2025年問題と新型コロナと真の財産
■2025年問題
僕たちの未来は暗い、とみんな思っている。
たとえば「2025年問題」。一種孤高の響きがあるが、「高齢化社会来る」という身もフタもない話。
2025年、第一次ベビーブーム(1947年~1949年)に生まれた「団塊の世代」が、75歳に達する。そのとき、国民の3人に1人が65歳以上、5人に1人が75歳以上になる。人類が経験したことのない超高齢化社会だ。
そのとき、何がおこるか?
まず、医療費が高騰する。高齢者は若い人に比べて、病気にかかりやすい。人口のボリュームゾーンが、頻繁に病院に行けば、医療費が上がるのはあたりまえ。しかも、高齢者の負担は原則1割で、9割が税金。つまり、国や自治体の財源を直撃する。
さらに、介護保険の財源も減っていく。介護サービスを利用する高齢者が増えるからだ。とくに、認知症や寝たきりの高齢者が増えると、特別養護老人ホーム(特養)の需要が増える。そのぶん、介護費用も増えるが、問題はお金だけではない。都市部では、特養の空きがなく、入所待ち。行き場のない要介護高齢者が増えている。
現役世代も、他人事ではない。少子高齢化で「引退世代の人口>現役世代の人口」が進む。結果、「支給額(支出)>納付額(収入)」、つまり、万年赤字。年金を破綻させないためには、年金支給年齢を引き上げ、支給額を減らし、納付額(社会保険料)を増やすしかない。実入りは少ないけど、払う分は多い。やっとれん・・・
じつは、「2025年問題」にはもう一つ問題がある。団塊の世代の子供たちだ。
団塊の世代が75歳になると、その子供世代が50歳代に入る。彼らは、バブル崩壊後の就職氷河期に就活をした世代で、「ロスジェネ」とよばれている。ロスト・ジェネレーションの略で、直訳すると「失われた世代」。この世代は、成功体験がない。戦後の高度成長も、バブル景気も知らない。就職難の時代で、正規の仕事が見つからず、アルバイトや派遣社員で食いつないだ人も多い。収入が少なく、仕事も不安定なので、独身で通す人も。個人差はあるが、世代としては「貧しい」。
というわけで、2025年、日本の人口は、75歳代と50歳代がボリュームゾーンになる。健康に不安を覚えながら、年金で暮らす世代。親のサポートと自分の老後が間近に迫った世代。多くの日本人が不安を抱く、暗い世相。「年金2000万円問題」が社会問題になるのは当然だろう。
そして、2020年2月、新たな不安が日本を襲った。新型コロナウイルス(COVID-19)である。
■新型コロナウイルス肺炎
2020年1月、中国の武漢で、新型コロナウィルスが発生した。ところが、日本は対岸の火事。政府もメディアも識者ものんきなものだった。いわく、日本は大したことにはならない、あまり神経質にならないように。政府チャーター便の帰国者を検査もせずに帰宅させたほどだった。
理由は、検査を強要すれば人権侵害になる・・・「検査を拒否する人権」が「パンデミック(疫病の世界的感染)の脅威」に勝るわけだ。
どこの惑星のルールか知らないが、本当の話。しかも、その後も「大したことにはならない」の一点張りだった。
ところが、2020年2月16日、状況は一変する。日本政府は「感染拡大は避けられない」を認めたのだ。日本人から日本人への感染が始まり、その後も感染者の数が急増している。つまり、日本政府は「初動」に失敗したのだ。
ところが、ここにおよんで、まだ楽観論を吹聴する識者がいる。いわく、SARSにくらべ、致死率が低いので(2%)、神経質になる必要はない。
数式で確認してみよう。
死者数=人口×感染率×致死率
致死率が低くても、感染率が高ければ、死者が増えることがわかる。
現在の地球の総人口は77億1500万人。新型コロナウイルスの致死率は2%。香港大学のガブリエル・レオン教授によれば「世界の3分の2が、新型コロナウイルスに感染する恐れがある」。そこで、感染率と60%として計算すると・・・
死者数=77億1500万×0.6×0.02=9,258万人(約1億人)
これでも、神経質になる必要がない!?
