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週刊スモールトーク (第437話) ベンチャーキャピタルは天使か?

カテゴリ : 経済

2019.12.14

ベンチャーキャピタルは天使か?

■ベンチャー道

ある日、あなたが、素晴らしいアイデアを思いついたとする。

画期的な発明、コンテンツ、サービス、なんでもいい。それがオンリーワンで(類似品がなく)、社会的価値があって(自己満足ではなく)、覚悟ができたら(失敗したときの)、起業の準備をはじめよう。この時点で、あなたは立派なアントレプレナー(起業家)だ。

ただし、「覚悟」がないなら、起業はあきらめよう。いつかどこかで失敗するのは見えているし、その時、必ず後悔するから。それに、サラリーマンや公務員も悪くはない。努力次第で、エキサイティングで愉しい人生を送れるから。

あなたの会社が、新しいことをやって、短期間で急成長を狙うなら「ベンチャー」、最近は「スタートアップ」とよんでいる。

ベンチャーには、4つのステージがある。

1.シード

準備段階。リサーチしながら、事業プランを練る。創業メンバーでやるので、おカネはあまりかからない。無給で働くことも多い。

2.アーリー

事業が離陸する。商品を開発してリリース、商いが始まる。人件費、外注費、部材購入で出費がかさむのに、売上が安定しない。「出金>入金」で、毎日が貧乏。ところが、実績も信用もないので、銀行はカネを貸してくれない。融資がダメなら、投資しかない。自社株を発行し、第三者に買ってもらうのだ。

ただし、大株主は強大な発言権をもつ。とくに、重要案件の最終決定権は株主にある。株式会社で一番エライのは、社長ではなく、株主なのだ。もし、ジャイアンみたいなのが大株主になったら、一大事。事業も業界もわからないのに、言いたい放題、やりたい放題。決定権があるから、始末に負えない。結果、船は迷走し、山に登って、空を飛んだあげく、空中分解?

もっとも、海の物とも山の物ともつかないベンチャーにカネを出す物好きはいない。「投資」は「融資」と違って、返済する義務がないから。会社が破綻したら、「ごめんね!」ですむのだ。

3.ミドル

事業が軌道に乗る。商品が売れ始め、売上も利益も安定する。実績があるので、融資が受けられる。借りてください、とすりよる銀行も。さらに、黒字が続けば、信用がつき、銀行の格付けも上がる。審査不要の借り入れ枠が設定されることもある。枠内の金額なら、銀行に報告せず、自由に借金できるのだ。ここまでくれば、売上と銀行借り入れで、会社は回る。新たな「投資」は必要ないだろう。ジャイアン株主は避けたいので。

4.レーター

事業が飛躍する。事業が軌道に乗っても、この先、うまくいくとは限らない。羽振りのいいときこそ、「次」に備えるべきだ。事業拡大か、新規事業参入か。いずれにせよ、まとまったおカネが必要になる。融資が手っ取り早いが、金利負担と返済を考えると、IPOの方がいい。

IPOとは、証券取引所に上場し、新規株式を発行し、一般投資家に買ってもらうこと。大金が調達できるし、返済義務もない。会社経営にゴールはないが、IPOは、ベンチャーの目標の一つだろう。ここまで到達できる企業は、ほんの一握りだから。

■ユニコーン

ただし、IPOはいいことずくめ、ではない。

IPOのメリットは、返済不要の大金をゲットできること。知名度が上がり、優秀な学生が来てくれること。一方、デメリットもある。たとえば株主対策。

まず、株主は何を望んでいるのか?

株価上昇、それしかない。まれに、その会社が大好きで、株を所有するだけで満足する人もいるが、例外中の例外。ほとんどの投資家は、高値で売り抜くことを考えている。だから、株主は、目先の増収増益、新商品にこだわる。株価を上げるには一番だから。世界を変える、社会への貢献、長期繁栄などクソ喰らえだ。

会社にとって、面倒なのが、株価対策の新商品開発。新商品開発は、会社のリソース(ヒト・モノ・カネ)を消費する。その見返りは、会社の売上や利益、ブランドイメージのアップ、ではなく、株主へのPR。というのも、株価は「会社の未来」の期待値で、「会社の未来」は新商品にかかっているから。もし、減収減益で新商品がないと、株主総会で社長はさらし者にされる。「何もやってないから、減収減益なんだ。せめて商品開発ぐらいしろよ」というわけだ。株価対策というより、株主総会対策だろう。

でも、株価が上がれば、会社もメリットがあるのでは?

