AI・IoT・DXはレッドオーシャン

DataRobotは、2021年暮れに上場を予定している。

もし、初値がパランティアと同じ20ドル前後なら買いだが、100ドル超えなら慎重に。

というのも、株式投資は政治と同じで一寸先は闇、何がおこるかわからない。とくに、短期の予測は不可能だ。そもそも、短期売買はコンピュータによる高速取引(HFT)が主流で、1秒に数千回の取引ができる。1回の利益は少なくても、回数をこなせば巨額になる。つまり、短期売買は薄利多売方式で、スペードがすべて。人間が勝てるはずがない。

というわけで、人間は長期投資に賭けるしかない。長期投資なら、戦術より戦略が重要になる。5年後、10年後にフォーカスし、市場を予測し、どの企業が生き残るか、見極めるのだ。

そこで重要なポイントが3つある。

(1)AI・IoT・DXの基礎技術はどう変わっていくのか?

(2)AI・IoT・DXは社会にどんな影響を与えるのか?

(3)その結果、どの企業が生き残るのか?

面倒くさい・・・もっと手っ取り早く「どの企業が生き残るか?」を知る方法はないの?

ない。

その証拠がある。AI・IoT・DXの現況をみてよう。

この分野には、すでに多くの企業が参入している。オンライン広告のGoogle、SNSのFacebook(現在のメタ)、総合コンピュータメーカーのIBM、半導体のエヌビディアとAMD、小売のAmazon、電気自動車のテスラモーターズ・・・お気づきだろうか。すべて異業種で、そのトップを走る巨大企業。こんな異種格闘技戦を、何の準備もなく予測するのは無謀の極みだろう。

■AI・IoT・DXのバイブル

では、AI・IoT・DXの投資では、どんな準備をすればいいのか?

まず、AI・IoT・DXの最新のニュースを入手する。それをうのみにせず、自分の頭で咀嚼し、考え抜いて、方針を決定する。

ここで重要なことは2つ。

第一に、複数の情報を照らし合わせ、矛盾をあぶりだし、ニセ情報を見抜く。

第二に、状況が変わったら、過去の決定をかなぐり捨て、一から再構築する。

骨の折れる作業だが、継続的な勝利を得るにはこれしかない。

そして、最も重要なことは、AI・IoT・DXの「本質」を見抜くこと。基礎技術がどう変遷するか、社会にどんな影響を与えるかを、おさえるのだ。さもないと、刻々と変化する状況に惑わされ、信号とノイズの区別がつかなくなる。

長期投資とは、未来へと続くメインストリーム(本筋)を見つけることに他ならない。

では、AI・IoT・DXの「本質」はどうやったら学べるのか?

フロントランナーの話を聞くしかない。

最近、何度も繰り返し読んでいる書がある。「人工知能のアーキテクトたち(※)」だ。読み返すたびに新しい発見があり、その洞察力に圧倒される。この書は、世界のAIトップ研究者24人にインタビューした形式で構成されている。AIの本質、メインストリームを知るにはうってつけだ。

人工知能(AI)は、分野が広く、様々な主張・意見があるが、共通するテーマがある。その一つが、人間を超えるAGI(人工汎用知能)は誕生するか?

この問いに対して、24人の研究者の過半数が肯定的だ。さらに、人類を滅ぼすかもしれないASI(人工超知能)を肯定する研究者も少なくない。

未来は複雑にみえるが、メインストリーム(本筋)はたいてい1本だ。たとえば、第二次世界大戦なら・・・

「ウォール街の株価大暴落→世界恐慌→ナチス政権誕生→第二次世界大戦」

1920年代のヒト・モノ・カネを初期値にして、因果関係を構築すればこの1本道しかない。歴史の竜骨といっていいだろう。

では、これからのメインストリームは?

「AI・IoT・DXの隆盛→社会の完全デジタル化→旧労働者と資本家の2極化→デウス・エクス・マキナ(機械仕掛けの神)の誕生→人類滅亡」

政治、経済、軍事、文化あらゆる分野で、これが本流になるだろう。結末は決して明るくないが(暗いやろ)、AI・IoT・DXの隆盛で小遣い稼ぎのチャンスはある。

どうにもならないことをクヨクヨ考えるのはやめて、つかの間のプチリッチを楽しもうではないか。

参考文献:
(※)人工知能のアーキテクトたち―AIを築き上げた人々が語るその真実、MartinFord(著),松尾豊(監修),水原文(翻訳)、出版社オライリージャパン

by R.B

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