的中するかどうかさておき、可能性があるなら、神経質になるべきだろう。死者数が1億人というのだから。
こんなカンタンなリスクも計算できない「専門家」が、日本のオピニオンリーダー?
日本のインテリジェンスはここまで堕ちたのだろうか?
さらに、今回の新型コロナウィルスは謎がある。検査が陰性でも、あとで陽性になること。一度回復しても、再び症状がでること。
ひょっとして、新型コロナウィルスは「ヘルペス」のようなウィルスかもしれない。身体に潜んでいて、免疫力が落ちたのを見計らって、出てくる。現れては消え、また現れる。だから、完治するまでに長い時間がかかる。その間、感染がどんどん広がっていく。ある意味、最悪の疫病だろう。「不要不急の外出は控え、五輪は開催」なんて言っている場合ではない。
というわけで、老いも若きも、不安でいっぱい・・・
でも、本当にそうだろうか?
■飢餓の歴史
人類の歴史は「飢餓」の歴史でもある。それは、25万年前、ホモ・サピエンスが出現したときに始まった。
旧約聖書は、それを寓話「楽園追放」で物語る。アダムとエバは、知恵のリンゴを食べて、エデンの園を追放された。人間は、たわわに実ったリンゴを摘みとるかわりに、生きるための苦役を背負わされたのだ。道具をこさえ、文字を発明し、労働にあけくれる。文明という名の「哀しい業」が始まったのだ。
「エデン」は、シュメール語からきているという。これは示唆に富む。シュメール文明は、言わずとしれた人類最古の都市文明。「文明」といえば、聞こえはいいが、実際は、働いて暮らす難行苦行の世界。一方、エデンは、遊んで暮らす永世の楽園。「エデン」が、文明の象徴シュメール語というのは、究極の皮肉だろう。
そのシュメールも、飢餓で滅ぶ。耕作地が塩害におかされ、農作物が育たなくなったのだ。
飢餓は、近世になっても続いた。1662年、フランス中部で飢餓が発生し、カニバリズム(食人)が行われた。1695~1697年、フィンランドでは、人口の1/4~1/3が餓死した。この死亡率は、14世紀の「ペスト流行」に匹敵する。飢餓はパンデミックなみの大災厄だったのだ。
18世紀になっても、飢餓は収束しない。イギリスとフランスで、住民の2割が、カロリー不足で働けなくなったのだ。一日、数時間ゆっくり歩くのがやっとで、乞食しかできない。今では、想像もできない世界だ。これを「栄養の罠」とよんでいる。
飢餓が改善したのは19世紀の中頃だった。イギリスとフランスで、一人あたりの消費が増えたのだ。18紀中頃に1700~2200キロカロリーだった消費量が、19世紀中頃に2500~2800キロカロリーに。
そして、20世紀初頭、状況は一変する。
古くから、窓素が植物の成長を促すことは知られていた。事実、100年前まで、チリ硝石が肥料として使われた。チリ硝石は、鳥の糞の堆積物だが、硝酸ナトリウムを含む。硝酸ナトリウムの化学式は「NaNO3」なので、窒素入り。つまり、チリ硝石は産地限定の貴重な肥料だったのだ。
窒素が貴重?
ちょっと待った、大気の成分は酸素20%、窒素80%だったのでは?
チリまで行かなくても、目の前にたくさんあるぞ!
というわけで、一攫千金をもくろむ企業家たちが、大気中から窒素を取り出す方法を模索した。最初に成功したのは、ドイツの化学メーカー「BASF」である。1906年、BASFの2人の研究者が、水素と大気中の窒素からアンモニアを合成することに成功したのだ。この製法は、発明者のフリッツ・ハーバーとカール・ボッシュの名をとって「ハーバー・ボッシュ法」とよばれている。
その原理を化学式で確認してみよう。
N2+3H2→2NH3(窒素+水素→アンモニア)
窒素と水素から、アンモニアが合成されるのがわかる。「ハーバー・ボッシュ法」のキモは、この化学式にもとづいて、アンモニアを「大量生産」できること。アンモニアは窒素を含むから、化学肥料になる。こうして、化学肥料が安価に大量に供給されるようになった。結果、農作物の収穫量は飛躍的に増加した。さらに、農業機械が発明されると、農産物の生産性は100年前の「2500倍」に!