それがビミョー。株価が上がっても、そのぶん、会社におカネが入るわけではないから。ただ、時価総額(株価×発行株数)が増えるので、買収されにくくなる。さらに、M&Aで自社株を交換するなら、株価が高いほど、使える資金が増える。とはいえ、あまり株価が高いと、あとは下がるだけ。もちろん、株価が急落すれば、株主は激怒する。やっぱり、株主はジャイアンかなぁ。

つまり、こういうこと。

会社と株主の利害は、必ずしも一致しない。会社の望みは、存続と繁栄。一方、株主の望みは株価急騰。一刻も速く売却して、利益を確保したいから。それがイヤで、上場しない企業も多い。中には、一旦上場しながら、後で上場廃止する企業もある。たとえば、米国パソコン大手のデル(DELL)。創業者でCEOのマイケル・デルが「長期的な経営」を望んだためと言われる。

そんなこんなで、未上場でも、優良企業、大企業は山のようにある。その中で、評価額1100億円(10億ドル)以上の企業を「ユニコーン」とよんでいる。誰も見たことがない伝説の一角獣「ユニコーン」に由来する。凄い会社らしいが、まだ姿を現していない(未上場)、というわけだ。

■ユニコーンと国の未来

ユニコーンはベンチャーの発展型だろう。未上場で「評価額1100億円」は、「新しい・短期間・急成長」が欠かせないから。というのも、「評価額1100億円」は上場企業でも上位に属する。未上場でそこまでいくには、ふつうに優秀ではムリ。

というわけで、ユニコーンは、ポテンシャルが高く、将来大化けする可能性がある。であれば、ユニコーンが多い国ほど、将来、経済が発展する?

そこで、国別のユニコーンの数をみてみよう(2019年1月)。

1位:米国(156社)

2位:中国(92社)

3位:英国(16社)

4位:インド(13社)

5位:ドイツ(9社)

6位:韓国(6社)

7位:イスラエル(4社)

8位:インドネシア(4社)

9位:スイス(3社)

10位:フランス(3社)

第1位の米国は、全世界のユニコーンの半数を占める。米国は、先進国で唯一人口が増加している。しかも、世界中の資金が集まり、技術革新のメッカでもある。経済発展の3大要因、ヒト・カネ・イノベーションで優位に立っているから、当然だろう。第2位の中国も想定内だ。

一方、斜陽の英国が、第3位と健闘している。さすが、かつての大英帝国、腐っても鯛ですね(失礼)。1939年9月3日、ドイツに宣戦布告していなければ、第二次世界大戦は起こらず、英国は、今も米国と並ぶ超大国だっただろう。まぁでも、第二次世界大戦で、米国がソ連に軍事支援をしなかったら、ソ連はドイツに敗北し、英国はドイツ領になっていただろう。だから、これで良しとしなくては。

そして、注目は第4位のインド。

インドは、GDPが世界第7位で、人口が世界第2位。しかも、「人口ボーナス」がある。人口ボーナスとは、総人口に占める労働人口の比率が伸びていること。いくら、人口が多くても、労働人口が減りゆく老人大国では、経済の発展は見込めない。その代表が中国だろう。というわけで、これから投資するなら、インド。具体的には、インドの株式ファンドだ。

ところで、日本は?

番外(プリファード・ネットワークス1社のみ)。世界第3位のGDPを誇る日本が、なんで?

将来、日本の経済は衰退するということだろう。経済発展の3大要因の一つ「イノベーション」が番外なのだから。

■ベンチャーキャピタルは天使か?

ベンチャーの成否は、「アーリー」をいかに乗り切るか、にかかっている。出費が多いのに、売上が安定せず、資金繰りが一番厳しい時期だから。もちろん、そんな会社に、カネを貸す銀行はない。社会的信用のあるVIPが連帯保証人になってくれれば別だが、そんなうまい話はないだろう(一度だけ聞いたことがある)。

サラ金は貸してくれるが、あとが大変だ。あんな高い金利で成立する商売はないから。ただし、サラ金は絶対ダメというわけではない。次の入金の金額と時期が明確で、短期間で返せるなら、急場はしのげる。実際、それで乗り切った知人もいる。あの時、サラ金に手を出していなければ、給料が払えず、社員は離散していただろう。もちろん、サラ金で破綻することもある。現実は複雑なのだ。

というわけで、アーリーで、融資を受けるのは難しい。残された選択肢は投資しかない。とはいえ、100万円の出資で、あれこれ口出しされてはたまらない(ジャイアン株主)。そこで、頼りになるのが、ベンチャーキャピタルだ。

ベンチャーキャピタルとは、「ベンチャー投資」を生業とする企業や団体。未上場のベンチャーに投資して(融資ではなく)、キャピタルゲインを得る。

日本のベンチャーキャピタルは、大きく、政府系、独立系、事業会社(他に本業がある)、金融機関(銀行、保険会社、証券会社)に分類できる。一方、個人の投資家もいる。米国で「エンジェル(天使)」とよばれる大金持ちだ。日本にもエンジェルはいるが、生業にする人は少ない。投資先を見極めるのが大変で、「大金持ち」だけではムリなので。

一方、外資系のべンチャーキャピタルは、日本企業にはほとんど投資しない。

なぜか?

ガチで「新しい・短期間・急成長」を狙うなら、グローバルスタンダード(世界標準)しかない。ところが、日本のベンチャーは「資本金50万円起業」、「学生起業」が目立つ。つまり、身の回りの便利さ、すぐにできるサービス、いわば「ちゃちゃっと起業」。だから、「日本のユニコーンは1社」なのだろう。外資が、日本のベンチャーに興味がないのはあたりまえ?

《つづく》

by R.B

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