人類は飢餓から解放されたのである。
カナダの環境学者バーツラフ・スミルは「地球を養う」の中で、こんな問答をしている。
20世紀で最も重要な発明は何か?
(蒸気機関でも原子力でもコンピュータでもなく)アンモニアの大量生産。ハーバー・ボッシュ法がなければ、世界人口の4割は存在できないのだ、と(※1)。
われわれの暮らしは、確実に良くなっている。
とくに、日本は豊かな国だ(マクロ視点でみて)。GDPは世界第3位で、世界一、安全で清潔な国。餓死する者もいない。しかも、すべての国民が、健康保険と年金を享受している。これで不足するなら「自助」でカバーするしかないだろう。不足不満を、政府や社会にぶつけても、何の解決にもならないから。
では、「自助」に必要なものは何か?
貯金、株式、不動産、絵画・・・これが、あんまりあてにならない。
■「真の財産」を求めて
数年前から、習慣にしていることがある。朝は豆乳1杯、昼は69円の吹雪まんじゅう1個、夜はご飯1杯とおかず1皿。最初は、空腹で死にそうだったが、それを快感に変えるコツを覚えた。タバコはやらず、大好きだったコーヒーも辞めた。酒もやめた。宴席以外、一滴も飲まない。週に2日のペースで、2時間ウォーキング。おかげで、メタボとは縁がない。なにより、節約できるのが嬉しい。小遣いは、ガソリン代込みで、月1万円でおつりがくる(ただし車はハイブリッド)。
それだけ節制して、大病したら?
それが寿命、とあきらめる。
では、年金の不足分は?
死ぬまで働く。
あてになるのは、お金ではなく「働く力」だから。
ユダヤ教の聖典タルムードによれば、真の財産とは「身についた知恵と知識」。
というのも、ユダヤ人は古代から迫害をうけてきた。
古くは、紀元前597年のバビロン捕囚。ユダヤ人のユダ王国が、新バビロニアに滅ぼされ、指導者たちがバビロンに連行されたのだ。ただ、悪いことばかりではなかった。ユダヤ人は人類最古のシュメール文化(バビロニア文化)に触れ、旧約聖書の「ノアの方舟」が生まれたのだ。筋書きが、シュメールのギルガメシュ叙事詩の洪水伝説ソックリなので、間違いないだろう。
さらに、19世紀末、フランスでおきた「ドレフュス事件」。フランス陸軍のドレフュス大尉が、ユダヤ人ゆえに、冤罪で投獄されたのだ。そして、20世紀に入ると、ナチスドイツのユダヤ人迫害。ユダヤ人は財産没収の上、命まで奪われた。こんな状況では、金融資産も不動産も絵画も砂上の楼閣。あてになるのは「身についた知恵と知識」のみ。自分自身と一体化し、死ぬまでいっしょだから。
でも、それはユダヤ人の環境が悪かったから。ボクたち関係ないもんね。
本当にそうだろうか。
日本に接する隣国は、中国、ロシア、北朝鮮、韓国、すべて敵性国家。つまり、日本には中東につぐ地政学的リスクがあるのだ。もし、米国の影響力が低下すれば、日本は中国の一州として併呑されるだろう。核で脅されたら、どんな要求ものむしかないから。そのときは、金融資産は減額され、不動産は没収され、年金も保健もパァ。
というわけで、「財産=身についた知恵と知識」は日本人も同じ。日本の格言「芸は身を助く」はこのことなのだ。
だから、生きている限り、節制して、脳力と体力を維持し、働き続ける。それでも劣化は進み、いつかは破綻するだろうが、その時はその時だ。
参考文献:
・(※1)「進歩:人類の未来が明るい10の理由」Johan Norberg(原著),ヨハン・ノルベリ(著),山形浩生(翻訳)出版社:晶文社
by R.B